孤毒連鎖

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孤毒連鎖

拝啓、天国のママへ。大好きなママへ。
先日、ぼくの好きな子が死んでしまいました。

その日、ぼくはいつものように『あの子』を屋上に呼び出して、
「なんで呼び出されたか分かってるよね?」と聞きました。
あの子は怯えた様子で「分からないよ」と言ったので、ぼくは彼を殴りました。

「他の奴と話してたからだよ。
 担任の先生と話してたでしょ。なに話してたの」

「し、進路のこととかだよ……」

「…………嘘だ」

「うぐっ……!?」

もう一度殴ったらあの子は「ごめんなさい」と言ってくれました。
ちゃんと謝れたご褒美に彼を抱きしめて、頭を撫でてあげました。
頭を撫でて愛してるよとぼくの気持ちを素直に伝えました。


誰かの愛し方はママから教わりました。
ママはすぐにぼくを打ちましたね。
ビンタをしたり、フライパンで殴ったり、
時には打つだけじゃなくて包丁を向けられたりもして、それがとても怖かったのを覚えています。
だけど打った後には必ず、泣きながら「愛してる」と囁いてくれましたね。
それがママなりの僕への愛だったのですよね。
例え周りの大人がママを責めても、虐待だと言っても、ぼくだけはママの愛を理解出来ます。
児童相談所だとかの職員の人たちが、何度も家に来ましたね。
その度にママは虐待の疑いをかけられて、本当に大変でしたよね。
ぼくたちの愛を虐待だとか言うなんて、あんまりです。
そんなのは、ぼくとママへの侮辱です。


ぼくが5歳の時の冬の夜のことでした。
ママに殴られて、お仕置きと称して寒い中外に放り出されたことがありました。
その時、外に放り出されて暗くて寒くて震えて泣いていた僕を心配してくれた子がひとりだけ居ました。
お隣に住む同い年の男の子でした。
その子がぼくの好きな子であり、先日死んでしまった男の子です。
それ以来、その子はぼくがママに外へ放り出されると、必ずぼくのところへやって来て話し相手になってくれました。
自分も寒いはずなのに、一緒に何時間も外でおしゃべりをしてくれました。
時には家からおやつを持って来てくれて、ぼくが食べたことのないような美味しい物を分け与えてくれたりもしました。
その子は、ぼくの初めてのおともだちでした。
ぼくはあの子のことが大好きでした。
彼はようちえんというところへ通っていて、ようちえんであった楽しいお話をぼくに聞かせてくれました。
楽しそうなその子を見ていると、ぼくは胸がじくじくと痛くなります。
彼にはぼく以外のおともだちが居て、ぼくとお喋りをする以外にも楽しいものや楽しいことがあるのです。
それを思うとぼくの胸は張り裂けそうなほどにズキズキと痛くなりました。
ぼくの肺には黒いもやもやがどんどん積もって行き、その黒いもやもやで窒息しそうになるのです。


時が経ち、ぼくもその子も、小学生になりました。
ママは優しいので、ぼくを小学校へ通わせてくれましたね。
だけど、ごめんなさい。ぼくは学校を楽しいとは思えなかった。
せっかくママに通わせて貰ってるのだから、休まずに通っていたけれど。
それでも学校という場所は、ぼくには合わなかったみたいです。
小学校であの子が他の子と仲良くしているのを見て、ぼくはとても嫌な気持ちになりました。
だからあの子を打ってしまいました。
あの子は驚いて泣いていました。
ぼくも怖くなって泣いてしまいました。
どうしたらいいのか分からなくなってパニックになりました。
泣いているあの子が、まるでママに打たれた時のぼくのように思えました。
だからぼくはママと同じように、泣いている彼を抱きしめて「ごめんね、愛してる」と囁きました。


それでも次の日には彼は、また他のおともだちとお話をするのです。
その次の日も。そのまた次の日も。次の日も。次の日も。
だからぼくは授業中に教室で、あの子を椅子で殴りつけようとしました。
先生や他のクラスメイトに止められて、殴れませんでしたけど。
あの時は先生からママに連絡が行って、ぼくはおうちでママに凄く怒られましたね。

