38 / 122
第三十八話「戦争の起点をめぐって」
黒板には、教師の手によっていくつかの呼び方と、その起点が書き出されていた。
• 「満州事変」(1931年) … 日本が中国東北部へ武力侵攻したことを起点とする見方。
• 「日中戦争」(1937年) … 盧溝橋事件を起点とする見方。
• 「太平洋戦争」(1941年) … 真珠湾攻撃を起点とする見方。
• 「大東亜戦争」 … 日本がアジア解放を掲げ、対米英戦争を全面化したときから。
教師:
「このように、呼び方によって“いつから始まったか”の定義も変わるんです。では、みんなはどう思いますか?」
悠翔:
「僕は“満州事変”からだと思います。あそこで国際連盟を脱退して、日本はもう世界と逆行し始めていた。だから、戦争はすでにそのとき始まっていたんじゃないかって。」
和真:
「いや、俺は“太平洋戦争”からだと思う。真珠湾攻撃でアメリカを相手にしたのが決定的で、世界大戦の一部になった。
それ以前は局地的な戦争にすぎないんじゃないか?」
美咲:
「私は“日中戦争”かな。盧溝橋事件で全面戦争に入って、日本国内も戦時体制になった。だからここからが実質的な始まりだと思う。」
教師:
「いいですね、それぞれの立場が見えてきました。
起点をどこに置くかで、“日本はなぜ戦争をしたのか”の答え方も変わってきます。
次回は、それぞれが自分の考える起点をもとに、なぜそう考えるのかを発表してもらいましょう。」
チャイムが鳴り、生徒たちはノートを片づけながらもまだ議論の続きを話している。
教室の空気がまだ議論の熱を帯びている中、黒板に「満州事変(1931)」と大きく書かれた文字が残っていた。
悠翔が「満州事変こそが起点では」と言い切ったその直後、教室の後ろの席から手が挙がった。
生徒A(優衣):
「でも……そもそも、なんで日本は満州に鉄道なんか持ってたんですか?
中国の土地なんですよね?」
教室が一瞬ざわめいた。みんな、当たり前のように“満州鉄道”と聞いてきたけれど、改めて問われると説明できない。
教師はうなずき、チョークを手に取った。
教師:
「いい質問ですね。実はそれは、もっと前の日露戦争にさかのぼります。
日露戦争の講和条約、ポーツマス条約で日本はロシアに勝利し、その結果、ロシアが持っていた南満州の鉄道の利権を引き継いだんです。」
黒板に「ポーツマス条約(1905)」と書かれる。
教師:
「だから、南満州鉄道株式会社、いわゆる“満鉄”は日本が設立した企業ですが、もともとは戦争で得た権益。
鉄道だけじゃなく、鉄道周辺の土地の利権、炭鉱の開発権まで手に入れていたんです。」
⸻
美咲:
「え、それって……植民地みたいなものですか?」
教師:
「完全な植民地ではありませんが、現地の人からすれば“侵略”と受け止められても仕方ない状況でしたね。
しかも日本は満鉄を守るために“関東軍”を置いていて、これが後の満州事変の中心となります。」
⸻
和真:
「なるほど……。つまり、満州事変の前から日本はもう満州に深く入り込んでたってことか。
そうなると、やっぱり“満州事変が起点”だと、確かに侵略の色合いが濃くなるよな。」
悠翔:
「でも、逆に言えば、日本はそこに“既得権”を持っていたんだから、守るために行動したって言い方もできるんじゃないか?」
⸻
教師は一旦黒板を見つめ直し、みんなに向き直った。
教師:
「そう、その解釈の違いが“侵略か、自衛か”という大きな論点になります。
満州事変を起点にすると、日本は利権のために動いた侵略国家とも見えるし、逆に国益を守ったとも見える。
次の時間では、この“満州事変をどう評価するか”について、みんなでさらに考えていきましょう。」
チャイムが鳴ると、生徒たちは小声で「侵略だよね」「でも権益は権益だし…」と話し合いながら教室を出ていった。
