『隣の宇宙人に恋して──銀河の片隅で愛を叫ぶ〜誰か助けてください〜』

キユサピ

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第13話「怪しい奇跡」

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喫茶店《ふたたび》。薄曇りの午後、誠とユリカはカウンター席に座っていた。

「最近、あの新興宗教の話、よく耳にするよな」
誠がぽつりと言う。

「信者数が急増していて、街中で見かける機会も多くなりましたね」
ユリカは静かに答えた。

「奇跡が起きたとか、けっこう大きな噂になってるらしいけど……」
誠は少し眉をひそめる。

「それが科学的に説明できるものかどうか、私も興味があります」
ユリカの声はいつもながら冷静だが、どこか好奇心も含んでいた。

そのとき、店の扉が開き、若い女性が入ってきた。

「真木探偵、天音さんですか?こちらにいらっしゃると聞いたので。私、田村と言います」
彼女は言葉を詰まらせながら席に着いた。

「実は……宗教団体のせいで家族が苦しんでいます。相談に乗っていただけませんか?」

誠は即座にうなずき、ユリカも静かに視線を送った。

田村さんの話が続く。

「主人の弟が、あの宗教団体にのめり込んでしまいまして……。最初は優しかったんですが、次第に家庭のことを顧みなくなり、仕事も辞めてしまいました。子どもたちも、父親の変化に戸惑っています」

「何度も説得しましたが、“奇跡を信じろ”と言われ、家族も拒絶されてしまいました。電話も取らず、家には鍵をかけて誰も入れなくなったんです」

「一番つらいのは、子どもたちが父親のことを理解できず、悲しんでいることです。学校でも孤立してしまって……今は夫の両親のところに身を寄せていますが」

「最近は、奇跡の証拠と称する映像を家族に送りつけて、洗脳まがいの勧誘をしているらしく……」

ユリカは静かに頷きながら
「思い当たる事がありますのでこの映像をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

「お願いします」
田村さんの声は震えていた。

「法律の面からも、違法な勧誘や誤認表示が散見されている。これを見逃すわけにはいかない」

ユリカは、田村さんに向かいながら続けた。

「私たちはこれらの証拠をまとめて、行政や警察に提出します。被害を広げさせないために、迅速な対応が必要です」

田村さんは感謝の涙をこぼした。




調査が始まった。ユリカは団体が作成した映像資料を解析し始めた。

「やはりこの映像、特定のフレームに短時間だけ挿入された映像が含まれています」
ユリカが指摘した。
「ユリカさん、サブリミナルって言うんだよね」
誠が相槌を打つ。

「これにより、信者の心理操作が巧妙に行われている可能性が高いです」
ユリカの眼差しは真剣だった。

被害者の家族からは、奇跡の裏に隠された不安やトラブルの声が次々と届いた。



団体の圧力も強まる中、ユリカは法律の隙間を探り当てる。

「この団体の手口は巧妙で、直接的な違法行為の証拠は掴みづらいですが……」
ユリカは文献をめくりながら続けた。

「消費者保護法や霊感商法の規制を組み合わせて攻める道がありそうです」

誠は感心しながら言った。

「さすがだな。君の法律知識は弁護士顔負けだ」



真実が次第に明らかになる中、誠とユリカは証拠書類を携え、警察と行政機関へ向かう決意を固めていた。

「これで、被害に苦しむ人たちが少しでも救われるといい」
誠が静かに言うと、ユリカはわずかに微笑んだ。

「はい。人の心に寄り添いながら、科学と法律で真実を照らし続けます」



ユリカと誠は、田村さんから聞き取った証言や解析データを整理し、詳細な報告書を作成した。映像のサブリミナル効果や違法勧誘の証拠写真、複数の被害者の証言も添えていた。

