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第4章「好奇心は猫をも殺す」
57話
しおりを挟む幼少期テオドールside
今日も俺はあの子を探す。
中庭、寝室、厨房、壺の中…
―見つかんねぇ…。今日も勝ち逃げする気か?そうはいかないぞっ!
腕を組み、しかめっ面で廊下を歩いていると窓拭きに勤しんでいる侍女たちを見つけた。
「おい、エリザを見なかったか?」
「…いえ、見ておりません…。」
「そうか。見つけたら教えてくれよな。」
「かしこまりました。」
振り出しに戻ってしまった。まぁ、いつものことだ。
―次は庭園に行ってみよう。あの子は花が好きだから。
俺は駆け足で庭園を目指した。
◆◆◆◆◆
「ねぇ、テオドール様は何を探してるの?」
「ほら、あれよ。空想の友達。」
「空想の友達??」
「あぁ、そっか。アンタ最近入ったばっかだから知らないのね。」
「なになに?教えて。」
「昔からテオドール様は〝エリザ〟っていう女の子を探してるの。でも、そんな子は存在しない。」
「なるほど。だから空想の友達ね。私の妹も昔そういうのやってたよ。なつかしー。」
「…。」
「何よ。黙り込んで。」
「アンタの妹みたいな可愛いやつじゃないわよ、テオドール様のは。」
「どういうこと?」
「うまく言えないけど、なんか…具体的すぎて気味が悪いの。」
「えぇー?想像力が豊かすぎるだけだって。気持ち悪いだなんて、そんな。所詮は子供のお遊びだよ。」
「…アンタもその内分かってくるわよ。あ、あとテオドール様にさっきみたいに話しかけられたら、話を合わせなさいよ。空想の友達を否定すると、すっごい癇癪を起こすの。」
「りょーかい。」
「本当にわかってる?その癇癪のせいで辞めていった子も居るんだからね。まぁ、最近は落ち着いているけど、最初の頃は本当に酷くて、暴れるわ、部屋に閉じこもるわで…」
「はいはい。さ、窓拭き終わらせちゃお!」
「まったく…。」
◆◆◆◆◆
庭園を隅々まで探してみたが、あの子は見つからなかった。
まぁ、見つからないのはいつものこと。…だが、やっぱりヘコむ。あの子は何処にいるんだろう。
疲れ果てた俺は石で出来た噴水に腰掛ける。
あの子は、隠れるのが上手い。この俺が必死になっても見つからないのだ。隠れんぼの天才だ。
「…泣き虫のくせに。」
ポツリと呟いた俺は、足元に転がっている石を拾い、不満をぶつけるように噴水に投げた。
ポチャンと間抜けな音を立て、そこから幾つもの波紋が生まれる。俺はそれをじっと見つめた。
あの子はいつも泣いている。早く見つけて、その涙を拭ってやらないといけないのに。
なのに、どうして見つからないのだろう。
波紋が落着き、水面に俺の顔が映し出される。黄金の髪に、サファイアの瞳を持った少年。
自分の顔なのに、まるで他人の顔のように思える。それもそのはずだ。だってこれは、俺の顔じゃない。
―あ、そっか。この顔だから見つからないんだ。
この顔はあの子を泣かせる悪者の顔だ。だから、あの子は怖がって出てこられないんだ。
前に読んだ絵本のように、俺は悪者を倒す。俺はヒーローなのだから。
護身用に持っているナイフを手に取り、俺は躊躇なくそれを己の顔に突き立てた。
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