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エオズ学園 1年R組 ファーストトーナメント編
First Tournament 一回戦
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強者と弱者が戦うとする。
どちらが勝者か。
答えは言うまでもない。
しかし、強者と強者が戦えばどうなる。
どちらが勝者か。
それは戦ってみなくちゃ判らない。
強者VS強者。
これに白黒つける為にこのトーナメントを開催する。
エオズ学園一年R組。一発目の授業。
『第一八回。第一学年R組《高校デビュー戦》校内ファーストトーナメント』
開幕。
× × ×
「改めだが、自己紹介をさせてもらう。寝川森菜だ。一年R組の魔術を担当することになった。よろしく頼む」
2号館玄関で俺たちは用意一式を両手で抱え、目の前には、H組担任の寝川先生が立っていた。
「エオズ学園の入学説明会を聴きに行った者なら今から何をするか判ると思うが、行っていない者の為に説明をしておこうと思う」
そういえば、魔学や魔術という単語をこれまでにゴチャゴチャにして使ってきたが、これからは『魔術』と呼ぶようにする。
『魔術』と呼ぶのは、高校生以上。
『魔学』と呼ぶのは、中学生。
そして『魔法』は、中学生未満の子供が使う言葉らしい。
ただ、言葉は違えど、やることはほぼ一緒。
要するに数学と算数の違い、みたいに思ってくれれば良い。
「毎年恒例。『クラス別第一学年校内ファーストトーナメント』を只今より実施する」
男っぽい口調で宣言を告げる。
「ルールは簡単だ。学校側が用意したこのトーナメント表に従って、特に縛りもない、純粋な力比べをして貰う。ただし、これは外部の大会に行ったことのある者なら分かっていると思うが、これは殺し合いではない。しかし、力加減をすることが難しい者もいるだろう。特にお前らみたいな上位クラスには非常に多い。だから、まずはこの首輪をそれぞれ付けてもらう」
寝川先生は段ボールからオレンジ色の首輪を取り出し、最前列の生徒は、後ろの生徒にこの首輪を配れ、と指示する。
「行き渡ったか?じゃあ説明を始める。これは『無力の首輪』と言われるモノで、教師陣のところにあるスイッチを押せば勝手に魔力が失われ、戦闘不能状態になる。我々審判が決着がついたと判断した段階でこのスイッチを押す。いいな?」
そして彼女は生徒カードのカードコードにこの首輪の金属部分をスキャンしろ、という指示を出す。
俺はその指示の通り、スキャンさせると首輪の金属部分が水色の光を一瞬だけ放つ。
「水色に点灯したら、それは成功だ。そしてそれは今日からお前たちのモノだ。ちゃんと保管しておくように」
また、銃は危険なので、『M00A』というレベル〇の拳銃を使用することになった。弾が当たってもチクリ、と刺されるような感覚が脳内に走るだけの、ある意味代物の銃だ。
「また成績優秀者は授業内単位を与える、では、奥の更衣室で各自持参した戦闘服に着替えて、2号館教務員室前に並ぶこと」
俺はレベル〇の銃を受け取り、男女で分かれている更衣室に向かった。
× × ×
戦闘服。
市販のモノから特注のモノまであり、属性などによって、それぞれデザインは様々だ。
俺の戦闘服は雷鳴堂当時の衣装と同じく、白をベースとした長袖、長ズボン。そして斜めに入った黄金色のライン。あと、これは自己決定なのだが、頭部の装備品はあえて外し、きちんと素顔が見えるような格好でこの闘いに参加する。理由は単純で相手に顔を覚えて欲しいからだ。
「伊尾也、俺はPブロックだったけど、お前はなんだった?」
「俺はQブロック。対戦相手は……お、水栗だ!」
「はは、じゃあ余裕だな」
宿の戦闘服は青色をベースとし、海をイメージした波のようなラインが入っていて、それはもう美しかった。
「お相手は和田君ですか。緊張しますね……」
遅れてやってきた水栗の戦闘服は、鋼色単色のスーツで、何も面白味はなかったが、右腰の部分に黒いボタンがあったのが、少し気がかりだ。
「水栗、残念だが、お前に勝ち目はない」
