輝くは七色の橋

あず

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第8話 情報屋の踊り子

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第8話 情報屋の踊り子
 フルスナさんの魔法がスッと終わると私とマレーは思わず拍手をしてしまった。そんな2人からの拍手にフルスナさんも照れたように翡翠色の髪をぽりぽりと掻いた。
「フルスナさんの魔法、神秘的でした!とても素敵なものを見た気がします!都市に色が戻る瞬間ってあんなに美しいんですね…。」
 私は興奮冷めやらぬ感じでフルスナさんに詰め寄り感想をツラツラと喋ってしまった。それはマレーにストップが掛けられるまで続き、フルスナさんは嬉しそうに「褒めてくれてありがとう」と言った。そして、4人で早速色を取り戻したレディカの都市、ラケナリアに入った。
 都市の色が無くなる時は人間も色を失われることがあり、時間が止まっていることもある。ここラケナリアでも何人か人間が色を奪われ時が止まっていたようで、先程まで静かだった街は賑やかになっていた。
 それから私たち4人はラケナリアのマーケット通りでブラブラと散歩をしてみた。
「ラケナリアは今まで何度も色の解放が行われていてね。前回色が戻ったのは5年前…だったかな。直ぐにアンノーンの大群の軍勢が襲ってきて直ぐに色のない街に戻っちゃったらしいの。」
「アンノーンの軍勢が…。一体どこからそんなに大量のアンノーンが…?」
「うーん、スカイに所属する研究者の友達が調べてるみたいだけど、難航してるみたいね…。」
「そうなんですね。その研究内容、気になりますね!」
 ラケナリアの街を歩きながら、私はハヅクさんとお話をした。彼女からの話を聞いて私はスカイの研究員が調べていることにも興味が湧いてきた。今度また本屋さんを見つけた時には研究員さんの論文についての解説本を買いたいなと思っていると、フルスナさんが一件のお店の前で立ち止まった。
「2人とも、レディカは初めてだろう?美味しい料理でも食べながら話をしよう。」
「「!!待ってました、レディカの料理!」」
 私とマレーの2人で瞳を輝かせてフルスナさんに詰め寄ると、彼は苦笑いをしつつ私たち3人の女性のために扉を開けて待ってくれた。そして4人で入店し椅子に座ってメニューを見ると、そこには赤い文字で辛い!痺れる!と言った謳い文句がデカデカと書かれているメニューがあった。
「レディカといえば激辛料理!ここでは初心者のためにピリ辛も選べるそうだから、2人はまずピリ辛の料理をお勧めするよ。」
「料理の写真からしてもう辛そうですよ…。」
 あまりにも赤いスープや料理に私はごくりと喉を鳴らした。私は実家のお店が甘いものを使っているのでたまに辛いものが食べたくなってお母さんにリクエストしてたことはあったが、ここまで辛そうなのは初めてだった。
 私は母が作ってくれたスープを思い出しながらピリ辛レベルのスープともち米を使ったおこわを頂いた。
「ん!ピリッと絡みが来るけど、美味しい!旨みの方が強いんですね!」
 スープを一口飲んで感想を伝えるとフルスナさんもハヅクさんも感心し、同調の意味も込めて"うんうん"と頷いてくれた。マレーの方は…?と隣を見てみるとそこには真っ赤を通り越して赤黒いスープを美味しそうにスプーンで掬って飲んでいるマレーがいた。
「ま、マレー、辛くないの?」
「ん?辛いよ?でも、耐えられる辛さかな!辛さだけじゃなくてちゃんと旨みとか具材の味とか分かるから、美味しいよ!」
 ここで私はマレーがとんでもない激辛好きであることを初めて知ったのであった。
 その後は4人で冷たいアイスのデザートを食べてゆっくりしていると、隣のテーブル席でお酒を煽っている男性2人の大きな声が料理屋のホールに響いた。
「今日は踊り子いねぇのか!?」
「ここなら会えるかと思ったんだがな…。」
 お酒が入ってるせいもあってか声のボリュームが大きかったので隣にいた私たちもその踊り子の存在が気になってきてしまった。
「あの、フルスナさん、ハヅクさん。"踊り子"っていうのは…?」
「ああ、えっと、正式…というか巷では“情報屋の踊り子“って名前で通ってるパフォーマーかな。」
