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二十一、拾った女
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「断られるのではないかと、内心ひやひやしていたが安心した」
嘘でしょ。
こんな見目麗しい王が、そんな風に思っていたなんて。
私達の身長差はけっこうなものだ。
だから驚いた顔をうんと上にあげる。
「本当だ。
私の心は、皆が言うように氷でできているんじゃない」
柔らかな声が頭上からおちてきたのと同時に、また抱きかかえられた。
「お願いですから、それはやめて下さい。
ここからは自分で歩きます」
レオ王のなんともいえないいい香りに包まれながらも、どうしても自分の重さが気になって落ち着かないのだ。
太ってないとはいえ、猫ほど軽いとはいえないもの。
「さっきダリア王女がこうされているのを、羨ましそうに見ていたではないか」
「『ダリアの綺麗な靴が汚れるといけないから』ってクレオが言ってたの。
その思いやりが羨ましかっただけなの。
見てのとおり私の靴はかなりくたびれているでしょ。
だからこんなことは必要ないのよ」
「靴なんかの問題じゃない。
私がただこうしていたいだけだ」
「え」
ストレートな言葉にとまどい、その先の言葉が続かない私の変わりに、グラスとブーニャンが同時に声をあげた。
「まあ。素敵ですこと」
「気障ったらしい男ね。
むしずが走るわ。
ニャーン」
二人の言葉が、レオ王の耳にはいったかどうかはわからない。
「女王様は私がダリアに求婚してくると思っている。
なのに相手が姉に変わったんだ。
これは面白いことになるぞ」
独り言のようにそう言うと、歩幅を広げた。
そのせいで本宮へはあっというまに到着する。
「王様。一体どこをうろつかれてましたが。
もうすぐ女王様の謁見の時間ですぞ」
壮大な絵が描かれた天井の広い廊下を歩いていると、恰幅のいい紳士が追いかけてきた。
「女狐の正体を確かめてきた」
「女狐?
まだそんなことを言っておられるんですか。
ダリア王女様は女狐なんかではございません。
ポプリ国のルビーとまでいわれている、お美しい聡明な方です」
「なにがだ。
父上の懐刀だったナール宰相も老いたな。
私はダリア王女とは結婚しないぞ」
「今さら何を言われる。
その件に関しての親書までおくっているのですぞ」
「悪いな。
けど、ナール宰相は私に愛ある結婚を望んでくれているんだろ。
わかってくれ」
「そうですが。
そんなお相手がいるのですか」
「ああ。さっき村で拾った女だ」
やや口角を上げたレオ王は、そう言うと私の背中を押してナール宰相の前へとおしだす。
「む、村で拾った女だなんてとんでもない」
たっぷりとたくわえた顎髭をゆらせながら、ナール宰相の顔が蒼白に変わってゆく。
「名はローズウッドという」
レオ王子から紹介されて、ペコリと頭を下げた。
「ローズウッド、ロースウッドねえ」
私の名前を繰り返しながら、ナール宰相は頭から爪先まで値踏みするような視線をむけてくる。
平民が着るようなワンピースに靴。
こんな姿の私を誰が王女などと思うだろう。
「このようなことを申し上げるのは、不謹慎だと承知の上ですが、こうしてはいかがでしょう。
ダリア王女様を妻にめとってから半年後に、その方を側妃に召し上げるというのは」
渋面をしたナール宰相は声をしぼりだした。
「ナール宰相は怖ろしいことを言うのだな。
妹を正妃に姉を側妃にすえるなんて」
レオ王は強い口調でそう言ったが、かすかに唇が震えている。
「それはどういう意味ですか」
顎に手をやり首をひねっていたナール宰相が、しばらくして「あっ」と叫んだ。
「どこかで聞いたような名前だと思ってましたが、この方は第三王女ローズウッド様なのですか!」
「ああ」
レオ王がニヤリと笑った時だった。
「レオ王様。
女王様がお呼びでございます。
謁見の間にお急ぎくださいませ」
一人の女官があわただしく駆けてくる。
「安心しろ。
ローズは黙って私の横にいればいい」
不安そうに見えていたのだろう。
レオ王はそう言うと私の手を握り、この場を後にする。