「ちょ、龍川くん!なんでそんなこと言うんですか」
ちょっと補足。
推薦入学者はそもそも魔術特化じゃないので、魔術に関しては一般入学者に当然だが劣る。
「用意できたか。では早速開始する。AブロックからJブロックまでが一階、KブロックからQブロックまでが二階。各部屋にそれぞれ先生がいると思うから、それに従うように」
俺らKからQブロックはやはり、というべきか出席番号は後ろの方のヤツらばかりであまりシャッフルはされていないな、と少しだけ感じていた。
「そういや龍川君は誰が相手なんですか?」
「松添。あのギャル女だよ」
「あぁ、あの文句言ったヤツな」
俺らは階段を上り、ブロック別に貼られたアルファベットの紙『Q』を目指して歩き出す。
宿とPブロックで別れ、俺と水栗でQブロックを目指す。
あっという間につき、少し古びた扉をゆっくりと開ける。
三十四人十七ブロック。
ファーストトーナメント第一回戦。開始。
× × ×
「一年R組の古典を担当する。南咲だ。そして、今回は一回戦Qブロックの審判を担当することになった。水栗一平。和田伊尾屋。双方位置につきなさい」
部屋は白色のタイルで出来ていて、広さはざっくり百平方メートルとそこそこ広い。
どうりで最寄りがKブロックの階段からQブロックまでの道のりが長く感じたわけだ。
「互いに礼」
俺がドア側、水栗がその逆側、とお互いに向かうようにして立つ。礼の合図で礼を行い、構える。
「Qブロック。一回戦。水栗一平VS和田伊尾屋。開始!!」
そしてこの部屋にストップウォッチの開始音が鳴り響いた。
× × ×
沈黙はなかった。
俺は何も動いていない。
つまり、動いたのは誰か。
水栗だ。
「戦闘モード開始。即ち、鋼鉄の異国人よ。我に従い、我に纏われ、我を守れ。プロバイダシューター起動!」
すると見たこともない、ネズミ色の魔法陣が地面に浮かび、そしてそのどんよりとした色が段々と明るくなっていく。
『起動完了。動作モードに入ります。攻撃体制用意』
水栗は黒色のボタンを押す。
魔法陣が地面から空をめがけてゆっくりと上に進む。
身体には面白みのないスーツに被さるようにギンギラに輝く重そうな銀の鎧が水栗を纏い、やがてその銀の鎧が彼の全身を覆い尽くした。
高さは五メートルを超えて、なんとそれは天井スレスレのラインだ。
「和田君。僕は普段闘わないし、こんな格好だってしない。けどこれが勝負っていうなら、僕だって全力でやらさせてもらいますよ」
彼の声は銀の鎧の中から発しているため、少し鈍って聞こえる。
「…………」
俺は何も言わず、攻撃を待つ。
先手を撃たせるのは一般合格者なりの優しさだ。
「……僕から仕掛けさせてもらいます。ギアオン!」
すると、俺が立っている方向に銀の鎧から大きな歯車が鎧から飛びだす。
避けると、地面に突き刺さり、大きな音を立てて揺れる。
「……まだまだ!ギアチェンジ!チェーンギア!」
三、四発撃った後、作戦を変え、今度は俺を鎖で捕らえようと同じく内部からチェーンを出す。
「よっ……」
俺は後ろの突き刺さった歯車を考慮しながら避ける。
その舞台はまるで障害バトルフィールドと変化し、とても動きにくいステージとなった。
「そろそろ仕掛けるか……」
彼は別にこれで俺を倒そうなんて思っていない。
ただ単にフィールドを作っているだけだ。
「雷の門よ開け。爆雷」
稲光と共に銀の鎧に直撃する。
しかし、威力を上げているとは言え、初期魔術じゃこんなデカブツは倒せない。
「ギアチェンジ。ギアオン!ギアチェンジ。チェーンギア!」
対する向こうはひたすらギアチェンジのオンとオフを繰り返すだけ。
フィールドはどんどん複雑になっていき、とうとう足場の踏み場も無くなる。
「……和田君!避けるだけでは面白くありません!なにか仕掛けてみてはどうですか!」
その言葉が引き金となった。
「……あぁ、ごめん。じゃ、ちょっと本気出すわ」
俺には異名がある。
「……な、なんですか!?この風!?」
亡き父親は『雷魔』と呼ばれ、全国を制した。
「……これが、全国雷部門ジュニア大会三年連続優勝の力か!?」
そして俺は『雷王』と呼ばれ、全国を制した。
