味噌汁令嬢 味噌汁がまずくて婚約破棄されたけど、覚醒した料理スキルは万能です

桜井正宗

文字の大きさ
3 / 7

まだ諦めない

しおりを挟む
 出来立ての味噌汁を容器に入れ、わたしはジェフの屋敷へ向かった。
 今度こそ……見返してやるんだ。

 玄関まで辿り着くと、ちょうど彼が出てきた。

「……フェ、フェリシア!?」
「ジェフ、わたしは帰ってきました。あなたにこれを食べていただく為に!」

「ふ、ふざけるな。お前とは婚約破棄したんだぞ! それに、味噌汁は嫌いだ!」

 拒絶するジェフは、屋敷の中へ戻っていく。
 諦められないわたしは、扉に足をかけた。


「待って下さい。一口でいいので食べてください」
「……断る! フェリシア、お前のことはもう愛していないし、顔も見たくないんだ」

「え……」

「それにな。俺にはもう将来を誓った相手もいる。近所に住む伯爵令嬢さ」


 そ、そんな……ここまで頑張ってきたのに。その努力は水の泡なの……。酷い。
 悔しくて涙があふれ出てきた。


「……っ」
「泣いても無駄だ、フェリシア。悪いが、もうこの屋敷には来ないでくれ!!」


 突き飛ばされ、わたしは尻餅をついた。更に宙を舞った味噌汁の容器がわたしの頭上に。味噌汁の雨を被ってしまった。

 幸い、冷めていたのでヤケドはしなかったけれど、酷い有様になった。


「……ジェフ」
「ははは!! お前にはそれがお似合いだ!!」


 力強く扉が閉まる。

 ……わたしは何をしているんだろう。

 ジェフにギャフフンと言わせるって決めたのに、それどころか返り討ちにあってしまった。


 味噌汁塗れになった、わたしはそのまま屋敷を出た。


 その帰り。
 あの青年が現れた。


「お久しぶりです、フェリシアさん。……おや、随分と汚れていらっしゃる」
「…………」

「辛い目にあったのですね。では、その汚れを取って差し上げましょう」


 彼は触れることなく、わたしの味噌汁を除去してくれた。染みになっていたドレスが元通りになり、においも取れていた。……不思議な力。
 でも、今はそんなことに関心を寄せている余力もなかった。

「…………いっそ、味噌汁の具になってしまいたい」

 そんな憂鬱感に苛まれ始めていると、マッドが励ましてくれた。


「フェリシアさん、貴女は一生懸命で素晴らしい女性だ。まだまだ伸びしろもあるのです。がんばればきっと国中から認められる存在になるでしょう」

「……でも」

「一度、お屋敷に帰りましょう。お父様が心配しておられることです」


 マッドは、わたしの手に触れて爽やかに笑った。
 そして、気づくと場面が切り替わって――、一瞬で見覚えのある建物の前にいた。

 こ、ここってわたしのお屋敷!

 まさか、テレポート……。


「マッド、あなたはいったい……」
「もう少ししたらお話しします。さあ、今は心を落ち着かせて」

「ありがとう、マッド」


 歩きだすと、丁度お父様がやって来た。


「フェリシア! どうしたのだ、その顔は……酷いぞ」
「……お父様、わたし……うわぁぁぁん……」


「そうか、だめだったか。くそっ、ジェフめ……可愛い娘を泣かせおって!! もう許せん!!」


 お父様は腕をまくって、どこかへ向かおうとした。けれど、わたしは止めた。


「もういいんです。あんな薄情な男のことは忘れます」
「だが……」
「わたし、決めたんです」
「……なにをだ?」

「もっと美味しい味噌汁を作って、みんなに味を知ってもらいたい。そうすれば、きっとみんなが認めてくれる。あのジェフだって悔しがるはずです」


 今はそれしかないと思った。
 マッドが言ったように。

 わたしには、今はそれしかない。
 だから。


「分かった。父さんもお前の為に全力を尽くそう」
「ありがとうございますお父様」


 まだ諦めない……。わたしの心は完全に折れたわけではない。今に見てなさい、ジェフ。あなたを絶対にギャフフンと言わせてやるッ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。 絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。 「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」 手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。 新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。 そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。 過去に傷ついた令嬢が、 隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。 ――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私の絶品ご飯に夢中なようです〜

咲月ねむと
恋愛
「君との婚約を破棄する!」 料理好きの日本人だった前世の記憶を持つ公爵令嬢レティシアは、ある日、王太子から婚約破棄を言い渡される。 身に覚えのない罪を着せられ、辺境のボロ別荘へ追放……と思いきや、レティシアは内心ガッツポーズ! 「これで堅苦しい妃教育から解放される! 今日から料理三昧よ!」 彼女は念願だったカフェ『陽だまり亭』をオープン。 前世のレシピと、本人無自覚の『魔力回復スパイス』たっぷりの手料理は、疲れた冒険者や町の人々を瞬く間に虜にしていく。 そんな店に現れたのは、この地を治める「氷の騎士」こと辺境伯ジークフリート。 冷徹で恐ろしいと噂される彼だったが、レティシアの作った唐揚げやプリンを食べた瞬間、その氷の表情が溶け出して――? 「……美味い。この味を、一生求めていた気がする」 (ただの定食なんですけど、大げさすぎません?) 強面だけど実は甘党な辺境伯様に胃袋を掴んで求婚され、拾った白い子犬には懐かれ、レティシアの辺境ライフは毎日がお祭り騒ぎ! 一方、彼女を捨てた王太子と自称聖女は、レティシアの加護が消えたことでご飯が不味くなり、不幸のどん底へ。 「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、もう知りません。 私は最強の旦那様と、温かいご飯を食べて幸せになりますので。 ※本作は小説家になろう様でも掲載しています。ちなみに以前投稿していた作品のリメイクにもなります。

「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます

放浪人
恋愛
「何の取り柄もない姉はいらない。代わりに美しい妹をよこせ」 没落伯爵令嬢のアリアは、婚約者からそう告げられ、借金のカタに最愛の妹を奪われそうになる。 絶望の中、彼女が頼ったのは『氷の公爵』と恐れられる冷徹な男、クラウスだった。 「私の命、能力、生涯すべてを差し上げます。だから金を貸してください!」 妹を守るため、悪魔のような公爵と契約を結んだアリア。 彼女に課せられたのは、地獄のような淑女教育と、危険な陰謀が渦巻く社交界への潜入だった。 しかし、アリアは持ち前の『瞬間記憶能力』と『度胸』を武器に覚醒する。 自分を捨てた元婚約者を論破して地獄へ叩き落とし、意地悪なライバル令嬢を返り討ちにし、やがては国の危機さえも救う『国一番の淑女』へと駆け上がっていく! 一方、冷酷だと思われていた公爵は、泥の中でも強く咲くアリアの姿に心を奪われ――? 「お前がいない世界など不要だ」 契約から始まった関係が、やがて国中を巻き込む極上の溺愛へと変わる。 地味で無能と呼ばれた令嬢が、最強の旦那様と幸せを掴み取る、痛快・大逆転シンデレラストーリー!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...