私は貴方を許さない

白湯子

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第3章「後退」

46話

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モニカside


お嬢様が眠るお墓に手を合わせ、目を閉じる。

私は誓う。
必ず、アルベルトと聖女をこの手で殺してやる、と。

虚言で無実のお嬢様を罰した聖女が憎い、お嬢様を散々痛みつけて命を摘み取ったアルベルトが憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い…


―あんなヤツらは死んじゃえば良いんだ。


「…お嬢様、行ってまいります。」


憎悪の念を抱きながら、私は皇族に仕える侍女として皇宮に忍び込んだ。
本来、皇族に仕える侍女達はだいたいが貴族の娘なのだが、下町育ちの私でも簡単に入ることが出来た。そのことに違和感を感じ、採用担当に理由を聞けば人手不足だから、とのこと。
少々拍子抜けだが、これでアルベルトと聖女の傍で殺せるチャンスがぐっと高まった。

焦らず、慎重に。失敗は許されない。私は2人を確実に殺すために皇宮で息を潜めることにした。


※※※※※


皇宮に忍び込んで、1週間ほど経過した。

部屋の隅で待機しつつ、今日も奴らの会話に耳を傾ける。


「ねぇ、アル。お金が無いのなら、もっと税金を増やしちゃえば?」
「さすがは僕の聖女。いい案だね。すぐにそうしよう。大臣、今の話聞いていたよね?」
「もちろんでございます。では、そのように。」


―…本当、人間を馬鹿にしている。


大多数の平民は貧しい暮らしを強いられている。
下町に住む私の家だって、学校にも行けず、下の妹と弟は十になる前から働きに出ているのだ。そんな家が大半であることは、彼らも重々に理解しているはず。理解した上で、その平民から金を搾り取ろうとするだなんて、一体何を考えているのだろうか。

このままでは、不満を募らせた民衆が暴動を起こすのも時間の問題だ。学のない私だって分かることなのに……。

周りから褒められてニコニコと笑っている聖女をチラリと一瞥した。


聖女マリー。
国境視察中のアルベルトの前に、突然現れた神に愛された乙女。
愛らしい見た目と、天真爛漫な性格で彼女はアルベルトだけでなく、多くの人間を魅了した。
そして誰もが、口を揃えてこう言うのだ。彼女こそ皇后に相応しいと。


―ばっかじゃねーの。


私は心の中で舌打ちをする。
この聖女は想像してた以上に、とんでもない毒婦だった。

貧しい平民とは対照的に、聖女マリーは並外れた豪華な生活を送っていた。
前皇帝陛下と皇后陛下が亡くなってからは、タカが外れたかのように昼も夜も関係なく皇宮で華やかなパーティを開き、夫であるアルベルト以外の貴族の青年達と情愛のような肉欲に溺れ、絢爛豪華な調度品に囲まれた彼女は実に滑稽に見えた。
その上、聖女はこうして政治にも介入して、法を掻き乱す。資金が底を尽きているのも彼女の浪費のせいだ。

エリザベータお嬢様が着せられた罪のひとつ、“帝国金の横領”は聖女の仕業である。その上、邪魔な前皇帝陛下と皇后陛下を殺そうとしたのも聖女。聖女は全ての罪をエリザベータお嬢様に擦り付けたのだ。

贅沢の限りを尽くし、自分のことしか考えていない軽薄な女。
それが私から見た聖女マリーだ。
聖女が異常であると誰の目から見ても明らかなはずなのに……


――何故、誰もこの暴君聖女を咎めない。


この皇宮は可笑しいのだ。皆、聖女の言葉を盲目的に信じ、破滅への道へと自ら進んでいる。

ノルデン帝国の若き獅子と謳われていたアルベルトも聖女に溺れ、かつての面影は無い。そこに居るのは、聖女に良いように使われて喜ぶ哀れな男だ。


―こんなクソ野郎のせいで、お嬢様はずっと苦しんでいたのかよ…。


悔しさで目の前が真っ赤になった。絶対に奴らを許してはいけない。


「やった!これでお金が増えるね!そうだ!私、デューデン国に旅行に行きたい!」
「良いね、じゃあ今度…」
「アルはお仕事があるでしょ?だから、カイとレオンと一緒に行ってくるよ!私のことは心配しないで、お仕事頑張ってね。」


―頭おかしすぎるだろ、この女。


聖女マリーの発言に私は目眩を覚えていた。お金が増える?旅行だ?ふざけんな。
税金はお前が自由に使える金じゃない。本来税金は民衆のために使われる金だ。それを私利私欲のために使おうとしているだなんて、有り得ない。
それに、聖女マリーは一応、ノルデン帝国の皇后なのだ。皇后の職務をほったらかして、色男と言われている騎士を連れて旅行に行くだなんて、どうかしている。だが、それを咎めるものは誰もいない。


「僕の事を気遣ってくれてありがとう。うん、分かった。気をつけて行っておいで。」
「ありがとう、アル。お土産いっぱい買ってくるね!!」


ニッコリと笑った聖女は軽やかに部屋を出ていく。それを、愛しそうに見送ったアルベルトは本気で増税の準備にとりかかっていた。
目の前で繰り広げられた、おぞましい三文芝居に殴りかからなかった自分を誉めてあげたい。

あれが本当に神に愛された乙女なのだろうか。もし、そうだとしたら、それは神ではなく悪魔だ。
…そうだ、きっとそうなのだ。初めから神なんて居なかったのだ。それなら納得する。
神が存在しないこの腐った世界で奴らを裁けるのは、私しかいない。

静かに増悪を滾らせながら、アルベルトと聖女を殺す方法を考える。

聖女が旅行(とかマジでふざけんな、一生帰ってくんな。)中にアルベルトを殺そうか?今まで2人同時に殺そうとしていたが、1人づつの方が楽に殺せるはずだ。そして、混乱する公宮に帰ってきた聖女を殺す。…いや、少し無理があるか…。

まぁ、時間はまだある。確実に2人を殺せる方法を考えていこう。

そう思いながら、私はスカートの中に隠しているナイフにそっと触れた。








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