――お前なんか産まなきゃ良かった。
――産むつもりなんてなかったのに。

ママから言われた言葉は、全て覚えています。


ぼくが小学4年生のとき、ママは死んでしまいましたね。
自宅のドアノブで首を吊って死んでしまいましたね。
ぼくはどうすれば良いのか分からなかったので、あの子に助けを求めました。
あの子は自分のお母さんをぼくの家に連れて来てくれて、彼のお母さんが警察やら救急車やらを呼んでくれたみたいです。
ママが死んで、ぼくはとても不思議な気持ちになりました。
悲しいというより、ママが居ない事がただひたすらに不思議だったんです。

転校するのが嫌だったので、親戚の家には行かず学校の近所の施設に入ることにしました。
施設に入れば学校を転校せずに済むそうだったので、それを選びました。
いろいろな説明を、いろいろな大人の人からされました。
親戚の人とか、児童相談所の人とか、警察の人とか、あの子のお母さんだとか……。
でも、大人たちが何を言っているのかは難しくてよく分からなかったし、ぼくにはどうでもいいことでした。
せっかく転校せずに済む施設に入ったのに、ぼくは学校へ行くのをやめました。
ママが死んじゃって、なんだかあの子にも、会う気が起こらなかったのです。


施設で過ごし、ぼくはいつの間にか中学生になっていました。
施設の人は無理に学校へ行けとは言わなかったですけれど、
それでもぼくの中学入学用に筆記用具や教科書、制服などを一通り揃えてくれたのです。
そのどれもが施設のお兄さんたちのお下がりでしたけれど。
ぼくは久しぶりにあの子に会いたかったので、中学校へ行くことにしました。


何年かぶりに再会した彼は、ぼくを避けるようになっていました。
あの子にはぼく以外のおともだちが既にたくさん居て、それなりに充実した学校生活を送っているようでした。
ぼくはそれが許せませんでした。絶対に許せませんでした。
幼い頃から溜め込んだ胸のもやもやが爆発して、ぼくを真っ黒に染め上げるのです。
きっと、お母さんもいつもこんな気持ちだったのでしょうね。
全てが許せなくて、悔しくて、苛立って、焦って、そして、悲しかった。


ぼくはあの子をトイレの個室に押し込み、縄で縛り付けました。
そして泣き叫ぶあの子の制服に手をかけ、裸にしました。
無理矢理引っ張ったので、まだ新品同然の制服がびりりと音を立てて少し破れました。
あの子とエッチなことがしてみたかったけれど、男の子同士でのやり方なんてぼくには分かりません。
泣き叫ぶあの子の口を、自分の口で塞ぎました。
それからぼくはあの子が中学入学記念に買って貰ったスマホを、トイレの床に叩き付けました。
スマホはガチャッと音を立てて、画面に大きなヒビが入りました。
そしてぼくは彼に、こう言うのです。


「ぼく以外と喋ったらまた壊すから」


これもぜんぶママの真似です。
ママはぼくに与えたおもちゃを壊して、ママ以外と話したらまた壊すからと言ってくれましたよね。

それからあの子はとてもいい子になってくれました。
ぼく以外とはおはなしをしないようになったし、ぼくのお願いはなんでも聞いてくれます。

だけど。それなのに。あの子は、死んでしまいました。
あの子が死んだ日、あの子は担任教師に「虐められているんです」と相談していたそうです。
――あの子をいじめるなんて、許せない、とぼくは思いました。
――きみを虐める奴なんか、ぼくが全員殺してやる。
――ぼくがきみを、守ってあげるからね。


ぼくはそれをあの子に告げました。
頭を撫でながら、ぼくが守ってあげるからね、と伝えたのに。
ぼくがすぐ殺してあげるから、いじめっ子の名前を教えて? と言ったのに。
それなのにあの子は「本当にもうやめて、ごめんなさい、もう耐えられないです」と言って泣いていました。
ぼくは泣いているあの子を抱きしめて安心させてあげたのに、それなのに。
……それなのに? それだから?

その日、あの子は、死んでしまいました。
ママと同じ、自殺でした。
この世界にはもうママもあの子も居ない。
ぼくの大好きだった人たちは、もう全員死んでしまいました。
なので、ぼくも死のうと思います。
天国で、ぼくとママときみと、さんにん仲良く暮らしましょう!
天国はきっととても素敵なところです。
ぼくの大好きなふたりが、ぼくを待っていてくれるのです。
天国には、ママを苦しめるものも、きみをいじめる人たちも居ません。
ぼくもすぐに死ぬので、迎えに来てくださいね。

――ふたりとも、だいすきです。あいしています。
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