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時は満ちた
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時は満ちた。
翡翠に献上の儀式の知らせが届いてから2ヶ月程が経過し、儀式はいよいよ今夜と迫った。
俺は朝から翡翠の身支度に追われ、午前中は翡翠の禊と儀式の手順の指導、午後はエステからヘアメイクから夜伽の衣装までを俺自ら彼女に施し、目まぐるしく時を過ごす。
娘の嫁入り前夜のようなしっぽりとした空気を味わう暇もなく、その時が訪れようとしていた。
「お前は色が白いから、やっぱり純白の和装が映えるな」
こうして翡翠の地肌に絹の長襦袢の様な物を着せていると、瑪瑙を儀式へと送り出した時の事を思い出す。
瑪瑙も白い和装がよく似合っていたっけ。俺は自分の覚悟もままならないまま愛する彼女を王に突き出したんだ。
──俺は何も変わっちゃいないな。
俺は今も、最愛の人を他の男の元へ送り出そうとしている。
歴史は繰り返されるものだな。今、目の前で見ている光景も、何だかデジャヴみたいだ。
でも今回は、同じ過ちは起こらないだろう。
翡翠は瑪瑙とは違う。
何と言うか、翡翠の気迫が違う気がする。
「翡翠、お前は大丈夫だよな?」
俺は翡翠に向き合って目で確認した。
「はい。良い結果が出せるよう、全力で頑張ります」
翡翠はベタな選挙ポスターみたいに拳を握り締めて闘志を燃やしている。
「ちょっといいか?」
俺は翡翠の長襦袢の合わせから手を差し入れ、やや左の胸に触れた。
ドクドクドクドクドクドク……
翡翠の奴、凄い緊張しているじゃないか。
翡翠の心臓は壊れてしまいそうな程強く鼓動を打っていて、可哀想なくらいだった。
本当は、泣き出しそうなくらい怖いんじゃないだろうか……
「俺には怖いなら怖いって言っていいんだからな」
俺がグイと強めに翡翠を抱き寄せ頭を撫でると、彼女は俺の背中をポンポンと軽く叩き、逆にこっちが落ち着けられているような気持ちになる。
「セキレイさん、大丈夫です、大丈夫ですから。私を信じて」
翡翠にやや左側の胸板を探られ、俺は自分の方こそ緊張していた事に気付かされる。
「駄目だな、お前に嘘や誤魔化しは通用しないな」
俺は顔を崩して笑い、互いの緊張をほぐした。
「セキレイさん、仕上げにユリから貰った翡翠の髪留めをつけてくれますか?」
翡翠から髪留めを渡され、俺は彼女の髪を適当にまとめ上げた。
翡翠のうなじが露になり、遅れ毛が何本かその白く細い首筋に垂れる様は、とても扇情的で『美味しそう』
ゴクリと俺の喉が鳴る。
「翡翠、綺麗になったな」
率直な気持ちが口をついて出てきた。
「面と向かってセキレイさんにそんな事を言われると照れますね」
翡翠は口元を隠して伏し目がちに笑ったが、それすらも魅力的で俺をそそる。
翡翠はもう、立派な大人の女性だ。
「セキレイさん、そろそろ時間なんじゃないですか?」
翡翠が壁の時計を気にするが、俺は心ここにあらず。
「……ああ」
行かせたくない。
他の男に食べさせる為に翡翠をベッドに突き出すなんて嫌だ。
誰にも翡翠を触らせたくない。
他の男に翡翠をとられたくない。
ずっと自分だけの物にしていたい。
翡翠をこのまま何処かに連れ去ってしまいたい。
「セキレイさん?」
翡翠の呼び掛けに、俺は我に返った。
いけない、魔がさした。
「ああ、悪い。じゃあ行こうか」
そう言って俺は翡翠の手を引いた。
夜中、俺は翡翠を連れて王の寝所の前までやって来て、最終チェックを行う。
「いいか、翡翠、絶対にバレないよう、挿入されたら痛がってそこに触れるふりをして血糊の小袋を破るんだ。絶対に見つかるなよ?」
俺は翡翠に向き合い、しっかりとその両肩を掴んだ。
「はい。良き頃に破ります。でも、処女膜が破られて自然と出血した場合でもやるんですか?」
「勿論だ、絶対にやらなければならない。お前は多分、出血しないタイプの処女だから、誤解されて罪に問われる可能性があるんだ、絶対に成功させろ」
俺は翡翠を説得しようと言葉に力が入る。
「そんなタイプもいるんですね」
やはり翡翠は純粋に俺を信じて、俺は手負いの彼女を騙し騙し利用しているようでチクリと胸が痛んだ。
「翡翠、本っ当に大丈夫なのか?イヤならイヤって言っていいんだぞ?」
俺は寧ろ、翡翠にイヤだと言ってほしかった。
最後に翡翠が一言イヤだと言ってくれれば、俺は直ちに彼女をこんな所から連れ出すのに……
なのに翡翠は、最後まで俺の欲しい言葉を口にしてはくれない。
「行ってきます!」
俺には、膝が笑っている翡翠に寝所のドアを開けてやる他に、してあげられる事がなかった。
ドドドドドドドドドドドドド……
これは俺の心音か、はたまた翡翠のものか、又はその両方か、とにかく心臓の鼓動がやけに耳についた。
「やあ、翡翠、久しぶり。よく来たね」
室内に入ると、王がベッドの上で開かれた天蓋からにこやかに手を振り、俺達は床に膝を着いて頭を下げる。
横目で翡翠を盗み見ると、彼女は青い顔をしていた。
可哀想に、やはり怖いのだろう。
「王様、どうぞこの翡翠に情けをおかけ下さい」
「はいはい、おいで翡翠、可愛がってあげよう。セキレイも、2度目だから段取りは解っているよね?」
「はい。ほら、翡翠」
チッチッチッと犬か猫でも呼ぶように王に舌を鳴らされ、俺は翡翠の腰に手を当ててベッドに誘導した。
「あの、翡翠です。いつぞやはお世話になりました」
翡翠がベッドサイドから王に深々と一礼すると、その腕を掴まれ、ベッドに転がり込む。
「また随分と美人になったものだね。全然子供だったのに、こんなに色っぽくなってさ」
王は翡翠の成長に目を細めた。
そうだろう、翡翠は俺が見つけ出し、俺が調教した珠玉の逸材だ、こんなに価値のある女はそうそういない。本当に、お前みたいな腐れ変態には勿体無いくらいだよ、風斗。
俺はすけすけの天蓋を閉じ、室内の明かりをおとすと、天蓋内だけがぼんやりと間接照明で浮き上がった。
それから俺は前回と同じようにベッドサイドに背を向けて腰かけ、見届け人役にはいる。
ここからが俺にとっての地獄でもある。
俺はふと奥の間の扉を見て、まさかまた風斗が初日からハードなプレイを強要しやしないかと背中に冷や汗が流れた。
「翡翠、今日まで沢山指南を受けてきたんだろう?」
王の爽やかで優しい声がする。
「はい」
翡翠の緊張した声がして、俺はハラハラで胸が潰れそうだった。
落ち着け、翡翠、大丈夫だ、俺がついてる。
俺は心の中から翡翠に念を送った。
「献上品が調教師から指南を受けるのは当たり前の事だし、そういった子を沢山相手にしてきたけど、なまじ昔の翡翠を知っているだけに、君が私のお兄ちゃんからこの体にイケナイ事を教え込まれたかと思うと、何かちょっと妬けるな」
「あっ」
『この体に』というところで翡翠が甘い声を漏らし、俺は背中越しに、王が翡翠の体のどこかに触れた事を悟る。
感度良好で翡翠はいい反応だったが、彼女を愛している俺にとっては逆にそれが辛い。本当ならすけすけの天蓋越しに彼らのまぐわいを見届けるのがこの調教師である見届け人の仕事で、翡翠が王に対し粗相を行った場合、直ちにその責任をとって腰に携えた短刀で彼女を処断しなければならないのだが、とてもじゃないが2人の情事を直視する気にはなれなかった。何なら今すぐ(翡翠を連れて)この場から逃げ出したいくらいだ。
「ねぇ、翡翠、この王にさ、これまで習ってきた集大成を見せてくれないか?」
「え?」
「翡翠は初めてだから、さすがにいれる時は私がしてあげるけど、そこまでは君が私の体に習ってきた事を実践するんだ」
『いい?』と王に尋ねられ、翡翠がおずおずとそれに応えようと身じろいだのを感じる。
「じ、じゃあ、せんえつながら、王様のお体に触れさせていただきます」
「いいよ、私は時々翡翠に悪戯をするけど、好きにして」
「はい、あの……お邪魔します」
翡翠、そこは『失礼します』だろ。
俺は翡翠が心配で、見たくもないくせに背後が気になって気になって仕方がなくなった。
カサカサ……
これは多分、翡翠が王のシャツの前合わせを解いている音だ。
サワサワ……
この音は、翡翠が露になった王の地肌に触れているのだろう。
