HALVE

とまこ商事

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    給食に、ロールキャベツが出ることがあるんですけど、私は給食のロールキャベツが嫌いでした。
    中のお肉もごろごろしておいしくないし、キャベツも芯の筋は口に残るのに、葉っぱのところだけずるずるしてるし、何だかねぼけた味がして。
    基本的に乳製品は苦手でした。ご飯に牛乳がついてくるのも信じられなかったし、プロセスチーズも口の中がもたもたして嫌でした。
    野菜もお肉も好きじゃなかったし、偏食な子どもだったんです。
    ええ、まぁそうですね、今もそうなんですけどね。
     アキオがうらやましいです。彼ってば好き嫌いらしい好き嫌いがないんですよ。すばらしいことだと思います。彼は優しいんだと思います。すべてに対して。そう、すべて。
    勉強ですか?    特別にできたわけでも、目立ってできなかったわけでもなかったです。昔から平凡な子供でしたから。運動もそうです。足の速さも、泳げる距離も、ちょうどクラスの半分ぐらいの位置です。そういえば背の順でも真ん中あたりでした。ほんとに平凡ですよね。何の取り柄もない、ぼんやりした子供だったんです。
    アキオですか?    彼は器用だもの。なんだってこなしますよ。まぁそりゃあ、直接見たわけじゃないですけど。でも分かるんです。ぜったい足も速いし、泳ぐのだって得意だと思います。スポーツも好きそうだし。はい、嬉しいですよ。アキオが得意なことは私も得意になって言えるんです。嬉しいじゃないですか、だって。好きな人が素敵って、誇らしいし。あれ?    言ってませんでした?    でもわかってらしたでしょう?    もちろん好きですよ。誰よりも彼を愛してます。アキオはもう私の中で一番なんです。やだ、笑わないでくださいよ。恥ずかしくなっちゃう。
    アキオはね、優しいんです。私が辛いとき、いっつもさりげなく助けてくれるんです。眠れないときでも、アキオのことを考えるととっても心が落ち着いてきて。気がついたら寝ちゃってるんですよ。
普段から?    そうですね。私いっつも気がついたらぼんやりしちゃうんですよね。注意力が散漫なんです。もっとしっかりしなくちゃって思うんですけどね。
    小学生の頃はクラス委員とかに憧れて、委員の子の持ち物を真似してみたり服装なんかも似たようなのを着てみたり、子供心なりに努力したんですよ。でもダメでした。ぜんぜん続かなくて。つくづく向いてないんだなって思いました。それどころか真似してたらクラスから完全に浮いちゃって。島崎はすぐに真似するから無視しようとか言われ始めて。子供ってわりと残酷ですよね。すごく重大なことを、おやつか何かでも決めるみたいにすぐに決めちゃうんですよね……。
    ……。
    あら、ごめんなさい。何の話でしたっけ。またぼんやりしちゃってました。ダメですね、すぐに違うこと考えちゃって。
    あら?    煙草おのみになられましたっけ?     あ、いえ、匂いが少し。さっきまで気づかなかったけど。鼻までぼんやりしてるみたいですね、あはは。
吸わないように気遣っていただいてたんですね。大丈夫です。直接見なければ怖くないです。ほら、跡ももう薄いでしょう?    痛くもないですし。ついたときも、最初に感じたのは灰の柔らかさだったんです。あ、やわらかい、って思った後に、いたい、あついって分かったんですよ。不思議ですよね。押しつけられてとたんに痛さしか残らなくなりましたけどね。
    ええ、元気ですよ。相変わらずといえば相変わらずです。でも昔からの性分なんじゃないのかしら。ただ、姉が嫁いでから顕著になりましたね。彼女にとって姉は手放したくない存在だったでしょうし。それまでお酒もたばこも嗜まない人だったのに。私ですか?    私は違いますよ。完全に別なものです。だから余計に憎いんでしょうね。残ったのが姉じゃないから。
    ……。
    ごめんなさい、またぼんやりしちゃいました。私の子供の頃の話でしたよね。子供の頃。うーん、そうですね。優柔不断な子供でした。幼稚園のとき、クラスの子のお誕生日会の飾り付けで折り鶴を作ることになったんです。先生に色んな折り紙を前に並べられて、どれで折る?って聞かれたんだけど、赤もあるしピンクもあるし、模様がついたのもあるしどれもいいような気がして。ずっと選べないでいたら結局最後になっちゃって、灰色か黒しか残ってなくって。仕方ないから灰色で折ったんですけど。その主役の子からこんな色のは嫌だって言われて飾ってもらえなかったんです。
    そうですね。どうしていいんだかわからなくなるんですよね。よくわかりますね。私のことなのに私よりよくわかっていらっしゃるんだわ。
    煙草も。お優しいですね。目の前じゃなかったら大丈夫なんですから。おのみになって平気ですよ、気を遣わないで。
    ふふ、アキオみたいだわ。アキオもそうなんです。彼も喫煙者なんですが、いつも私に気づかれないようにそっと、煙草をのむんです。それで、私があとになって匂いで気づくんです。私に見えないようにしてくれるんです。ほんとに、優しいんです。
なれそめですか?  文通です。ふふ、古風かしら。アキオはいっつも私に手紙をくれるんです。すこしくせのある字で、その字体も大好き。つらいことがあったときでも、いつもさりげなくメッセージを残していってくれるんです。いつでも手紙を書きあってます。やっぱり今時おかしいかしら、手紙だなんて。でも、手紙ってなかなかいいですよ。思いが伝わりやすいって言うんでしょうかね。
    ……。
    いけない、ごめんなさい。どうしてこんなにすぐぼんやりしちゃうのかしら。何の話でしたっけ?    ええ……。ええ、そうですね。癇癪はまだあります。以前みたいに物で叩かれることはなくなりましたけど。一度なると、もう言葉もとまらないみたいで。私、娘だと思われてないんです。父親が違うんだよって言われたこともありました。酔っ払いの戯言なんて話半分にしか聞いちゃいけないですけどね。
    ただ一つだけ嫌なのは、酔って泣きながら私にからんでくることですね。泣かれてしまうとどうすればいいのかわからなくて……、私も泣きたくなるけど、私が泣いたら余計に暴れて。泣きながら叩かれると、怖くなって体が動かなくなって。だから私はいつもアキオに助けを求めるんです。アキオを呼ぶんです。すぐには来られなくても、私が辛いときはいつもアキオが助けてくれるんです。私にはアキオだけなんです。彼が好きなんです……。


