狂い狂って狂わせて

粒豆

文字の大きさ
8 / 13

8

しおりを挟む
家に帰って、浬の事を思い出しながらまた自分で自分を慰めた。
風呂で散々犯されたというのに、我ながら自分の性欲の強さが恐ろしい。

中学に入ってからは部活や勉強で忙しく、浬と顔を合わせる事も以前に比べれば少なくなっていた。
たまに会ってどうでもいい話をしたり、一緒にテレビゲームをしたりと「普通」の友達同士としての関係を続けていた。
浬の事は未だに大好きで、抜く時のオカズは相変わらず浬だったけど、
中学になれば流石に性欲のコントロールも出来るようになって、手を出す事はなくなった。
中学の三年間、一度も浬と変な事はしなかった。
勿論話題にも出さなかった。
浬も何も言わなかったので、そんな昔の事はもう忘れてしまったのだと、そう思っていた。
だけど、それは間違いだった。


――俺が高校一年生、浬が、小学五年生の時。
突然、浬が泣きながら俺の家に訪ねて来た。

「ど、どうしたんだよ。なんかあったんか? 学校で……」

泣きじゃくる浬の頭を、あやす様に撫でた。
心配するフリをしながら、泣いてる浬も可愛いとか頼ってくれて嬉しいとかそんな事を考えていた。


「ぐす……くーちゃん……昔の事、覚えてる?」

「ん? いつだよ?」

「一緒にお風呂入ってた時のこと」

「え……」


心臓がドクンと脈打って、背筋が凍ったのを今でも覚えている。
浬は忘れているとばかり思っていた、あの時のこと。
俺自身も早く忘れたかった、幼い頃の間違い。


「くーちゃんと、変なことした……」

「そうだっけ?」

「そうだよ。ねぇ、くーちゃんて、なんでオレにあんなコトしたの?」

「……そ、それはッ」

何故今更になってそんな事を聞いてくるのか。
浬の言葉の意図が掴めなくて困惑した。


「ご、ごめ……ん……」

「……!? なんで謝るの!?」

「だ、だって……」

「謝るってことはアレってやっぱり、いけないコトだったんだ。
 ああいうコトするのって、やっぱりオレのコト、嫌いだからなんだ……?」

「え……!? ち、違うよ……!」

「嘘だよ。くーちゃん、オレのコト嫌いなんだ」

「違うって! 俺は……お前の事、す、好き、だよ……!」

「…………じゃあどうしてあんなコトしたの?」

「す、好きだからだよ……! 嫌いだったらしない!」

「あんなのが、好きな人とするコトなの?」

「そ、そうだよ……ッ、お、お前も大人になりゃ分かるよ……」

「大人か……じゃあおじさんは本当にオレのコトを、自分の子供だと思ってくれてたのかな?」

「…………おじさんて、新しくできたお父さん?」


俺が中学の時、浬の母は結婚した。
最初は浬も「お父さんが出来た」と言って喜んでいた。
あまり話した事はなかったが、浬の母よりいくらか年上に見える四十歳くらいの男だった。


「おじさん、オレにいつも変なコトばっかするんだよ。母さんのいない夜とかさ」

「えぇ……!?」

「くーちゃんにだけ特別だよ? コレ、おじさんとオレだけの秘密なんだ。
 他の人に言ったらオレ、殺されちゃうから」

「こ、殺されるって…………」

「おじさんはオレのコト、どう思ってるのかな?
 オレね、おじさんと本当の家族になりたかった。
 でも、嫌われちゃったんだよね。だから怒って、あんなコト……
 ひっく……うぅ……くーちゃん、オレ、悲しいよ」