チュッチュッ……
翡翠が王の胸板にキスしている。王の口や乳首へのキスは俺が制限したからやっていないはずだ。
その証拠に、王はじれったそうに翡翠に提言する。
「王へのキスはセキレイから制限された?」
「あの、はい。自分からしてはいけないと言われましたので……」
翡翠は自信が無さそうに答えたが、ここまでは意外と落ち着いている。
「そうか、翡翠はご主人様の言い付けを守るお利口さんだね。でも今夜のご主人様は私だからね、私がしろと言った事は嫌でもしてもらうよ?いいね?」
「はい、喜んで尽力させていただきます」
100点満点の解答だ。
しかし翡翠が他の男の言いなりになるのが物凄く恨めしく、俺は意図せず歯軋りをした。
「じゃあ、セキレイとしたようにしてみて」
「はい」
室内にチュッとか、チュバーとか2人の唾液が絡み合うような音だけが響き、俺は耳を塞ぎたくなる。
きっと翡翠はいつもみたいに逃げ腰な舌使いをして、そのまどろっこしい舌を王に絡めとられていることだろう。
俺は翡翠のあの臆病な舌使いがじれったくて好きだった。
それが今は──
「っあ!」
突然翡翠が声をあげ、何かをさする様なサラッとした音がして、俺は彼女がキスの合間に王から胸を揉まれたのだろうと推察した。
くそ、見えない分、無駄に想像力が働いてしまう。
「翡翠、クリクリじゃないか」
王が楽しそうに笑っている。
「うぅん……」
翡翠は唸るように返事をして、王から受けているであろう愛撫をやり過ごす。
「でも集中して。王へのサービスを忘れてはいけないよ」
王は翡翠を優しく諭した。
「はい、あの、触ってもいいですか?」
「いいよ、触って」
翡翠は控えめに許しを請い、王は快諾する。
これは……
サワサワと何かをまさぐる音がして、再度翡翠が驚きの声をあげた。
「えっ!そんな……本当に……?」
「どうしたの?」
王はさも可笑しそうにクスクスと笑っている。
「いえ、あの、だって、その、まさか、そんな……」
翡翠は適切な言葉を探るように言葉を詰まらせた。
「いいよ、言ってごらん」
「し、失礼を承知で言わせていただくと、その……王様のこれはセキレイさんのと違って随分と形が……特徴的だな、なんて……」
翡翠の乾いた愛想笑いがその場の湿った雰囲気と似つかわしくなくて、まるでコントだと俺は思った。
翡翠……素直過ぎる……
そこがまた翡翠の可愛いところで、俺の恋心がくすぐられる。多分、俺と血の繋がった王も、俺と同じ気持ちになった事だろう。
「翡翠、君は本当に可愛いね。いい反応だ。これは所謂真珠だよ。コロコロしていて、これが後でいい仕事をするんだ。ほら、直に触って確かめてみるといい」
「真珠……これが……お邪魔します」
翡翠、そこは『失礼します』だ。
ペタペタと蒸れた肌を触る音がして、翡翠の感嘆の息が漏れる。
「………すご……い……」
「そんなにまじまじと見る人は初めてだよ。恥ずかしいな」
言う程恥ずかしくなさそうに王が笑う。
「でもそのわりに、さっきより……」
翡翠は王のその生理現象に戸惑い、声が上擦っていた。
「そうだね。翡翠が良くしてくれると、私はもっと悦ぶのだけれど?」
「は、はい、お任せ下さい」
王から暗に働けと言われ、翡翠が動き出したのが解った。
「はぁ、そう、いいよ、心地いい。でももっと、そう、そうだね、いい子だ、よく出来てる」
想像するのもおぞましいような『何か』を擦る摩擦音が続き、俺は唇を噛み締める。
義弟と好きな娘の前戯なんてゾッとする。
「あの、王様、気持ちいいですか?どこかお痒いところはありませんか?」
床屋かっ!!
俺は翡翠のトンチについ突っ込みそうになった。
「いいよ……翡翠、ただこれはセキレイが個人的に好きなツボだ。俺はね、こうして、こうやって、ここに爪をたてられるのが好きなんだよ」
『こうして、こうやって』という台詞のところで、多分、王は翡翠の手を取って自ら自身のいい所を教え込ませたと思われる。
「そんなに強くっ!?い、痛くないんですか?」
翡翠はその力強さに動揺して狼狽えた。
「私が痛がっているように見えるかい?ほら、ご覧、悦んでいるだろう?」
「そ、そのようで……」
声の感じから、俺には翡翠が恐縮して身を縮めているのが手に取るようにわかる。
「はぁ……そうだね、そう、上手だよ。そこはもっと……そうして、そうしたら、だいぶいいよ」
切羽詰まったように王が翡翠にリクエストした。
なんだかんだであれやこれやと注文してくる王を見ていると、これじゃあまるで誰が調教師か解らなくなる。
王は、無垢な翡翠に色々と教え込む楽しさを知ってしまったようだ。
くそっ、俺だけの楽しみを、風斗の奴……
そう思うと、俺は風斗に対して無性に腹が立ち、どうにもならない憎悪が渦巻き始める。
今すぐこの短刀であいつのイチモツをちょん切ってやりたい。
暫くして、湿ったイヤらしい音が聞こえだし、俺のテンションはだだ下がりする。
早く終われ早く終われ早く終われー!!
前戯の段階で俺の心はすでにボロボロだった。とにかく今という時間が早く過ぎる事だけを切に願う。
「はぁ、はぁ、はぁ、あぁ、翡翠、下手くそなのがっ……逆にいいよ」
くそ、早く終われ。そしてそのまま今日はお開きにしろ。
俺の歯軋りが一段と酷くなる。
「はっ、はっ、はっ、はぁ……」
急に王の口数が減り、呼吸が一際荒くなり、そして──
「っ……」
王が短く息を詰め、果てた。
それから一呼吸おいて、翡翠が盛大に噎せる。
2人に何があったのか、俺は想像しただけで発狂しそうになった。
「はぁ……翡翠、君はとんでもなく下手くそで、セキレイにいい育てられ方をしたね。私は君のそういうところが気に入ったよ」
王は息を整え、晴れやかに笑う。
「恐れいります」
「じゃあ、次は私が翡翠を気持ち良くさせるとしよう」
やっぱり一発くらいじゃあ終わらないか。
パサッ、パラパラ
これは風斗が翡翠の髪を下ろした音か?
聞きたくないのに、俺の聴覚はすこぶる研ぎ澄まされた。
カサカサ……
静まり返った室内に衣擦れの音だけがやけにリアルに響く。きっと翡翠は王によって裸に剥かれ、その陶器のような肌を露にされた事だろう。
翡翠の柔肌が他の男の目に触れるのはこの上もなく許しがたい。今すぐ王の目を抉り出したいくらいだ。
「翡翠、凄く色が白いね。ここはピンクだし、綺麗だよ」
「ぅあっ」
『ここ』というところで翡翠が変な声を出す。
多分、王に乳首を弄られたのだ。
「感度もいいね」
「ぁっ!」
翡翠が甘く切ない声を鼻から漏らし、俺は、俺以外の他の男が翡翠を喘がせる事に異常な嫉妬心を燃やす。
その後も王はねちっこく翡翠の胸をなぶり、途中から翡翠は『いたっ』とか『くっ』とか痛みを我慢するような声を出し始め、俺は彼女の体が心配で身を焦がした。
「翡翠のここ、あんまり舐めすぎて赤くなっちゃったね。ごめんごめん。野苺みたいだ」
「何かヒリヒリします」
「うん、痛そうだ。でも赤くて、可哀想で、凄く可愛い」
暫く翡翠の胸を痛めつけた王は、満足したように彼女の下腹へと手を伸ばし『ああ、良かった』と軽く安堵する。
「痛くしたのに、翡翠が思ったより感じててくれたようで嬉しいよ。翡翠は素質があるなぁ」
俺は翡翠が他の男に触られて少しでも感じてしまったのがとてもショックで、悔しくて、両の拳を目一杯握り締めた。
「えっ!?そんなはず……」
何故か翡翠は王相手に不服そうに否定した。
「感じていたじゃないか、ほら、これは?」
王は楽しそうに翡翠を追い込み、責め立てる。
「止めて下さい。そんなんじゃないです」
ピチャピチャと粘液を擦るような音がして、翡翠が狼狽えた。
「感じるのは何も悪い事じゃないし、恥ずかしがる必要もない。翡翠が気持ち良くなってくれると私も嬉しいんだから」
王が今日一の優しい声で翡翠を慰め、きっと翡翠は泣き出してしまったのだと俺は思った。
「はい。解っています。ただ……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
やはり翡翠の声はか弱い泣き声になっていて、俺は彼女の事が可哀想で可哀想で堪らなくなる。
もしかしたら翡翠は……
翡翠は俺に対して申し訳ないと思っているんじゃないだろうか?あの『ごめんなさい』はここにいる俺への謝罪なんじゃないか?
