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【壱章】殺人者が蔓延る世界
裏切り者 ーヘレティックー
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明日…浄罪師、真雛様の封印が解ける?もし、封印が解けた時、何が起こるのだろうか?
そんな不安を感じている蒼を見透かしたのか、鴉は続ける。
「真雛様の封印が解けた時、奴らが動き出すんじゃ」
鴉が言った奴らとは、恐らく『ヘレティック』のことであろう、浄罪師と対立する異端者…浄罪師が復活したとなると、奴らは黙っていないはずだ。しかし、奴らの考えとは一体…
そう蒼が思った直後、
「ヘレティックは元々、おぬしらと同様、浄罪師に仕える助手じゃったのじゃよ、奴らも真雛様の言いつけを守り、ずっと仕えていた…じゃがある時、その中に裏切り者が出た。その裏切り者に続くように裏切りが続発して…」
「でも、裏切りって何があったんだぁ?」
伊吹が鴉を見下ろしてそう言うと、
「じゃから、真雛様の言いつけを破ったんじゃよ」
「言いつけぇ?」
「真雛様はいつも助手達に約束させていた。『決して人を殺すな』と、その誓いを破ったのがヘレティックなんじゃよ、奴らは人を殺してしまった。そして、もう二度と、生まれ変わることが出来なくなった彼らは、汚れた魂を処分させまいと、浄罪師である真雛様を狙い始めた。そこで、おぬしらは真雛様の身の安全を確保しようとした。初めは、ヘレティックの数も然程、多くはなかった…だがしかし、時が経つに連れて、その数は過半数を上回ってしまったのじゃ」
「過半数…」
蒼はその時の記憶をまだ思い出していない。しかし、不思議と鴉の言っていること全てが本当にあったかのように思えた。何となく、自分の中で胸騒ぎがした。自分の記憶が警告を察しているのだろうか。
「過半数を超えたヘレティックは浄罪師の助手達を鎮圧し始めた。そしてある時、真雛様は奴らに封印されてしまったのじゃ。吾輩が見ていないところで、真雛様は封印されてしまった。そして、浄罪師の封印によって、おぬしらの記憶は輪廻転生後、受け継がれなくなり、普通の人間となってしまった…そして、浄罪師が消えた世界では、人殺しを犯した魂までもが、輪廻転生で再び新しく生まれ変われるようになった。その結果、犯罪が増えていった。さっきも言ったが、一度汚れた魂は必ず同じ過ちをするからの。そして、ヘレティックは記憶こそ受け継がれなくなったが、奴らの魂は輪廻転生の輪から外されることなく、今も世界のどこかにいるということじゃ」
鴉はそう言うと、蒼の顔を見上げて、
「なぁ、蒼?おぬしの母親は殺されたな?」
蒼はビックっとして、
「あ、ああ」
「気の毒じゃが、その時の犯人がヘレティックなんじゃよ…」
「……、ヘレティック」
「実は、一人だけ真雛様が封印された後も、記憶を失わずに生活している奴がいるんじゃ、そいつは恐らく、真雛様を封印した張本人じゃ」
「それで、そいつがあの時の犯人なのか?」
「そうじゃ、奴は中でも力があってな」
「でも、どうして俺を…」
「ヘレティックの奴らは真雛様の敵、それと同時に、浄罪師の使徒の敵でもあるんじゃ」
敵の仲間は敵…それは当然の定理…蒼は自分達の立場を思い知った。
「じゃから、明日、真雛様が完全に復活したら、殆どのヘレティック、残りの助手は記憶を手にするはずじゃ、おぬしらもせいぜい気をつけなさい」
「んあぁ?ふざけるなよ、このクソガラスめっ!」
伊吹は目を血走らせながら鴉に掴みかかった。首根っこを掴まれた鴉は、
「吾輩にはどうすることも出来んのだよ…だからおぬしらには真雛様を守りつつ、先ほど言った任務も果たして貰うことに…」
任務とは先ほど言っていた清らかな魂による犯罪の阻止である。
伊吹は乱暴に鴉の首から手を話した。その途端、鴉は床に落っこちた。
「痛たたた!なんて事をするんじゃ」
鴉は怒って、伊吹の足を思いっきり突っついた。
