『戦後80年の教室──記憶と対話のディベート』

キユサピ

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第九十五話 飛鳥の理想──聖徳太子と仏教の国づくり

教室のスクリーンに、古代の地図が映し出された。
先生はゆっくりとチョークを取りながら、黒板に大きくこう書いた。

「飛鳥時代 ──日本という国のかたちが生まれたころ」



「先生、聖徳太子って、このころもういたんですか?」

一人の生徒が手を挙げた。
先生はうなずきながら、穏やかに微笑んだ。

「そう、まさにこの“飛鳥時代”が、聖徳太子が活躍した時代です。
 天皇のもとに“中央集権の国”を作ろうとした、いわば建国の設計者だったんですね。」



黒板に「推古天皇」「聖徳太子」と並んで書かれる。
「このふたりが協力して、日本最初の“政治のかたち”を作っていったんです。」



「じゃあ、聖徳太子って実際にどんなことをしたんですか?」
別の生徒が前のめりになる。

「まず、身分や血筋にとらわれず、能力で人を登用しようとしたんですね。」
先生はチョークを動かし、「冠位十二階」と書き足した。

「紫・青・赤など、十二の色で地位を表す制度です。
 これで“力のある豪族だけが偉い”という考えを少しずつ変えようとした。」



「それに、“みんなが気持ちよく働ける国”にするために書かれたのが――」
先生は振り返り、黒板にもう一つの文字を記した。

「十七条の憲法」

「えっ、今の日本国憲法と関係あるんですか?」と生徒。

「名前は同じですが、意味は全く違います。
 これは“政治を行う者の心構え”を説いたもので、
 『和をもって貴しと為す』という言葉が有名ですね。
 つまり、“争うよりも協調を大切に”という考えです。」



「そして、太子がもう一つ重視したのが“仏教”でした。
 当時の日本では、神道が中心でしたが、
 太子は仏教を“人の心を整える教え”として取り入れようとしたんです。」

スクリーンには法隆寺の金色の五重塔が映る。
「これが、聖徳太子の時代に建てられた法隆寺。
 世界最古の木造建築として、今も残っています。」



「先生、なんで仏教を広めようとしたんですか?」
「よい質問です。」先生はうなずく。

「戦や争いが絶えない中で、“人の心を一つにするもの”が必要だったんですね。
 太子は“祈りによって国をまとめる”という理想を持っていました。
 それは後の奈良時代の“大仏建立”にもつながっていくんです。」



「あと、もうひとつ重要なのが“外交”です。」
先生は黒板に「遣隋使」と書き込む。

「太子は中国の隋に使者を送り、“国としての日本”を認めさせようとしました。
 あの有名な国書、『日出づる処の天子』という言葉が出てきたのもこの時です。」

生徒の一人が感心したように呟く。
「つまり、聖徳太子って“日本を国際社会に出した人”でもあるんですね。」

先生は静かにうなずいた。

「そう。太子の政治は、のちの“律令国家”の基礎になりました。
 彼が描いた理想──“和の心で国を治め、祈りによって人をつなぐ”──
 それが、奈良の都で形になっていくのです。」



黒板の端に、先生は小さくこう書いた。

「和の理想が、国家のかたちを生んだ。」

そして、いつものように教室を見渡して言った。

「次回は、その聖徳太子の理想がどう受け継がれ、
 “律令国家”として完成していったか──奈良時代を見ていきましょう。」
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