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[番外編:前編] 婚約者を寝取られた男
【シュヴァルク王国】
「勇者エルド様……どうかお願いです。フィオナを……取り戻して欲しい」
俺の目の前で頭を下げる元貴族の男エドマンズ。
つい最近まで伯爵の令息だったらしく、権力もあった――はずだった。
だが、婚約者を“寝取られて”しまい、絶望。今は勘当を言い渡されて没落貴族となったという。
俺は偶然、王国に立ち寄ったところを頼られた、というわけだ。
俺もティアナ姫を寝取られたから、気持ちは凄くよく分かる。
「わかった。話を聞こう」
「さすがエルド様……ありがとうございます」
何度も何度も土下座をするエドマンズ。
そんな教祖を崇めるみたいにされると、人目に困るっていうか。
「では、エルドさん。あちらのカフェでどうですか?」
隣で神妙な面持ちのオーロラ。
さすがに“寝取られた”――だなんて内容は、あんまりいい気分ではないようだな。
「ああ、そうしよう。それと……」
「はい?」
「すまんな。まさか、悩み相談を受けることになるとは」
「いいんですよ。エルドさんは勇者なんですから」
「いや、俺はもう勇者ではないよ。ただのエルドさ」
「そんなことありません! わたくしだけの勇者様です!」
自信に満ち溢れているような瞳を向けるオーロラ。そこまで言われると照れるっていうか。嬉しい。
さっそく近場のカフェへ行き、エドマンズの話を聞いた。
「……実は、オルジスタという錬金術師の“従弟”……トランジスタという男に婚約者を寝取られたんです……」
錬金術師オルジスタ……だと。
その名前を聞いて俺は驚いた。
ヤツはもういないが、従弟がいたのかよ。
オルジスタの意思は継がず、ひっそりと王国で暮らしていたわけか。そのトランジスタがこのエドマンズの婚約者を寝取ったわけか。
「なるほど。悪は滅んでいないというわけか」
「……どうか、どうかヤツに罰を……!」
泣きついて縋られる。
そこまで頼られると仕方ない。
このまま放置するなんて真似もできないし、目覚めも悪い。
「わかった。オルジスタの従弟となれば無視はできない」
「ありがとうございます……!」
「居場所は分かるか?」
「はい。彼は今、私の父……ドメニコ伯爵の邸宅を乗っ取り、悠々自適に暮らしているのです」
マジかよ。
よりによって、自宅まで奪われていたのか。災難すぎるぜ。
情報を得た俺たちは、さっそくその『ドメニコ伯爵』の邸宅へ向かった。
それにしても……乗っ取ったって、トランジスタの素行の悪さが既に露呈しているな。
やはり、従弟といえども同じ性格なのか。
「なんだか心配です……」
不安気にするオーロラ。
確かにな。
オルジスタには何度も苦しめられてきた。
辺境の地ゼルファードも何度危ない目にあったことか。
そんな従弟が王国から逃げ出さず、悪行を繰り返しているとは……エスカレートする前に――いや、既にしているけど、芽を摘んでおかねば。
南西の閑静な場所に、その邸宅はあった。広大な土地の中にある巨大な建築物。もはや、お城にも匹敵する。
「ここが……」
「伯爵って凄いんですね」
呆然となるオーロラ。俺も同じ気持ちだ。
だが、今は建物に見とれている場合ではない。
そのまま進むと玄関の方から人影が。
ヤツがトランジスタか?
「……やはり来たか、エルド」
綺麗な女性を背後に連れている若い男。オルジスタの雰囲気がそこにはあった。結構似ているな。
「お前がトランジスタか」
「そうだ。まさか、こんなにも早くここへたどり着くとはな」
「エドマンズから依頼があってな。寝取った婚約者を、邸宅を返してもらおうか」
と、俺が要求するとトランジスタは不敵に笑う。……なんだ、コイツ。
「ふざけるな。彼女は私のものだ。身も心も全てなッ!」
女性の方は俯き、少し辛そうにしていた。
強引なのか、それとも自らトランジスタに抱かれたのか。真意のほどは分からない。……が、どちらにせよ、トランジスタは倒さねばならない。
「エルドさん、私はフィオナさんを助けます」
「ああ、頼む」
トランジスタは、この国にいてはいけない男だ。
きっと国さえも乗っ取る気でいるはず。
鞘から聖剣アルビオンを抜き、俺は構えた。
「おい、トランジスタ。逃げるなら今だぞ」
「あまり私を舐めるなよ、エルド。私はオルジスタの馬鹿野郎と同じではない!!」
手を向けるトランジスタ。かなりの魔力を感じるが、手から魔法らしきものは出ていない。……不発なのか?
俺は気にせず、地面を蹴るのだが――。
「いけません、エルドさん!」
オーロラの声が響く。
え……
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
は!?
いや、これは!!
地面に大穴が!
「なんだこりゃああああ! 落とし穴!?」
気づけば俺は『落とし穴』に落ちていた。しかも、結構深いぞ。
そして上からなにか落ちてくる。その前に俺は脱出。
「チィ! 上手く逃げたか、エルド!」
「トランジスタ、てめぇ……落とし穴スキルを使うのか!」
「そうだ。落とし穴に落とし、そして岩の魔法『ストーンヘンジ』を落とす」
なかなか凶悪な野郎だ。
しかも、地面は落とし穴だらけかよ。微量な魔力を感じるので分かった。
この程度なら何とかなるな。
ギリギリの足場を使い、俺はトランジスタに接近。
「なに!?」
「諦めろ」
剣をトランジスタの喉元につきつけた。
案外楽勝だったな。
「……フフフ。私の能力がこれだけだと思ったか?」
「なに?」
「錬金術師の力を見せてやろ――がはあああああああ……!?」
なにかを言いかけたその時、トランジスタは口から大量の血を吐いていた。……何事!?
【後編へ続く】
「勇者エルド様……どうかお願いです。フィオナを……取り戻して欲しい」
俺の目の前で頭を下げる元貴族の男エドマンズ。
つい最近まで伯爵の令息だったらしく、権力もあった――はずだった。
だが、婚約者を“寝取られて”しまい、絶望。今は勘当を言い渡されて没落貴族となったという。
俺は偶然、王国に立ち寄ったところを頼られた、というわけだ。
俺もティアナ姫を寝取られたから、気持ちは凄くよく分かる。
「わかった。話を聞こう」
「さすがエルド様……ありがとうございます」
何度も何度も土下座をするエドマンズ。
そんな教祖を崇めるみたいにされると、人目に困るっていうか。
「では、エルドさん。あちらのカフェでどうですか?」
隣で神妙な面持ちのオーロラ。
さすがに“寝取られた”――だなんて内容は、あんまりいい気分ではないようだな。
「ああ、そうしよう。それと……」
「はい?」
「すまんな。まさか、悩み相談を受けることになるとは」
「いいんですよ。エルドさんは勇者なんですから」
「いや、俺はもう勇者ではないよ。ただのエルドさ」
「そんなことありません! わたくしだけの勇者様です!」
自信に満ち溢れているような瞳を向けるオーロラ。そこまで言われると照れるっていうか。嬉しい。
さっそく近場のカフェへ行き、エドマンズの話を聞いた。
「……実は、オルジスタという錬金術師の“従弟”……トランジスタという男に婚約者を寝取られたんです……」
錬金術師オルジスタ……だと。
その名前を聞いて俺は驚いた。
ヤツはもういないが、従弟がいたのかよ。
オルジスタの意思は継がず、ひっそりと王国で暮らしていたわけか。そのトランジスタがこのエドマンズの婚約者を寝取ったわけか。
「なるほど。悪は滅んでいないというわけか」
「……どうか、どうかヤツに罰を……!」
泣きついて縋られる。
そこまで頼られると仕方ない。
このまま放置するなんて真似もできないし、目覚めも悪い。
「わかった。オルジスタの従弟となれば無視はできない」
「ありがとうございます……!」
「居場所は分かるか?」
「はい。彼は今、私の父……ドメニコ伯爵の邸宅を乗っ取り、悠々自適に暮らしているのです」
マジかよ。
よりによって、自宅まで奪われていたのか。災難すぎるぜ。
情報を得た俺たちは、さっそくその『ドメニコ伯爵』の邸宅へ向かった。
それにしても……乗っ取ったって、トランジスタの素行の悪さが既に露呈しているな。
やはり、従弟といえども同じ性格なのか。
「なんだか心配です……」
不安気にするオーロラ。
確かにな。
オルジスタには何度も苦しめられてきた。
辺境の地ゼルファードも何度危ない目にあったことか。
そんな従弟が王国から逃げ出さず、悪行を繰り返しているとは……エスカレートする前に――いや、既にしているけど、芽を摘んでおかねば。
南西の閑静な場所に、その邸宅はあった。広大な土地の中にある巨大な建築物。もはや、お城にも匹敵する。
「ここが……」
「伯爵って凄いんですね」
呆然となるオーロラ。俺も同じ気持ちだ。
だが、今は建物に見とれている場合ではない。
そのまま進むと玄関の方から人影が。
ヤツがトランジスタか?
「……やはり来たか、エルド」
綺麗な女性を背後に連れている若い男。オルジスタの雰囲気がそこにはあった。結構似ているな。
「お前がトランジスタか」
「そうだ。まさか、こんなにも早くここへたどり着くとはな」
「エドマンズから依頼があってな。寝取った婚約者を、邸宅を返してもらおうか」
と、俺が要求するとトランジスタは不敵に笑う。……なんだ、コイツ。
「ふざけるな。彼女は私のものだ。身も心も全てなッ!」
女性の方は俯き、少し辛そうにしていた。
強引なのか、それとも自らトランジスタに抱かれたのか。真意のほどは分からない。……が、どちらにせよ、トランジスタは倒さねばならない。
「エルドさん、私はフィオナさんを助けます」
「ああ、頼む」
トランジスタは、この国にいてはいけない男だ。
きっと国さえも乗っ取る気でいるはず。
鞘から聖剣アルビオンを抜き、俺は構えた。
「おい、トランジスタ。逃げるなら今だぞ」
「あまり私を舐めるなよ、エルド。私はオルジスタの馬鹿野郎と同じではない!!」
手を向けるトランジスタ。かなりの魔力を感じるが、手から魔法らしきものは出ていない。……不発なのか?
俺は気にせず、地面を蹴るのだが――。
「いけません、エルドさん!」
オーロラの声が響く。
え……
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
は!?
いや、これは!!
地面に大穴が!
「なんだこりゃああああ! 落とし穴!?」
気づけば俺は『落とし穴』に落ちていた。しかも、結構深いぞ。
そして上からなにか落ちてくる。その前に俺は脱出。
「チィ! 上手く逃げたか、エルド!」
「トランジスタ、てめぇ……落とし穴スキルを使うのか!」
「そうだ。落とし穴に落とし、そして岩の魔法『ストーンヘンジ』を落とす」
なかなか凶悪な野郎だ。
しかも、地面は落とし穴だらけかよ。微量な魔力を感じるので分かった。
この程度なら何とかなるな。
ギリギリの足場を使い、俺はトランジスタに接近。
「なに!?」
「諦めろ」
剣をトランジスタの喉元につきつけた。
案外楽勝だったな。
「……フフフ。私の能力がこれだけだと思ったか?」
「なに?」
「錬金術師の力を見せてやろ――がはあああああああ……!?」
なにかを言いかけたその時、トランジスタは口から大量の血を吐いていた。……何事!?
【後編へ続く】
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