輝くは七色の橋

あず

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第25話 断るべし

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第25話 断るべし
 特殊個体“コニア“と名付けられたあの体長2メートルほどの二足歩行をするアンノーンの討伐にはリキリスさんのパーティーだけではなく他にも2,3個のパーティーが同時に攻撃をして倒す算段らしい。私はその話をリキリスさんから聞いてちゃんと攻撃のタイミングを合わせることが出来るのだろうか…と不安になっていた。そんな不安もリキリスさんは分かっていたらしく、私の肩に手を置いて安心させるようにニッと笑った。
「大丈夫!俺らのパーティーは1人も欠けることなく、特殊個体"コニア"を倒すことが出来るさ!みんな、やるぞ!」
「おーっ!!!」
 私とマレー、オルキスさん、ヘルゼナさん、モッツさんがそれぞれの武器を掲げて闘志を燃やしているとリキリスさんが他のパーティーの代表に呼ばれたので、私たちは戦闘が始まるまでヘルゼナさんたちと談笑をしていた。
 するとパーティーリーダーの会議が終わったらしい、リキリスさんが怖い顔をして帰ってきた。
「リキリスさん、何があったんですか?」
「…アイリス、君の魔法の飴玉の話は誰にもするな。」
「え…?」
「他のパーティーの連中は君の魔法の飴玉狙いでこの戦いに参加するつもりだ。いくら君でもこの人数分の魔法の飴玉の生成は…。」
「全部で何人ですか?」
「え…、15人はいると思うが…。」
「15人で身体強化と魔力強化の飴の2つずつをあげるとすれば30個必要ですね。それに加えて飴玉を舐め切った後の追加の飴玉も考えると60個は生成しないといけないでしょうね。」
「だから!アイリスにだけ負担が掛かってしまうと…!」
「大丈夫ですよ。私は一晩で魔法の飴玉50個は生成出来たので。自分でも魔力強化の飴玉を舐めれば10個の増量も可能だと思います。なので、私の魔法の飴玉があれば皆さん、色のない土地でも活動できるんですから。"コニア"を倒すためなら私の力なんて出し惜しみしませんよ。」
「アイリス…。」
 私がさらりと言い退けるとリキリスさんは俯いてから前髪をガシガシと掻いていつも爽やかな青年といった印象が崩れるような行動を取った。
「あ~!分かった!アイリス、君の魔法の飴玉の効果がカギとなる!戦いよりも飴玉の生成に集中してくれ。君のことは僕たちが守る。"コニア"をこの手で討伐できないのは悔しいが、仲間を守れないほうがもっと悔しいからな!」
「リキリスも正直に討伐に参加したいって言ってくればいいのにね。」
 リキリスさんが観念したように言葉を連ねているのを見てると、私の隣にはヘルゼナさんがやってきて、呆れたようにフッと笑った。
「ヘルゼナさんはリキリスさんと長い付き合いなんですか?」
「ええ。一緒に街で育って一緒に冒険に出て…。幼馴染ってやつね。腐れ縁の方がいいかしら?」
 真剣に悩むヘルゼナさんの様子を見て、私はくすくすと笑った。私の笑う姿を見てヘルゼナさんは私の頭にポンッと手を乗せてくれた。
「アイリスは自分の魔法で他の人を助けることが出来る。でも、それよりも、まずは自分のために魔法を使うんだよ?分かった?」
「…私そう言う言葉この人生で何度も聞いてるので、分かり切ってるんですけど。」
 私がぷくっと頬を膨らませて機嫌が悪い態度を取るとヘルゼナさんは愉快そうに"あはは!"と笑ってリキリスさんの方へのと向かってしまった。そんな私の隣に今度はマレーがやってきた。
「ヘルゼナさんと何話してたの?」
「私の魔法は自分のために使えって話。もう、分かり切ってるっての!」
「そう、カリカリしなさんな。アイリスの魔法はすごいんだから。そのことでみんなアイリスに頼っちゃうかもしれないから。リキリスさんたちはアイリスを守りたいんだよ。」
「むー…。」
 そんな話をしていると、"コニア"を狩りに行く時間が迫ってきたので、私たちはヘリコニアの森林区域の中に入って、アンノーンの集落がある場所まで隊列を組んでザッザッと歩き出した。15人ほどの今回の討伐隊は前衛と後衛がバランスよく分かれているらしい。さっきモッツさんが教えてくれた。それで私は特例なので、短剣を持ったまま飴玉の生成をしつつ、後衛を守る仕事もこなさなければならなかった。
「(これは想像以上に忙しくなりそう…)」
