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冒険者と喫茶店

Level.67 ウェポンゴーレム

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Level.67 ウェポンゴーレム
 ルナの母親セレーネの声に応じたウェポンゴーレムはがしゃがしゃと音を鳴らしながら、右手のモーニングスターをレイニーに向かって振りかざしてきた。
「ッ!」
 レイニーは自分の槍では防ぎきれないと判断し、モーニングスターを避けたが直ぐにモーニングスターの右腕から別の武器がせせり出てきて再度ステップで避けたレイニーに向かって刃を向けた。寸前のところでレイニーは体を捻って武器の斬撃を避けたが、頬には切り傷が生まれた。
「ゴールドランクの冒険者でも所詮は田舎町の小娘ね…!私の生み出したウェポンゴーレムには敵わないわよ!」
 声高らかに笑うセレーネにレイニーは頬の切り傷の痛みを感じながら、ウェポンゴーレムの弱点を突かないことにはこの戦いには勝てないと思い、エミュレットと顔を見合わせて頷き合うと、レイニーは槍を構えて、一気にトップスピードでウェポンゴーレムの足元までやってきた。がしゃん!という音と共にレイニーはウェポンゴーレムの左足に向かって槍で横薙ぎしたが武器がまとまりあって出来上がったウェポンゴーレムには傷一つ付けることができなかった。
「あははは!無駄なことを!!」
 レイニーはセレーネの嘲笑を聞きながらも、ウェポンゴーレムの様々な武器による攻撃をなんとか避けきり、エミュレットの援護で次々とウェポンゴーレムの足にガンガンと槍で攻撃を続けた。エミュレットは遠距離から精霊たちの力を借りて、レイニーの援護してくれた。そしてレイニーにウェポンゴーレムの傷が生まれると、別の精霊の力で回復していったのだった。レイニーたちの連携に最初は嘲笑っていたセレーネだったが、次第にレイニーたちが諦めない姿勢に疑問を抱き始めていた。
 そして槍や精霊の攻撃を繰り返すこと数十回。レイニーが最後は武器に魔力を帯びさせて、雷の鉄槌を発動させて、ウェポンゴーレムに一撃を食らわせた。
「これで!どうよ!!」
 ズガァンッ!と落雷の音と共に雷の鉄槌がウェポンゴーレムの左足に叩きつけられると、ウェポンゴーレムは全身が痺れるようにガガガ…と動きが鈍くなった。その隙にレイニーとエミュレットは体力回復と魔力回復のポーションを飲み、エミュレットが魔力感知でウェポンゴーレムの核を見つけ出した。
「レイニーさん!右肩に核となっている武器の短剣があります!それを!」
「了解!」
 レイニーはポーションの効果を感じながら、槍を構えると、一直線にウェポンゴーレムに向かって行った。
「そう簡単にやられる訳ないでしょッ!!!ウェポンゴーレム、直ぐに体制を整えなさい!」
 レイニーが近付いてくるとセレーネは焦ったようにウェポンゴーレムに指示を出したが、ウェポンゴーレムはその場から動けずにいた。
「なッ!どうして動かないのよ!この役立たずめ!」
 レイニーはただ闇雲にウェポンゴーレムの足を攻撃していた訳では無い。少しずつ魔力をウェポンゴーレムの足に付着させ、神殿の床に蒼電糸膜を僅かに発動させていたのだ。それで先ほどの雷の鉄槌によって電流が全身に流れ、その電流によって蒼電糸膜が発動し神殿の床とゴーレムの足をくっつけさせて動けなくさせたのだった。
 ガシャアン!!と大きな音を立てて、ウェポンゴーレムが神殿の床に倒れ込むと、レイニーは少し距離を取ってからダッシュでウェポンゴーレムに向かって走り出した。
「嫌だ…、や、やめなさい!私の最高傑作を…!」
「雷の…槍!!!」
 レイニーは床に倒れ込んでいるウェポンゴーレムの右肩の核となっている武器の短剣目掛けて雷の槍で突っ込んだ。
「壊れろぉおおお!!!」
「いやぁあああッ!」
 レイニーが雷の槍で短剣に向かって攻撃すると、セレーネの最後の足掻きか、いくつもの武器がレイニーに攻撃してきて体に突き刺さった。レイニーは口から血を噴き出したが諦めることなく雷の槍の魔力を込めて、力強く槍を押した。そしてピキリという音がしたかと思えば、レイニーの一点集中の雷の槍の攻撃力に耐え切れず、短剣がぽきりと折れた。短剣を折ったことでウェポンゴーレムはガシャンガシャンという派手な音を出して、突風を拭き荒して崩れ落ちた。
「はぁッ、はぁ…ッ。セレーネさん、あなたの負けで…ってどこ!?」
「レイニーさん!」
 レイニーは渾身の雷の槍を放った影響で、肩で息をしながら、セレーネがいた玉座を見てみると、そこはもぬけの殻で誰もいなかった。シオンとエミュレットがレイニーを心配して駆け寄ると、セレーネがいつの間にかいなくなっていることに気がづいた。