俺は曲がりなりにも翡翠の元彼だ、その元彼の前で、他の男の愛撫で感じてしまった事に気が咎めているのかもしれない。
確かに、愛する人が俺以外の愛撫で快感を得てしまうのは耐え難い苦痛だ。けれどそれは仕方のない事。俺だって調教師だ、ここは喜ぶべきところなのだ。
翡翠、お前は間違っていない。
そのままでいい。
俺の事はいいから、楽に生きろ。
「翡翠、ほら、準備してあげるから脚を開いて」
恐らく翡翠は、その脚を貝の如く意固地に閉じているのだろう。
「王様、私の事はいいんです。良くしてくれなくていいんです。私は淫乱な悪い子ですから、罰としてうんと痛くして下さい」
やっぱり、翡翠は自分の事を淫乱な尻軽だと思い込んで罪悪感に苛まれている。
翡翠は純粋過ぎる。純粋過ぎるが故に自身を許せないんだ。
彼女にこの任は荷が重すぎた。
俺があの時、奴隷市で翡翠を見つけてさえいなければ、万に一つでもいい主人に引き取られてもう少しまともな人生を送っていたかもしれない。
俺の責任だ。
「翡翠、私はあまのじゃくだからね、痛くしてと言われると逆にとびきり優しくしてやりたくなるんだよ。それも、凄く強引にね」
「あっ!!痛っ!」
王によって無理矢理脚を開かされたのか、翡翠が突然悲鳴をあげた。
「翡……」
俺が咄嗟にベッドの方を振り返ると、脚の間に王の頭を挟んだ翡翠と目が合い、ここまで想像の域を越えなかった現実が、はっきりと目の前で具現化された。
地獄だ。
これは好きな人を目の前でなぶられるという拷問。
なんでこんなにまで辛いのかと言うと、翡翠が目の前で泣いているのに、俺は手を差し伸べてやれないからだ。
たったすけすけの布切れ1枚、たったそれだけの隔たりなのに、俺と翡翠には絶対的重厚な壁だった。
『見ないで』
──と言っているように、翡翠は両手で顔を覆って内腿をピクピクさせながら泣くのだ。
俺はもう……本当に……
何故、翡翠を献上品として選んでしまったんだ。献上品なんて、翡翠じゃなくてもなりたい奴はごまんといたのに、どうして、あの時翡翠に目を奪われたのか、悔やんでも悔やみきれない。
「……」
俺は、懸命に声を圧し殺す翡翠から目を反らし、またベッドに背を向けた。
今さら後悔したって仕方がない。もう賽は投げられたんだ。翡翠の我慢を俺が台無しにする訳にはいかない。
そして俺はトロリと水っぽい効果音が耳障りで、自身の両耳を塞ぐのだが、気がつくと無意識に聴覚に集中していて、それでまた落ち込む。
目を閉じると、快感を必死で噛み殺していた翡翠が王によって身体を上気させられている光景が鮮烈に甦り、胸が痛くなった。
献上品が献上の儀式まで漕ぎ着けるのは大変めでたい事で、調教師の俺はそれを応援しなければならない立場なのに、どうしても、翡翠の体が王からの寵愛を悦んでいるように見えて、俺は心が壊れそうだった。
俺はずっと翡翠に指南していたから解る。翡翠は多分、もうすぐ──
「っごめん……なさぃっ!!」
声にならないような声で、翡翠は無理矢理絶頂に追い込まれた。
ポイントを押さえてあげれば翡翠は簡単に陥落するのだ、それが例え、俺の愛撫でなくとも。
俺は翡翠に何を期待していたのだろう、こんな事になっても、翡翠はやっぱり俺じゃなきゃ駄目だって証を見たかったのか?
俺がそう思えば思う程、翡翠を追い詰めるというのに、俺は自分の事ばかり考えてしまう。
くそ、くそくそっ!
何なんだよ、この言うに任せない想いは!
翡翠は悪くないとか言いながら、いざ、あいつが風斗に攻められてよがる姿を見たら、嫉妬で気が狂うなんて!
今の俺は調教師なんかじゃない、これじゃあ単なる男じゃないか!
落ち着け、落ち着け落ち着け、まだ本番はこれからだぞ!?
調教師として、お目付け役に徹するんだ。
俺は頭を抱えて自己暗示に総力を決する。
「たったあれだけで……翡翠は本当に可愛いなぁ」
「……」
王は満足しているのに、翡翠は口をつぐんでいた。
「そんなに落ち込まないで」
「うっ……」
翡翠は王から優しい声をかけられると息を詰まらせてさめざめと泣く。
「あらあら、しょうがないな。奥の間に行く前に泣き出す子は滅多にいないんだけどなぁ。どれ、こっちにおいで」
「え?いや、いや!」
翡翠の取り乱しようから、王が無理に彼女を引き寄せたのだろう。俺が気になってチラッと後方を確認すると、翡翠は半裸の王の膝に全裸で向かい合わせに座らされ、その胸に抱かれて頭を撫でられていた。
ああしていつも翡翠を慰めるのは、俺の役だったのに。
俺は王の一挙一動、何かにつけて嫉妬心を燃やした。
自分の事は元々独占欲の強い人間だと思っていたけれど、正直、自分でも戸惑う程だ。
何故なら、実の弟の風斗に殺意すら向けているくらいなのだ、始末におえない。
これは瑪瑙の時の比ではない。嫉妬で胸を掻きむしりたくなる。
発狂しそうだ。
「よーしよし、どうかな?落ち着いた?」
キシキシとベッドが僅かに軋み、王が翡翠を体ごと揺すっているようだった。
「はい、こんな時に泣いちゃってすみません」
スンと翡翠は鼻をすすり、リラックスしようと大きく深呼吸する。
「私はね、泣いちゃう子を見ると無理矢理犯してもっと泣かせたくなるんだけど、君を見ていると、なんでかな、本当に可哀想でそんな気になれなかった」
あの変態サディストの風斗にこんな事を言わせるなんて、翡翠はもしかしたら、本当にいいところまでいけるのかもしれない。
俺の心は複雑だった。
調教師としては嬉しい限りだが、1人の男としては胸が妬ける。
「すみません、私は大丈夫ですから、酷くされても大丈夫ですから、続きをして下さい」
翡翠は必死に王にすがりつき、彼の情けを求めた。
「そうだね。可哀想だけど、それとは裏腹に翡翠をどうしても手に入れたくなった。でも私は王として君が夜伽で泣いてしまったペナルティを与えなければならない」
王は少しオーバー気味にうやうやしく話し、翡翠を脅かす。
「は、はい、甘んじてお受けします。何なりとお申し付け下さい」
きっと翡翠は必死で頭を下げた事だろう、けど弟の風斗は俺に似て意地悪だ、奴が翡翠に無理難題を押し付けるのは解っていた。
「じゃあ、このまま自分でやってごらん」
それは(偽)処女にはあまりにも無体な要望だった。
俺の弟は鬼だ。
翡翠は処女でないにしても極めて処女に近いし、制約上、処女相手に挿入後の指南は口頭でしか出来ない、よって翡翠は(偽)処女でありながら自分が上になるやり方をほぼ知らない。これは全くの想定外で、予期していなかった。こんなもの、自然な流れで徐々に体が覚えていくものだと思っていたし、実際、他の調教師もさして重要視していなかったはずだ。
処女相手に、なんて意地の悪い!
我が弟ながら軽蔑する。
「私はね、痛がる女の子に無理矢理モノを捩じ込む趣味はないんだ。根が優しいからね。だから本人が自分でやったら、痛くないように自分で調整出来るだろ?これは私からのささやかな思いやりと受け取ってほしい」
何が、そんな趣味はないだ、嘘つきめ。俺にはお前のやろうとしている事はお見通しなんだよ、変態サディスト!
俺は心の中で王を罵り、ヤキモキしながら後方をチラチラ盗み見る。
やっぱり翡翠は怖がって王の上で震えていた。
無茶苦茶だ!お前はしょっちゅう処女を食ってきているかもしれないけど、翡翠はビギナーで、ただでさえ臆病なんだ、それをいきなり……ふざけるな!!
俺は憤りを抑えきれず短刀を握り締め、それを静かにスラリと抜いて2人の方を省みると、翡翠が王の肩越しに目配せをしてきた。
『大丈夫だから』
落ち着きを取り戻した翡翠は、芯のある目線で俺にそう語りかけているようだった。
何をやっているんだ、俺は!
翡翠が死に物狂いで奮闘しているのに、俺はちんけな嫉妬で彼女の努力を無駄にするところだった。
献上の儀式は、献上品にとっての試練だが、調教師である俺の試練でもある。
耐えなければ……
「あの、では王様、お邪魔します」
そう言って翡翠は腰を浮かせ、ゆっくりゆっくり、ナメクジが這うような速度で王の上に腰を落ち着けていく。
……翡翠、言っておくが、なんならお邪魔するのは風斗の方だからな……
位置的に2人の結合部はここからでは見えなかったが、その代わりしっかりと王にしがみついて切ない顔をする翡翠の表情がばっちり見てとれて、俺はやるせなくなる。
下唇を噛んで決死の思いで腰を沈める翡翠を素直に応援出来ないのも辛い。
ここからが正念場だ、うまく血糊を活かせるといいが……
俺の胃は心労でキリキリと痛みだす。
「翡翠、もう少し力を抜いて、狭くてかなわないよ」
王は苦しそうに熱い吐息を漏らした。
翡翠はそんなに狭いのか……
翡翠の事は何でも知っていると思っていたが、ここからは俺の未知のゾーンで、王にしか味わえない感覚だ。
妬ましい。それに尽きる。
「王……様……どこまで……は……入りました……か?」
翡翠は脚をプルプルさせながら、息も絶え絶えに尋ね、王から『まだ先だけだよ』と言われると、彼の肩に頭を預け、疲れたようにしなだれ掛かった。
「……翡翠、痛い?」
おもむろに王が尋ね、翡翠は魂が抜けたように黙って首を横にふる。
──嫌な予感がした。
「翡翠、ごめんね」
王がそう囁いた瞬間、あろうことか奴はズンと激しく翡翠を突き上げた。
「あぁっ!!」
翡翠は衝撃で、足を踏まれた子犬みたいに甲高い声で鳴いた。
風斗っ!!あいつ──
やると思ったんだよ。
せめてもの救いは、翡翠の処女膜は既に破られていて、そこまで痛みはなかっただろう事。
翡翠、上手く血糊の小袋を破けるか?
