ヴァイオレットは幸せですか?

藤川みはな

文字の大きさ
60 / 61
第二章

最高の復讐


「そうはさせん」

!!

振り返るとアンガス教皇が短剣を私めがけて
振り下ろそうとしていた。

どうしよう、このままじゃ……!!

家族の笑顔が思い浮かぶ。

わたしは……

わたしは死ぬわけにはいかないんです!!

「どうかお願いします!行かせてください!!」

声を上げると黒い蔦のようなものがアンガス教皇の
腕と足に巻きついた。

「な、なんだコレは!!」

「わたしの魔法で拘束させてもらいました。
ごめんなさいアンガス教皇。わたし、
家族の元へ行かないといけないんですっ!
このままだとお父様やお母様が
死んでしまうかもしれないんですっ!!」

アンガス教皇はジロリと私に目を向けた。

「死ぬ、か。」

「え?」

「私の妻はそのような
不確実な運命ではなく確実にやってくる
死の運命によって殺された。」

「アンガス教皇……?」

「死の運命が覆されることなどないのだ。」

残酷なほど冷たい瞳の奥に悔しさが滲んでいた。
そんなアンガス教皇に自分の事のように胸が痛む。

……世界の理を覆すことなどできん

そう言ったアンガス教皇が脳裏によぎる。

死の運命が世界の理だっていうのなら。

「それでも死の運命に抗うことくらいは
してもいいじゃないですか。
アンガス教皇だって抗ってみたんじゃないですか?」

わたしの言葉にアンガス教皇は
鋭い視線を向ける。

「ああ、抗ってみたさ。
だが、結局、妻は殺されたっ!!
私はアイツを殺すためにお前を
聖女として教会へ迎え入れた!!
お前を殺せば、闇の力を得て高魔力を持つ
アイツを殺せると思ったからだ!!

だからお前をころ……」

アンガスさんは口を開けたまま固まっている。
わたしが泣いているのに気づいたからだろう。

どうして人間は悪に染まっていくのか
分かった気がする。

「今まで、辛かったんですね、アンガス教皇、
ううん。アンガスさん。」

「……泣く演技までして何のつもりだ」

「演技なんかじゃないですっ!!
アンガスさんはずっと苦しい思いを抱えたまま
生きてきたのだと思うと
わたしまで悲しくなっちゃって……

でも、殺すのはやめておいた方がいいです。
それに勝る最高の復讐があるんです。」

「最高の復讐?」

「はい!
最高の復讐……それは、その人よりも
ずっと、アンガスさんが幸せになることです」

にっこり微笑むとアンガスさんは
虚をつかれたような表情をした。
でも、すぐに顔を伏せてしまう。

「妻を失って幸せになるだと?笑わせる」

「でも、その人は奥さんを殺したことなんて
なんとも思ってないかもしれない。もしかしたら
忘れているかも。自分だけが苦しくて
相手は忘れているなんてそんなの
悔しいじゃないですか。だから今より
もっと幸せになった方がお得だと思いませんか?」

「何故……そこまで私に情けをかける……」

「理由なんてありませんよ。
ただ、わたしは……
大切な人を失ったことがあるから……
その痛みを知ってるんです。」

前世の両親を思い出し胸がズキッと痛む。

「それに、罪を犯したら
その人と同じになってしまいます。
アンガスさんはそれでいいんですか?」

「……」

アンガスさんはしばらくわたしを見つめていたけど
深くため息をついた。

「行きなさい、ヴァイオレット」

「えっ!! いいんですか?」

「ああ。お前には負けたよ。完敗だ。
……そこの王子も待ってらっしゃることだしな」

王子?

振り向くと柱に体をもたれかけたカイルが
呆れ顔でひらりと手を振っていた。

「ずっとそこで待ってたの!?」

「あぁ、大事な話だったみたいだからな。」

そこで言葉を区切り、
カイルは厳しい目をアンガス教皇へ向ける。

「アンガス・リュート。
事が終わり次第、先程のお前の発言について
詳しく聞かせてもらうぞ。」

「ええ。もちろんです。
皮肉なことにこの娘のおかげで
大事なものを取り戻せました。
それだけで私は満足です」

最初の頃とは違う穏やかな表情にわたしは
目を見開く。

「ヴァイオレット、お前はまさしく聖女だった」

優しく頭を撫でるアンガスさんに
もうこの人は大丈夫だと、そう思えた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

この状況には、訳がある

兎田りん
ファンタジー
 どうしてこんなことになったのか…    ファルムファス・メロディアスは頭を抱えていた。  居なくてもいい場所に、しなくてもいい装いをしている事の居心地の悪さといったら!  俺の関係ない所でやってくれ!  ファルムファスの握りしめた拳の行方はどこに ○更新状況○ 2023/2/15投稿開始 毎週水曜20時頃次回投稿の予定

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました! ※完結後、三人称一元視点に変えて全話改稿する予定です。規約を確認してから決めますが、こちらも残したいと思っています。

転生貴族は現代知識で領地経営して成り上がる

ファンタジー
アズマ王国と国境を接する帝国内のイドウィー半島のメリシア子爵家。 かつては帝国の中央からの追放者を受け入れ、イドウィー半島全域を領有していた。 しかし時が経つにつれて衰退していき、今では半島の西部と北部の一部を領有するまでに衰え、半島全体が各勢力による分裂で弱体化していた。 そんな弱体化した半島に、1331年にアズマ王国のラーディン公爵家の侵攻が始まった。半島内の各勢力は敗北を続けた。 そしてメリシア子爵家の当主になったばかりのアレスがラーディン公爵家を撃退することになったが、敵はこちらの五倍、まともに戦えば勝ち目はなかった上、アレスの前世は日本人。戦争とは無縁の生活をしていた。 しかしアレスは側近とともに立ち上がった。 果たしてアレスはラーディン公爵家に勝利し、領地と領民を守ることができるのか。 これは転生者のアレスが領地経営に試行錯誤しながら取り組み、問題や課題を解決しながら領地を発展させ、大貴族に成り上がる物語である。 ※プロローグを見ないで一話から読むことをおすすめします!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。