「先ほどのウェポンゴーレムが倒れた瞬間の突風でその場に居た全員が顔を覆った時にどこからか、抜け出したみたいですね…。あの不思議な浮かぶ石も持って…、このまま取り逃がす訳には…!」
「分かりました…、シオンさんとエミュレットさんはセレーネさんを追いかけてください…!」
「レイニーさんは…!」
「私は体力と魔力の回復ポーションを飲んで動けるようになったら、後を追いかけます。今はセレーネさんをどうにかしないと…!」
「シオンさん、私たちはセレーネ様を追いかけましょう!レイニーさんには、精霊が付いています。何かあっても大丈夫です!」
「わ、わかりました!」
 シオンは少しレイニーの体調を心配をしていたが、エミュレットの決断に頷くと、セレーネが逃げたであろう、玉座の裏の階段を使って外に向かった。
「はぁー…。」
 レイニーは二人に早く追いつくために体力と魔力の回復ポーションをぐいっと飲むと、いうことを聞かない体を無理に動かして、少しづつ玉座裏の階段を這いつくばって登った。すると外の眩しさに目を細めていると、レイニーの精霊のミナとフーカがいつの間にか現れてレイニーの腕を持ち上げて、歩こうとするレイニーの力になってくれた。
 そして神殿近くの森で、戦闘音が聞こえてきたので、レイニーたちは頷き合って、少しでも早くその場に辿り着けるように速足でその場に向かった。
 するとそこでは緊迫した空気が流れていた。レイニーが到着した時、セレーネは空に浮かんでいて、シオンがセレーネの腕の中にいて、武器を突き付けられていた。地上ではエミュレットとリトがその様子に動くことができずにいた。セレーネの傍には相変わらず銀色の石が浮かんでいて、あの石の効力でセレーネが宙に浮いているのだとレイニーは推測した。
「シオンさん!」
「動くな!」
 レイニーがセレーネに捕まっているシオンに声を掛けて、一歩を踏み出そうとすると、セレーネは鬼の形相で片手剣をシオンの首に突き付けた。
「一歩でも動いたら、この小娘の首を跳ねるぞ!よくも…よくも私たちの操り人形たちをこんな風にさせて…。許さない…ッ!」
 セレーネの視線の先には、リトが介抱していたルナがいる飛行船に向けられていて、ルナは無事なことにレイニーはホッとした。だが、目の前の状況を打破するための解決策が見つからずにいた。
「せ、セレーネ様…。」
シオンは苦しそうな表情で、セレーネの腕の中でもがいた。少しでもレイニーたちに有利になってほしくて、動いていると、ピッと首に片手剣が当たってシオンの首に傷がついた。その瞬間、セレーネがシオンに視線を向けたのと同時に地上にいたレイニーたちは動いた。エミュレットが光属性の精霊の子の力を借りて、ピンポイントでセレーネ目掛けて光線を放ち、その手に握られていた片手剣を弾くと、地上からリトがその剣を燃やすがごとく剣を双蒼牙狼でセレーネの腕ごと焼いた。
「ぐ…ッ!!」
 これで片手剣を握ることができなくなったセレーネにレイニーはフーカの力を借りて、ふわりと宙に浮いた。そしてセレーネと同じ高度に達すると、ミナの力を使って、槍を持った右手を空に掲げた。
「ミナ!」
「はい、主。スタンするだけでいいんですね?」
「うん。お願い。」
 レイニーがその右手を掲げ魔力を込め始めると、今まで晴天だった空にゴロゴロと雷雲が近付いてきて、レイニーたちの頭上には黒い雲が生まれた。
 そしてレイニーがサッとセレーネ目掛けて右手を振り下ろすと、ピカッと稲妻が光ったかと思えば、一瞬でセレーネに雷が落ちた。
「がッ…」
 雷はミナの力によって電圧がそれほど高くなく、セレーネをスタン状態にする目的だけでセレーネは意識を失って、浮島の地面に向かって落下していった。そして落雷の際にセレーネの傍にあった銀色の石にも電撃が伝わっていたようで、レイニーは落下するセレーネをガッと首を持ってなんとか空を飛んでゆっくりと浮島の地面に降り立った。シオンの方はリトが地面に叩きつけられる前に助けていたようだった。
 レイニーは銀色の石を持つと、すぐに傍に居たエミュレットに投げた。
「エミュレットさん、これ何かで包み込んで!」
「は、はい!」
 エミュレットもこの石がなんらかの力を持っていることを悟ったのか、すぐにハンカチで石を包むとレイニーにそれを見せた。レイニーはホッとしたように微笑むと、意識を失っているセレーネを縄で縛り、目が覚ました時に暴れないようにした。
 そうしてセレーネの暴挙が収束したかと思ったのも束の間、ガクンと浮島が揺れ、次第に重力に従って落下し始めた。
「この浮島、落ちてる!?」
 
 
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