 私は"頑張ろう!"と思って拳を握り、キッと前を向くとアンノーンの集落が見え、そこには相変わらず体長2メートルほどの特殊個体アンノーン、"コニア"が待ち構えていた。
「戦闘開始!」
「うぉーーー!!」
 どこの誰かは知らないが、今回の討伐隊の指揮を執っているカーマインに属している魔法使いが合図を出したのと同時に私たちは草木を掻き分け、アンノーンの集落を襲撃した。私はすぐにポンポンと飴玉を作り出し、戦場を駆け抜ける魔法使いの人たちに飴玉を渡していった。
 予定では60個ほど作るかと思っていたが、戦闘は呆気なく終わった。最後の一撃はなんとリキリスさんが取ったのだという。飴玉の生成も50個に届きそうなくらいで止まっており、私はとりあえず戦闘が無事に終わったことに一息吐いた。
 そして、マレーと拳を合わせて生き残ったことの喜びを分かち合っているとヘルゼナさんやモッツさん、オルキスさんも来て拳を突き出してきてくれたので、コツンと拳をみんなで合わせて勝利を分かち合った。
 そして、最初のパーティーリーダーの決め事であったらしく、最後の一撃を取ったリキリスに特殊個体"コニア"がドロップした色素の小瓶5本分を受け取ることが出来たという。そして直ぐに部隊は森林区域から見晴らしの良い草原区域に移動し、そこで色彩鑑定士の資格を持つリキリスさんが特殊個体"コニア"から採取した色素の小瓶の鑑定を始めた。鑑定は15分ほどで終わり、今回で集められた色素の小瓶を合わせても100本近くなる色素の小瓶を集めるとリキリスさんは声を高らかに宣言した。
「特殊個体"コニア"から採取した色素の小瓶がヘリコニアの街の解放に必要な色と一致した!本数も十分に足りている。ここに着彩士の資格を持つ者はいないか!」
 なんと一発でヘリコニアの復活に必要な色素の小瓶を揃えることが出来たのかと驚いていると別のパーティからおずおずと手を上げて前に出てきた魔法使いがいた。
 身長が低く可愛げな印象がある女性の魔法使いだった。
「わ、私が着彩士の資格を持っている、チカと言います。直ぐにこの都市の色を取り戻して大丈夫でしょうか…?」
「ああ、よろしく頼む。」
 リキリスさんの隣にやってきたチカという女性の魔法使いはリキリスさんから色素の小瓶を受け取ると、蓋を開けて地面に並べた。そして、自分の身長と同じくらいの長さがある杖を一振りして、魔法を発動させた。
 彼女の魔法は蝶のようで蓋の開いた小瓶から色素がふわりと浮かんだかと思えば蝶のような形になり、ヒラヒラと舞い飛びながら、その蝶たちは群となり、大空に飛んでいった。そして上空の一点で丸く集まると、チカさんが大きな声で「行って!」と言うと蝶たちは一斉に弾け、地面に向かってヒラヒラと飛び地面に触れた瞬間にそこの色が戻り始めた。蝶による幻想的な着彩方法に私とマレーは口を開けたままその風景を見入っていた。
 こうしてレディカの国で6つ目となる都市、ヘリコニアが復活したのだった。
 ――――――
 ヘリコニアが復活してから直ぐに私たちはヘリコニアに入り、宿屋でマレーと一緒のダブルベッドルームを借りて部屋に行こうとするとリキリスさんから話があるから荷物を置いたら直ぐに1階のラウンジまで来てくれと言われたので、私たちはなんだろう?と疑問におもいながらも急いで荷物を置いてラウンジへと向かった。
 ラウンジに向かうとそこには先ほど幻想的な蝶による着彩法を見せてくれたチカという女性がリキリスさんの隣に座っていた。
「お待たせしました。あの、話と言うのは…?」
「まぁ、アイリス、マレー。そこに座ってくれ。」
「あ、はい…。」
 私とマレーは顔を見合わせてからラウンジのソファーに座ってリキリスさんとチカさんに向かい合う形で座った。私たちの後ろにはヘルゼナさんやオルキスさん、モッツさんが控えているがチカさんの後ろには誰もいなかった。
「(1人でここへ来た…?パーティーメンバーと何かあったのかな)」
 と私がそんなことを考えていると、リキリスさんが少し言いづらそうに私の方を見てきた。
「アイリス、チカさんから君に話したいことがあるそうなんだ。聞いてくれるかい?」
「?はい、私に何か…。」
「あの、私のパーティーリーダーのハギリさんという方がいらっしゃるんですが…、その人からアイリスさんを引き抜いて来いって言われまして…。」
「引き抜いてくるって…。私をパーティーに入れたいってこと?」
 私がそう言ってチカさんに確認を取ると彼女は静かにこくりと頷いた。
