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転がり込んだ先には
しおりを挟むどれぐらい歩いただろうか。
沢山歩き回ったような気もするし、そんなに歩いてないような気もする。
普段屋敷に閉じこもって、ろくに歩いてもいない私の疲れはピークに達そうとしていた。
早く見つけ出さなければ、私の体力が持たない。
気持ちは焦るが、そういう時に限って見つからないものだ。
…もしかして、通り過ぎてしまったのでは?
この人ごみの中だ。
充分ありえる。
私は慌てて、元来た道を辿ろうと振り向くと同時に人にぶつかってしまった。
その衝撃に真っ赤な林檎が私の手から転げ落ちる。
「あっ…。」
反射的に手を伸ばすが、小さな相棒は器用に人だかりの中へと吸い込まれるかのように、転がっていってしまった。
急いで取りに行きたい衝動を抑え、まずはぶつかってしまった人に謝る。
「申し訳ありません。お怪我はありませんか?」
「あぁ、大丈夫ですよ。こちらこそ、すまないね。貴女は大丈夫?」
良かった、怖い人ではないらしい。
私がぶつかってしまった方は、目を見張るような美しい女性であった。
年は私より上だろうか。
くびれる所と膨らむ所がはっきりとした体つきに、異国の衣装を身に纏っている。
その、露出が激しい衣装は彼女の美しさを更に引き出していた。
「そう、良かった。本当なら貴女みたいな可愛い子、お茶のひとつでも誘いたい所だけど、今忙しくて……ごめんなさいね。」
本当に済まなそうに、形の良い眉を下げる美女にドキリとする。
「私が悪かったので、気にしないでください。」
「そう?じゃぁ、また会えた時にはよろしくね?」
そう言って美女は優雅に微笑み、人混みの中へと消えていった。
美女の美しさに当てられて、呆然としてしまっていたが、相棒のことを思い出た。
我に返り、深呼吸をし気合いを入れる。
そして、目の前に立ちはだかる人混みに意を決して入り込んだ。
人に押され、揉まれながら前へ、前へと進んでいく。
すると、人と人の間にキラリと光る小さな相棒が居た。
早く助けに来てと行っているかのように、その姿は不安げだ。
見つけたことに安堵し、手を伸ばす。
―その瞬間、私は前に押し出されてしまった。
「わっ…!」
手と膝を地面につき、無様にコケる私は何て滑稽だろう。
ふと、目線を上げれば私は大勢の人の壁に囲まれていた。
どうやら人だかりの中心に出てきてしまったらしい。
恥ずかしさに居た堪らなくなり、小さな相棒を素早く救出し、この中心から逃れようと相棒に手を伸ばすが私の手は宙を舞った。
誰かが相棒を拾い上げ、私の前に差し出す。
相棒を包んでいる手を辿り、目線を徐々に上げていれば、笑ってるくせに涙を流している奇妙な男が居た。
(……相変わらず、悪趣味な仮面ね。)
私は男から相棒を受け取ろうとするが、男は私の動きを片手で制した。
それはまるで『待って』というかのように。
私はそれを怪訝な目つきで見ると、男は愉快そうに無駄にアクロバティックにぴょんぴょん飛び回り、大勢の人を笑わせている。
満足したのかどうかは分からないが、やっと私の所へ戻って来ると相棒を両手で包み込み、私の前に再び差し出す。
やっと返してくれるとのか思い、手を伸ばすと同時に相棒の姿は一瞬にして姿を変える。
まじまじと相棒(?)を見れば、真っ赤な薔薇が男の手のひらの中に鎮座していた。
どうやら相棒は美しい成長を遂げたようだ。
男はそれを何の断りもなく私の頭にを飾りつけ、両手をつかみ地面から立たせた。
ふらついた私をしっかりと支え、おどけたポーズを取れば、人々は歓声をあげた。
どうやら私は彼のひと芝居に付き合わされたらしい。
呆れてため息をつくが、男は嬉しそうにクルクル回り続け、コケる。
それはもう、盛大に。
それにより、さらに笑いが引き出される。
これが、この悪趣味な仮面を被った男の仕事だ。
私はコケた男に手を貸し、立たせる。
そして、男しか聞こえない声で呟いた。
「林檎、返してくれる?」
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