浄罪師【現代編】

弓月下弦

文字の大きさ
6 / 6
第1章

鴉ノ駅の洗礼

しおりを挟む
 一時間後。到着した「鴉ノ駅」のホームに降り立った瞬間、二人は言葉を失った。

「うえっ……なんだよ、この数は」 

 伊吹の引きつった声。 ホームの屋根、線路、ベンチ、至るところに、数十羽……いや、数百羽の鴉がひしめき合っていた。  どんよりとした空と、真っ黒な羽の群れ。不気味なほどの沈黙が駅を包んでいる。

「さっさと出ようぜ!」  

 伊吹が鴉を蹴散らすように走り出す。バサバサと一斉に舞い上がる黒い羽。  一枚の羽が蒼の視界をかすめた。まるで『これ以上、踏み込むな』という警告のように。

 駅の外も異常だった。商店街の屋根の下に逃げ込むと、そこには異様な光景が広がっていた。  店頭に並ぶ、蒸された豚の頭。虚ろな目がこちらを見ている。

  「動物にも命があるんじゃよ。すべて利用せねばな」 

 店のおばちゃんが、深いしわを寄せて不敵に笑い、二人にフライを手渡した。

  「豚耳(ミミガー)フライだよ。持って行きな」

「……あ、ありがとうございます」  

 蒼が受け取ると、おばちゃんの表情が急に暗く沈んだ。

  「あんたたち、鴉ノ神社に行くのかい? 祈るのもいいが、所詮は気休めだよ。一番大事なのは、自分自身で身を守ることさ……」 

 そう言い残し、おばちゃんは店の奥へ消えた。

 手の中のフライは、まだ生温かく、どこか生き物の体温を思い出させた。

  「伊吹……お前、本当に何も食わなくていいのか?」

  「はぁ? 俺には千恵の最高なサンドイッチがあるからな!」

 誇らしげな親友の背中を見ながら、蒼は(あの塩辛いサンドイッチをこの後食べるのか……)と、別の意味で伊吹を哀れんだ。 果物屋の角を曲がると、前方に古びた鳥居が見えてきた。 鴉の鳴き声が、空を裂くように激しくなり始めた。

「おい、蒼。見えてきたぜ」

 二人の歩みは、運命に引き寄せられるように、その不気味な境内へと吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。凛人はその命令を、拒否する。 彼は、大地の女神により創造された星骸と呼ばれる伝説の六英雄の一人を従者とし、世界を知るため、そして残りの星骸を探すため旅に出る。 しかし一つ選択を誤れば世界が滅びる危うい存在…… 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...