ヴァイオレットは幸せですか?

藤川みはな

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「アリス様、残っているのはあなただけです。
真実をお話しください」

お父様が厳しい目つきでアリス様を見た。
アリス様はそんなお父様を真っ直ぐ見つめ返した。

ここは、大公爵邸。
わたしたちは先日起きた事件について
聞くために大公爵家を訪れて話を聞いていたのだ。

今はパーシヴァル様とアナスタシア様、アルヴァン様
から一通り話を聞き終わったところ。

三人とも怪しいところは何一つ見つからなかった。

だからってアリス様が犯人なわけないよ。
あの優しさをわたしは信じてる。

「公爵、まさか俺の妹を
犯人だと決めつけてるんじゃないだろうな」

ギロリとお父様を睨むアルヴァン様。

「いいえ、ただ話を聞いているだけですよ」

バチバチと火花が散る。
うぅ、胃が痛い。

「お父様、やめてください」
わたしがお父様の服の裾を引っ張ると
お父様はアルヴァン様から目を逸らした。

「アリス様、あの日の出来事を
詳しくお聞かせ願えますか?」

お母様、穏やかに笑って首を傾げていますが
ゴゴゴ…という効果音が
つきそうなほど怒っている
オーラが見えますよ?

「二人ともやめてください!
アリス様が毒を入れるはずないじゃないですか!
アリス様はわたしに仲良くしようと
仰ってくださいました。
あの笑顔が嘘なはずありません!
きっと犯人は別にいるはずです!」

拳を握ってそう訴えるとアリス様は
驚いたように固まった。

「…わたくしを信じてくださるの?」

「勿論です!
だってわたしはアリス様のことを
友達だと思っていますから!」

にっこり微笑むと、アリス様は瞳を揺るがせた。

「わたくし、は……」

そう言って俯き、唇を噛み締めるアリス様。

はっ、もしや嫌だった?

「あ、ごめんなさい。友達だなんて
変なこと言っちゃって。忘れてください!」

アリス様は俯いたまま顔を上げない。

「アリス様?」

不思議に思って彼女の名前を呼ぶと
彼女はにっこり笑って顔を上げた。

「いいえ、変なことなどではありませんわ。
ありがとう、ヴァイオレット嬢。
とても嬉しいわ。
ただ、わたくしには…。いえ、何でもありません」

良かった。嫌じゃなかったみたい。

「……あの日、わたくしはヴァイオレット嬢と
カイル殿下の元へ挨拶に行きました。
ですが、決して魔法を使い毒など入れては
おりません。」

アリス様は自信のある目でお父様とお母様に
はっきりと告げる。

「……本当ですか?」

「ええ、本当です」

「しかし、ヴァイオレットに近づいたのは
あなたとカイル殿下しかいないのですよ。
しかも、魔法の痕跡は大公爵家の魔力だけが
残っていたのです。大公爵家の誰かが
ヴァイオレットを害したことに変わりはない。

あなたが嘘をついていないと証明できますか?」

「お父様、それはあまりにも失礼ですよ!」
わたしは我慢できず声を上げた。

なんで、お父様はこんなにも
アリス様を疑うんだろう。

親バカにも程があるよっ

お父様を睨むと、
お父様はシュンとした表情を見せた。

「ええ、証明できますわ」

「当然だ!俺のアリスが
嘘をつくはずがないだろう!」

アリス様の言葉にアルヴァン様が頷き
身を乗り出す。

「息子の言う通りですわ。
アリスは心根の優しい子なのです。
人を害することなどできません」 

アナスタシア様が笑顔を浮かべたと同時に
パーシヴァル様が立ち上がった。

「……公爵、申し訳ないがもういいでしょうか?
これ以上の話は無意味です」

誕生パーティーの時とは対照的に
冷たい目つきになり低い声を出す。

当然だよ!人様の娘さんを犯人として
疑ってるんだから!!

「あなた」
アナスタシア様が困ったように眉を八の字にする。

「主人は娘を溺愛していまして…
気分を害してしまい申し訳ありません。
ですが、わたくし達は真実を知りたくて
話を聞きに来ただけなのです。
そこだけはご理解いただきたく存じますわ」

お母様が胸に手を当て頭を下げた。

さすが、お母様。
フォローが上手い!!

「アリス様も、ごめんなさい。
お父様ってば過保護なもので…」

アリス様の方を向くとアリス様は
紅茶を一口飲んだ後に激しく身体を震わせた。

「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

奇声を上げる彼女を見て
各々驚きの表情を浮かべる。

えっ、な、何!?

「あ、アリス様!?」
わたしは思わず勢いよく立ち上がった。

明らかに様子がおかしい。
身体を後ろにのけ反らせて
白目を剥き震え続けている。

「きゃあっ!!アリス!!」
アナスタシア様が悲鳴を上げ、パーシヴァル様も
何ごとかと目を見開いている。

「アリス!!!」
アルヴァン様がアリス様の肩を掴み揺さぶる。

「ダメです!」
思わず声を上げた。

「意識を失っている時に、身体を揺らしたら
後遺症が残るかもしれません!
アリス様は寝室に寝かせてください!」

アルヴァン様は身体を揺するのをやめて
戸惑ったような顔をする。

「なぜ、そんなことを」

「いいから早く!娘の指示に従ってください!」

お母様がアルヴァン様に鋭い声を向けた。
アルヴァン様はアリス様を横抱きにして
部屋を飛び出した。

…お母様、ありがとうございます。

「セレニテ、アリス様の身体に
何が起こっているか教えて!」

何もない空間に向かって声を上げると
セレニテが現れた。

〈あれは、毒薬による症状よ。
ヴァイオレットとよく似た症状ね。
このままだと、アリスも高魔力を持っているから
魔力暴走を起こして死んでしまうわ。
身体の中で魔力の塊が膨らんでる〉

やっぱり、アリス様は犯人じゃなかった。
犯人は他にいるんだ。

「ヴァイオレット、精霊は何と言ってるんだ」

「セレニテはアリス様の状態を
毒薬による症状だと言っています。
しかも、わたしとよく似た症状だと…」

一同に衝撃が走る。

〈今ならまだ間に合うわ。
アリスをアタシの力で治癒してあげる〉

「ありがとう、セレニテ!
アリス様をお願い!!」

「ヴァイオレット嬢は…一体何者なんだ。
先日の魔力暴走といい、精霊の声を聞き
使役するとは……」

パーシヴァル様とアナスタシア様が
唖然とした表情をしている。

あ、しまった。ついいつもみたいに
会話しちゃったよ…。

「大公爵、娘は偉大な力を持っている。
しかし、このことは内密にお願いしたい」

お父様が頭を下げると、大公爵夫妻は
お互いに顔を見合わせわたし達に向かって頷いた。

「…ええ、公爵の頼みだと言うのなら
そうしましょう」

この時はまだその口元が
醜く歪んでいることに気づかなかった。

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