妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

文字の大きさ
12 / 60

11、スイーツのような物語 ブランチ視点

しおりを挟む
「実はマカロン夫人は風邪をこじらせてしまっていて。
 物語を書くのもお休みしていたんです」

「そうだったんだ。
 夫人が物語を書くのをやめてしまったんじゃないかって、心配していたんだよ。
 夫人の作品はどれも人気でね。
 新作を首を長くしてまっている読者さんが大勢いるから」

 私は、そう言いながらハリス君から受け取った原稿に目を通す。

 いや、正確にいえばハリス君じゃない。

 アイリーンリーフ伯爵令嬢だ。

 そして私は元ブランチリーフ伯爵である。

 現在は転生して、町の小さな貸本屋「リトルドリーム」のオーナとして生きているが、前世では初代リーフ伯爵家の当主だった。

 突然前世の記憶と魔力を取り戻したのは、アイリーンが化けたハリス君を一目見た時だ。 

 あの時のことは今でもはっきりと覚えている。

「こんにちわ。
 僕はハリスブレーンといいます。
 今日はマカロン夫人に頼まれて、夫人が書いた物語を持ってきました」

 店の扉につけた大きなベルを鳴らして、現れた少年と目があったとたん、激しい頭痛におそわれた。

 もえるような若草を彷彿させる淡い緑の瞳。 

 光の加減により銀色にも金色にも、ピンク色にも見えるそれは、脳裏に私の前世をフラッシュバックさせたのだ。

「あの瞳の色は、リーフ伯爵家の血をひいている証拠だ」

 思わず口から言葉がこぼれおちた。

「ハリス君。
 変な事をきくが、君はリーフ伯爵家と関係があるのかな」

「ちがいます。絶対にちがいます」

 ハリス君は顔をひきつらせると、とっさに店から出て行こうとして、あわてて本棚に身体をぶつけてしまう。

 その時だった。

 ハリス君の頭からハンテング帽がずれおちて、瞳と同じ色の豊かな髪がこぼれおちる。

「ハリス君は女の子だったのかい?」 

「ごめん。ごめん。
 女の子みたいに可愛い顔をしてたから、まちがえてしまったよ。
 それと7日後にまた店にきてくれるかい。
 それまでに原稿を読んでおくから、お店で預かれるかどうかはその時知らせるよ」

 みるみる青ざめてゆくハリス君が気の毒で、だまされたフリをして話題をかえた。

「へへへ。よく言われるんですよ。
 じゃあ、よろしくお願いします」

 ハリス君が小さな頭をペコリと下げて、お店をでていってからすぐに、探偵をやとってリーフ家について調べさせたのだ。 

「本当の名前はアイリーンリーフというのか」 

 数日後に探偵から渡された報告書を読んで、アイリーンの評判の悪さに驚いた。

「小さな頃から義妹のイジメ続けていた。
 素行が悪く貴族学園を中退している。
 今は邸の離れでひきこもり中。
 そんな子には見えなかったぞ」

 私は報告書を手で握りつぶし、自分の目を信じることにしたのだ。

 できれば、アイリーンの力になりたかった。

 それで少し魔法を使ったのだ。

 多くの読書の目にとまるように、マカロン夫人の本の表紙がキラキラと光り輝くように。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

処理中です...