伯爵令嬢の黒の婚約

密かな思い

　しばらく泊まっていいということで、わたしはお邪魔することにした。
　素敵な部屋も貸してもらえた。
　古びた書物のニオイ、花のニオイ。
　それに、アロマのニオイもした。

「広くてとても素敵な部屋ですね」
「ミレヴァ、自由に使ってくれ。それといつでも僕を頼って」
「ありがとうございます」
「じゃあ、僕は少し用事があるから」

　そう言い残してアインは部屋から去っていく。……となれば、わたしのやるべきことは、ひとつ。
　あのメイドの悪事を暴く。

　部屋を出ようとすると、扉の向こうから気配がした。アインが戻ってきたのかな。

　コンコンとノックする音が響く。
　わたしは「どうぞ」と短く返事をした。
　扉が開いて入って来る人物に、わたしは少し驚いた。


「ミレヴァ様……」
「あなた、メイドね。どうしてここに」
「……どうしてって、それは当然です」
「え……」

　前の前に殺気を感じた。
　メイドは包丁を振り回して、わたしを殺そうとした。ギリギリで避けて、ケガはしなかった。

「よくも、アイン様を！　アイン様を！！」
「どういうこと」
「アイン様を愛するのはわたしだけです！！」

　また包丁が目の前を掠める。
　そうか、このメイドはアインを密かに思っていたんだ。その歪んだ思いがエドゥアルトくんさえも邪魔となってしまったわけだ。
　そして今もわたしを排除しようと包丁を振るっていた。

　やっと分かった。
　このメイドがどうしてエドゥアルトくんをいじめるのか。それと、わたしを殺そうとしているのか。

　なら、もう容赦はしない。