まいすいーとえんじぇる

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突然、空から舞い降りて来た天使。
その天使はこう言った。


「貴女の命はあと一週間で終わりを迎えます」


「どうぞ思い残す事のないように、
 最後の時をお過ごしください」


漫画やアニメではもう何百、何千、何万回と使われていそうな……
とてもありがちな台詞だと思った。




――…………
――……

ぐるぐるぐるぐる。
あーでもない。こーでもない。

死に場所を求めて、平日の昼間から街中をさ迷う。

苦しいのは嫌だ。
痛いのも嫌だ。
死体がグロテスクなのも嫌だ。
人に迷惑が掛かる死に方も嫌だ。
じゃあ全部駄目じゃないか。
結局私は、なんだかんだ理由を付けて、死ぬ事から逃げている。

だって本当は、別に死にたいわけじゃないから。
死にたいのではない。

ただ普通に生きたいだけなんだ。

だけど、そうしてもそれが出来ない。

人見知りで口下手で、何処へ行っても周囲から浮いてしまう。
別に学校で虐められているわけじゃない。
家庭環境が悪いわけでもない。
何か障害があるわけでもなければ、鬱病を患っているとかそういう事でもない。
ただ、何処へ行っても馴染めない。
本当にそれだけだ。


「いっそうのこと、誰か私を殺してくれればいいのに」

「死にたいのですか」

「うん」

「そう。なら、良かったです」

「え……誰……!?」


どこからともなく聞こえた声に、慌てて辺りを見渡す。



「どうも。はじめまして」

斜め上に、空中に突っ立ている女の子を発見する。
空中に突っ立っている、だなんておかしな事を言っているのは自分でも分かっている。
だけどそれ以外に、現しようがないのだ。
その少女は、間違いなく空中に浮いている。
ここは五階建ての廃ビル。
そのビルのフェンスの外側から、私に声を掛けている。


三浦莉子みうらりこさんですね」

「そうだけど……アンタは何?」

「私は天使アンヘル。突然ですが残念なお知らせです」


私の名を呼んだ女の子は、無表情で淡々と話し始める。


「貴女の命はあと一週間で終わりを迎えます」
「どうぞ思い残す事のないように、最後の時をお過ごしください」
「死にたい貴女にとっては好都合、でしょうか」
「まあとにかく、そういう訳ですので」
「どうぞよろしくお願いします」
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