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悪夢の中へ

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 妹は怯えていた。
 わたしが近寄る度に、ビアトリスは恐れて後ずさる。

「ビアトリス……なぜ、わたしから幸せを奪うの」

「……なぜ? 前にも言ったでしょう。お姉様ばかりずるいって。ただ、それだけの理由よ」

 なんて、つまらない理由。
 妹は――ビアトリスは、ただ楽しんでいるんだ。わたしが不幸になるのを。

「なら、もういいわ。ビアトリス、悪いけど消えてもらう」
「なによ。殺す気! この殺人鬼!」
「どっちが。先に手を出したのは、貴女でしょう」

「……ぐっ」

 逃げようと背を向けるビアトリス。なんて愚かな子。
 わたしは“切り札”を出した。

 それは具現化しても真っ赤なカードだった。

 カードはわたしの言葉に反応して、ビアトリスを捕縛した。


「観念なさい、ビアトリス」
「……ひっ。お姉様、やめて! ヨハネスも見ていないで助けて!」


 けれど、ヨハネスは動けない。
 わたしが最後の切り札を使ったからだ。

 公爵家に代々伝わる大禁呪にして大魔法。

 これを使用できるものは長女だけ。義理の妹であるビアトリスには、魔力すらない。

 切り札には、六つの力が隠されている。
 そして、その切り札の影響力は周囲に及ぶ。

 今現在、ヨハネスは時を止めている状態。こちらに干渉は一切できない。邪魔は入らない。


「悪夢を見続けなさい、ビアトリス。永遠の眠りでね」
「そ、そんな! きゃあああああ……」

 ビアトリスはそのまま床に倒れ、悶え続けた。彼女は永遠の眠りについた。悪夢だけを見続ける永遠を与えた。
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