家族

葉月さん

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「春だねぇ」
「春ですね」

由奈さんが桜の木を見てつぶやいた。ちなみに、桜の木はこの家の庭に生えているやつだ。やっぱりこの家はすごい。
「あったかくなってきたね」
心地よい風が当たりを吹き抜けた。
「そうですね」
相槌を打つ。最近の最高気温は20度を超えている。寒い冬は過ぎ、暖かい季節へ変わりゆく日々だ。天気予報では花粉情報が流れている。

「いい天気だし、なんか眠くなってくるわね」
ちなみに今私たちは庭の掃除中だ。

「お花見とかできたら楽しそうですね~」
私はなんとなくそんなことを口にした。この家の桜は立派でとても綺麗だ。お弁当とか作ってレジャーシートでも引いたらピクニック気分になれるんじゃないかな。すると由奈さんはパッと顔を綻ばせて言った。
「いいねそれ!名案だわ!」
ニコッと笑う由奈さん。まさかそんな賛同されるとは思っていなかった私は呆気に取られながら彼女を見つめた。
「美味しいお弁当用意して、可愛いレジャーシートも必要よね。よし、決めた。来週の休日はみんなでお花見しましょ」
妙に乗り気な由奈さんを見て私も微笑んだ。お花見は家族と毎年やっていた。近くに大きな公園があったから、そこの桜を見るのが楽しみだった。桜の木の下で開くお弁当は特別おいしかった。ご飯の後はお姉ちゃんと一緒に桜の花びらを集めたっけな。全部過去形になってしまったそんな思い出たちを、私はぎゅっと抱きしめた。

「お弁当の中身、なんかリクエストある?」
由奈さんに尋ねられ、私は少し考える。すぐに食べたいものは浮かんだ。

「卵焼き。卵焼きが食べたいです。」
「卵焼き?うん。わかった。」
卵焼きはお母さんがお弁当に必ず入れていたものだ。毎回少しずつ味が変わっていたり具が入っていたり。バリエーションがあって毎回楽しみにお弁当を開いていたものだった。だから、由奈さんが作る卵焼きも食べて見たいと思ったのだ。
「でも、なんで卵焼き?もっと、なんかこう、唐揚げとかエビフライとか、そういうのじゃないの?」
はい、と私は迷わず頷いた。
「お母さんがよく作ってくれて、大好きだったんです。」
そういうと、由奈さんは。

「...そうなんだ。」
そういった顔が少しだけ泣きそうに見えたのは気のせいだろうか。はっ、もしかしてお母さんの話するのって失礼だったのかな。由奈さんとお母さんを比べるみたいになっちゃった?そういうつもりじゃなかったんだけど...もしそうだったらすごい申し訳ないな。でもそんなこと聞いたらそれこそ失礼だろうし。そんなことを悶々と考えていると由奈さんは、
「じゃあ、卵焼きは絶対入れるね。」
と、輝かしいぐらいの笑みを浮かべた。あれ、さっきのはやっぱり気のせいだったかな。それとも気を遣ってこんなに笑ってくれてるの?わからない。わからないけど、今私にできることは。

「ありがとうございます!』
満面の笑みを由奈さんに返すことだ。
「さてと、そしたらレミたちにもこの計画を伝えなきゃね。」
うふふ、と嬉しそうな笑みを浮かべて由奈さんは箒を動かしていた手を止めた。

来週か、楽しみだな。
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