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第六十四話 「日英同盟──孤立を恐れた列島の選択」
「では次に、誰か他に気になるテーマはありますか?」
教師が黒板の前で問いかけると、教室の後方で手が上がった。
「先生、日清戦争のあと、日本は急に列強の仲間入りを目指したって習いましたけど……。その中で“日英同盟”ってありましたよね? あれって、どうして結んだんですか?」
「なるほど、良い質問ですね」と教師はうなずいた。
「日英同盟は、1902年。つまり20世紀の幕開けに結ばれた、日本初の“対等な国際条約”でした。当時の日本は、欧米列強による“孤立”を恐れていたんです。ロシアが南下政策を進めて朝鮮半島に圧力をかけていた時期で、日本としては一国では太刀打ちできない。そこで、当時“世界最強の海軍国”だったイギリスと手を組むことにした、というわけです」
「対等な同盟ってことは、日本も認められたってことですよね?」
前列の女子が目を輝かせる。
「そう思いたくなるけれど、実際には“イギリスにとっても都合が良かった”面が強い。イギリスはアジアでの自国の植民地を守るために、日本を“防波堤”として利用できたんです。つまり、両国にとって利害の一致があった」
「じゃあ、その同盟がなかったら日露戦争には勝てなかったんですか?」
別の男子が尋ねた。
教師は少し間を置いて、チョークを手に取る。
黒板に「日英同盟 → 日露戦争」と書いてから、静かに言った。
「勝てたかどうかは分かりません。ただ、少なくとも“戦う決意を持てた”のは、この同盟があったからでしょう。背後にイギリスという巨大な後ろ盾がある──それが日本の自信になったんです」
「でも先生、同盟って結局、戦争のきっかけにもなりますよね? 第一次世界大戦も、同盟国同士の連鎖で拡大したって習いました」
そう指摘したのは、歴史に強い生徒だった。
教師はうなずきながら答える。
「その通り。日英同盟も最初は“安全保障のため”でしたが、結果的に日本を“列強のゲーム”に巻き込む要因になりました。第一次世界大戦では日本も連合国側として参戦し、ドイツの権益を奪う形で中国・山東半島に進出する。つまり、同盟が“日本を国際政治の渦”へ引きずり込んでいったんです」
教室に沈黙が落ちた。
やがて、ひとりの女子が静かに呟いた。
「守られるために手を結んだのに、結局、戦う道を選んでしまうんですね……」
教師は黒板の端に「同盟=信頼と依存」と書き、振り返った。
「そう。国と国の関係も、人と人の関係と同じです。相手を信じる一方で、どこかに“利用する”気持ちがある。そのバランスが崩れたとき、友情も同盟も脆くなる──。
だからこそ歴史は、ただの年号の羅列ではなく、“人間の選択の記録”なんです」
その言葉に、教室の空気が少し変わった。
誰もが静かに、自分なりの“選択”について考えていた。
教師が黒板の前で問いかけると、教室の後方で手が上がった。
「先生、日清戦争のあと、日本は急に列強の仲間入りを目指したって習いましたけど……。その中で“日英同盟”ってありましたよね? あれって、どうして結んだんですか?」
「なるほど、良い質問ですね」と教師はうなずいた。
「日英同盟は、1902年。つまり20世紀の幕開けに結ばれた、日本初の“対等な国際条約”でした。当時の日本は、欧米列強による“孤立”を恐れていたんです。ロシアが南下政策を進めて朝鮮半島に圧力をかけていた時期で、日本としては一国では太刀打ちできない。そこで、当時“世界最強の海軍国”だったイギリスと手を組むことにした、というわけです」
「対等な同盟ってことは、日本も認められたってことですよね?」
前列の女子が目を輝かせる。
「そう思いたくなるけれど、実際には“イギリスにとっても都合が良かった”面が強い。イギリスはアジアでの自国の植民地を守るために、日本を“防波堤”として利用できたんです。つまり、両国にとって利害の一致があった」
「じゃあ、その同盟がなかったら日露戦争には勝てなかったんですか?」
別の男子が尋ねた。
教師は少し間を置いて、チョークを手に取る。
黒板に「日英同盟 → 日露戦争」と書いてから、静かに言った。
「勝てたかどうかは分かりません。ただ、少なくとも“戦う決意を持てた”のは、この同盟があったからでしょう。背後にイギリスという巨大な後ろ盾がある──それが日本の自信になったんです」
「でも先生、同盟って結局、戦争のきっかけにもなりますよね? 第一次世界大戦も、同盟国同士の連鎖で拡大したって習いました」
そう指摘したのは、歴史に強い生徒だった。
教師はうなずきながら答える。
「その通り。日英同盟も最初は“安全保障のため”でしたが、結果的に日本を“列強のゲーム”に巻き込む要因になりました。第一次世界大戦では日本も連合国側として参戦し、ドイツの権益を奪う形で中国・山東半島に進出する。つまり、同盟が“日本を国際政治の渦”へ引きずり込んでいったんです」
教室に沈黙が落ちた。
やがて、ひとりの女子が静かに呟いた。
「守られるために手を結んだのに、結局、戦う道を選んでしまうんですね……」
教師は黒板の端に「同盟=信頼と依存」と書き、振り返った。
「そう。国と国の関係も、人と人の関係と同じです。相手を信じる一方で、どこかに“利用する”気持ちがある。そのバランスが崩れたとき、友情も同盟も脆くなる──。
だからこそ歴史は、ただの年号の羅列ではなく、“人間の選択の記録”なんです」
その言葉に、教室の空気が少し変わった。
誰もが静かに、自分なりの“選択”について考えていた。
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