「そうだ。よく知ってるな。なにせ雷属性はニッポンに少ないからな。努力すればすぐ上位に行ける」
風は止まらない。
何も詠唱もせず、そして何も魔法陣を発動せず。
「お前の力はよく分かった。やはり推薦とは言え、R組の名に恥じない強さだった」
しかし、それもそれ以上強い者の前では無力。
「告ぐ。雷神よ。集え。満悦の力を発揮し、満悦の力を納めよ。許されずとも生命に生を与え、生命を殺す。許しを和らげ、死を幸福とし、人々の生を害する。その不幸は天秤では量り知れない重さだった——」
それでも彼のギアチェンジは止めない。
彼はより一層複雑にし、もはや勝ちに行こうと思ってすらいないのか?と感じてしまった。
「䢮 上 䢮 神〈ライトニング・デストロイ・ゴッド〉」
辺りが満遍なく光る。
銀の鎧に直撃し、一瞬で麻痺を起こす。
そして膝をついた後、即座に倒れた。
銀の鎧はゆっくりと消え、ボロボロになった水栗が一人座りこむ。
「……おい、大丈夫か——」
すると、水栗は不気味な笑みを浮かべ、右手を伸ばし、親指と人差し指を震えながら、くっつける。
「……チェックメイト」
すると今度は黒だった筈のボタンが紅色に変化していた。
水栗はそれを押し、ブザー音と共にこう言い放つ。
「鋼 鉄 斬 豪〈ギア・ラスト・オーバー・チェンジ〉」
すると地面から大量に生成された歯車が全て浮き出る。
そして俺の方へ向かってその歯車が一斉に飛んでくる。
「なっ……!」
全てはこれが目的だったか。
俺は咄嗟にバリアを張る。
幾つもの歯車が俺のバリアをぶち破ろうと猛威を振るっている。
「ギブアップもありですよ。和田君。大人しく諦めましょう」
そんなのできるか、と言いたいところだが、四方八方歯車で塞がれていて身動きを取ることができない。
「……早めに倒しておくべきだったか」
魔術によるバリアは二分も持たない。
こうしている間にもうすぐ切れる。
「和田君?おーい、聞こえてますか?」
彼の尋ねる声が聞こえる。
俺はその答えに応じるように声を上げる。
「まったく、油断大敵だな」
すると、バリアを破ろうとした歯車はあちこちに飛び、そしてその後には一人の男がぽつん、と立っていた。
「一回戦から本気、いや中気くらいを出さねばならんとはな」
水栗は尻餅をつく。
装備は何もなく、ただ持っているのは左手の拳銃のみ。
「悪いな。水栗。お前は十分強かった。けど俺は前に進むためにお前には『負け』を認めて欲しい」
水栗は息を呑む。
けれども、彼は戦闘時のあの勇ましい目つきに戻り、拳銃を俺の方へゆっくりと向ける。
しかし俺は彼にセリフを言う隙を与えず、拳銃を拳銃で投げ払い、再び俺は拳銃を構える。
「俺の異名を知っているか?」
「……ジュニア大会三連続優勝の——」
掠れた声でそう呟く。
「ああ、そうだ。っと——」
水栗は俺の脚を掴もうとし、身体を前のめりにする。
失敗した水栗は地面にへばり付き、転がった拳銃を取ろうとする。
「まあいい。後でゆっくりと話してやる」
俺はそう短く切り——。
「雷風」
唯一、無詠唱で撃てる魔法を銃弾にこめて撃つ。
彼の心臓に直撃した後、首輪が発動し、試合が終了した。
「第一回戦Qブロック勝者。和田伊尾屋」
和田伊尾屋、一回戦目を制した。
この段階でクラスの半分が脱落すると考えると、運が良いのかもしれない。
「和田。次の教室は三階Hブロックだ。貼り紙が貼ってあると思うから、それをあてにして部屋を探してみてくれ」
こくり、と頷いた後、水栗の方へ向かう。
「負けた人は更衣室で着替えた後、2号館一階の大講義室集合ってこと忘れんなよ」
俺は彼に冷たい氷柱のような声で忠告する。
俺はQブロックの教室から退室し、次の教室へと向かった。
さて、俺は『雷王』と呼ばれていた。
試合に出れば負けることはなく、優勝は当たり前。
そんな俺は世間から段々評価され、その力はもはや伝説級とまで言われた。
だから、俺は他に異名いや、『真の異名』を持っていた。
「……つよ……かった……和田くん……いや——」
誰も辿り着くことができなかったこの名前。
その不屈の名は——。
「「異名は、《伝説の雷人王》……!!」」
どちらが勝者か。
答えは言うまでもない。
しかし、強者と強者が戦えばどうなる。
どちらが勝者か。
それは戦ってみなくちゃ判らない。
強者VS強者。
これに白黒つける為にこのトーナメントを開催する。
エオズ学園一年R組。一発目の授業。
『第一八回。第一学年R組《高校デビュー戦》校内ファーストトーナメント』
開幕。
× × ×
「改めだが、自己紹介をさせてもらう。寝川森菜だ。一年R組の魔術を担当することになった。よろしく頼む」
2号館玄関で俺たちは用意一式を両手で抱え、目の前には、H組担任の寝川先生が立っていた。
「エオズ学園の入学説明会を聴きに行った者なら今から何をするか判ると思うが、行っていない者の為に説明をしておこうと思う」
そういえば、魔学や魔術という単語をこれまでにゴチャゴチャにして使ってきたが、これからは『魔術』と呼ぶようにする。
『魔術』と呼ぶのは、高校生以上。
『魔学』と呼ぶのは、中学生。
そして『魔法』は、中学生未満の子供が使う言葉らしい。
ただ、言葉は違えど、やることはほぼ一緒。
要するに数学と算数の違い、みたいに思ってくれれば良い。
「毎年恒例。『クラス別第一学年校内ファーストトーナメント』を只今より実施する」
男っぽい口調で宣言を告げる。
「ルールは簡単だ。学校側が用意したこのトーナメント表に従って、特に縛りもない、純粋な力比べをして貰う。ただし、これは外部の大会に行ったことのある者なら分かっていると思うが、これは殺し合いではない。しかし、力加減をすることが難しい者もいるだろう。特にお前らみたいな上位クラスには非常に多い。だから、まずはこの首輪をそれぞれ付けてもらう」
寝川先生は段ボールからオレンジ色の首輪を取り出し、最前列の生徒は、後ろの生徒にこの首輪を配れ、と指示する。
「行き渡ったか?じゃあ説明を始める。これは『無力の首輪』と言われるモノで、教師陣のところにあるスイッチを押せば勝手に魔力が失われ、戦闘不能状態になる。我々審判が決着がついたと判断した段階でこのスイッチを押す。いいな?」
そして彼女は生徒カードのカードコードにこの首輪の金属部分をスキャンしろ、という指示を出す。
俺はその指示の通り、スキャンさせると首輪の金属部分が水色の光を一瞬だけ放つ。
「水色に点灯したら、それは成功だ。そしてそれは今日からお前たちのモノだ。ちゃんと保管しておくように」
また、銃は危険なので、『M00A』というレベル〇の拳銃を使用することになった。弾が当たってもチクリ、と刺されるような感覚が脳内に走るだけの、ある意味代物の銃だ。
「また成績優秀者は授業内単位を与える、では、奥の更衣室で各自持参した戦闘服に着替えて、2号館教務員室前に並ぶこと」
俺はレベル〇の銃を受け取り、男女で分かれている更衣室に向かった。
× × ×
戦闘服。
市販のモノから特注のモノまであり、属性などによって、それぞれデザインは様々だ。
俺の戦闘服は雷鳴堂当時の衣装と同じく、白をベースとした長袖、長ズボン。そして斜めに入った黄金色のライン。あと、これは自己決定なのだが、頭部の装備品はあえて外し、きちんと素顔が見えるような格好でこの闘いに参加する。理由は単純で相手に顔を覚えて欲しいからだ。
「伊尾也、俺はPブロックだったけど、お前はなんだった?」
「俺はQブロック。対戦相手は……お、水栗だ!」
「はは、じゃあ余裕だな」
宿の戦闘服は青色をベースとし、海をイメージした波のようなラインが入っていて、それはもう美しかった。
「お相手は和田君ですか。緊張しますね……」
遅れてやってきた水栗の戦闘服は、鋼色単色のスーツで、何も面白味はなかったが、右腰の部分に黒いボタンがあったのが、少し気がかりだ。
「水栗、残念だが、お前に勝ち目はない」
「ちょ、龍川くん!なんでそんなこと言うんですか」
ちょっと補足。
推薦入学者はそもそも魔術特化じゃないので、魔術に関しては一般入学者に当然だが劣る。
「用意できたか。では早速開始する。AブロックからJブロックまでが一階、KブロックからQブロックまでが二階。各部屋にそれぞれ先生がいると思うから、それに従うように」
俺らKからQブロックはやはり、というべきか出席番号は後ろの方のヤツらばかりであまりシャッフルはされていないな、と少しだけ感じていた。
「そういや龍川君は誰が相手なんですか?」
「松添。あのギャル女だよ」
「あぁ、あの文句言ったヤツな」
俺らは階段を上り、ブロック別に貼られたアルファベットの紙『Q』を目指して歩き出す。
宿とPブロックで別れ、俺と水栗でQブロックを目指す。
あっという間につき、少し古びた扉をゆっくりと開ける。
三十四人十七ブロック。
ファーストトーナメント第一回戦。開始。
× × ×
「一年R組の古典を担当する。南咲だ。そして、今回は一回戦Qブロックの審判を担当することになった。水栗一平。和田伊尾屋。双方位置につきなさい」
部屋は白色のタイルで出来ていて、広さはざっくり百平方メートルとそこそこ広い。
どうりで最寄りがKブロックの階段からQブロックまでの道のりが長く感じたわけだ。
「互いに礼」
俺がドア側、水栗がその逆側、とお互いに向かうようにして立つ。礼の合図で礼を行い、構える。
「Qブロック。一回戦。水栗一平VS和田伊尾屋。開始!!」
そしてこの部屋にストップウォッチの開始音が鳴り響いた。
× × ×
沈黙はなかった。
俺は何も動いていない。
つまり、動いたのは誰か。
水栗だ。
「戦闘モード開始。即ち、鋼鉄の異国人よ。我に従い、我に纏われ、我を守れ。プロバイダシューター起動!」
すると見たこともない、ネズミ色の魔法陣が地面に浮かび、そしてそのどんよりとした色が段々と明るくなっていく。
『起動完了。動作モードに入ります。攻撃体制用意』
水栗は黒色のボタンを押す。
魔法陣が地面から空をめがけてゆっくりと上に進む。
身体には面白みのないスーツに被さるようにギンギラに輝く重そうな銀の鎧が水栗を纏い、やがてその銀の鎧が彼の全身を覆い尽くした。
高さは五メートルを超えて、なんとそれは天井スレスレのラインだ。
「和田君。僕は普段闘わないし、こんな格好だってしない。けどこれが勝負っていうなら、僕だって全力でやらさせてもらいますよ」
彼の声は銀の鎧の中から発しているため、少し鈍って聞こえる。
「…………」
俺は何も言わず、攻撃を待つ。
先手を撃たせるのは一般合格者なりの優しさだ。
「……僕から仕掛けさせてもらいます。ギアオン!」
すると、俺が立っている方向に銀の鎧から大きな歯車が鎧から飛びだす。
避けると、地面に突き刺さり、大きな音を立てて揺れる。
「……まだまだ!ギアチェンジ!チェーンギア!」
三、四発撃った後、作戦を変え、今度は俺を鎖で捕らえようと同じく内部からチェーンを出す。
「よっ……」
俺は後ろの突き刺さった歯車を考慮しながら避ける。
その舞台はまるで障害バトルフィールドと変化し、とても動きにくいステージとなった。
「そろそろ仕掛けるか……」
彼は別にこれで俺を倒そうなんて思っていない。
ただ単にフィールドを作っているだけだ。
「雷の門よ開け。爆雷」
稲光と共に銀の鎧に直撃する。
しかし、威力を上げているとは言え、初期魔術じゃこんなデカブツは倒せない。
「ギアチェンジ。ギアオン!ギアチェンジ。チェーンギア!」
対する向こうはひたすらギアチェンジのオンとオフを繰り返すだけ。
フィールドはどんどん複雑になっていき、とうとう足場の踏み場も無くなる。
「……和田君!避けるだけでは面白くありません!なにか仕掛けてみてはどうですか!」
その言葉が引き金となった。
「……あぁ、ごめん。じゃ、ちょっと本気出すわ」
俺には異名がある。
「……な、なんですか!?この風!?」
亡き父親は『雷魔』と呼ばれ、全国を制した。
「……これが、全国雷部門ジュニア大会三年連続優勝の力か!?」
そして俺は『雷王』と呼ばれ、全国を制した。
「そうだ。よく知ってるな。なにせ雷属性はニッポンに少ないからな。努力すればすぐ上位に行ける」
風は止まらない。
何も詠唱もせず、そして何も魔法陣を発動せず。
「お前の力はよく分かった。やはり推薦とは言え、R組の名に恥じない強さだった」
しかし、それもそれ以上強い者の前では無力。