「…………浬」

「…………」

「…………お、おじさんは、浬のこと、本当に好きなんだよ」

「嘘だよ。嫌だって言うと打つもん」

「…………っ、で、でも、嫌いな人とそんな事しねぇよ」

「そうなのかな」

「そうだよ」

「じゃ、くーちゃん……」

「ん?」

「しようよ……昔みたいにさ……」

「……は!?」

「オレ、確かめたいんだ。
 オレ、くーちゃんのコト、好き。大好き」

「…………っ」

「本当に好きな人とならしたくなるのか、確かめさせてよ」

「浬……」

「ね、いいでしょ?」


上目使いで見つめられて、自分の息が荒くなるのが分かった。
俺には、その「おじさん」の気持ちが痛いほどよく分かる。
浬の持つ魅力には、抗えない。


「浬ッ…………!」

「ん……っ!?」


浬の唇に噛み付いて、久しぶりのその感触を堪能した。
何年かぶりの浬とのキスは、吃驚するほど気持ち良かった。


「ん……っ……はっ……」


今まで抑えつけていた何かが爆発したかのように、激しく浬を求める。
もう自分を抑え切れなかった。


「浬、ごめん、ごめんな……」

「くーちゃんもおじさんと一緒だね」

「…………っ」


浬から、これまで聞いた事のないほど冷たい声が発せられる。
冷たいその声にゾクゾクすると同時に、凄く悲しくなった。
気持ちは分けるけど、一緒にはされたくない。
浬を傷付けるような大人と一纏めにされるのは心外だった。
だって俺は、浬を愛しているのだから。


「お尻に入れられるのって、すっごく痛いの。くーちゃん知ってる?」

「…………知らない」

「でも入れるほうは気持ちいいんだって。自分勝手だよね。
 くーちゃんもそんな自分勝手な大人達と同じ?
 オレで気持ち良くなりたいの?」

「ち、違うよ……俺は…………
 一緒に気持ち良くなりたいんだよ」


俺はお前を傷付けるだけの汚い大人とは違う。
当時の俺は本気でそう思っていたけど、今はそんな風には思えない。
俺は、同じだ。汚い大人達と、何ら変わらない。
ただ浬との付き合いが、他の奴らより何年か長かった。それだけだ。
たったそれだけの事で、俺は浬の「特別」なのだと思いこんでいた。
それが虚しい独りよがりだとも気付かずに。



「お前がされたのと同じ事、俺にしていいよ。
 そうすれば、きっと…………分かるよ」



適当な言葉を並べて、浬に抱かれて、特別な人間になった気がした。
他の男とは真逆に浬の好きなようにさせてやる事で、浬の事を大切に想っているのだと。
そう自分と浬に言い聞かせて、浬との繋がりを求めた。
浬に嫌われないで、傷付けないで、身体を求める唯一の方法。それが抱かれる事だった。
今考えると馬鹿な話だ。

どっちが上でも下でも、結局は同じ事なのに。
浬の事を変な目で見ている事には、変わりないのに。





――その日以降、浬はおかしくなった。

前から壊れかけてはいたのだろうけど、だけど……
留めを刺したのは間違いなく俺だった。
浬はきっとこんな事をする為に、俺の所へ来たんじゃない。
助けを求めて、誰も頼れる人がいない中で、最後の希望として、俺の元へ来たんだ。
それなのに、俺はなんて事をしてしまったんだろう。

「くーちゃん」

「かい……り……」

「気持ちいいね……」

「…………うん」


繋がっている時だけは、浬を自分だけの物にできたような気がして嬉しかった。


「オレね、分かったよ」

「うん」

「オレ、くーちゃんのコト、好き。だから気持ちいいんだね」

「…………う、ん」

「おじさんも、そうなんだね。
 オレのコト、ほんとに好きなんだね。
 セックスって、嫌いなヒトとはしないんだ」

「…………」

「オレ、嫌われてないんだ。良かった」

「…………そうだな」


結局それから一年もしないうちに、浬の母はその「おじさん」と離婚した。
何故離婚したのか、とか、今その男が何をしているのか等は俺の知る由もない事だった。
ただ一つ言える事は、その男も俺と同じ、浬の魔力に狂わされた一人だったのだろうという事だけだ。
それから数年間ずっと、今のようなよく分からない関係が続いている。

自傷行為をし始めたのも、それ以降だ。

明確にアイツが壊れた原因をあげるとすれば、間違いなく俺との事だ。
浬は俺の事を「恋人」というが、浬に他に何人も「恋人」が居ても不思議ではない。
この間の公園の男……アイツだって、浬の恋人かもしれないのだ。
浬が複数の男と関係を持つようになったのは、間違いなく俺のせいだ。
俺が「浬の事を抱くのは、浬を愛しているからだ」なんて教えたから……
だから愛に飢えたあいつは、愛を求めて、身体を許すんだ。
そんなのは愛情じゃないとも気付かずに、あいつはいつも愛を求めてる。
それは「ただの性欲だ」と、教えてやれたらどんなに楽だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 愛が重い執着美形攻め×無意識に人を引きつける平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 ※色々設定変えてたら間違って消してしまったので再投稿しました。本当にすみません…!

処理中です...