金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗

文字の大きさ
4 / 62

元上司の悪行!?

しおりを挟む
 屋敷を出て、ネヴィルの後を追う。
 どうやら売ってくれるという屋敷まで案内してくれるようだ。

「その屋敷ってどこにあるんだ?」
「中立地帯スコットの一等地だ。その周囲には、ギルドもあれば鍛冶屋もある。アイテムショップもあるから不便はない」

 それを聞いて俺もヨークもテンションが上がった。一等地って、それはつまり“とてもいい場所”って事だ。
 そのまま歩いていくと、割と近い場所でネヴィルは足を止めた。

「この屋敷でどうかな」
「おぉ、これは立派な屋敷だな」

 目の前には貴族の屋敷があった。大きくて庭もかなり広い。手入れが大変だな。

「これ、いくらなんですか?」

 ヨークがネヴィルに訊ねた。
 そうだな、俺も肝心な金額が気になっていた。

「そうだなぁ、特別大サービスで通常金貨5000枚のところを金貨3000枚でいいよ」
「3000枚でいいのか。分かった、アイテムボックスに渡すよ」

 俺は、ネヴィルに金貨を転送した。無事に届いたようで彼は満足にうなずく。


「ありがとう。この資金は、このスコットの為に役立てる。近頃は帝国との戦争のせいで難民が増加しているんだ。そのせいで貧富の差も出ている。金貨は彼らの為に」


 へえ、ネヴィルってちゃんと民の事も考えているんだ。若いのに偉いな。こんな領主様に守って貰えるなら嬉しいだろうな。

 感心していると、ネヴィルは「じゃあ、また」と言って手を振って去って行った。僕は屋敷の扉の前に立つ。


「ついに家を手に入れたんですね」
「そうだな、ヨーク。僕と君の家だ」
「わ、わたくしも?」
「ああ、元々はヨークのおかげだからね。君から『金貨増殖バグ』の力を与えられなかったら僕は今頃、野垂れ死んでいただろうね」

 本音を漏らすと、ヨークは顔を赤らめて俯いていた。そんなモジモジと……可愛いな。

「いえ、わたくしは何も……」
「そんな事はない。それより、立ち話もなんだし中へ行こう」
「はいっ」


 扉を開けると、その瞬間――

 屋敷が崩壊し、バラバラになって吹き飛んだ。


「は……? はああああああああ!?」


 目の前には瓦礫がれきの山。

 えっと……

 どうなっているの!?


「ヘンリーさんがお屋敷の扉を開けたら廃墟ゴミになってしまいました!!」
「あ、ああ……どういうこと!?」


 理解が追い付かない。いったい、なぜ、どうして崩れてしまったんだ。更に事態は悪化した。いつの間にかゴロツキに囲まれていたんだ。またかよ。


「へっへへ……さっきは同胞をよくも痛めつけてくれたなァ!!」


 庭に隠れていたのか、人相の悪い男がわらわら現れた。こいつら! そうか、こいつらが屋敷に何かを仕掛けたんだ。それで倒壊して……くそ!


「お前達、こんな事をしてタダで済むと思っているのか」
「あぁ? ……って、よく見ればヘンリーか」


 コイツ、僕の事を知っている?


「なぜ名前を」
「知ってるさ。ガヘリスから聞いたぜ、お前、ギルド職員をクビになったんだってぇ!?」

「ギャハハハハハ!!」「マジかよ」「だっせえええええ」「こんな男がギルド職員~?」「そりゃあ、クビになるよなぁ!」「しかも可愛い女を連れてらぁ、剥いてやろうぜえ」


 そうか、このゴロツキ共はガヘリスと繋がっていたんだ。でも、なんでこんなロクでもない人間とつるんでいるんだ? 理由は定かではないけれど、吐かせればいいだけだ。


「待て、お前達!!」
「あぁ? 止めたって無駄だぞ。今からお前をボコボコにするんだからなァ!!」
「なら、こうしよう。僕が君達を雇うよ。ガヘリスよりも高い金でね」

「金だぁ? 言っておくが、ガヘリスは金貨10枚を約束してくれたんだぞ! ひとりにつき、10枚だ!」

 なるほど、どんな理由で雇っているか知らないけど、少なくとも金貨で10枚を約束してこの中立地帯の治安を悪化させているようだ。それだけは分かった。

 ……なんて卑劣。

 ここには困っている人も多くいるというのに。

 だから、僕は金貨30枚を取り出した。


「こっちは、ひとりにつき金貨30枚だ!!」

「「「「「なああああ!?」」」」」

「金貨30ぅ!?」「おいおい、あんな金貨見た事ねぇぞ!!」「うわぁ、しばらく遊んで暮らせるぞ!!」「欲しかったレア武器が買える!!」「防具だって」「馬鹿、女遊びだろ!!」「奴隷エルフが買えるぞぉ」「なぁ、ガヘリスなんて胡散臭いヤツから手を引いて、あの男と交渉する方が良さそうだぞ」


 ざわざわと仲間内で揉め始めていた。けれど、お金には勝てなかったようで、一同納得したようだな。
 ゴロツキのリーダーが僕にこう言った。

「実は、俺たちはガヘリスから頼まれて中立地帯の女をさらっていた。だが、頼まれてだ!」

「ガヘリスから頼まれて?」

「ああ、ヤツは帝国のある場所に女を集めているようだ。だから、俺たちは女に手を出してねぇし、そんな気もねえ。もし、あんたが雇ってくれるなら……もう足を洗う」


 なるほどな。こいつらを買収して静かにさせておく方がこの中立地帯にとっても良いだろう。それに、ガヘリスの異常行動が気掛かりだ。
 あの男、なにを企んでいるんだ?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...