25 / 342
第1章 英雄と竜帝
第25話 勇者、驚愕する。
しおりを挟む
「え?今なんて言った?」
ロアは驚愕の事実を聞き、思わず彼女を二度見した。できれば、聞き違いであってほしい。
「……だから言ったであろう。そうでなければ、妾が今までしてきたことに説明がつかんじゃろうが。そなたら、人の子にはそんな真似は出来ぬぞ。」
確かに。特に人の記憶を覗くなんて芸当は人間どころか、ほとんど神の領域だろう。
「言っておくが、妾はそなたの何倍も生きておる。そなたら人の子が気が遠くなるくらいにな。」
見た目のわりに口調がやたら古くさいのはそのためか?一目見ただけでは10代ぐらいにしか見えない。
「じゃあ、ちなみに何歳なんだよ?」
「むうっ、女性に年齢を聞くと言うのか、そなたは。まあ良い。教えてやろう。」
怒るというよりは、あきれた様子で答えようとする。
「だいたい、二千くらいじゃ。」
ロアは微動だにしなくなった。それこそ、石化したかのように動かない。
「どうしたのじゃ?何故固まっておる。何か申せ。これでは妾が滑稽ではないか!」
その声に反応したのかはわからないが、ロアの口が動き始めた。何か言おうとしている。
「……ば、……ば、……ば、」
何か壊れたように表情は固まったままで言おうとしている。
「なんじゃ!はっきり申せ!」
「……ババアじゃねえか~~!!」
口を開いたと思ったらこれである。とはいえ、ただ単に思ったままを言っただけである。
「た、たわけ!ババアとはなんじゃ!失敬な!」
「え~~、でも、ババアじゃん?なんだよ、二千て!化石じゃねえかよ。」
ロアの認識としてはそんな感覚らしい。
「化石とはなんじゃ!妾を遺物扱いするではないわ!」
「え?異物?」
「異物ではないわ!遺物じゃ、遺物!」
「あ~~、やっぱ遺物なんだ。やっぱり化石だ。」
「たわけ~~!!」
サヨは顔を真っ赤にして怒る。
「もう、知らぬ!勝手にするが良い!」
そう吐き捨て、そのまま、その場を立ち去ってしまった。
「年のわりには落ち着きがないな~。」
彼女を怒らせたことに、悪びれた様子もなく、ロアはあきれた様子で彼女の姿を見送った。
「勇者様、どうかあまり気になさらずに。」
すかさず、彼女のお付きの方と思しき男性が声をかける。
「サヨ様はお父上、竜帝様が亡くなられてから、鬱ぎ込んでおられたのです。」
つい先ほど、サヨの口から驚くべきことを聞かされた。彼女は古代竜族であり、あの竜帝の娘なのだという。見た目から想像できない実年齢、並外れた能力は何よりもその証であった。彼らが人の姿をとっているのは、元の竜の姿では大きすぎるため、隠れすむのには適していないことと、自らの強大な力を抑えるためであるという。
そして、この集落は古代竜族の隠れ里、通称「ドラゴンズ・ヘイブン」と呼ばれていることを聞かされた。何千年もの間、人の目を避けて隠れ住んでいるのだという。決して誰にも見つからないよう、誰にも侵入されないよう、厳重に結界を張っているのだという。人間の間で竜族の里が知られていないのはそのためである。わずかに伝説、またはおとぎ話として竜の楽園があると伝えられているのみである。
「あなたを助けて以降、サヨ様は見る見るうちに元気を取り戻されていかれた。里の皆もあなたに感謝しております。」
ヴァルとの戦いの末に落下したロアは、里に自生していた植物が緩衝材となり、奇跡的に致命的な怪我を負わずに済んだのだという。
「感謝しないといけないのは、俺の方だよ。危うく死ぬところだったんだからな。」
ロアは深く感謝の意を告げた。あとでサヨにもそうしなければならない。
「いえ。そうではないのです。ある意味、我々があなた方、人間を巻き込んでしまったのです。」
「竜帝のこと?それとも、血のなんたらとか言うあれのこと?」