……。
    すみません、煙草を戴けますか?
    吸い過ぎは良くないですかね。僕だけの不摂生じゃ済まされないですから。かのじょの肺を病気にしたくはないですから。
    今ですか?    眠っていますよ。うずくまってる感じです。大体はいつでもそうですよ。ぼくが起きているときは。かのじょは今のことは覚えていません。逆にかのじょが起きているときは、ぼくはちゃんと起きてますよ。はっきりとじゃありませんが、覚えてます。
    食事?    ええ、言ってましたね。今だってほとんど食べませんよ。かのじょは極端な偏食ですからね。だからぼくが少しでも補わないと。いつも肺を汚してる罪滅ぼしですかね。
    そろそろまた起きそうだ。ああ、すみません。くれぐれも吸い殻は残さないで下さいね。かのじょが怖がるから。
    かのじょがですか?    ……知ってますよ。ぼくもそうです。誰よりも大切ですよ。
    ぼくには字を書くぐらいしかできないけれど。かのじょを愛しています。ではまた。


……あら、またぼんやりしてたみたい。もしかして眠いのかしら?
    ええ、ええ、わかりました。ええ、今日は帰ります。きっと家にまたアキオからの手紙がきてるはずですから。
それじゃ、また来週ですね、先生、また話を聞いて下さいね。ありがとうございました。


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