• 「満州事変」(1931年) … 日本が中国東北部へ武力侵攻したことを起点とする見方。
• 「日中戦争」(1937年) … 盧溝橋事件を起点とする見方。
• 「太平洋戦争」(1941年) … 真珠湾攻撃を起点とする見方。
• 「大東亜戦争」 … 日本がアジア解放を掲げ、対米英戦争を全面化したときから。
教師:
「このように、呼び方によって“いつから始まったか”の定義も変わるんです。では、みんなはどう思いますか?」
悠翔:
「僕は“満州事変”からだと思います。あそこで国際連盟を脱退して、日本はもう世界と逆行し始めていた。だから、戦争はすでにそのとき始まっていたんじゃないかって。」
和真:
「いや、俺は“太平洋戦争”からだと思う。真珠湾攻撃でアメリカを相手にしたのが決定的で、世界大戦の一部になった。
それ以前は局地的な戦争にすぎないんじゃないか?」
美咲:
「私は“日中戦争”かな。盧溝橋事件で全面戦争に入って、日本国内も戦時体制になった。だからここからが実質的な始まりだと思う。」
教師:
「いいですね、それぞれの立場が見えてきました。
起点をどこに置くかで、“日本はなぜ戦争をしたのか”の答え方も変わってきます。
次回は、それぞれが自分の考える起点をもとに、なぜそう考えるのかを発表してもらいましょう。」
チャイムが鳴り、生徒たちはノートを片づけながらもまだ議論の続きを話している。
教室の空気がまだ議論の熱を帯びている中、黒板に「満州事変(1931)」と大きく書かれた文字が残っていた。
悠翔が「満州事変こそが起点では」と言い切ったその直後、教室の後ろの席から手が挙がった。
生徒A(優衣):
「でも……そもそも、なんで日本は満州に鉄道なんか持ってたんですか?
中国の土地なんですよね?」
教室が一瞬ざわめいた。みんな、当たり前のように“満州鉄道”と聞いてきたけれど、改めて問われると説明できない。
教師はうなずき、チョークを手に取った。
教師:
「いい質問ですね。実はそれは、もっと前の日露戦争にさかのぼります。
日露戦争の講和条約、ポーツマス条約で日本はロシアに勝利し、その結果、ロシアが持っていた南満州の鉄道の利権を引き継いだんです。」
黒板に「ポーツマス条約(1905)」と書かれる。
教師:
「だから、南満州鉄道株式会社、いわゆる“満鉄”は日本が設立した企業ですが、もともとは戦争で得た権益。
鉄道だけじゃなく、鉄道周辺の土地の利権、炭鉱の開発権まで手に入れていたんです。」
⸻
美咲:
「え、それって……植民地みたいなものですか?」
教師:
「完全な植民地ではありませんが、現地の人からすれば“侵略”と受け止められても仕方ない状況でしたね。
しかも日本は満鉄を守るために“関東軍”を置いていて、これが後の満州事変の中心となります。」
⸻
和真:
「なるほど……。つまり、満州事変の前から日本はもう満州に深く入り込んでたってことか。
そうなると、やっぱり“満州事変が起点”だと、確かに侵略の色合いが濃くなるよな。」
悠翔:
「でも、逆に言えば、日本はそこに“既得権”を持っていたんだから、守るために行動したって言い方もできるんじゃないか?」
⸻
教師は一旦黒板を見つめ直し、みんなに向き直った。
教師:
「そう、その解釈の違いが“侵略か、自衛か”という大きな論点になります。
満州事変を起点にすると、日本は利権のために動いた侵略国家とも見えるし、逆に国益を守ったとも見える。
次の時間では、この“満州事変をどう評価するか”について、みんなでさらに考えていきましょう。」
チャイムが鳴ると、生徒たちは小声で「侵略だよね」「でも権益は権益だし…」と話し合いながら教室を出ていった。
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。