「この件は我々、竜族全体の手落ちなのです。我々はあの男を侮っていました。それが過ちの始まりだったのです。あの男は我々の想定以上に恐るべき力を秘めていたのです。」
彼は神妙な顔で語り始めた。あの男、ヴァル・ムングが力を手にするまでの経緯を。
「あの男は元より人の間では千年に一人の英雄として名を馳せていたようです。しかし、数多くの武勇、偉業を成し遂げても、勇者にはなれなかったのです。勇者の額冠は彼を選びませんでした。勇者として選ばれたのは、あなたの先代、カレル様でした。」
あの男がかなり前から勇者の額冠を狙っていたとは。そして、額冠に執着していることは本人の言動からもわかったことだが、ずっと狙っていたことは初耳だった。
「あの男は額冠を手にする為に、勇者を越えることを目指し始めたのです。その標的となったのが、我々竜族でした。手当たり次第に世界各地の竜族を倒し、彼らの持っていた古代遺物や宝物を手にしていきました。」
より強いものが優れたものを手にする、ヴァルは力ずくで様々なものを簒奪していたのだ。
ロアは寒気がした。あまりのおぞましさに。
「我々は侮っていました。人間ごとき等たかが知れていると。その間にあの男は次第に手に負えない力を身に付けていきました。そして、我々竜族の中から裏切り者が出てしまったのです。」
裏切り?一体どんな理由で裏切ったのだろうか?人間よりも遥かに賢く、力を持っていると言うのに。
「その名をレギンと言います。元々、その者は我々の間ではならず者として有名でした。人を無闇に襲う等、素行の悪さは人の間でも有名でした。いつしか、その者はあの男と対峙する事となりました。しかし、レギンは敵わないことを悟ると、ある提案を持ち掛けたのです。」
ロアはそこまで聞いて、まさかと思った。
「その提案とは、我々竜族を共に滅ぼすということだったのです。そして、あの男は提案を受け入れ、竜殺しの魔剣と血の呪法の手解きを受けたのです!」
最悪の結託だった。ただでさえ手に負えない男を、更なる化け物にする切欠を竜族の裏切り者が作ってしまったとは。
「想定外でした。レギンがあの男に手を貸してしまうとは。よりにもよって、あの禁断の秘術を与えてしまったのは正に悪夢でした。まさか、あの秘術をレギンが知っているとは思いませんでした。あれはかつて神々が行使した物なのです。神々が悪用されることを恐れ、厳重に封印が為されたはずなのですが。」
まさか、神が使った秘術とは。他者の力や記憶を手に入れるといった、大それたことをしているので、それも納得がいく由来だった。
「竜帝様が事態を察し、あの男の討伐をする決断を下されました。しかし、そのときには既に手遅れだったのです。既に竜帝様に匹敵する力を手にしていた、あの男によって命を奪われる結果となったのです。」
そして、その後は、ロアも知っている内容だった。先代勇者カレルは倒され、額冠を手に入れるため、偽の竜帝を作り出し、ロア達を誘き寄せたのだと言う。
「勇者様、あの男を倒せる可能性があるのはあなただけです。我々は竜殺しの魔剣がある以上、あの男には無力なのです。是非とも力をお貸しください。」
「言ったはずだぜ。俺もあいつから狙われてるんだ。逆に手を貸して欲しいところだ。竜帝の仇を討とうぜ!」
そして、名も知らなかった先代勇者の無念を晴らすためにも。
「……ところで、あんたは何歳なの?」
性懲りもなく、サヨに対して言った質問を目の前の竜族にも言ってしまった。
「某ですか?一万年程度です。」
「……あいつよりもっと化石じゃんか。」
またしても失礼なことを言う。
「懲りない方ですね。某は気にしませんが、サヨさまには禁句ですよ?」
さすがに窘められてしまった。これ以上は言わないでおこうと彼は決めた。