俺は嫉妬するのも忘れ、固唾を飲んでその動向を見守った。
「ごめんごめん、翡翠。まどろっこしくて我慢出来なかった。可哀想に、痛かった?」
「大丈夫です……少し驚いただけです。そもそも痛くして下さいって言ったのは自分ですし」
翡翠は確かめるフリをして結合部に触れ、そこで指にくくっていた血糊の小袋を破る。王はさして出血の事は気にかけていなかったが、雰囲気から察するに、翡翠は自然な出血を演出できていたと思う。
完璧だ。
よくやった、翡翠……本当に……
一大イベントをクリアし、俺は緊張が解けると、全身に倦怠感を覚える。
疲れた……
今は、怒りを通り越して虚しい。
世の中には寝とられフェチという奇異な性癖の人間がいるが、まっっっったく理解出来ない。俺にしてみたら拷問だ。
そして一段落したのも束の間、王がゆるゆると翡翠を突き上げ始め、俺の葛藤は尚も続く。
「翡翠、痛い?」
王は、まるで翡翠に痛がっていてほしそうに目を輝かせている。
「あの……あの……解らないです……ジンジンしていて、変な感じです……」
翡翠は王の突き上げにぎこちなく応え、王の肩で顔を隠していた。俺に合わせる顔がないのか、それとも単純に恥辱にみちているのか……
「翡翠、中がコロコロしない?」
「こ、コロコロ……ですか?あっ……ちょっ!やめて……下さい……よく、解りません……」
王は自分で質問をしておいて、苦しめる様に翡翠に腰を打ち付ける。
「王っ様!っちょっ、待っ……」
翡翠は王の滾りから逃げるように腰を浮かせるが、王も彼女の腰を押さえて執拗に追い込む。
ねちっこい!
圧倒的にねちっこい!!
翡翠が嫌がってるじゃないか!!
もう少し優しくしてやれよ!鬼畜が!
俺は心の中で王を非難したが、それはどSの自分にも言える事で、結果的にブーメランとして俺に返ってきた。
自己嫌悪だ。
「翡翠も動いてよ」
「え……はい……」
翡翠がおずおずと腰を持ち上げると、王がいきなり彼女の体を半回転させ、俺にその結合部を見せつけるように翡翠の太腿をご開帳させた。
俺は崖から転落したみたいに心臓が浮き、全身に鳥肌が立つ。
嫌がりながらも熱に浮かされ、全身をピンクに染める翡翠、その結合部も、悦んで王を迎え入れているようにヌラヌラ妖しく艶めいている。
「や、やめて下さい!王様っ!!何でこんな事をするんですかっ!?どうしてっ!?セキレイさんが、セキレイさんが見てます」
翡翠が慌てて脚を閉じようとするが、それを王によってより開かされた。
「痛いっ!!!!」
無理に太腿を開かされ、翡翠はたまらず悲鳴をあげる。
「風斗っ!!」
俺は遂にぶちギレて短刀を抜刀し、天蓋の布を掴んだ。
「セキレイ!分をわきまえろ!調教師だろ!!」
しかし俺は王に一喝され、その手を止める。
普段温厚な弟が声を荒らげるのはこれが初めてだった。
「お前の行動次第で翡翠の運命が変わるんだ、自重しろ。私は国の法律には介入していないんだから」
王は、下半身では翡翠を穿たれているのに、表情では毅然とした態度で俺を諭す。
「クソッ」
俺は王の言葉にぐうの音も出ず、短刀を床に突き刺し、ドカリと背を向けてあぐらをかいた。
くそ、翡翠の事を引き合いに出されたら、俺はもう何も言えない。
翡翠を助けたいのに、俺の行動次第では逆に彼女を危険に晒してしまうジレンマが俺を苦しめた。
だが、1つだけはっきりさせておきたい。
風斗、お前が言うな。
「王様、お願いですから、変な事はしないで下さい」
翡翠は両手で顔を隠したのか、くぐもった声で訴えるが、王は聞く耳を持たない。
「変な事?繋がる事は変な事じゃないよ、ごくごく自然な事だ」
王はそうしてはぐらかして楽しんでいたが、翡翠は尚も抗議した。
「セキレイさんに見せつけるなんて、酷っ、あっ!あっ!あっ!」
翡翠は途中から王に激しくピストンされ、発言を邪魔される。
「ハァ、ハァ、ね、翡翠、私が何故こんな事をするのか解る?」
王は息を乱し、またいつもの優しい口調で翡翠に囁いた。
「あっ、あっ、しっ、知りませんっ!!」
翡翠にしてみたらそれどころではない。
「見せつけているんだよ、翡翠はもう、お兄ちゃんの物じゃない、私の物だってさ」
もしかしたら王は、俺の、翡翠への想いに気付いていたのかもしれない。
多分だけど、俺が王にヤキモキを妬くように、王もまた俺にジェラシーを感じていたのかもしれない。
でも、その王の行動は絶大な威力を発揮して、俺の消失感を誘った。
目の前であんな物を見せつけられ、俺は心底、翡翠を寝とられたと自覚する。
自覚してしまうと、俺は完全燃焼したボクサーの様に枯れ果てた。
もう何も見たくない、聞きたくない。目玉を抉り出してしまいたい、耳を削ぎ落としてしまいたい、いっそこの場で殺してくれ。
辛い。
最初から翡翠は王の物だったにせよ、彼女をずっとずっと遠くに感じた。
「翡翠っ、ハァ、ハァ、気持ち……いいかい?」
「そ、それは……」
そこは迷う事なくイエスと答えなければならないのに、翡翠は俺に気をつかってか、王に激しく突かれながらもはっきりと明言しない。恐らくそういった翡翠の態度が、王を不安に駆り立てたのだろう。
翡翠は図らずも王にヤキモキを妬かせたって訳か、いい気味だ。
ドシンッ
ベッドが1度大きく振動し、翡翠が王に押し倒された事が窺えた。
多分、最後は向い合わせでフィニッシュする気なのだろう。王のストロークがより一層激化し、ベッドの小刻みな振動が俺の背中に伝わってきて、翡翠が途切れ途切れに喚声をあげた。
「痛いっ、痛っ、あっ!あぁっ!!」
痛がって泣き叫ぶ翡翠を助けてやれないのが辛かった。
俺は無力だ。
結局俺が翡翠の為にしてやれた事なんて何も無い。
俺を虚無感が襲い、拳で顔を覆って自己嫌悪に浸っていると、突然天蓋の隙間からニュッと翡翠のか細い腕が飛び出し、俺の肩に一瞬触れた。そしてその手は何かを求め、探るように宙を掻く。
もしかして……
俺が試しに自分の手を差し出すと、それを翡翠の手がしっかりと握り締めた。
翡翠……
翡翠の手越しに激しい律動が伝わってきて、俺は彼女を支えるようにもう片方の手でそれを包み込む。
大丈夫だ、翡翠、俺が付いてる。俺が付いてるから。
翡翠、どんな事になっても、俺はお前を愛しているから。
それから間もなく王が果て、俺は気付かれぬように翡翠の手を未練がましく離す。
スルリと翡翠の手が俺の手をすり抜けていくのを、俺は哀憐の眼差しで見ていた。
卒業、か……
献上品が調教師の元を巣だってゆく瞬間だと思った。
何だか胸が空っぽだ。
翡翠はもう俺の手を離れたのに、翡翠の事以外考えられない。
解放された自分の手を見ると、翡翠の爪痕がくっきりと残り、ジンジンと痛みを伴っていた。
俺も辛かったが、翡翠はもっと辛かったのだろう。翡翠の体は王の情けにしっかりと反応していたけれど、心ではしんどかったのだと思う。俺はヤキモキばかり妬いて、翡翠の事をちゃんと思いやってやれてなかった。
不甲斐ない。
そして俺は今になって、こうも思った。
翡翠に、もっとちゃんと自分の気持ちを伝えるべきだった。
俺がどんな目で翡翠を見ていて、どんなにか彼女を大切に想っていて、どれ程狂おしく愛していたのか、自己満足だけど、みっともないくらいちゃんと伝えておくんだった。それが翡翠を困らせたとしても、自分がどれ程愛されていたか、覚えておいてほしかった──
──俺がそばにいなくても。
翡翠に献上の儀式の知らせが届いてから2ヶ月程が経過し、儀式はいよいよ今夜と迫った。
俺は朝から翡翠の身支度に追われ、午前中は翡翠の禊と儀式の手順の指導、午後はエステからヘアメイクから夜伽の衣装までを俺自ら彼女に施し、目まぐるしく時を過ごす。
娘の嫁入り前夜のようなしっぽりとした空気を味わう暇もなく、その時が訪れようとしていた。
「お前は色が白いから、やっぱり純白の和装が映えるな」