ごめんなさい。お母様。
心の中で、何度もそう詫びながらも、後戻りをする気持ちにはならなかったのだ。
嘘でしょ。
こんな見目麗しい王が、そんな風に思っていたなんて。
私達の身長差はけっこうなものだ。
だから驚いた顔をうんと上にあげる。
「本当だ。
私の心は、皆が言うように氷でできているんじゃない」
柔らかな声が頭上からおちてきたのと同時に、また抱きかかえられた。
「お願いですから、それはやめて下さい。
ここからは自分で歩きます」
レオ王のなんともいえないいい香りに包まれながらも、どうしても自分の重さが気になって落ち着かないのだ。
太ってないとはいえ、猫ほど軽いとはいえないもの。
「さっきダリア王女がこうされているのを、羨ましそうに見ていたではないか」
「『ダリアの綺麗な靴が汚れるといけないから』ってクレオが言ってたの。
その思いやりが羨ましかっただけなの。
見てのとおり私の靴はかなりくたびれているでしょ。
だからこんなことは必要ないのよ」
「靴なんかの問題じゃない。
私がただこうしていたいだけだ」
「え」
ストレートな言葉にとまどい、その先の言葉が続かない私の変わりに、グラスとブーニャンが同時に声をあげた。
「まあ。素敵ですこと」
「気障ったらしい男ね。
むしずが走るわ。
ニャーン」
二人の言葉が、レオ王の耳にはいったかどうかはわからない。
「女王様は私がダリアに求婚してくると思っている。
なのに相手が姉に変わったんだ。
これは面白いことになるぞ」
独り言のようにそう言うと、歩幅を広げた。
そのせいで本宮へはあっというまに到着する。
「王様。一体どこをうろつかれてましたが。
もうすぐ女王様の謁見の時間ですぞ」
壮大な絵が描かれた天井の広い廊下を歩いていると、恰幅のいい紳士が追いかけてきた。
「女狐の正体を確かめてきた」
「女狐?
まだそんなことを言っておられるんですか。
ダリア王女様は女狐なんかではございません。
ポプリ国のルビーとまでいわれている、お美しい聡明な方です」
「なにがだ。
父上の懐刀だったナール宰相も老いたな。
私はダリア王女とは結婚しないぞ」
「今さら何を言われる。
その件に関しての親書までおくっているのですぞ」
「悪いな。
けど、ナール宰相は私に愛ある結婚を望んでくれているんだろ。
わかってくれ」
「そうですが。
そんなお相手がいるのですか」
「ああ。さっき村で拾った女だ」
やや口角を上げたレオ王は、そう言うと私の背中を押してナール宰相の前へとおしだす。
「む、村で拾った女だなんてとんでもない」
たっぷりとたくわえた顎髭をゆらせながら、ナール宰相の顔が蒼白に変わってゆく。
「名はローズウッドという」
レオ王子から紹介されて、ペコリと頭を下げた。
「ローズウッド、ロースウッドねえ」
私の名前を繰り返しながら、ナール宰相は頭から爪先まで値踏みするような視線をむけてくる。
平民が着るようなワンピースに靴。
こんな姿の私を誰が王女などと思うだろう。
「このようなことを申し上げるのは、不謹慎だと承知の上ですが、こうしてはいかがでしょう。
ダリア王女様を妻にめとってから半年後に、その方を側妃に召し上げるというのは」
渋面をしたナール宰相は声をしぼりだした。
「ナール宰相は怖ろしいことを言うのだな。
妹を正妃に姉を側妃にすえるなんて」
レオ王は強い口調でそう言ったが、かすかに唇が震えている。
「それはどういう意味ですか」
顎に手をやり首をひねっていたナール宰相が、しばらくして「あっ」と叫んだ。
「どこかで聞いたような名前だと思ってましたが、この方は第三王女ローズウッド様なのですか!」
「ああ」
レオ王がニヤリと笑った時だった。
「レオ王様。
女王様がお呼びでございます。
謁見の間にお急ぎくださいませ」
一人の女官があわただしく駆けてくる。
「安心しろ。
ローズは黙って私の横にいればいい」
不安そうに見えていたのだろう。
レオ王はそう言うと私の手を握り、この場を後にする。
ごめんなさい。お母様。
心の中で、何度もそう詫びながらも、後戻りをする気持ちにはならなかったのだ。
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