王女への献上品と、その調教師

華山富士鷹

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封印された記憶

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「服も自分で脱ぐの?」
 杉山さんが失笑気味に尋ねてきた。
「意地悪ですね」
 私は自身のシャツの前合わせを両手で握り締め、下唇を噛み締める。
「だってエデン、逞しいし、今まで傷の手当てをする時も自分から脱いでたろ?」
「全然意識して無かったですからね。それに例え杉山さんがロリコンでもこんな傷だらけの体に欲情すると思ってませんでしたし」
「でも今は意識してるから恥ずかしい?」
「まあ……でも変な話ですよね。子供の頃から肌を見せてきた相手と、今は違った目線で艶っぽい事をしようとしてるなんて」
 複雑。
「薬を塗ったり包帯を巻いたり、エデンの素肌に触れる事も多かったね」
「どんな気持ちでやってたんですか?妹にするみたいに?」
「え、どんなって、困ったな。俺はただ、こんな細くて幼いのに可哀想だな、とか、早く良くなればいいな、とか」
 杉山さんは後頭部を掻いて困り顔だ。
「良い人ですね」
 彼は他の大人とは違う。

 ……他の大人? 

 今、私は無意識に誰と比べたんだろう?
「でも、早く大人になればいいなとは思ったかもね。将来が楽しみだ、的な?」
「他の女性達と遊びながら?」
 残念ながら当時の杉山さんはイケイケだったと記憶している。
「あ、はぁ……」
 杉山さんは凄い困り顔だ!!
「若かったんだよ」
「男の言い訳の上位に、若かったんだよ、男だから仕方無いがランクインしてるそうですよ?」
 ──なんていうのは口からでまかせだけど。
「何も言えないじゃん」
 ぐぬぬと杉山さんが口を横一文字に引き結んだ。
 ちょっと可愛いな。
「じゃあ罰として今の俺を意識したうえで自分から服を脱いで」
『俺の目の前で』と杉山さんが付け足し、両腕を組んで仁王立ちした。
「何の罰ですか?」
「だよね、ごめんなさい」
 そう素直に謝ると杉山さんはベッドに乗り上げ、後ろから私に覆い被さる形で長座して私のシャツのボタンを下から外していく。
「特殊な脱がせ方ですね」
 教科書には載ってなかった。
「真正面からだと照れるだろ?」
「誰が?」
「お互いに」
「杉山さんでも照れる事があるんですね」
 こういう事は慣れっこなのかと。
「お前相手だとちょっとな。それに胸を揉んだ時の罪悪感も減る」
 うわ、揉まれるのか。そりゃそうか。
 まるで近くに雷が落ちた時の様な激しい動悸がする。
 どうしよう、適温なのに汗が止まらない。それでも朝シャンはしてあるから臭くはないはずだけど、献上品の性教育で習ったのが本当なら杉山さんから生臭い所も舐められる可能性がある。信じられない。理性ある大人が当たり前みたいに臓器的(?)な、半生とも言える所を犬みたいに舐めるなんて。
 しかしそう思うのと同時に恥辱で体が更に熱くなる。
 なんでそんな事をするんだろう?
 気持ち良いのかもしれないけれど、私としては生理的にちょっと苦手だなと思う。なんなら好きな人に舐められる方が我慢ならないかもしれない。
「……」
 杉山さんの指が胸ボタンにさしかかった時、彼の手が私の両胸に触れ、その熱が伝わってくる。
 杉山さんも熱い。
 意識してみると、背中に当たる彼の心拍数も速く、力強く感じる。
 意外。あの杉山さんも同じ気持ちなんだ。何か愛おしく感じる。
 杉山さんから順次、見事に裸に剥かれ、私は背中の視線から避ける様に猫背で体育座りした。
 杉山さんは、ミカンは皮と筋を綺麗に取り去ってから落ち着いて食べるタイプの人間か、じゃなくて、全裸を見られるのは初めてで恥ずかし過ぎて死ねる。
 杉山さんはどのタイミングで服を脱ぐんだろう?
 私が脱がせるべき?
 そもそも杉山さんは全裸になるのかな?
 イチモツだけ出してやるタイプ?
 上半身裸のエ◯チャンスタイル?
 まさかその逆とか?
 ハネムーンでの初夜となれば互いに一糸まとわぬ姿でやるのが暗黙の了解じゃないか。献上品の教科書にもそう書かれてた。
 ──というか、もう調教師でも献上品でもないんだからフリースタイルでいいんだろうけど、ここでマニュアル人間のA型の血が騒ぐ。
「何を考えてるか当ててみよっか?」
 しんと静まり返った室内、杉山さんが私の首筋に舌を這わせながら言った。
 くすぐったい。
「理論的な事だろ?」
「はい」
「やっぱり。嫌になったら右手を上げて」
「歯医者ですか」
 色気の無い話だが、2人してちょっと笑けてしまった。
「あー……でもやっぱり、後ろからでも罪悪感あるな」
 杉山さんは私の首筋に吸い付きながら両手で器用に胸を揉みしだく。
 うわ、よく見知っている優しいおにいさんが私の胸を……
「っ……」
 胸がいっぱいで息が詰まって言葉が出てこない。これ以上は普通に喋っていられない。
「声を出されると、ほんと、後ろめたくて逆に興奮すると言うか……そんな声を出すんだな」
 杉山さんは確かめる様に私の胸を弄くりたおす。
「……ぅっ」
 反論したいのに変な声が漏れそうで我慢するのがやっとだった。
 肌が粟立つ。ゾワゾワと、総毛立つみたいだ。
 普段、杉山さんは陽キャの爽やかなおにいさんだけど、こんな風にねちっこく女性の身体を攻め立てるのか。そのギャップにちょっと萌える。