こうして翡翠の地肌に絹の長襦袢の様な物を着せていると、瑪瑙を儀式へと送り出した時の事を思い出す。
瑪瑙も白い和装がよく似合っていたっけ。俺は自分の覚悟もままならないまま愛する彼女を王に突き出したんだ。
──俺は何も変わっちゃいないな。
俺は今も、最愛の人を他の男の元へ送り出そうとしている。
歴史は繰り返されるものだな。今、目の前で見ている光景も、何だかデジャヴみたいだ。
でも今回は、同じ過ちは起こらないだろう。
翡翠は瑪瑙とは違う。
何と言うか、翡翠の気迫が違う気がする。
「翡翠、お前は大丈夫だよな?」
俺は翡翠に向き合って目で確認した。
「はい。良い結果が出せるよう、全力で頑張ります」
翡翠はベタな選挙ポスターみたいに拳を握り締めて闘志を燃やしている。
「ちょっといいか?」
俺は翡翠の長襦袢の合わせから手を差し入れ、やや左の胸に触れた。
ドクドクドクドクドクドク……
翡翠の奴、凄い緊張しているじゃないか。
翡翠の心臓は壊れてしまいそうな程強く鼓動を打っていて、可哀想なくらいだった。
本当は、泣き出しそうなくらい怖いんじゃないだろうか……
「俺には怖いなら怖いって言っていいんだからな」
俺がグイと強めに翡翠を抱き寄せ頭を撫でると、彼女は俺の背中をポンポンと軽く叩き、逆にこっちが落ち着けられているような気持ちになる。
「セキレイさん、大丈夫です、大丈夫ですから。私を信じて」
翡翠にやや左側の胸板を探られ、俺は自分の方こそ緊張していた事に気付かされる。
「駄目だな、お前に嘘や誤魔化しは通用しないな」
俺は顔を崩して笑い、互いの緊張をほぐした。
「セキレイさん、仕上げにユリから貰った翡翠の髪留めをつけてくれますか?」
翡翠から髪留めを渡され、俺は彼女の髪を適当にまとめ上げた。
翡翠のうなじが露になり、遅れ毛が何本かその白く細い首筋に垂れる様は、とても扇情的で『美味しそう』
ゴクリと俺の喉が鳴る。
「翡翠、綺麗になったな」
率直な気持ちが口をついて出てきた。
「面と向かってセキレイさんにそんな事を言われると照れますね」
翡翠は口元を隠して伏し目がちに笑ったが、それすらも魅力的で俺をそそる。
翡翠はもう、立派な大人の女性だ。
「セキレイさん、そろそろ時間なんじゃないですか?」
翡翠が壁の時計を気にするが、俺は心ここにあらず。
「……ああ」
行かせたくない。
他の男に食べさせる為に翡翠をベッドに突き出すなんて嫌だ。
誰にも翡翠を触らせたくない。
他の男に翡翠をとられたくない。
ずっと自分だけの物にしていたい。
翡翠をこのまま何処かに連れ去ってしまいたい。
「セキレイさん?」
翡翠の呼び掛けに、俺は我に返った。
いけない、魔がさした。
「ああ、悪い。じゃあ行こうか」
そう言って俺は翡翠の手を引いた。
夜中、俺は翡翠を連れて王の寝所の前までやって来て、最終チェックを行う。
「いいか、翡翠、絶対にバレないよう、挿入されたら痛がってそこに触れるふりをして血糊の小袋を破るんだ。絶対に見つかるなよ?」
俺は翡翠に向き合い、しっかりとその両肩を掴んだ。
「はい。良き頃に破ります。でも、処女膜が破られて自然と出血した場合でもやるんですか?」
「勿論だ、絶対にやらなければならない。お前は多分、出血しないタイプの処女だから、誤解されて罪に問われる可能性があるんだ、絶対に成功させろ」
俺は翡翠を説得しようと言葉に力が入る。
「そんなタイプもいるんですね」
やはり翡翠は純粋に俺を信じて、俺は手負いの彼女を騙し騙し利用しているようでチクリと胸が痛んだ。
「翡翠、本っ当に大丈夫なのか?イヤならイヤって言っていいんだぞ?」
俺は寧ろ、翡翠にイヤだと言ってほしかった。
最後に翡翠が一言イヤだと言ってくれれば、俺は直ちに彼女をこんな所から連れ出すのに……
なのに翡翠は、最後まで俺の欲しい言葉を口にしてはくれない。
「行ってきます!」
俺には、膝が笑っている翡翠に寝所のドアを開けてやる他に、してあげられる事がなかった。
ドドドドドドドドドドドドド……
これは俺の心音か、はたまた翡翠のものか、又はその両方か、とにかく心臓の鼓動がやけに耳についた。
「やあ、翡翠、久しぶり。よく来たね」
室内に入ると、王がベッドの上で開かれた天蓋からにこやかに手を振り、俺達は床に膝を着いて頭を下げる。
横目で翡翠を盗み見ると、彼女は青い顔をしていた。
可哀想に、やはり怖いのだろう。
「王様、どうぞこの翡翠に情けをおかけ下さい」
「はいはい、おいで翡翠、可愛がってあげよう。セキレイも、2度目だから段取りは解っているよね?」
「はい。ほら、翡翠」
チッチッチッと犬か猫でも呼ぶように王に舌を鳴らされ、俺は翡翠の腰に手を当ててベッドに誘導した。
「あの、翡翠です。いつぞやはお世話になりました」
翡翠がベッドサイドから王に深々と一礼すると、その腕を掴まれ、ベッドに転がり込む。
「また随分と美人になったものだね。全然子供だったのに、こんなに色っぽくなってさ」
王は翡翠の成長に目を細めた。
そうだろう、翡翠は俺が見つけ出し、俺が調教した珠玉の逸材だ、こんなに価値のある女はそうそういない。本当に、お前みたいな腐れ変態には勿体無いくらいだよ、風斗。
俺はすけすけの天蓋を閉じ、室内の明かりをおとすと、天蓋内だけがぼんやりと間接照明で浮き上がった。
それから俺は前回と同じようにベッドサイドに背を向けて腰かけ、見届け人役にはいる。
ここからが俺にとっての地獄でもある。
俺はふと奥の間の扉を見て、まさかまた風斗が初日からハードなプレイを強要しやしないかと背中に冷や汗が流れた。
「翡翠、今日まで沢山指南を受けてきたんだろう?」
王の爽やかで優しい声がする。
「はい」
翡翠の緊張した声がして、俺はハラハラで胸が潰れそうだった。
落ち着け、翡翠、大丈夫だ、俺がついてる。
俺は心の中から翡翠に念を送った。
「献上品が調教師から指南を受けるのは当たり前の事だし、そういった子を沢山相手にしてきたけど、なまじ昔の翡翠を知っているだけに、君が私のお兄ちゃんからこの体にイケナイ事を教え込まれたかと思うと、何かちょっと妬けるな」
「あっ」
『この体に』というところで翡翠が甘い声を漏らし、俺は背中越しに、王が翡翠の体のどこかに触れた事を悟る。
感度良好で翡翠はいい反応だったが、彼女を愛している俺にとっては逆にそれが辛い。本当ならすけすけの天蓋越しに彼らのまぐわいを見届けるのがこの調教師である見届け人の仕事で、翡翠が王に対し粗相を行った場合、直ちにその責任をとって腰に携えた短刀で彼女を処断しなければならないのだが、とてもじゃないが2人の情事を直視する気にはなれなかった。何なら今すぐ(翡翠を連れて)この場から逃げ出したいくらいだ。
「ねぇ、翡翠、この王にさ、これまで習ってきた集大成を見せてくれないか?」
「え?」
「翡翠は初めてだから、さすがにいれる時は私がしてあげるけど、そこまでは君が私の体に習ってきた事を実践するんだ」
『いい?』と王に尋ねられ、翡翠がおずおずとそれに応えようと身じろいだのを感じる。
「じ、じゃあ、せんえつながら、王様のお体に触れさせていただきます」
「いいよ、私は時々翡翠に悪戯をするけど、好きにして」
「はい、あの……お邪魔します」
翡翠、そこは『失礼します』だろ。
俺は翡翠が心配で、見たくもないくせに背後が気になって気になって仕方がなくなった。
カサカサ……
これは多分、翡翠が王のシャツの前合わせを解いている音だ。
サワサワ……
この音は、翡翠が露になった王の地肌に触れているのだろう。
チュッチュッ……
翡翠が王の胸板にキスしている。王の口や乳首へのキスは俺が制限したからやっていないはずだ。
その証拠に、王はじれったそうに翡翠に提言する。
「王へのキスはセキレイから制限された?」
「あの、はい。自分からしてはいけないと言われましたので……」
翡翠は自信が無さそうに答えたが、ここまでは意外と落ち着いている。
