花のピアス

諦輝@

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花のピアス

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自分だけじゃ入らないようなカラフルな店内。流れている曲は最近よくコマーシャルなどでも聞くような流行りの曲。店員さんもどこか別世界の住人のように輝いて見える。
棚には綺麗に並べられたアクセサリー。その中でも紅華の目を奪ったのは金色に輝く花の中心に黄色い石が埋められたピアスだった。
他にもサイズが大きく派手な色合いのものや本物の石を使った高価なものが沢山ある。それでも小さいながらはっきりと主張している光の色は特別に見えた。
自分の耳にあて壁に付いている鏡を覗く。それは紅華の艶めく漆黒の髪からひっそりと顔を出し存在を主張していた。
「確かに紅華は花似合うかも。でもそれなら緑にしたら?」
後ろから近づいてきた光と鏡越しに目が合う。初めて化粧しているところを母親に見られたような気分になりそっと元あった場所に戻す。
「この色、光の色だから。」
「まじか。ちょっと嬉しいかも。じゃあこの際開けちゃう?耳。」
光がピアスの並べられている横に置いてあるピアッサーを指さす。
「や、でも紅華の耳綺麗だし傷つけんのもったいないな。」
「はいはい。」
光の歯が浮くような台詞にも少しずつ慣れ軽くあしらうことができるようになった。残念ながら心の方は未だに慣れてはくれないようで飛び跳ねてしまうが。
「とりあえず片耳だけ開けてみようかな。怖いし。」
「あ、開けることは確定なんだ。」
「うん。光の見ていいなって思ってたし。」
光の耳には今日も綺麗な金色の粒が飾られている。店の照明に反射して輝くそれは光自信を映し出す鏡のようだ。
「怖いならあたしが開けよっか?」
「え、いいの?」
さっきまで傷つけんのもったいないと言っていたのはどこの誰だ。
「あたし経験者だし。ピアッサー選びなよ。」
「う、うん。じゃあえっと……これ。」
何種類もの中から選んだのは深緑のピアスが付いているピアッサー。光に似合うと言われた色を最初に付けたい。
「ん、いんじゃね?じゃ、後でまとめて会計しよ。」
光の言葉で思いだしたがそもそもこの店には体育祭で付けるシュシュを見に来たのだ。すっかり忘れていたと店内を見回すと莉々花たちも新作の服を物色しているようだった。
「ったく。ほら、さっさと買うもん買って帰るぞー。」
光は服に夢中になっている莉々花たちに声をかけヘアゴムエリアへと移動する。
その後を選んだピアッサーを大事にアクセサリー用のカゴに入れて追いかけた。
「この模様可愛い!めっちゃ色の種類あるしこれにしない?」
莉々花は大小様々な星が散りばめられたパステルカラーのシュシュを手に取る。手に持っているピンクの他にも黄色や赤、青といったよくある色から緑やオレンジ、グレーなどの色まで豊富に揃っている。
紅華は緑のシュシュを手に取る。緑と言うよりは黄緑に近いそれは少し派手に思えるが莉々花は明るいピンク、海は綺麗な水色を選んでいるためあまり浮いて見えない。
光も発色のいい黄色を選び髪に当てる。鮮やかに染まる金髪よりも遥かに濃い黄色は中々に派手だ。目が痛い。
派手だと思っていた緑もこの中じゃ1番控えめなんじゃないだろうか。

その後も各自好きに店内を散策し会計を済ませてその場で解散となった。
紅華は早速ピアスを開けてもらうため光と共に光の寮へ向かう。
光の部屋に行くのはなんだかんだと理由をつけて先送りにしてきたため今日が初めてとなる。
いつもの光を作っているものがそこにあるのだと思うと変に緊張してしまう。
自然と会話は無く気づけば部屋の入口まで来ていた。
「はい、予定になかったからちょっと汚ねえけど好きなとこ座って。」
通された部屋はしっかり整理されていて実際より広く見える。でも言う通り服や教科書が散らばっていてなんとなくほっとした。
前に話していたアクセサリーの置いてある棚は光のこだわりなのか綺麗に並べられていてさながらさっきの店のようだ。
「これで開ける方冷やしておいて。」
渡された保冷剤を左の耳に当てベッドに腰を預ける形で座る。
光は左側に座り紅華の髪を耳にかける。
顕になった耳はもう既に赤くなり始めていた。
紅華は何ともないような顔をしているが光は内心本当に開けていいのかと悩んでいた。
そんな光の胸の内を知らない紅華はこれからのピアスライフに胸を踊らせていた。

しばらくしてつねってもわからないくらい感覚がなくなった頃。ついに開ける時が来た。
しっかり消毒をして買ったピアッサーを箱から取り出す。
「変に動くんじゃねえぞ。」
「うん。」
紅華は目を瞑り胸の前で手を握る。その姿は神に祈りを捧げる修道女のようで。えらく神聖なものを傷つけるなんてと光には珍しく緊張していた。
それでも時間が経って耳に感覚が戻ってしまえば痛みで歪む紅華の顔を見ることになると自分に言い聞かせる。
ふとよく見ると紅華は少し震えていた。これからくる衝撃に少なからず緊張しているのだ。
光は緊張を解すつもりで束ねられた髪から除く項にそっと口をつける。
「え?」
紅華の肩から力が抜けた瞬間、真ん中に狙いを定め勢いよく親指を押し込んだ。
バチンッという派手な音と共に金具が飛び散る。恐る恐る手を退けると狙ったいちに深緑の石が輝いていた。
「音凄かったけど全然痛くなくてびっくりした。」
まだ自分の耳に穴が空いたと信じられない紅華は軽く耳たぶに触れる。驚くほど冷やされた耳たぶに確かにある塊。本来耳にはない感触に穴が空いたと実感する。
「ほれ、バイ菌入ったら危ねぇからあんま触んな。」
光が机に置いた鏡を見ると自分の耳にピアスがついているのがわかる。
落ち着いた色は紅華の黒髪によく似合いさり気なく主張していて可愛らしい。
再び軽く消毒をして片付けをした後、開ける前に項に感じた柔らかなものの正体を考える。
あれのおかげで不意をつかれ全く痛みを感じなかったわけだが、あれは一体……。
「ねえ、光。開ける前に私に何したの?」
二人分のお茶を持ってきた光は一瞬固まるが直ぐにふわりとした笑みを浮かべコップを紅華に差し出す。
「緊張が取れるおまじない。」
唇の前で人差し指を立てウインクされれば察しのあまり良くない紅華でさえ何をされたか理解した。
急に顔が熱くなり耳を冷やすのに使った保冷剤を頬や額に当てる。
「慌てすぎだって。面白いなあ。」
「光はからかいすぎ。まったく、いつもそうなの?」
「いいや?紅華にだけ。」
普段の光からは考えられないような落ち着いた声色にまた胸が跳ねる。
「えっ……そ、それって……」
更に熱が上がる。確信に触れようとした時、部屋にノックの音が響き渡った。
「はーい!」
いつもの光の声に戻りバタバタと玄関へ向かう。
どうやら相手は先輩のようでまたお菓子を届けに来てくれたらしい。
先輩からお菓子を受け取り戻ってきた光はすっかり普段の調子で少し前の出来事は夢なんじゃないかと疑う。
それでも左耳にはしっかりとピアスが付いていて全てが現実なのだと引き戻される。
普段通りの光に合わせて平静を装うが耳だけは未だに赤いまま。
それが冷たさからなのか熱さからなのかは分からないふりをした。
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