「告ぐ。雷神よ。集え。満悦の力を発揮し、満悦の力を納めよ。許されずとも生命に生を与え、生命を殺す。許しを和らげ、死を幸福とし、人々の生を害する。その不幸は天秤では量り知れない重さだった——」
それでも彼のギアチェンジは止めない。
彼はより一層複雑にし、もはや勝ちに行こうと思ってすらいないのか?と感じてしまった。
「䢮 上 䢮 神〈ライトニング・デストロイ・ゴッド〉」
辺りが満遍なく光る。
銀の鎧に直撃し、一瞬で麻痺を起こす。
そして膝をついた後、即座に倒れた。
銀の鎧はゆっくりと消え、ボロボロになった水栗が一人座りこむ。
「……おい、大丈夫か——」
すると、水栗は不気味な笑みを浮かべ、右手を伸ばし、親指と人差し指を震えながら、くっつける。
「……チェックメイト」
すると今度は黒だった筈のボタンが紅色に変化していた。
水栗はそれを押し、ブザー音と共にこう言い放つ。
「鋼 鉄 斬 豪〈ギア・ラスト・オーバー・チェンジ〉」
すると地面から大量に生成された歯車が全て浮き出る。
そして俺の方へ向かってその歯車が一斉に飛んでくる。
「なっ……!」
全てはこれが目的だったか。
俺は咄嗟にバリアを張る。
幾つもの歯車が俺のバリアをぶち破ろうと猛威を振るっている。
「ギブアップもありですよ。和田君。大人しく諦めましょう」
そんなのできるか、と言いたいところだが、四方八方歯車で塞がれていて身動きを取ることができない。
「……早めに倒しておくべきだったか」
魔術によるバリアは二分も持たない。
こうしている間にもうすぐ切れる。
「和田君?おーい、聞こえてますか?」
彼の尋ねる声が聞こえる。
俺はその答えに応じるように声を上げる。
「まったく、油断大敵だな」
すると、バリアを破ろうとした歯車はあちこちに飛び、そしてその後には一人の男がぽつん、と立っていた。
「一回戦から本気、いや中気くらいを出さねばならんとはな」
水栗は尻餅をつく。
装備は何もなく、ただ持っているのは左手の拳銃のみ。
「悪いな。水栗。お前は十分強かった。けど俺は前に進むためにお前には『負け』を認めて欲しい」
水栗は息を呑む。
けれども、彼は戦闘時のあの勇ましい目つきに戻り、拳銃を俺の方へゆっくりと向ける。
しかし俺は彼にセリフを言う隙を与えず、拳銃を拳銃で投げ払い、再び俺は拳銃を構える。
「俺の異名を知っているか?」
「……ジュニア大会三連続優勝の——」
掠れた声でそう呟く。
「ああ、そうだ。っと——」
水栗は俺の脚を掴もうとし、身体を前のめりにする。
失敗した水栗は地面にへばり付き、転がった拳銃を取ろうとする。
「まあいい。後でゆっくりと話してやる」
俺はそう短く切り——。
「雷風」
唯一、無詠唱で撃てる魔法を銃弾にこめて撃つ。
彼の心臓に直撃した後、首輪が発動し、試合が終了した。
「第一回戦Qブロック勝者。和田伊尾屋」
和田伊尾屋、一回戦目を制した。
この段階でクラスの半分が脱落すると考えると、運が良いのかもしれない。
「和田。次の教室は三階Hブロックだ。貼り紙が貼ってあると思うから、それをあてにして部屋を探してみてくれ」
こくり、と頷いた後、水栗の方へ向かう。
「負けた人は更衣室で着替えた後、2号館一階の大講義室集合ってこと忘れんなよ」
俺は彼に冷たい氷柱のような声で忠告する。
俺はQブロックの教室から退室し、次の教室へと向かった。
さて、俺は『雷王』と呼ばれていた。
試合に出れば負けることはなく、優勝は当たり前。
そんな俺は世間から段々評価され、その力はもはや伝説級とまで言われた。
だから、俺は他に異名いや、『真の異名』を持っていた。
「……つよ……かった……和田くん……いや——」
誰も辿り着くことができなかったこの名前。
その不屈の名は——。
「「異名は、《伝説の雷人王》……!!」」
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冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
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