ロアは驚愕の事実を聞き、思わず彼女を二度見した。できれば、聞き違いであってほしい。
「……だから言ったであろう。そうでなければ、妾が今までしてきたことに説明がつかんじゃろうが。そなたら、人の子にはそんな真似は出来ぬぞ。」
確かに。特に人の記憶を覗くなんて芸当は人間どころか、ほとんど神の領域だろう。
「言っておくが、妾はそなたの何倍も生きておる。そなたら人の子が気が遠くなるくらいにな。」
見た目のわりに口調がやたら古くさいのはそのためか?一目見ただけでは10代ぐらいにしか見えない。
「じゃあ、ちなみに何歳なんだよ?」
「むうっ、女性に年齢を聞くと言うのか、そなたは。まあ良い。教えてやろう。」
怒るというよりは、あきれた様子で答えようとする。
「だいたい、二千くらいじゃ。」
ロアは微動だにしなくなった。それこそ、石化したかのように動かない。
「どうしたのじゃ?何故固まっておる。何か申せ。これでは妾が滑稽ではないか!」
その声に反応したのかはわからないが、ロアの口が動き始めた。何か言おうとしている。
「……ば、……ば、……ば、」
何か壊れたように表情は固まったままで言おうとしている。
「なんじゃ!はっきり申せ!」
「……ババアじゃねえか~~!!」
口を開いたと思ったらこれである。とはいえ、ただ単に思ったままを言っただけである。
「た、たわけ!ババアとはなんじゃ!失敬な!」
「え~~、でも、ババアじゃん?なんだよ、二千て!化石じゃねえかよ。」
ロアの認識としてはそんな感覚らしい。
「化石とはなんじゃ!妾を遺物扱いするではないわ!」
「え?異物?」
「異物ではないわ!遺物じゃ、遺物!」
「あ~~、やっぱ遺物なんだ。やっぱり化石だ。」
「たわけ~~!!」
サヨは顔を真っ赤にして怒る。
「もう、知らぬ!勝手にするが良い!」
そう吐き捨て、そのまま、その場を立ち去ってしまった。
「年のわりには落ち着きがないな~。」
彼女を怒らせたことに、悪びれた様子もなく、ロアはあきれた様子で彼女の姿を見送った。
「勇者様、どうかあまり気になさらずに。」
すかさず、彼女のお付きの方と思しき男性が声をかける。
「サヨ様はお父上、竜帝様が亡くなられてから、鬱ぎ込んでおられたのです。」
つい先ほど、サヨの口から驚くべきことを聞かされた。彼女は古代竜族であり、あの竜帝の娘なのだという。見た目から想像できない実年齢、並外れた能力は何よりもその証であった。彼らが人の姿をとっているのは、元の竜の姿では大きすぎるため、隠れすむのには適していないことと、自らの強大な力を抑えるためであるという。
そして、この集落は古代竜族の隠れ里、通称「ドラゴンズ・ヘイブン」と呼ばれていることを聞かされた。何千年もの間、人の目を避けて隠れ住んでいるのだという。決して誰にも見つからないよう、誰にも侵入されないよう、厳重に結界を張っているのだという。人間の間で竜族の里が知られていないのはそのためである。わずかに伝説、またはおとぎ話として竜の楽園があると伝えられているのみである。
「あなたを助けて以降、サヨ様は見る見るうちに元気を取り戻されていかれた。里の皆もあなたに感謝しております。」
ヴァルとの戦いの末に落下したロアは、里に自生していた植物が緩衝材となり、奇跡的に致命的な怪我を負わずに済んだのだという。
「感謝しないといけないのは、俺の方だよ。危うく死ぬところだったんだからな。」
ロアは深く感謝の意を告げた。あとでサヨにもそうしなければならない。
「いえ。そうではないのです。ある意味、我々があなた方、人間を巻き込んでしまったのです。」
「竜帝のこと?それとも、血のなんたらとか言うあれのこと?」
「この件は我々、竜族全体の手落ちなのです。我々はあの男を侮っていました。それが過ちの始まりだったのです。あの男は我々の想定以上に恐るべき力を秘めていたのです。」