「ぎゃぁああああああああ」
その後しばらく、鴉と伊吹の死闘は続いたが、伊吹はやっと諦めたのか、
「…はぁ、はぁ、分かったよ…その任務とやらをやりゃあいいんだろぅが?」
「…おぬし…聞き分けが良いのぅ」
「あの…」
蒼はそんな二人の会話に分け入った。
「どうしたんだァ?蒼?」
「外…暗くなったみたいで…」
外はいつの間にか暗くなっていた。部屋の中も太陽の日が無い為、月明かりのみで薄暗い。
「今日は、ここで泊まると良い。今外に出るのは危険じゃ、ここでおぬしらに亡くなられては元も子もないからのぅ」
「そのほうが良さそうです」
「そうだな、ここに泊まるしかねぇか…」
その後、蒼と伊吹は家に電話をして、適当に誤魔化すことにした。しかし、蒼の家にはまだ父親が帰っていなかったので、仕方なく留守番電話にメッセージを残すことにした。
家への連絡が済むと、
―グオォ…
伊吹の腹から物凄い音が聞こえてきた。よく考えてみると、伊吹は昼飯抜きなのである。
「腹へった…」
伊吹は暗闇の中、月の僅かな明かりを頼りに鞄の中をあさると、『例の食材』を取り出した。
「あった…」
そう言うと、伊吹はそれをむしゃむしゃ食べ始めた。伊吹が食べた物…それはあのまずい妹のサンドイッチであった。
蒼はそんな伊吹を心配そうな目で見つめた。
(あんなまずいサンドイッチをむしゃむしゃ食べるなんて…)
その時、伊吹に異変が起きた。
「うっ………」
苦しそうに手で口を押さえる伊吹…蒼は伊吹の元に駆け寄った。
「大丈夫か?伊吹?」
蒼が声を掛けると、伊吹は苦しそうな顔で、
「くっ…腐っている。昼にちゃんと食べなかったからだぁ」
もはや涙声であった。蒼は呆れて言葉も出ない。いや、だから、腐っているんじゃなくて、元からその味なんだよっ!蒼はそう心の中で叫んだ。
蒼はそんな伊吹を哀れみ、仕方なく自分の鞄から、貰った豚耳フライを取り出そうとした。
すると、何故か豚耳フライが見当たらない。おかしい、そんなはず…
「豚耳のフライなら、吾輩が頂戴しといたぞ」
鴉はそう言うと、ガーガー笑い始めた。
「えっ、食べちゃたんですか?」
「おぬしの鞄から良い匂いがしていてな、日々の食料に困っている吾輩は食べるしか選択肢がなかったんじゃよ」
全く反省のいろが伺われない鴉の言葉、
「そんな…」
「仕方ないんじゃ、吾輩はいつも人間の出した残飯を食べていたんじゃぞ?それくらいよかろうが!」
『残飯』という言葉を聞いて、蒼は鴉が何だか可哀想に思えてきた。確かに、街で見かけるカラスはいつもゴミ置き場などにいる。
「そうですね…」
伊吹はその後、蹲ったままであった。相当まずかったらしい…
「ところで、お前の名前って何なんだよ」
それからしばらく経ち、正気を取り戻した伊吹が鴉にそう聞いた。言われてみれば、鴉は自分の事を『吾輩』としか言わず、本名を語っていないのである。蒼も耳を傾けた。
「まだ、吾輩の名を明かしていなかったか…吾輩は、黒羽クロウじゃ」
黒い羽と書いて、クロウ…クロウとは英語でカラスという意味。
「そのまんまじゃんかよ」
「そんなことはどうでも良かろうが」
黒羽は若干怒った口調でそう言うと、
「ちなみに、おぬしらも見た事あると思うが、拝殿へ続く階段の途中に鴉の白い石像があったじゃろう?その鴉の名は白羽ハクウじゃよ」
白い石像。確かにここに来る途中にあった。左側に一体しかない神使の像…あれも浄罪師の遣いの鳥なのか。
「あの石像もお前の仲間なのか?」
伊吹が聞くと、
「そうじゃ、吾輩と白羽は真雛様の遣いの鴉じゃからのぅ、じゃけど、白羽も真雛様と同じで奴らに封印され、石化してしまった…」
「マジか!」
その後、暗闇と疲労で伊吹はいつの間にか眠ってしまった。先ほどまで部屋の天井から差し込んでいた微かな月明かりも次第に無くなり、部屋の中は真っ暗となった。蒼は一人、穴の開いた天井を見つめていた。穴の向こうには二つの星が輝いているのが見えた。
今見えているあの星はいつの時代の星なのだろうか…今もまだあるのだろうか…とそんなことを考えていた。
視線を室内に戻すと、そこにも二つの光が見えた。蒼は目をこすり、もう一度見てみる。すると、その光は消えていた。
そんな不安を感じている蒼を見透かしたのか、鴉は続ける。
「真雛様の封印が解けた時、奴らが動き出すんじゃ」
鴉が言った奴らとは、恐らく『ヘレティック』のことであろう、浄罪師と対立する異端者…浄罪師が復活したとなると、奴らは黙っていないはずだ。しかし、奴らの考えとは一体…
そう蒼が思った直後、
「ヘレティックは元々、おぬしらと同様、浄罪師に仕える助手じゃったのじゃよ、奴らも真雛様の言いつけを守り、ずっと仕えていた…じゃがある時、その中に裏切り者が出た。その裏切り者に続くように裏切りが続発して…」
「でも、裏切りって何があったんだぁ?」
伊吹が鴉を見下ろしてそう言うと、
「じゃから、真雛様の言いつけを破ったんじゃよ」
「言いつけぇ?」
「真雛様はいつも助手達に約束させていた。『決して人を殺すな』と、その誓いを破ったのがヘレティックなんじゃよ、奴らは人を殺してしまった。そして、もう二度と、生まれ変わることが出来なくなった彼らは、汚れた魂を処分させまいと、浄罪師である真雛様を狙い始めた。そこで、おぬしらは真雛様の身の安全を確保しようとした。初めは、ヘレティックの数も然程、多くはなかった…だがしかし、時が経つに連れて、その数は過半数を上回ってしまったのじゃ」
「過半数…」
蒼はその時の記憶をまだ思い出していない。しかし、不思議と鴉の言っていること全てが本当にあったかのように思えた。何となく、自分の中で胸騒ぎがした。自分の記憶が警告を察しているのだろうか。
「過半数を超えたヘレティックは浄罪師の助手達を鎮圧し始めた。そしてある時、真雛様は奴らに封印されてしまったのじゃ。吾輩が見ていないところで、真雛様は封印されてしまった。そして、浄罪師の封印によって、おぬしらの記憶は輪廻転生後、受け継がれなくなり、普通の人間となってしまった…そして、浄罪師が消えた世界では、人殺しを犯した魂までもが、輪廻転生で再び新しく生まれ変われるようになった。その結果、犯罪が増えていった。さっきも言ったが、一度汚れた魂は必ず同じ過ちをするからの。そして、ヘレティックは記憶こそ受け継がれなくなったが、奴らの魂は輪廻転生の輪から外されることなく、今も世界のどこかにいるということじゃ」
鴉はそう言うと、蒼の顔を見上げて、
「なぁ、蒼?おぬしの母親は殺されたな?」
蒼はビックっとして、
「あ、ああ」
「気の毒じゃが、その時の犯人がヘレティックなんじゃよ…」
「……、ヘレティック」
「実は、一人だけ真雛様が封印された後も、記憶を失わずに生活している奴がいるんじゃ、そいつは恐らく、真雛様を封印した張本人じゃ」
「それで、そいつがあの時の犯人なのか?」
「そうじゃ、奴は中でも力があってな」
「でも、どうして俺を…」
「ヘレティックの奴らは真雛様の敵、それと同時に、浄罪師の使徒の敵でもあるんじゃ」
敵の仲間は敵…それは当然の定理…蒼は自分達の立場を思い知った。
「じゃから、明日、真雛様が完全に復活したら、殆どのヘレティック、残りの助手は記憶を手にするはずじゃ、おぬしらもせいぜい気をつけなさい」
「んあぁ?ふざけるなよ、このクソガラスめっ!」
伊吹は目を血走らせながら鴉に掴みかかった。首根っこを掴まれた鴉は、
「吾輩にはどうすることも出来んのだよ…だからおぬしらには真雛様を守りつつ、先ほど言った任務も果たして貰うことに…」
任務とは先ほど言っていた清らかな魂による犯罪の阻止である。
伊吹は乱暴に鴉の首から手を話した。その途端、鴉は床に落っこちた。
「痛たたた!なんて事をするんじゃ」
鴉は怒って、伊吹の足を思いっきり突っついた。
「ぎゃぁああああああああ」
その後しばらく、鴉と伊吹の死闘は続いたが、伊吹はやっと諦めたのか、
「…はぁ、はぁ、分かったよ…その任務とやらをやりゃあいいんだろぅが?」
「…おぬし…聞き分けが良いのぅ」
「あの…」
蒼はそんな二人の会話に分け入った。