 それからじっくり焦らす様に杉山さんの手が下半身に向けて下りてきて、私が体を強張らせていると、それを察した彼は後ろから私にキスをした。
「……」
 そして杉山さんは暫し考える様に右手で私のあすこの具合を確かめ、左手で私の太腿をポンポンと慰める様に撫でる。
「?」
「本当に嫌じゃない?」
 杉山さんは手を止め、私の目の前に移動してきた。
 嫌じゃない。ただ『やりたい!』って事でも無いけど、感情的には『杉山さんが好きだから、好きにして!』の方が強い。それに肌で杉山さんの愛を感じてみたい。
「嫌じゃなくて……ええと……」
 どう伝えたら……
 どうしよう、杉山さんも困ってる。
 ええと……
「好き……」
 答えにはなっていないけれど、杉山さんの愛を感じる前に自分の愛も伝えておきたかった。
 そうだ、どうしよう、杉山さんが好きだ。臓器的にどうとか半生でどうとか生理的にどうかなんてもうどうでもいい。好きだから1つになりたい。繋がって愛を確かめ合いたい。
 私の答えに杉山さんは我慢できないといった様子で性急に自身の服を脱ぎ捨て、私を押し倒した。
 想像以上に鍛え上げられた杉山さんの体躯に私は目のやり場に困る。
 少しずつ、自分のあらぬ所を杉山さんの舌や手で慣らされ、私は仰向けで彼の頭にしがみつくのがやっとだった。
「じゃあ……」
 ようやく杉山さんが私の股の間から顔を上げ臨戦態勢に入り、その熱を私のあすこに押し当てる。
 その瞬間、私は純白の天井に煤けたコンクリートの天井を投影していた。
「えっ……?」
 幻覚か、その映像はすぐに霞んだ。
「大丈夫?」
 杉山さんが狂おしそうに熱い息を漏らす。
「大……丈夫……」
 杉山さんの方が全然大丈夫そうじゃない。
 私は目を閉じてその時を待ったが、瞼の裏にもあの煤けたコンクリートが投影され、気味が悪くて目を開けて横を向いた。
 なんだろう、既視感のあるおどろおどろしい光景だ。
「大丈夫?」
 杉山さんが心配して私のあすこから腰を引いたので、私は慌ててその腰を掴んで引き止める。
「大丈夫です」
 それを聞くと杉山さんはじわじわ探る様に腰を進めた。
「っ……」
 杉山さんも、本当はガンガン腰を振りたいだろうに、何だか申し訳ないな。だからといって自分が上になってガンガン腰を振ろうとは思わないけど。それでも私は杉山さんを心配させまいと彼の首に両腕を回してしがみつく。
「大……丈夫、ですから」
 その言葉に杉山さんの律動が速くなる。
 すると突然、目の前にいる杉山さんが迷彩服を着た兵士に見えた。おまけに同じ服を着た兵士が何人も私を取り囲んでいる。思わず私は目の前の男の胸板を押し退けていた。
「エデン?」
「あっ、ごめんなさい」
 何だ?
 何かがフラッシュバックした様だった。
「今日はもう止めよう」
 杉山さんが心配そうにそう提案してきたが、私は彼が不憫で頑なにそれを拒んだ。
「じゃあ、すぐに済ませるから」
「すみません」
 それはそれで申し訳ないので私は何があろうと動じない様に歯を食いしばる。それでも杉山さんから激しく突かれる度、男達に犯される様な恐ろしい映像が走馬燈の如く脳裏に流され、私は内心苦しみもがいた。
 そんな中、ふと視界の端に何か映ったのが見えた。
 なんだろうとベッド脇のそこに焦点を合わせると、驚く事にそれは痩せ細った子供の脚だった。その脚は青白く薄汚れていて、その先は暗くてよく見えない。けれど私は何故かその脚に見覚えがあった。

 あれは──カザンじゃないか?

 その瞬間、私は全てを思い出し、意識を手放した。

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