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第2章「芽吹く」
19話
しおりを挟む―どれもこれも似たようなものしか載っていないわね。
軽く溜息をつき、分厚い歴史書を閉じた。
突然ユリウスの留学が決まり慌ただしく過ぎていった休日の次の日、私は学校の第1図書館に来ていた。何故ここに居るかと言うと、話は今日のお昼まで遡る…。
学校の中庭でいつもの様にユリウスと昼食を摂っていると、ユリウスの担任の教師が私達の元へとやって来た。
留学の件で書いてもらいたい書類があるため今日の放課後に教員の研究室へ来て欲しい、とのこと。ユリウスは私をチラリと見てから「分かりました。」と返事をした。
「姉上、先程 先生が言っていたように僕は放課後残らないといけないみたいです。なので今日は先に帰ってて下さい。」
「終わるまで図書館で待っているわ。」
「ですが…」
「ちょうど調べたいものがあるの。第1図書館に居るから終わったら迎えに来てね。」
「…分かりました。できる限り早く終わらせてきますので。」
「そんな無理しなくていいのよ。私、待つのってそんなに苦にならないから。」
「いえ、僕が早く姉上に会いたいからです。」
「グハッ」
******
「…。」
…お昼の時の会話を思い出し、思わず苦笑いをした。巷ではああいうのを確か…シスターコンプレックス…シスコンと呼んでいるんだっけ?ユリウスの場合、悲惨な幼少期を過ごしたことが原因なためシスコンとは少し違うかもしれないが…。
純粋に姉を敬愛してくれる義弟に、満更でもない自分が居るのも確かだ。私も巷で言うところのブラコンというやつなのだろう。
お互い、姉離れ、弟離れの道は遠いようだ。だからこそ、ユリウスの留学の件は私たち姉弟にとっていい機会かもしれない。ぬるま湯のような関係にいつまでも甘えていたいが、いつか現れるユリウスのパートナーの為にも弟離れは確実に必要だ。いきなりは難しいかもしれないが、少しづつなら義弟から自立が出来るようになるだろう。
私は新しい歴史書を本棚から選びその場で開いた。だがこれも先程の本と同じような内容だったため眉をよせ溜息をついた。
―どうして300年前の歴史だけがこんなにも薄いの?
どの文献を読み漁っても書いてあることは皆一緒。酷い時は1行で終わっている本もあった。
―今から300年前…“帝国歴××年。アルベルト=ブランシュネージュ=ノルデンは23歳で皇帝陛下に即位。その後、自害する。“か…。
300年前はあの聖女が現れた年なのだ。まずはその事が歴史に乗るはずなのに聖女については一切書かれていない。だがマリーは皇后に選ばれ、皇族となったのだ。皇族達の名前は必ず歴史に残るようになっている。それなのにマリーの名前が残っていないのは何故なのだろう。
マリーだけでなく、エリザベータ=コーエンの名も何処にも載っていなかった。私は歴史に名を残すほどの大罪を犯したことになっているはずだ。負の歴史として残っていてもおかしくはないのだが…。コーエン家自体が消えている。
それに最後の“自害する”という文章。これが1番信じられない。あの人が自ら命を絶つなんてことありえない。あの人らしくない。
私が死んだ後、一体何が起こったのだろう。その真相が知りたくて書物を漁るも有意義な情報は何一つ出てこなかった。
―おかしいわ。一体何なの…?
調べれば調べるほど奇妙さが浮き彫りになる。
私は文献を読み漁ることに没頭していった。調べても何も変わらないのに、無意味なのに、止められなかった。ひたすら自分だけの世界に閉じこもる。
だから、私は自分の背後に誰か居るなんてこと考えもしなかった。
1番上にある本が取りたくて背伸びをするも、あと僅か届かない。何か踏み台を、と思っていたら後ろから何が伸びてきた。これは腕?もちろん、自分のでは無い。しなやかに伸びた腕は服の上からでもわかるほど、筋肉質だ。その腕は上に延び、私が取りたかった本を易々と捕らえスっと本棚から抜いた。その動作を無意識に追いかけるようにして後ろを振り返った。振り返ってしまった。
―深い海のようなサファイアの瞳…。
『深く考えすぎて周りが見えなくなってしまうのは姉上の悪い癖です。』と、いつの日だったか、義弟が言った言葉が脳裏を過った。
「…欲しかったのはこれか?」
記憶にある声よりも少し若い声。だって、彼はまだ18歳なのだから。
テオドール=ブランシュネージュ=ノルデン。
このノルデン帝国の皇太子殿下であり、次期皇帝陛下である尊き方。
私を殺したアルベルト様と同じ顔を持つ男。
世界が音を立てて動き出した。
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