「"情報屋の踊り子"…。アイリス。」
「うん、マレーも考えてることは一緒かな。」
「2人とも情報屋の踊り子に会いたいの?」
 私とマレーが顔を見合わせたのを見てハヅクさんが尋ねて来た。その問いかけに私たちはこくりと頷いた。
「それならタイミングが悪かったかもね…。最近情報屋の踊り子がプルウィウス・アルクス王国の酒場で舞を披露したって話を聞いたばかりなんだよね…。」
「入れ違い…だったんですね…。」
 私たちが落ち込んで見せるとハヅクさんは慰めるようにマレーの肩に手を置いた。
「ってことは最近では王国に情報屋の踊り子が来ているんですよね?」
「あ、ああ。そうなるけど…。」
「私の実家は商業エリアで酒場も近いですし、酒場を利用する人の中で私の実家のお店を利用してくれる方もいらっしゃいます!話を集めることができるかもしれません!」
「その手があったか!アイリスの両親に魔力鳩で連絡して情報集めてもらおうよ!」
 私の思いつきにマレーは納得したようで、直ぐに魔力鳩に付けるための手紙用の紙とインクを取り出してくれた。サラサラッと文字を書き上げると、私は窓を開けると自分の魔力鳩を呼べる笛を吹いた。すると、夜の空に私の魔力鳩がやって来たので、飴玉一個と手紙を添えて魔力鳩にパティスリー・シュガーツへ行ってもらうよう魔力を込めておいた。私の飴玉があれば前まで過ごしていたパティスリー・シュガーツまで辿り着けるだろうと思って鳩に飴玉を引っ付けておいたのだった。
 魔力鳩を解き放ったことで、私とマレーは情報屋の踊り子から聞き出したい内容についてハヅクさんやフルスナさんには予め双子誘拐の事件と共に軽く話しているので、そのことについて踊り子が情報を持ってくれているとありがたい…という話を最後に食事会はお開きとなった。
 それからフルスナさんもハヅクさんもインディゴとしての仕事が山積みらしく、直ぐに王国内の別の場所に行くことになっていた。
「フルスナさんの魔法、とても綺麗でした。いいものを見せてくださりありがとうございました!」
「2人の旅路に幸運が有らんことを。」
 私はフルスナさんと握手を交わし、マレーはハヅクさんと握手をしていた。そして私たちは2人を見送って、ラケナリアから出て新たな都市の色の解放を進めるべく、ラケナリアから北西に行くとあるゴデチアという都市に向かうまでにある森でアンノーンの根城を見つけた。それからというものの、毎日のようにアンノーンの根城に行き、色素の小瓶を集めた。
 王国にいる両親から情報屋の踊り子についての返信が来たのは3日後のことだった。
「手紙にはなんて?」
「えっと、ケーキを買いに来てくれる常連さんが情報屋の踊り子の舞を見たそうで…。今度はどこの酒場で踊るんだって聞いたら、故郷で進展があったそうなのでレディカに戻ります、って…。」
「情報屋の踊り子の出身はレディカなんだね…。故郷での進展ってことはラケナリアに来るってことだよね?」
「うん。そうだと思う。この1週間は酒場に張りつこう。」
「そうだね!さて、もうひと踏ん張りアンノーン倒して色素の小瓶を集めるぞー!」
 情報屋の踊り子への情報が順調に集まり、重要人物となりうる人物に会えるのは私だって楽しみだ。少しでも双子についての情報があればいいんだけど、と小さな願いを込めながら。
 ――――――
 それから1週間。私たちは毎晩酒場に行き、情報屋の踊り子がやって来る日を待った。そして張り込み生活7日目を迎えた夜。いつものオレンジジュースと夕食用のシチューを食べながら情報屋の踊り子が出て来ないから少し目を光らせていると。彼女はやって来た。
 酒場の一角に設置されたステージに立った彼女は妖艶な雰囲気を醸し出しており、顔は切れ長の瞳、可愛いよりも綺麗に極振りしたような絶世の美女。それに身に纏っているのは肌の露出が少し多い、綺麗に割れた腹筋が彼女のストイックさを感じられた。そして音楽に合わせて踊り出すと華麗に踏まれるステップ。手の先、足の先まで意識を集中させて踊る甘美な舞に私もマレーも言葉を失った。
 1曲終了してお店のそこらじゅうから拍手喝采が起こったので、私とマレーも負けじと大きな拍手を送った。
 それから踊り子は2,3曲終わるとペコリと頭を下げてステージを後にした。