「そうか、翡翠はご主人様の言い付けを守るお利口さんだね。でも今夜のご主人様は私だからね、私がしろと言った事は嫌でもしてもらうよ?いいね?」
「はい、喜んで尽力させていただきます」
100点満点の解答だ。
しかし翡翠が他の男の言いなりになるのが物凄く恨めしく、俺は意図せず歯軋りをした。
「じゃあ、セキレイとしたようにしてみて」
「はい」
室内にチュッとか、チュバーとか2人の唾液が絡み合うような音だけが響き、俺は耳を塞ぎたくなる。
きっと翡翠はいつもみたいに逃げ腰な舌使いをして、そのまどろっこしい舌を王に絡めとられていることだろう。
俺は翡翠のあの臆病な舌使いがじれったくて好きだった。
それが今は──
「っあ!」
突然翡翠が声をあげ、何かをさする様なサラッとした音がして、俺は彼女がキスの合間に王から胸を揉まれたのだろうと推察した。
くそ、見えない分、無駄に想像力が働いてしまう。
「翡翠、クリクリじゃないか」
王が楽しそうに笑っている。
「うぅん……」
翡翠は唸るように返事をして、王から受けているであろう愛撫をやり過ごす。
「でも集中して。王へのサービスを忘れてはいけないよ」
王は翡翠を優しく諭した。
「はい、あの、触ってもいいですか?」
「いいよ、触って」
翡翠は控えめに許しを請い、王は快諾する。
これは……
サワサワと何かをまさぐる音がして、再度翡翠が驚きの声をあげた。
「えっ!そんな……本当に……?」
「どうしたの?」
王はさも可笑しそうにクスクスと笑っている。
「いえ、あの、だって、その、まさか、そんな……」
翡翠は適切な言葉を探るように言葉を詰まらせた。
「いいよ、言ってごらん」
「し、失礼を承知で言わせていただくと、その……王様のこれはセキレイさんのと違って随分と形が……特徴的だな、なんて……」
翡翠の乾いた愛想笑いがその場の湿った雰囲気と似つかわしくなくて、まるでコントだと俺は思った。
翡翠……素直過ぎる……
そこがまた翡翠の可愛いところで、俺の恋心がくすぐられる。多分、俺と血の繋がった王も、俺と同じ気持ちになった事だろう。
「翡翠、君は本当に可愛いね。いい反応だ。これは所謂真珠だよ。コロコロしていて、これが後でいい仕事をするんだ。ほら、直に触って確かめてみるといい」
「真珠……これが……お邪魔します」
翡翠、そこは『失礼します』だ。
ペタペタと蒸れた肌を触る音がして、翡翠の感嘆の息が漏れる。
「………すご……い……」
「そんなにまじまじと見る人は初めてだよ。恥ずかしいな」
言う程恥ずかしくなさそうに王が笑う。
「でもそのわりに、さっきより……」
翡翠は王のその生理現象に戸惑い、声が上擦っていた。
「そうだね。翡翠が良くしてくれると、私はもっと悦ぶのだけれど?」
「は、はい、お任せ下さい」
王から暗に働けと言われ、翡翠が動き出したのが解った。
「はぁ、そう、いいよ、心地いい。でももっと、そう、そうだね、いい子だ、よく出来てる」
想像するのもおぞましいような『何か』を擦る摩擦音が続き、俺は唇を噛み締める。
義弟と好きな娘の前戯なんてゾッとする。
「あの、王様、気持ちいいですか?どこかお痒いところはありませんか?」
床屋かっ!!
俺は翡翠のトンチについ突っ込みそうになった。
「いいよ……翡翠、ただこれはセキレイが個人的に好きなツボだ。俺はね、こうして、こうやって、ここに爪をたてられるのが好きなんだよ」
『こうして、こうやって』という台詞のところで、多分、王は翡翠の手を取って自ら自身のいい所を教え込ませたと思われる。
「そんなに強くっ!?い、痛くないんですか?」
翡翠はその力強さに動揺して狼狽えた。
「私が痛がっているように見えるかい?ほら、ご覧、悦んでいるだろう?」
「そ、そのようで……」
声の感じから、俺には翡翠が恐縮して身を縮めているのが手に取るようにわかる。
「はぁ……そうだね、そう、上手だよ。そこはもっと……そうして、そうしたら、だいぶいいよ」
切羽詰まったように王が翡翠にリクエストした。
なんだかんだであれやこれやと注文してくる王を見ていると、これじゃあまるで誰が調教師か解らなくなる。
王は、無垢な翡翠に色々と教え込む楽しさを知ってしまったようだ。
くそっ、俺だけの楽しみを、風斗の奴……
そう思うと、俺は風斗に対して無性に腹が立ち、どうにもならない憎悪が渦巻き始める。
今すぐこの短刀であいつのイチモツをちょん切ってやりたい。
暫くして、湿ったイヤらしい音が聞こえだし、俺のテンションはだだ下がりする。
早く終われ早く終われ早く終われー!!
前戯の段階で俺の心はすでにボロボロだった。とにかく今という時間が早く過ぎる事だけを切に願う。
「はぁ、はぁ、はぁ、あぁ、翡翠、下手くそなのがっ……逆にいいよ」
くそ、早く終われ。そしてそのまま今日はお開きにしろ。
俺の歯軋りが一段と酷くなる。
「はっ、はっ、はっ、はぁ……」
急に王の口数が減り、呼吸が一際荒くなり、そして──
「っ……」
王が短く息を詰め、果てた。
それから一呼吸おいて、翡翠が盛大に噎せる。
2人に何があったのか、俺は想像しただけで発狂しそうになった。
「はぁ……翡翠、君はとんでもなく下手くそで、セキレイにいい育てられ方をしたね。私は君のそういうところが気に入ったよ」
王は息を整え、晴れやかに笑う。
「恐れいります」
「じゃあ、次は私が翡翠を気持ち良くさせるとしよう」
やっぱり一発くらいじゃあ終わらないか。
パサッ、パラパラ
これは風斗が翡翠の髪を下ろした音か?
聞きたくないのに、俺の聴覚はすこぶる研ぎ澄まされた。
カサカサ……
静まり返った室内に衣擦れの音だけがやけにリアルに響く。きっと翡翠は王によって裸に剥かれ、その陶器のような肌を露にされた事だろう。
翡翠の柔肌が他の男の目に触れるのはこの上もなく許しがたい。今すぐ王の目を抉り出したいくらいだ。
「翡翠、凄く色が白いね。ここはピンクだし、綺麗だよ」
「ぅあっ」
『ここ』というところで翡翠が変な声を出す。
多分、王に乳首を弄られたのだ。
「感度もいいね」
「ぁっ!」
翡翠が甘く切ない声を鼻から漏らし、俺は、俺以外の他の男が翡翠を喘がせる事に異常な嫉妬心を燃やす。
その後も王はねちっこく翡翠の胸をなぶり、途中から翡翠は『いたっ』とか『くっ』とか痛みを我慢するような声を出し始め、俺は彼女の体が心配で身を焦がした。
「翡翠のここ、あんまり舐めすぎて赤くなっちゃったね。ごめんごめん。野苺みたいだ」
「何かヒリヒリします」
「うん、痛そうだ。でも赤くて、可哀想で、凄く可愛い」
暫く翡翠の胸を痛めつけた王は、満足したように彼女の下腹へと手を伸ばし『ああ、良かった』と軽く安堵する。
「痛くしたのに、翡翠が思ったより感じててくれたようで嬉しいよ。翡翠は素質があるなぁ」
俺は翡翠が他の男に触られて少しでも感じてしまったのがとてもショックで、悔しくて、両の拳を目一杯握り締めた。
「えっ!?そんなはず……」
何故か翡翠は王相手に不服そうに否定した。
「感じていたじゃないか、ほら、これは?」
王は楽しそうに翡翠を追い込み、責め立てる。
「止めて下さい。そんなんじゃないです」
ピチャピチャと粘液を擦るような音がして、翡翠が狼狽えた。
「感じるのは何も悪い事じゃないし、恥ずかしがる必要もない。翡翠が気持ち良くなってくれると私も嬉しいんだから」
王が今日一の優しい声で翡翠を慰め、きっと翡翠は泣き出してしまったのだと俺は思った。
「はい。解っています。ただ……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
やはり翡翠の声はか弱い泣き声になっていて、俺は彼女の事が可哀想で可哀想で堪らなくなる。
もしかしたら翡翠は……
翡翠は俺に対して申し訳ないと思っているんじゃないだろうか?あの『ごめんなさい』はここにいる俺への謝罪なんじゃないか?