「これだけの証拠があれば、警察も動かざるを得ませんね」
ユリカは冷静に話す。

誠は、地元警察署の相談窓口を訪れ、担当の刑事に報告書を提出した。

「これらの宗教団体による勧誘は、被害が拡大している深刻な問題です。証拠も具体的で、法的措置が可能と判断しました」

刑事は資料に目を通しながら頷いた。

「まずは聴取を行い、違法行為の有無を調査します。ユリカさんの科学的解析は非常に参考になります」

その後、誠とユリカは被害者の家族とも連携し、法的支援や心理カウンセリングの情報提供も行った。

「家族の苦しみを一刻も早く救いたい」
誠の決意は固かった。

ユリカは、静かに微笑みながらも心の奥に、まだ見えぬ大きな謎への疑念を抱いていた。

数日後、警察による調査が本格的に始まった。ユリカと誠は事情聴取に立ち会い、被害者たちの証言の裏付けを手助けした。

宗教団体の本部には警察の家宅捜索が入り、サブリミナル映像を作成した機材や勧誘資料が押収された。関係者の中には違法な勧誘や詐欺的行為を認める者も現れた。

一方で、団体の幹部は「奇跡は神の御業であり、我々に非はない」と強硬に否定し、社会的な騒動は報道を通じて広まった。

ユリカはその騒ぎを静かに見守りながらも、表面に現れないさらなる陰謀や黒幕の存在を感じ取っていた。

「真実はまだ、氷山の一角に過ぎませんね」
彼女の言葉は、まるで遠く銀河の彼方を見つめるかのようだった。

誠はそんなユリカに寄り添いながらも、次の事件へと足を踏み出す決意を固めていた。

 宗教団体「光和の道」が解散へ向けて動き出すなか、誠とユリカは残された情報を整理していた。すでに証拠は警察に提出され、教祖・一条慧真の身柄は確保されていたが、ユリカはまだ何かが引っかかっていた。

 彼女は静かにノートパソコンの画面を睨むように見つめながら、呟いた。

「……この団体、収支報告が妙に綺麗すぎます。帳簿が整いすぎていて、不自然です」

 誠は椅子に座ったままコーヒーをすすり、視線を送る。

「つまり、誰かが裏で経理を“正しく見えるように”操作していたと?」

「ええ。しかもこの口座――法人登記とは無関係の個人名義なのに、定期的に多額の振込が行われています。振込元をたどると……この政治団体の名前が浮かびます」

 ユリカは画面を回転させ、誠に見せた。

「“日本未来創政会”。地方議会で一定の影響力を持つ小政党です。でもここ――党代表の一人が、光和の道の教団幹部と大学の同窓なんです」

 誠は思わず低く息を吐いた。

「つまり、宗教団体は最初から政治活動の下請けみたいなものだったってわけか。票と金、両方を手っ取り早く集める装置として」

 ユリカは頷き、さらに調べた内容を淡々と語った。

「入信者の大半は、地方の高齢者やシングルマザー。社会的に孤立している方が多い。そこに“病が治る”“人生が変わる”といった教義をぶつけ、感情に訴えた。その見返りとして、講話会の参加費名目で寄付を募る。それがそのまま、政治団体の裏口座に流れていた」

 誠が唸るように言った。

「票田の囲い込みか……これはもう宗教というよりビジネスだな。いや、詐欺か」

「それだけではありません。入信を促す“奇跡の映像”のサブリミナル効果」
「洗脳も行われてたってわけだね」

 誠は立ち上がり、すぐに電話を取った。

「刑事部の西條さんに繋いでくれ。新しい情報がある」

 その背後で、ユリカは静かに画面を閉じた。彼女の表情は、どこか寂しげだった。

「信じる気持ちは、人を支える力にもなる。でも……それを利用するのは、あまりにも、悲しいです」

 しばらくして、警察庁のサイバー捜査課と合同の捜査会議が開かれた。ユリカがまとめた証拠資料は、宗教団体と政治団体との癒着を裏付ける決定的な手がかりとなり、複数の関係者の逮捕につながった。

 記者会見では、刑事部長がこう語った。

「我々が把握している範囲で、この宗教団体は少なくとも二つの政治団体と資金的関係にありました。不正な票集め、違法な献金の疑いも含めて、慎重に捜査を進めます」

 それから数日後。
 喫茶店《ふたたび》の静かな午後。ユリカはカウンター席に座りながら、カップを両手で包み込むように持っていた。

「誠さん。信じるということの重み、私、少しわかった気がします。だからこそ、誰かがそれを悪用したとき、ちゃんと止めなくてはならないんですね」

 誠は苦笑しながらも、真剣な目で頷いた。

「俺たちの仕事って、たまに本当に重たいな。でも……ユリカさんがいると不思議と、最後には道が見える気がする」

 ユリカは、ほんのわずかに首を傾げた。

「それは――重力の影響かもしれませんね」

「……やっぱり宇宙っぽい」

 二人の笑い声が、コーヒーの湯気のなかにふわりと溶けていった。
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