金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中

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旅立ち

 演説は終わり、僕達はリィンが滞在中という屋敷に招待された。元老院議事堂付近にある大きな屋敷へ向かう。


「城のような大きさだなぁ。僕の屋敷よりも十倍ある」
「多くの要人が出入りするので、この規模になるそうです」

 リィンはそのように説明してくれた。納得。確かに、今も尚、偉そうな貴族が世話しなく移動していた。こんなに人がいるとはなあ。

 中へ入り、大広間へ。


「わぁ、すっごく広い部屋です」
「そうだな、ヨーク。僕もここまでとは思わなかった」


 椅子に座るよう言われ、僕、ヨーク、スイカは席へ。僕達の着席を確認したリィンは口を開く。


「みなさん、この度は暗殺の危機から守っていただき感謝いたします。特に、ヘンリーさんには命を救っていただきました。心より感謝を」

「いえ、僕は当然のことをしただけです」

御謙遜ごけんそんを。あなたは共和国の為に尽力してくれたのです。これは、まさに英雄的行動。ですから、ご褒美を差し上げましょう」

「ご褒美?」

「ええ、我が国『クリザーロー』の永住権を与えます。ヘンリーさん、ヨークさん、スイカさん全員にです」


 マジか。クリザーローは、まさにこのリィン女王の国。共和国の属する大国だ。あのランカスター帝国も恐れる国だとか。


「いいの!? 僕、そんなにたいしたことはしてないけど」
「いいえ、十分すぎるほどです。出来れば、その……ヘンリーさんには私の護衛をして欲しいくらいなのですが」


 突然のお願いに、僕は心臓がドキッとした。大国の護衛だって……? そりゃ魅力的すぎるお願いだ。それはつまり、女王直属の騎士になると同義。

 けど、そうなるとヨークとスイカの相手をしている暇もなくなるし、アサシンさんだって放置になってしまう。


「せっかくなんですが、僕にはやることが」
「そうですか、ちょっと残念です。でも、我が国には来てくださると嬉しいです」
「ええ、別荘として使わせていただきます」
「分かりました。では、近い内にお越しください。この共和国より南方にありますから」
「はい。今の件が片付いたら向かいます」
「今の件?」

 僕は、アサシンさんの事を女王に話した。すると、回復アイテムについて知っていた。

「パナシーアポーションですね。実は、ココにあるんです」


「「「え!?」」」


 僕たちは一斉に驚く。
 そりゃそうだ。
 まさか、そんなアッサリ見つかるとか。


「どこに?」
「えっと……ちょっと恥ずかしいのですが、私の谷間・・に」

「へ……」

 リィンは胸元に手を突っ込み、小さなポーションを取り出した。そんなところに!? そ、それにしても、あんな小瓶なんだな。


「なぜこんなところに隠し持っているかというと、例えば敵から重症を負わされたとします。その時、回復する為に身に着けているんです。これさえあれば、どんな傷でも癒してしまいますからね」

 人差し指ほどしかない小瓶サイズで、その回復量。まさに万能薬。

「それをいただけませんか」
「いいですよ、ヘンリーさん」
「え……そんなアッサリ!」
「ええ、私を救ってくれたお礼です」

 ぎゅっと手を握られ、僕は照れた。
 良かった、これでアサシンさんは回復できる。


「ありがとう。僕たちは急いで中立地帯・スコットへ帰ります。そのあと、クリザーローへ参りたいと思います」

「いいでしょう。いつでもお待ちしておりますから」


 最後にリィンから抱き着かれ、頬にキスを貰った。その瞬間、ヨークとスイカが驚いて慌てていた。うわぁ、後が怖いなぁ……。

 でも、嬉しい。
 今だけは幸せをみしめよう。


 * * *


 中立地帯・スコットにある『自宅』に到着。

 急いでアサシンさんの眠る部屋へ向かう。彼女は以前、レッドオークから重症を負わされた。背中に酷い怪我けがを負っていたんだ。以来ベッドの上で相変わらず眠ったまま。


 僕は、リィン女王から受け取った小瓶のふたを開ける。


 このパナシーアポーションを飲ませればきっと……回復するはず。万能薬の、このポーションなら。



【パナシーアポーション】
【詳細】
 万能回復ポーション。
 体力と魔力を全回復する。
 あらゆる傷、病気、状態異常を完全治癒する。
 特殊な呪いも解除される。



 アサシンさんの口元にゆっくりと慎重に垂らす。

 すると、白く輝いて彼女の全身を照らした。こ、これは凄い魔力だ。たった数滴でも、これほどの回復力があるのか。


「……ん、ここは」


 瞼を開けるアサシンさん。
 実に一週間ぶりの目覚めだった。


「アサシンさん!!」
「え……ヘンリー。あれ、ヨークちゃんにスイカちゃんも」


 朝起きたみたいに寝惚け顔。
 アサシンさんが目覚め、ヨークもスイカも飛び跳ねた。


「アサシンさん!! 良かったです!!」
「わぁ、目を覚ましましたあああああああ!!」


 二人ともアサシンさんに抱きつく。
 僕もちょっと悩んだ末に抱きつく。


「アサシンさん!!」
「うわぁ、ヨークちゃんとスイカちゃんはともかく、ヘンリーまで!! ちょ、ちょ、そこはっ!!」

「心配したんだぞ、アサシンさん」
「え、私、どうかしていたのか」
「どうかしていたんだよ。一週間も目を覚まさなかったんだぞ」

「ああ……そうだった。あの戦いで、私は重症を負って……すまなかった」

「いいんだ。こうして大切な仲間がまた揃って良かった」

「大切な、仲間……私が?」
「当然だろ」

 僕がそう断言すると、アサシンさんはボロボロ泣き始めた。いつもクールで淡々としているアサシンさんが初めて乙女のように泣いていた。


「ヘンリー、ヨークちゃん、スイカちゃん……ありがとう」


 アサシンさんは、涙を零しながらも笑顔を見せてくれた。花のように美しく、僕は心が震えるようだった。なんて可愛いんだ。

 僕は、この笑顔を見る為にずっと頑張り続けていたんだな。


「アサシンさん、しばらくは屋敷でゆっくりしよう」
「そうだな。――あぁ、それと皆に改めて言わなければならないな。私の名前は――」


 * * *


 ――数日後。
 今度は、アサシンさん、ネヴィル、リナ、エドワード、アルマの全員を連れて大国『クリザーロー』を目指した。

 大型エンペラードラゴンのスイカの背に乗って。


 僕たちの“快適なスローライフ”は、まだまだ先かな。でもいい、みんなが無事で、元気でいてくれるのなら、僕はこの“金貨”を握りしめて頑張れる。


 青い空を飛行していく。
 気持ち良い風が頬をでる。

 ヨークが僕の肩に頭を預けてきた。


「ヘンリーさん、これからも一緒ですよ?」
「ああ、次はヨークをたっぷり幸せにするよ」
「えっ、それってどういう……」
「そ、その……なんだ。僕は、ヨークが好きなんだ」
「……え、ちょ。いきなり告白ですか。いいですけどぉ、はい」


 顔を真っ赤にするヨーク。
 僕もどうかなりそうなくらい顔が熱い。

 けど、勇気を出して手を繋いだ。
 ぎゅっと恋人のように。

 手を握り合ってもっとドキドキした。

 これからもヨークやみんなを守っていきたい。この『金貨増殖バグ』の力で――。
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