俺は曲がりなりにも翡翠の元彼だ、その元彼の前で、他の男の愛撫で感じてしまった事に気が咎めているのかもしれない。
確かに、愛する人が俺以外の愛撫で快感を得てしまうのは耐え難い苦痛だ。けれどそれは仕方のない事。俺だって調教師だ、ここは喜ぶべきところなのだ。
翡翠、お前は間違っていない。
そのままでいい。
俺の事はいいから、楽に生きろ。
「翡翠、ほら、準備してあげるから脚を開いて」
恐らく翡翠は、その脚を貝の如く意固地に閉じているのだろう。
「王様、私の事はいいんです。良くしてくれなくていいんです。私は淫乱な悪い子ですから、罰としてうんと痛くして下さい」
やっぱり、翡翠は自分の事を淫乱な尻軽だと思い込んで罪悪感に苛まれている。
翡翠は純粋過ぎる。純粋過ぎるが故に自身を許せないんだ。
彼女にこの任は荷が重すぎた。
俺があの時、奴隷市で翡翠を見つけてさえいなければ、万に一つでもいい主人に引き取られてもう少しまともな人生を送っていたかもしれない。
俺の責任だ。
「翡翠、私はあまのじゃくだからね、痛くしてと言われると逆にとびきり優しくしてやりたくなるんだよ。それも、凄く強引にね」
「あっ!!痛っ!」
王によって無理矢理脚を開かされたのか、翡翠が突然悲鳴をあげた。
「翡……」
俺が咄嗟にベッドの方を振り返ると、脚の間に王の頭を挟んだ翡翠と目が合い、ここまで想像の域を越えなかった現実が、はっきりと目の前で具現化された。
地獄だ。
これは好きな人を目の前でなぶられるという拷問。
なんでこんなにまで辛いのかと言うと、翡翠が目の前で泣いているのに、俺は手を差し伸べてやれないからだ。
たったすけすけの布切れ1枚、たったそれだけの隔たりなのに、俺と翡翠には絶対的重厚な壁だった。
『見ないで』
──と言っているように、翡翠は両手で顔を覆って内腿をピクピクさせながら泣くのだ。
俺はもう……本当に……
何故、翡翠を献上品として選んでしまったんだ。献上品なんて、翡翠じゃなくてもなりたい奴はごまんといたのに、どうして、あの時翡翠に目を奪われたのか、悔やんでも悔やみきれない。
「……」
俺は、懸命に声を圧し殺す翡翠から目を反らし、またベッドに背を向けた。
今さら後悔したって仕方がない。もう賽は投げられたんだ。翡翠の我慢を俺が台無しにする訳にはいかない。
そして俺はトロリと水っぽい効果音が耳障りで、自身の両耳を塞ぐのだが、気がつくと無意識に聴覚に集中していて、それでまた落ち込む。
目を閉じると、快感を必死で噛み殺していた翡翠が王によって身体を上気させられている光景が鮮烈に甦り、胸が痛くなった。
献上品が献上の儀式まで漕ぎ着けるのは大変めでたい事で、調教師の俺はそれを応援しなければならない立場なのに、どうしても、翡翠の体が王からの寵愛を悦んでいるように見えて、俺は心が壊れそうだった。
俺はずっと翡翠に指南していたから解る。翡翠は多分、もうすぐ──
「っごめん……なさぃっ!!」
声にならないような声で、翡翠は無理矢理絶頂に追い込まれた。
ポイントを押さえてあげれば翡翠は簡単に陥落するのだ、それが例え、俺の愛撫でなくとも。
俺は翡翠に何を期待していたのだろう、こんな事になっても、翡翠はやっぱり俺じゃなきゃ駄目だって証を見たかったのか?
俺がそう思えば思う程、翡翠を追い詰めるというのに、俺は自分の事ばかり考えてしまう。
くそ、くそくそっ!
何なんだよ、この言うに任せない想いは!
翡翠は悪くないとか言いながら、いざ、あいつが風斗に攻められてよがる姿を見たら、嫉妬で気が狂うなんて!
今の俺は調教師なんかじゃない、これじゃあ単なる男じゃないか!
落ち着け、落ち着け落ち着け、まだ本番はこれからだぞ!?
調教師として、お目付け役に徹するんだ。
俺は頭を抱えて自己暗示に総力を決する。
「たったあれだけで……翡翠は本当に可愛いなぁ」
「……」
王は満足しているのに、翡翠は口をつぐんでいた。
「そんなに落ち込まないで」
「うっ……」
翡翠は王から優しい声をかけられると息を詰まらせてさめざめと泣く。
「あらあら、しょうがないな。奥の間に行く前に泣き出す子は滅多にいないんだけどなぁ。どれ、こっちにおいで」
「え?いや、いや!」
翡翠の取り乱しようから、王が無理に彼女を引き寄せたのだろう。俺が気になってチラッと後方を確認すると、翡翠は半裸の王の膝に全裸で向かい合わせに座らされ、その胸に抱かれて頭を撫でられていた。
ああしていつも翡翠を慰めるのは、俺の役だったのに。
俺は王の一挙一動、何かにつけて嫉妬心を燃やした。
自分の事は元々独占欲の強い人間だと思っていたけれど、正直、自分でも戸惑う程だ。
何故なら、実の弟の風斗に殺意すら向けているくらいなのだ、始末におえない。
これは瑪瑙の時の比ではない。嫉妬で胸を掻きむしりたくなる。
発狂しそうだ。
「よーしよし、どうかな?落ち着いた?」
キシキシとベッドが僅かに軋み、王が翡翠を体ごと揺すっているようだった。
「はい、こんな時に泣いちゃってすみません」
スンと翡翠は鼻をすすり、リラックスしようと大きく深呼吸する。
「私はね、泣いちゃう子を見ると無理矢理犯してもっと泣かせたくなるんだけど、君を見ていると、なんでかな、本当に可哀想でそんな気になれなかった」
あの変態サディストの風斗にこんな事を言わせるなんて、翡翠はもしかしたら、本当にいいところまでいけるのかもしれない。
俺の心は複雑だった。
調教師としては嬉しい限りだが、1人の男としては胸が妬ける。
「すみません、私は大丈夫ですから、酷くされても大丈夫ですから、続きをして下さい」
翡翠は必死に王にすがりつき、彼の情けを求めた。
「そうだね。可哀想だけど、それとは裏腹に翡翠をどうしても手に入れたくなった。でも私は王として君が夜伽で泣いてしまったペナルティを与えなければならない」
王は少しオーバー気味にうやうやしく話し、翡翠を脅かす。
「は、はい、甘んじてお受けします。何なりとお申し付け下さい」
きっと翡翠は必死で頭を下げた事だろう、けど弟の風斗は俺に似て意地悪だ、奴が翡翠に無理難題を押し付けるのは解っていた。
「じゃあ、このまま自分でやってごらん」
それは(偽)処女にはあまりにも無体な要望だった。
俺の弟は鬼だ。
翡翠は処女でないにしても極めて処女に近いし、制約上、処女相手に挿入後の指南は口頭でしか出来ない、よって翡翠は(偽)処女でありながら自分が上になるやり方をほぼ知らない。これは全くの想定外で、予期していなかった。こんなもの、自然な流れで徐々に体が覚えていくものだと思っていたし、実際、他の調教師もさして重要視していなかったはずだ。
処女相手に、なんて意地の悪い!
我が弟ながら軽蔑する。
「私はね、痛がる女の子に無理矢理モノを捩じ込む趣味はないんだ。根が優しいからね。だから本人が自分でやったら、痛くないように自分で調整出来るだろ?これは私からのささやかな思いやりと受け取ってほしい」
何が、そんな趣味はないだ、嘘つきめ。俺にはお前のやろうとしている事はお見通しなんだよ、変態サディスト!
俺は心の中で王を罵り、ヤキモキしながら後方をチラチラ盗み見る。
やっぱり翡翠は怖がって王の上で震えていた。
無茶苦茶だ!お前はしょっちゅう処女を食ってきているかもしれないけど、翡翠はビギナーで、ただでさえ臆病なんだ、それをいきなり……ふざけるな!!
俺は憤りを抑えきれず短刀を握り締め、それを静かにスラリと抜いて2人の方を省みると、翡翠が王の肩越しに目配せをしてきた。
『大丈夫だから』
落ち着きを取り戻した翡翠は、芯のある目線で俺にそう語りかけているようだった。
何をやっているんだ、俺は!
翡翠が死に物狂いで奮闘しているのに、俺はちんけな嫉妬で彼女の努力を無駄にするところだった。
献上の儀式は、献上品にとっての試練だが、調教師である俺の試練でもある。
耐えなければ……
「あの、では王様、お邪魔します」
そう言って翡翠は腰を浮かせ、ゆっくりゆっくり、ナメクジが這うような速度で王の上に腰を落ち着けていく。
……翡翠、言っておくが、なんならお邪魔するのは風斗の方だからな……
位置的に2人の結合部はここからでは見えなかったが、その代わりしっかりと王にしがみついて切ない顔をする翡翠の表情がばっちり見てとれて、俺はやるせなくなる。
下唇を噛んで決死の思いで腰を沈める翡翠を素直に応援出来ないのも辛い。
ここからが正念場だ、うまく血糊を活かせるといいが……
俺の胃は心労でキリキリと痛みだす。
「翡翠、もう少し力を抜いて、狭くてかなわないよ」
王は苦しそうに熱い吐息を漏らした。
翡翠はそんなに狭いのか……
翡翠の事は何でも知っていると思っていたが、ここからは俺の未知のゾーンで、王にしか味わえない感覚だ。
妬ましい。それに尽きる。
「王……様……どこまで……は……入りました……か?」
翡翠は脚をプルプルさせながら、息も絶え絶えに尋ね、王から『まだ先だけだよ』と言われると、彼の肩に頭を預け、疲れたようにしなだれ掛かった。
「……翡翠、痛い?」
おもむろに王が尋ね、翡翠は魂が抜けたように黙って首を横にふる。
──嫌な予感がした。
「翡翠、ごめんね」
王がそう囁いた瞬間、あろうことか奴はズンと激しく翡翠を突き上げた。
「あぁっ!!」
翡翠は衝撃で、足を踏まれた子犬みたいに甲高い声で鳴いた。
風斗っ!!あいつ──
やると思ったんだよ。
せめてもの救いは、翡翠の処女膜は既に破られていて、そこまで痛みはなかっただろう事。
翡翠、上手く血糊の小袋を破けるか?