「どうしたんだァ?蒼?」
「外…暗くなったみたいで…」
外はいつの間にか暗くなっていた。部屋の中も太陽の日が無い為、月明かりのみで薄暗い。
「今日は、ここで泊まると良い。今外に出るのは危険じゃ、ここでおぬしらに亡くなられては元も子もないからのぅ」
「そのほうが良さそうです」
「そうだな、ここに泊まるしかねぇか…」
その後、蒼と伊吹は家に電話をして、適当に誤魔化すことにした。しかし、蒼の家にはまだ父親が帰っていなかったので、仕方なく留守番電話にメッセージを残すことにした。
家への連絡が済むと、
―グオォ…
伊吹の腹から物凄い音が聞こえてきた。よく考えてみると、伊吹は昼飯抜きなのである。
「腹へった…」
伊吹は暗闇の中、月の僅かな明かりを頼りに鞄の中をあさると、『例の食材』を取り出した。
「あった…」
そう言うと、伊吹はそれをむしゃむしゃ食べ始めた。伊吹が食べた物…それはあのまずい妹のサンドイッチであった。
蒼はそんな伊吹を心配そうな目で見つめた。
(あんなまずいサンドイッチをむしゃむしゃ食べるなんて…)
その時、伊吹に異変が起きた。
「うっ………」
苦しそうに手で口を押さえる伊吹…蒼は伊吹の元に駆け寄った。
「大丈夫か?伊吹?」
蒼が声を掛けると、伊吹は苦しそうな顔で、
「くっ…腐っている。昼にちゃんと食べなかったからだぁ」
もはや涙声であった。蒼は呆れて言葉も出ない。いや、だから、腐っているんじゃなくて、元からその味なんだよっ!蒼はそう心の中で叫んだ。
蒼はそんな伊吹を哀れみ、仕方なく自分の鞄から、貰った豚耳フライを取り出そうとした。
すると、何故か豚耳フライが見当たらない。おかしい、そんなはず…
「豚耳のフライなら、吾輩が頂戴しといたぞ」
鴉はそう言うと、ガーガー笑い始めた。
「えっ、食べちゃたんですか?」
「おぬしの鞄から良い匂いがしていてな、日々の食料に困っている吾輩は食べるしか選択肢がなかったんじゃよ」
全く反省のいろが伺われない鴉の言葉、
「そんな…」
「仕方ないんじゃ、吾輩はいつも人間の出した残飯を食べていたんじゃぞ?それくらいよかろうが!」
『残飯』という言葉を聞いて、蒼は鴉が何だか可哀想に思えてきた。確かに、街で見かけるカラスはいつもゴミ置き場などにいる。
「そうですね…」
伊吹はその後、蹲ったままであった。相当まずかったらしい…
「ところで、お前の名前って何なんだよ」
それからしばらく経ち、正気を取り戻した伊吹が鴉にそう聞いた。言われてみれば、鴉は自分の事を『吾輩』としか言わず、本名を語っていないのである。蒼も耳を傾けた。
「まだ、吾輩の名を明かしていなかったか…吾輩は、黒羽クロウじゃ」
黒い羽と書いて、クロウ…クロウとは英語でカラスという意味。
「そのまんまじゃんかよ」
「そんなことはどうでも良かろうが」
黒羽は若干怒った口調でそう言うと、
「ちなみに、おぬしらも見た事あると思うが、拝殿へ続く階段の途中に鴉の白い石像があったじゃろう?その鴉の名は白羽ハクウじゃよ」
白い石像。確かにここに来る途中にあった。左側に一体しかない神使の像…あれも浄罪師の遣いの鳥なのか。
「あの石像もお前の仲間なのか?」
伊吹が聞くと、
「そうじゃ、吾輩と白羽は真雛様の遣いの鴉じゃからのぅ、じゃけど、白羽も真雛様と同じで奴らに封印され、石化してしまった…」
「マジか!」
その後、暗闇と疲労で伊吹はいつの間にか眠ってしまった。先ほどまで部屋の天井から差し込んでいた微かな月明かりも次第に無くなり、部屋の中は真っ暗となった。蒼は一人、穴の開いた天井を見つめていた。穴の向こうには二つの星が輝いているのが見えた。
今見えているあの星はいつの時代の星なのだろうか…今もまだあるのだろうか…とそんなことを考えていた。
視線を室内に戻すと、そこにも二つの光が見えた。蒼は目をこすり、もう一度見てみる。すると、その光は消えていた。
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