彼は神妙な顔で語り始めた。あの男、ヴァル・ムングが力を手にするまでの経緯を。
「あの男は元より人の間では千年に一人の英雄として名を馳せていたようです。しかし、数多くの武勇、偉業を成し遂げても、勇者にはなれなかったのです。勇者の額冠は彼を選びませんでした。勇者として選ばれたのは、あなたの先代、カレル様でした。」
あの男がかなり前から勇者の額冠を狙っていたとは。そして、額冠に執着していることは本人の言動からもわかったことだが、ずっと狙っていたことは初耳だった。
「あの男は額冠を手にする為に、勇者を越えることを目指し始めたのです。その標的となったのが、我々竜族でした。手当たり次第に世界各地の竜族を倒し、彼らの持っていた古代遺物や宝物を手にしていきました。」
より強いものが優れたものを手にする、ヴァルは力ずくで様々なものを簒奪していたのだ。
ロアは寒気がした。あまりのおぞましさに。
「我々は侮っていました。人間ごとき等たかが知れていると。その間にあの男は次第に手に負えない力を身に付けていきました。そして、我々竜族の中から裏切り者が出てしまったのです。」
裏切り?一体どんな理由で裏切ったのだろうか?人間よりも遥かに賢く、力を持っていると言うのに。
「その名をレギンと言います。元々、その者は我々の間ではならず者として有名でした。人を無闇に襲う等、素行の悪さは人の間でも有名でした。いつしか、その者はあの男と対峙する事となりました。しかし、レギンは敵わないことを悟ると、ある提案を持ち掛けたのです。」
ロアはそこまで聞いて、まさかと思った。
「その提案とは、我々竜族を共に滅ぼすということだったのです。そして、あの男は提案を受け入れ、竜殺しの魔剣と血の呪法の手解きを受けたのです!」
最悪の結託だった。ただでさえ手に負えない男を、更なる化け物にする切欠を竜族の裏切り者が作ってしまったとは。
「想定外でした。レギンがあの男に手を貸してしまうとは。よりにもよって、あの禁断の秘術を与えてしまったのは正に悪夢でした。まさか、あの秘術をレギンが知っているとは思いませんでした。あれはかつて神々が行使した物なのです。神々が悪用されることを恐れ、厳重に封印が為されたはずなのですが。」
まさか、神が使った秘術とは。他者の力や記憶を手に入れるといった、大それたことをしているので、それも納得がいく由来だった。
「竜帝様が事態を察し、あの男の討伐をする決断を下されました。しかし、そのときには既に手遅れだったのです。既に竜帝様に匹敵する力を手にしていた、あの男によって命を奪われる結果となったのです。」
そして、その後は、ロアも知っている内容だった。先代勇者カレルは倒され、額冠を手に入れるため、偽の竜帝を作り出し、ロア達を誘き寄せたのだと言う。
「勇者様、あの男を倒せる可能性があるのはあなただけです。我々は竜殺しの魔剣がある以上、あの男には無力なのです。是非とも力をお貸しください。」
「言ったはずだぜ。俺もあいつから狙われてるんだ。逆に手を貸して欲しいところだ。竜帝の仇を討とうぜ!」
そして、名も知らなかった先代勇者の無念を晴らすためにも。
「……ところで、あんたは何歳なの?」
性懲りもなく、サヨに対して言った質問を目の前の竜族にも言ってしまった。
「某ですか?一万年程度です。」
「……あいつよりもっと化石じゃんか。」
またしても失礼なことを言う。
「懲りない方ですね。某は気にしませんが、サヨさまには禁句ですよ?」
さすがに窘められてしまった。これ以上は言わないでおこうと彼は決めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる