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突然死からの転生

アマテラス様は◯◯させたい

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 令和2年4月中頃


 俺は今、洞窟の入り口を塞ぐ大岩の前で途方にくれている。
 心筋梗塞で死んだところまでは覚えているが…。どうしてこうなった??

 ここは、霧に覆われているし真っ暗なのだが、川のせせらぎが聞こえる。なんとなく森の中にいるようでもあり、溢れでるマイナスイオンが疲れ果てた社畜の身に染みわたる。

 それはいいのだが、暗いし寒い。どこだ、ここは?

 冷静に考えよう。

 …俺は死んだ。ならばここは冥界か?だとしたらこの洞窟は何だ?どうして閉ざされている?何でここはこんなにも暗い?

 …。

 なんとなく、上を見上げる

 あっ…。太陽がない。そして洞窟を塞ぐ大岩…。


 ―――もしかして天岩戸…か?


 だとしたら、中には神がいる筈だ。アマテラスオオミカミ。―――日本の太陽神にして最上位の神。

 しかし、死んだ俺が閉ざされた天岩戸の前で途方にくれているって状況はなんなんだろうな。俺、何か悪いことでもしたのだろうか?

 これ、アマテラス様おん自ら出て行こうという気分になるよう、「わらわを楽しませてみせよ」とおっしゃってるんですよね?

(無理)

 俺をなんだと思っている。社畜だぞ?

 ―会社と家を往復するだけの存在。歌って踊って神を楽しませることができるような陽キャではないし、そんなスキルは持ち合わせていない。

(なんのイジメですかね?)

 俺は洞窟の中でほくそ笑んでいるであろう女神に呪詛を吐き、どうにかして現世に戻ろうと洞窟に背をむける。

 現世では、俺の作るゲームを心待ちにしてる人達が大勢いるはずだ。早く帰って仕事をしなければ…。


 重い身体を引きずり、とぼとぼと5メーターばかり歩いただろうか?
 後ろの方でゴゴゴッと音がした。

 岩戸が少し開いたようだ。
中からはまばゆい光と暖かさが漏れ出ている。

 アマテラス様ってのは日本の最高神にして、女神。どんな美女なのだろうか…。見たくないと言ったら嘘だろう。
 俺は好奇心のあまり、つい振り返ってしまった。

 俺が知る物語などにおいて、こういう場面で振り返ると碌な目にあわなさそうだが…


「…見たい?」
 かろうじて聞こえるほど小さな囁き声。よく聞き取れなかったが、魅惑的な響きな気がする。声優でいったら三石琴◯といったところだろうか?

「はい?」
 俺は惚ける。いや、太陽神アマテラスオオミカミとはどんな絶世の美女かと好奇心で振り向いたのは内緒だ。


「だから、わらわの容姿が見たいのかときいておるのじゃ!!!」
 今度は怒ったような声で、はっきりと聞こえた。
やはり声は三石琴◯だ。
 怒っているのは、二度も言わせるなってことか。

 見たいと思っていたし、見たくなくてもそうとは言えない。だって、相手は日本の最高神だもの。そして、なんか怒りっぽいんだもの。

「はい。ご尊顔を拝見したく存じます」

「ふむ、そうか」

 ゴゴゴ、ゴゴゴ

 岩戸が少しずつ開かれていく。

 岩戸が開かれていくにつれて、漏れ出る光も暖かさも増していく。

(あ)

 これはあれではないだろうか?直視したら目が焼かれるパターン。

 かのイタリアの天文学者、ガリレオガリレイは太陽を望遠鏡で観察し続けたために失明したのではなかっただろうか?
 遠くから観察したから、徐々に目が焼かれていくで済んだけど、この距離でこの光の量と強さはやばい。

(1発アウトだ。)

 そう判断した俺は瞬時にひれ伏し地面を見る。光は顔のあたりから発せられているようで、足元はさほど明るくなっていない。アマテラス様の前では、この体勢こそが最適解であろう…。光の量や強さの割に熱量は心地よい程度なのだが。

 天照様は目が眩むほどの美しさだ、とでもいいたいのか?

 確か、天岩戸から天照様を出てこらせるために踊ったり歌ったりして楽しそうな雰囲気を演出して、天照様が外の様子を気にして、少し天の岩戸をあけて「なにか良いことでもあったのか?」と尋ねると「あなた様より美しい女神を見つけのです」といって鏡をみせるんだよな。鏡を見た天照様がびっくりしてるところを引っ張り出したのだったか?

 自分より美しい女神がいたってことによっぽど驚いたわけだ。それだけ、自分の美しさに自信があったんだろうな。

 ま、今回は何か用があるから、カフェイン中毒で突然死した俺をここに連れてきたのだろう。にもかかわらず、わざわざ天岩戸を閉めておくなんてことをするから俺はスルーした。

 俺にスルーされた天照様は、焦って自分から出てきたわけだ。別に意図してやったわけではないが。


 そんなことを考えていると…。

「ほほう…わらわが何も言わないうちから、ひれ伏すか。わらわの容姿がきになるくせに……おかわいいやつめ」

 と、天照様は俺の振る舞いに機嫌を直した様子だ。

 アマテラス様の足元は赤いロングスカートのようなものと白い足袋と草履が見える。巫女服のようなものであろうか?

 しかし、三石琴◯の声で皮肉っぽく言われるとなんというか…見下げすぎて逆に見上げている海賊女帝を思い浮かべてしまうな…。
 

「オモイカネめ。このようなものをわらわの前に連れてくるとは…。まあ良い。そなたが死ぬ前に言っておった望みを叶えてやると言ったら、どうする?」とおっしゃられた。

「は?」

 今度こそ本当にわからない。俺、死ぬ前になんか望みを言いましたっけ?オモイカネってどちら様でしょう??

「戦国時代の超絶ブラック総合商社こと織田信長に仕え、立身出世がしたいのであろう?」

 ………………

 …………

 ……

 そんなこと…そんなこと、言ってませんけどっ!? 



 ♠️ 

「で、(織田信長に仕えるなら)誰になりたい?」
 三石琴◯ボイスが聞いた。

「いやいやいや。俺は逆行転生して織田信長に仕えたいなどと一言も言ってませんが…」

 俺がそう言うと…。
ジリジリジリと周囲の温度が上がっていくのを感じる。

(暑い)

「そなたが戦国時代に生まれたかったというからそのように取り計らってやろうと言うのじゃ。そして、そなたは織田信長に関するゲームのプログラミングに関わっていて、シナリオまで代行して書いていた。なら、戦国時代に生まれ変わって、そなたが仕えるべきなのは織田信長であろう?違うのか?わらわの好意を無にするのか?ん?」

 アマテラス様の声はドスが効いていてとても威圧感がある。
 そして暑い――物理的にとても。
 光の強さも跳ね上がった気がする。

 これは脅し…だよな?神が死んだ人全員の願いをただで叶えるとも思えない。現在の日本の人口だけでも1億人以上。長い歴史で死んだ人の数ともなれば想像もつかない。いかに神とはいえ、これだけの人の望みをいちいち叶えていられまい。
やり口も強引で押し付けがましいし。

 (何かある)

 俺の脳裡に、〝クソ女神〟という単語が浮かぶ。
情けは人のためならずである。

(だいたい、ゲーム制作者を転生させたいんだったら、ゲームデザイナーかシナリオライターを呼べよ。なんでプログラマーの俺を呼んだんですかね?俺がちょうどいいタイミングで死んだから、とか??)

 ここは、俺を転生させたい理由を聞いておくべきだろう。


「なんでそんなにこのわたくしを逆行転生させてまで織田信長に仕えさせたいのですか?」

「…えーと~」

 アマテラス様は可愛くというか、カマトトぶって言い渋った。それと同時に、日の光と暑さも和らいだ。



 この後、アマテラス様が語った内容はこうだ。
 なんでも神には永遠の命があり、永らく生きていると退屈なそうだ。
 そして、退屈すると世界の神々と賭け事をするなどして遊ぶそうな。
 賭けに負けるとベットの大きさに応じてその神が統括する国に災害が起きるらしい。

(まさか…日本に災害が多いのって…こいつがしょっちゅうぼろ負けしてるからなんじゃ…?)

 …ごほん。

 とにかく今回の賭けは、〝もし、本能寺の変が起きなければ信長は世界の覇権を握れたかどうか〟だ。
覇権を握れるに掛けたのは、アマテラス様1人だけ。他の全ての神々は覇権を握れないにかけた。

 つまり、アマテラス様が負けた時の代償は…日本沈没級の大災害。

(アホかー。そんなもんかけるなよ!!!)


 勝敗を決するための舞台も大掛かりだ。わざわざ史実の通りのパラレルワールドを作りやがった。宇宙規模のパラレルワールド。

 だが…。この試みには問題があった。
本能寺の変を起こさせないことが重要なのに、何度やっても起こるのだ。信長が本能寺の変にあってうたれるのは歴史の必然らしい。
よほどのイレギュラーをおこさなければ賭けが成立しないだろうということになった。

 そのイレギュラーが俺というわけだ。
オモイカネという知恵の神がこの役目にふさわしいと選んだのが俺だった。

 俺の使命は、本能寺の変を回避し織田信長に世界の覇権を握らせることということ。

 さて、誰になったらそんな大それたことができるのだろうか…。
できなかったら日本が沈没する。最悪な賭けだ。


(何が「わらわの好意を無にするのか?ん?」だ。このクソ女神!!!)
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