俺は嫉妬するのも忘れ、固唾を飲んでその動向を見守った。
「ごめんごめん、翡翠。まどろっこしくて我慢出来なかった。可哀想に、痛かった?」
「大丈夫です……少し驚いただけです。そもそも痛くして下さいって言ったのは自分ですし」
翡翠は確かめるフリをして結合部に触れ、そこで指にくくっていた血糊の小袋を破る。王はさして出血の事は気にかけていなかったが、雰囲気から察するに、翡翠は自然な出血を演出できていたと思う。
完璧だ。
よくやった、翡翠……本当に……
一大イベントをクリアし、俺は緊張が解けると、全身に倦怠感を覚える。
疲れた……
今は、怒りを通り越して虚しい。
世の中には寝とられフェチという奇異な性癖の人間がいるが、まっっっったく理解出来ない。俺にしてみたら拷問だ。
そして一段落したのも束の間、王がゆるゆると翡翠を突き上げ始め、俺の葛藤は尚も続く。
「翡翠、痛い?」
王は、まるで翡翠に痛がっていてほしそうに目を輝かせている。
「あの……あの……解らないです……ジンジンしていて、変な感じです……」
翡翠は王の突き上げにぎこちなく応え、王の肩で顔を隠していた。俺に合わせる顔がないのか、それとも単純に恥辱にみちているのか……
「翡翠、中がコロコロしない?」
「こ、コロコロ……ですか?あっ……ちょっ!やめて……下さい……よく、解りません……」
王は自分で質問をしておいて、苦しめる様に翡翠に腰を打ち付ける。
「王っ様!っちょっ、待っ……」
翡翠は王の滾りから逃げるように腰を浮かせるが、王も彼女の腰を押さえて執拗に追い込む。
ねちっこい!
圧倒的にねちっこい!!
翡翠が嫌がってるじゃないか!!
もう少し優しくしてやれよ!鬼畜が!
俺は心の中で王を非難したが、それはどSの自分にも言える事で、結果的にブーメランとして俺に返ってきた。
自己嫌悪だ。
「翡翠も動いてよ」
「え……はい……」
翡翠がおずおずと腰を持ち上げると、王がいきなり彼女の体を半回転させ、俺にその結合部を見せつけるように翡翠の太腿をご開帳させた。
俺は崖から転落したみたいに心臓が浮き、全身に鳥肌が立つ。
嫌がりながらも熱に浮かされ、全身をピンクに染める翡翠、その結合部も、悦んで王を迎え入れているようにヌラヌラ妖しく艶めいている。
「や、やめて下さい!王様っ!!何でこんな事をするんですかっ!?どうしてっ!?セキレイさんが、セキレイさんが見てます」
翡翠が慌てて脚を閉じようとするが、それを王によってより開かされた。
「痛いっ!!!!」
無理に太腿を開かされ、翡翠はたまらず悲鳴をあげる。
「風斗っ!!」
俺は遂にぶちギレて短刀を抜刀し、天蓋の布を掴んだ。
「セキレイ!分をわきまえろ!調教師だろ!!」
しかし俺は王に一喝され、その手を止める。
普段温厚な弟が声を荒らげるのはこれが初めてだった。
「お前の行動次第で翡翠の運命が変わるんだ、自重しろ。私は国の法律には介入していないんだから」
王は、下半身では翡翠を穿たれているのに、表情では毅然とした態度で俺を諭す。
「クソッ」
俺は王の言葉にぐうの音も出ず、短刀を床に突き刺し、ドカリと背を向けてあぐらをかいた。
くそ、翡翠の事を引き合いに出されたら、俺はもう何も言えない。
翡翠を助けたいのに、俺の行動次第では逆に彼女を危険に晒してしまうジレンマが俺を苦しめた。
だが、1つだけはっきりさせておきたい。
風斗、お前が言うな。
「王様、お願いですから、変な事はしないで下さい」
翡翠は両手で顔を隠したのか、くぐもった声で訴えるが、王は聞く耳を持たない。
「変な事?繋がる事は変な事じゃないよ、ごくごく自然な事だ」
王はそうしてはぐらかして楽しんでいたが、翡翠は尚も抗議した。
「セキレイさんに見せつけるなんて、酷っ、あっ!あっ!あっ!」
翡翠は途中から王に激しくピストンされ、発言を邪魔される。
「ハァ、ハァ、ね、翡翠、私が何故こんな事をするのか解る?」
王は息を乱し、またいつもの優しい口調で翡翠に囁いた。
「あっ、あっ、しっ、知りませんっ!!」
翡翠にしてみたらそれどころではない。
「見せつけているんだよ、翡翠はもう、お兄ちゃんの物じゃない、私の物だってさ」
もしかしたら王は、俺の、翡翠への想いに気付いていたのかもしれない。
多分だけど、俺が王にヤキモキを妬くように、王もまた俺にジェラシーを感じていたのかもしれない。
でも、その王の行動は絶大な威力を発揮して、俺の消失感を誘った。
目の前であんな物を見せつけられ、俺は心底、翡翠を寝とられたと自覚する。
自覚してしまうと、俺は完全燃焼したボクサーの様に枯れ果てた。
もう何も見たくない、聞きたくない。目玉を抉り出してしまいたい、耳を削ぎ落としてしまいたい、いっそこの場で殺してくれ。
辛い。
最初から翡翠は王の物だったにせよ、彼女をずっとずっと遠くに感じた。
「翡翠っ、ハァ、ハァ、気持ち……いいかい?」
「そ、それは……」
そこは迷う事なくイエスと答えなければならないのに、翡翠は俺に気をつかってか、王に激しく突かれながらもはっきりと明言しない。恐らくそういった翡翠の態度が、王を不安に駆り立てたのだろう。
翡翠は図らずも王にヤキモキを妬かせたって訳か、いい気味だ。
ドシンッ
ベッドが1度大きく振動し、翡翠が王に押し倒された事が窺えた。
多分、最後は向い合わせでフィニッシュする気なのだろう。王のストロークがより一層激化し、ベッドの小刻みな振動が俺の背中に伝わってきて、翡翠が途切れ途切れに喚声をあげた。
「痛いっ、痛っ、あっ!あぁっ!!」
痛がって泣き叫ぶ翡翠を助けてやれないのが辛かった。
俺は無力だ。
結局俺が翡翠の為にしてやれた事なんて何も無い。
俺を虚無感が襲い、拳で顔を覆って自己嫌悪に浸っていると、突然天蓋の隙間からニュッと翡翠のか細い腕が飛び出し、俺の肩に一瞬触れた。そしてその手は何かを求め、探るように宙を掻く。
もしかして……
俺が試しに自分の手を差し出すと、それを翡翠の手がしっかりと握り締めた。
翡翠……
翡翠の手越しに激しい律動が伝わってきて、俺は彼女を支えるようにもう片方の手でそれを包み込む。
大丈夫だ、翡翠、俺が付いてる。俺が付いてるから。
翡翠、どんな事になっても、俺はお前を愛しているから。
それから間もなく王が果て、俺は気付かれぬように翡翠の手を未練がましく離す。
スルリと翡翠の手が俺の手をすり抜けていくのを、俺は哀憐の眼差しで見ていた。
卒業、か……
献上品が調教師の元を巣だってゆく瞬間だと思った。
何だか胸が空っぽだ。
翡翠はもう俺の手を離れたのに、翡翠の事以外考えられない。
解放された自分の手を見ると、翡翠の爪痕がくっきりと残り、ジンジンと痛みを伴っていた。
俺も辛かったが、翡翠はもっと辛かったのだろう。翡翠の体は王の情けにしっかりと反応していたけれど、心ではしんどかったのだと思う。俺はヤキモキばかり妬いて、翡翠の事をちゃんと思いやってやれてなかった。
不甲斐ない。
そして俺は今になって、こうも思った。
翡翠に、もっとちゃんと自分の気持ちを伝えるべきだった。
俺がどんな目で翡翠を見ていて、どんなにか彼女を大切に想っていて、どれ程狂おしく愛していたのか、自己満足だけど、みっともないくらいちゃんと伝えておくんだった。それが翡翠を困らせたとしても、自分がどれ程愛されていたか、覚えておいてほしかった──
──俺がそばにいなくても。
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