『戦後80年の教室──記憶と対話のディベート』

キユサピ

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第九十六話 律令国家の成立──祈りから政治へ

「先生、さっき“天皇は祈る存在だった”って言ってましたけど、
 いつから“政治をする”ようになったんですか?」

休み時間を挟んで再び始まった授業。
先ほどの“祈りの天皇”の話が、生徒たちの中で引っかかっていたようだ。

教師は頷いて、黒板にゆっくりと大きな文字を書いた。

『律令国家の成立』

「これはね、天皇が“祈り”から“政治”の中心に移っていく転換点なんです。」

教室の空気が少し引き締まる。
教師はチョークを持ったまま話し始めた。

「時代は飛鳥から奈良へと移ります。
 このころ、日本は朝鮮半島や中国大陸の動きを強く意識していました。
 特に中国の唐という国は、当時世界でも最先端の法と制度を持っていた。
 そこで日本の指導者たちは考えたんです──
 “神々の国”としての日本にも、しっかりとした国家の仕組みを作らなければならない、と。」

教師は黒板にもう一つの言葉を書き加えた。

『大化の改新(たいかのかいしん)』

「645年、中大兄皇子(のちの天智天皇)と中臣鎌足が中心となって、
 豪族の連合体だった政治体制を改め、“天皇中心の国家”を作り上げようとしました。
 これが大化の改新です。」

生徒の一人が手を挙げる。
「それってつまり、“天皇が本当の意味で国を治める”ようになった、ってことですか?」

教師は頷いた。

「その通りです。
 ここから“律令(りつりょう)”という法の体系が整備され、
 “祈り”の天皇が、“政治の象徴”でもある天皇へと形を変えていきます。」

黒板には次々と用語が並ぶ。
• 律(刑法にあたる)
• 令(行政法・民法にあたる)
• 公地公民制(すべての土地と人は国家に属すという考え方)
• 班田収授法(税制と土地の仕組み)

教師は続けた。

「この制度の中心にあったのは、“すべての人々が天皇のもとにある”という考えです。
 つまり、天皇を頂点とする国家秩序の完成でした。」

別の生徒がぼそっとつぶやく。
「……なんか、“天皇が祈る人”から、“国の支配者”みたいに変わっちゃった感じですね。」

教師は静かに頷いた。

「そうですね。
 ただ、天皇は“神と人とをつなぐ存在”という本質を失ってはいませんでした。
 政治を行うことも、国を守り、民の平安を祈るための手段だったのです。」

黒板の下に、教師はもう一つの言葉を書いた。

『祈りの政治』

「古代日本の政治は、法と祈りが一体となっていました。
 天皇は神々に祈りながら、法によって国を治める。
 これが“律令国家”の姿です。」

鐘が鳴り、生徒たちは静かにノートを閉じた。
その静寂の中で、教師は最後にこう語った。

「次回は、律令国家が完成した奈良時代において、
 “国をまとめるための宗教と文化”がどのように発展していったのかを見ていきましょう。」
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