短篇集 日常のくすり

糸田造作

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短編集

色眼鏡

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「ようやく完成したぞ!これを使えば世界を救えるぞ!」

とある国の片隅の小さな研究室。
私はメガネをかけ、目の前にいる妻の姿が青色に反応すると両手を突き上げて喜んだ。それは多くの学者が不可能と口を揃えた研究がようやく実を結んだ瞬間だった。

時は20XX年。
マンモスを狩って暮らしていた頃より食料が簡単に手に入り、生活が豊かになった結果、この世界は娯楽や趣味の多様化が進んだ。

例えば、ゲームや人気のカフェ巡り、アイドルの推し活など、一人でも充分に楽しめる娯楽を挙げたらきりがない。人類の進歩とはなんて素晴らしいのだろう。
 
しかし、本当にこのままで良いのだろうか。確かに、一人で暮らすには充分幸せな世界だ。とあるニュースではパートナーに気を使う必要が無いから死ぬまで一人が良いと言う青年もいた。それほど世界は進歩したのだ。ただ、それを聞いた時、私はその危険性について考えずにはいられなかった。

人はいつか亡くなる。これはパートナーがいてもいなくても変わらない暗黙の決定事項だ。

では、亡くなった後はどうであろうか。
例えば自宅で亡くなった場合、パートナーがいればなかなか起きてこない相手の様子を見に行き、すぐに見つけられるだろう。

一方、一人で生きていた場合、誰かに見つけてもらえることができるだろうか。友人や家族が訪ねてくれば発見されるかもしれないが、来なかったらずっと放置されたまま異臭によって気づかれるという結末になるかもしれない。

やはり人間、誕生する瞬間が温かいものならば、息を引き取り冷たくなる瞬間も誰かに手をにぎられ温められながら永遠に眠りたいものである。

だからこそ私は発明したのだ。
このメガネを。

これをかければ目の前にいる者が運命の相手かどうか一瞬で見分けることができる。

運命の相手であればその人の姿が青色、そうでなければ赤色に反応するのである。
長年の研究によって運命の相手を遺伝子が見つけると、人間は脳から青色の電気信号を出すことが分かったのだ。

つまり、運命の糸は赤色ではなく、青色であることを私は発見し、この発明に応用したのだった。

運命の相手を知ることができれば、
無駄な恋愛をして傷つくこともなくなり、
恋愛を楽しめることができるだろう。
本物の愛を知ることができれば、
孤独に生きていくという考えもなくなり、
人生を安らかに終えることができるだろう。

長年、私のこの研究は学会から腫れ物扱いされ、認められずにいたため、家族にはとても苦労をかけてしまった。特に愛する妻は何十年も研究室に籠る私に対し、文句一つ言わずに家庭を支えてくれた。これは妻の深い愛がなければ完成しなかった発明だと言っても過言ではない。

「長年支えてくれたんだ。君もこの発明品を試してくれよ。」

私は青色に反応していた妻に自分のかけていたメガネを渡した。

「ええ、貴方の研究がようやく実を結んで嬉しいわ。これが大ヒットすればお金持ちになれるわね。私は科学が苦手で貴方の研究も外から見守るだけだったけれど、楽しみだわ。」

そう言うと、妻はメガネをかけて私の方を見た。そして、興奮気味に話した。

「やっぱりあなたは運命の人だわ!運命の赤い糸のようにあなた、全身真っ赤に見えるもの!」

妻の興奮とは裏腹に、私は驚きを隠すことに必死だった。

「そっ、そうだろ。僕も君のことが真っ赤に見えたんだ。やっぱり僕たちは運命の赤い糸で結ばれていたんだね。だから赤色に反応するのも当然さ。」

なぜ?
なぜ妻が私を見たら赤色に反応したのだろうか。必死に理由を考えている時、妻が私に尋ねた。

「あなた、これからは研究室に籠ることはないのかしら?」

さりげなく聞いていたが、その目は私が研究を続けることを期待しているようだった。

「ああ、これからは研究室よりも、君といる時間の方が増えるよ。」

気のせいか、妻は一瞬寂しそうに見えたが
「それは良かったわ。」と一言呟いた。

私は妻からメガネを返してもらい、
もう一度妻を見た。

深海のような青色である。

私が研究室に篭っている間、妻がどこで何をしていたか知る由もない。ただ一つ言えるのは、どうやらこの発明は失敗だったに違いない。私は妻を愛しており、妻も私を愛しているはずなのだから。

そもそも、目の前の相手が運命の人という先入観で見てしまうことは良くなのかもしれない。

私が研究室に戻り深いため息をつくと、ドアの向こうでも誰かのため息が聞こえたような気がした。
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