 そこで私たちは見失ってはチャンスを棒に振ってしまうと思って、ステージから降りて一息ついている情報屋の踊り子に接触した。
「あの、"情報屋の踊り子"とはあなたのことですか?」
「…えぇ。そうだけど…。何か欲しい情報でもあるのかしら?」
「はい。ちょっと人探しで…。何か情報を持ってない、かなぁ~…と…。」
「分かったわ。私の知る限りの情報を売るわ。着替えて来るからさっきの席で待っててくれる?」
「あ、はい、分かりました。」
 私は情報屋の踊り子さんに言われた通り、さっきまで食事をとっていた席に座り、彼女がやって来るのを待っていた。
 さっきのドレス姿からチュニックとレギンス姿のラフなスタイルの彼女が現れ、私は早速双子についての情報を聞き出した。
「あの、私の双子の弟と妹が攫われまして…。その攫った相手の情報が欲しいんです。7歳の双子の大きさの麻袋を持った不審な人物がレディカに向かったという話を聞いてここまで来ました。情報屋の踊り子さんはそう言った不審な人物の情報を持ってないでしょうか…?」
「7歳の双子のサイズの麻袋を持った人物か…。申し訳ないけど、そう言った情報は今の私は持っていないわ。同業者に聞いて回ることも出来るけど、どうする?」
「!是非お願いします!」
「分かったわ。情報が入り次第、魔力鳩で知らせたいんだけど、あなたたちの魔力を得るために何か所持品が欲しいんだけど。」
「あ、それなら私の魔法の飴玉を差し上げます!」
「魔法の飴玉?」
 私が腰のポーチから袋に入った飴玉を取り出すと、情報屋の踊り子さんに渡した。彼女は物珍しそうにいろんな角度から飴玉を見ると、大事にしまった。
「情報が入り次第、魔力鳩で知らせるわ。えっと、名前は…」
「私はアイリス・シュガーツと言います!」
「私はマレー・クラウド。」
「アイリスとマレーね。私はサーシャ。よろしくね。」
 自己紹介を軽く済ませて3人で握手を交わすと、サーシャさんは直ぐに情報を集めるために酒場を出て行ってしまった。
 それから私たちはサーシャが情報を得て帰って来るまで次の都市の解放のために必要な色素の小瓶を集めるべく、ラケナリアに近い森でアンノーンたちを倒していた。
 サーシャさんから情報を得たとの連絡が来たのはそれから1ヶ月後のことだった。
 この日もラケナリアの森でアンノーンを倒し、森から街へ帰ってきたところで私の魔力鳩がやって来たのだった。
「サーシャさんからの連絡だ!えっと…、7歳の子供が入るようなサイズの麻袋を持った黒づくめの人物がゴデチアという街で目撃された…と。」
 私がサーシャさんからの手紙を読み上げると、マレーは地図を確認した。
「ゴデチアっていうとラケナリアの北西ね。行ってみよう!」
「うん!」
 こうして私たちはサーシャさんから得た情報をもとにラケナリアの北西、ゴデチアという都市に向かった。
 ゴデチアは色が失われたままだったので、私の魔法の飴玉を舐めながら捜索活動を行っていた。ゴデチアは温泉街だったようで観光客諸共色が失われ、時が止まっていた。
「ここの色の解放もしなくちゃね…、でもその前に怪しげな人物は居なさそうね…。」
「ちょっと来るのが遅かったのかも…。ん?マレー、あれ見て。」
 私が不審なものを発見し、マレーに分かるように指を差した。そこには本来プラムというギルドの魔法使いが守っているはずの魔力の泉があった。だが、そこにはキラキラと輝く魔力の泉はなく、枯れ果てているようだった。
「魔力の泉が枯れてるなんて…。」
「なんか怪しいよね。」
 本来魔力の泉は色を失った土地でもこんこんと湧き出ている…はずであり、こうして泉が枯れてしまっているのは不自然だった。
「魔力鳩の別の使い方を試してみよう。黒づくめの相手の狙いが魔力の泉のような豊富な魔力源だとすれば、魔力鳩が導いてくれるかもしれない!」
 マレーがそう言うと自分の魔力鳩を呼び寄せた。クルッポー!と鳴き声を上げながらやってきた魔力鳩にマレーは言い聞かせた。
「いい?豊富な魔力源を追うのよ。」
マレーの言い聞かせに魔力鳩は翼をはためかせて飛んだ。私たちは魔力鳩を見失わないように追いかけた。そして、魔力鳩が飛んでいったのはゴデチアから東に向かった火山の麓のセラサイトという都市だった。
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