「私が言うのもなんですけど、ハギリさんはアイリスさんの飴玉の力を我が物にしようとしています。アンノーンがうろつく色素6カ国にいても魔力の散漫を防ぎ、魔法も問題なく使えるという話は今やレディカにいる魔法使いたちのほとんどはその情報を知っています。それでアイリスさんを自分のパーティーに入れたいと躍起になっているんです。」
「そんなことが…。私の飴玉の本当の力がいつのまにかバレてたって訳ね…。」
 私がそう言うと目の前のチカさんは泣きそうになりながら頭を下げた。
「ハギリさんは諦めが悪い人です、どうか、アイリスさん本人から申し出を断る意思を伝えない限り、ハギリさんはしつこく付き纏います!アイリスさんはアイリスさんで旅の目的があると風の噂で聞いています。どうか、ハギリさんを諦めさせてください!お願いします!」
「チカさん…。わざわざそのことを言いに来てくれてありがとう。私もこの力のせいで色々狙われたり勧誘されたりってあったけど…、私はこの力を自分のために使うって決めてるの。自分のため、自分が守りたいと思った人のために…。だから、チカさんの言うハギリさんには私の方からバッサリ切り捨ててあげますから、安心してくださいね。」
「!!ありがとうございます!ハギリさんは今はヘリコニアの中でも上質な酒を出すという酒場で情報屋の踊り子が来てると聞いてそこに行ってます。そこで決着を付けてください!」
「ありがとう、チカさん。あなたはハギリさんの仲間として動いてるんじゃないの?」
「私は…半強制的なんです。隷属の契約をされてて、あんまり指示に背くことは出来なくて…。でも今回はその契約が薄まってきてるのに気付いて。私の魔法で色素の小瓶から蝶を使って隷属の証を消すことが出来て。それをハギリさんは知らません。私は必ず好奇を見て脱出するつもりです。私も自由になりたいので…。」
「チカさん…あなたは強いのね。必ずハギリさんとは縁を切って自由に生きてくださいね。」
「はい!」
 こうしてチカさんと握手を交わしてから私はマレーなリキリスさんと離れてチカさんの案内で問題のハギリさんがいる酒場にやってきた。
「ここです。」
 酒場の外にいても強いお酒の匂いが充満しているのが分かる。鼻を摘みたくなるのを我慢して私は酒場に入ると、そこでは特殊個体"コニア"を倒せた祝杯だと言って豪快に酒を飲んでいる男性がいた。
「ハギリさん、アイリスさんを連れてきました。」
「おう、チカ、ご苦労だ。んで、アイリスさんよぉ、俺たちの仲間になってくれや…。」
 酔っ払いの声色で私に寄ってくる彼に私は顔を背けたくなった。それほどお酒の匂いがきつく、私はその匂いだけでも酔ってしまいそうになった。
 そこで私は気づいた。ハギリさんの隣でお酒を注いでいたのがサーシャさんだったのだ。私が彼女に気付いたことに、彼女も気付いたようで"しーっ"と人差し指を口元に持って行って黙っててもらうようにジェスチャーをしていた。私も了解のために小さく頷くと、大きく息を吸った。
「ハギリさん、申し訳ありませんが、私はあなたのようなクズの仲間になるつもりは毛頭ありませんので、仲間へのお誘いは断らせて頂きます。」
 私が清々しいほどのキッパリと断ったのを見て、酒場はシーンと静まり返った。
 そして、顔を真っ赤にしてハギリさんは"あぁん!?"とメンチを切ってきたので、私は怯むことなくもう一度言った。
「ですから、あなたの仲間になる気など一切ありません。失礼します。」
「あっ、おい!!!この俺に逆らっていいのか!?」
「どの俺でしょうか。」
「くっ…、小娘がぁっ!」
 所詮は酔っ払い。千鳥足がもつれて自分で酒場の床に転ぶと、彼は羞恥心と怒りでさらに顔を真っ赤にして私に突っかかってきた。
「ただの飴玉しか作れない無能なくせに!俺が仲間にしてやるっつってんだから、大人しくなれ!!!」
「その無能の飴玉に縋ろうとしてるのはどこのどいつよ…。」
「は!?」
 私の小さなつぶやきにも反応するようなので、私はもう一度キッパリと言い放った。
「私は!あなたのような下劣極まりない人を仲間だとは思いたくありません。いくら誘っても仲間になどなりません。それでは!失礼します!行きますよ、サーシャさん。」
 私はそう言ってハギリさんの前から酒を注いでいたサーシャさんの手を引っ張り、酒場を出たのだった。
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