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とある常連のお客さん
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ポーションを作らなきゃ。
お父様と別れ、わたしは必死に店を回った。回って、回って必死に駆け巡ったけど、ポーションの製造は全て断られた。
理由は簡単だった。
この時期は、回復ポーションを求める冒険者が多かった。貴族ですら体調を整える為にポーションを買い求め、備蓄するほどだった。
有名な錬金術師が作るポーションであればあるほど飛ぶように売れ、忙しい。
「そんな……これではポーションが作れない」
ポーションの製造には、錬金術師の基本であるポーション全書、フラスコなど試験管やポーション瓶のほか、専用のハーブや鉢が必要。
それにホコリっぽくない部屋も欲しい。それなのに、アテがないだなんてタイミングが最悪すぎた。
帝国中を走り回って、お店はあと二件。
夕方になって日が沈もうとしていた。……まずい、このままだと日が暮れちゃう。急いでポーションを作らせてもらわないと、わたしは何もかもを失う。
それだけは嫌。
お店に入り、受付にいる女性に話しかけた。
「あ、あの……お忙しいところ申し訳ないのですが、ポーションを作りたいんです。設備を貸していただけませんでしょうか」
女性はくるっとこちらへ向き、笑った。
「あら、あらあら。これは誰かと思えば……憐れなフラビアではありませんか。当店へようこそ」
「コリンナ! どうして! ここは貴女のお店なのね……」
「ええ、そうよ。自慢のお店よ。それより、聞いたわよ、フラビア。お父様に認めてもらう為に、帝国中をあっちこっち走り回っているって? 必死になっちゃってダッサ~。でも、諦めた方が賢明よ。どうせ、貴女には無理。だって、くそまずのポーションしか作れないじゃない」
明らかに見下してくるコリンナ。わたしは、ここまで言われて心が折れかけた。どうして彼女はこんなに意地悪なの。
泣きそうになっていると、背後から気配がした。お客さん……?
振り向こうとすると、滲んだ涙で視界が悪くなっていた。足を滑らせてしまい、わたしは、足を痛めつつもそのお客の方へ倒れてしまった。
「大丈夫かい、キミ」
「ご、ごめんなさい。前をよく見ていなかった――え」
わたしを支えてくれたのは男性だった。それも、この周辺では見た事もないような綺麗な顔立ちをした金髪の青年。
優しい瞳でわたしを見つめ、気遣ってくれた。
「ケガはないようだね。良かった」
「は……はい。ありがとうございます」
見つめ合っていると、コリンナが不満気な顔をして割って入ってきた。
「ちょっと! ウチの大事なお客様に何してるのよ、フラビア!」
「こ、この方は?」
「言ったでしょう、お客様と。彼はロスさんよ。ウチの常連なの! それより、いいから離れなさいよ」
手を伸ばしてくるコリンナだったけれど、ロスという青年がわたしを庇った。
「コリンナさん、彼女は足を挫いてケガをしている。ここは僕が引き受けよう」
「で、ですが……その女に関わると碌な目に遭いませんよ」
「困っている人を見捨てるなんて真似、僕にはできない。ごめんね、コリンナ」
「ロ、ロスさん!」
コリンナは最後まで粘っていたけど、ロスという青年は、わたしの手を優しく引っ張ってくれた。
「えっと……」
「フラビアです。助けていただき、ありがとうございます」
「そうか、フラビアというのか。良い名前だね。僕はロス。帝国のヘリオドール聖界諸侯さ」
その言葉に、わたしは驚いた。
聖界諸侯といえば、この帝国のトップに近い存在。言うなれば大封建領主。多くの領地を任されている大貴族だ。
そんな凄い人がわたしを助けてくれたの……?
驚いていると、背後のコリンナが「うそ! うそよ! ロスさんが大貴族だなんて……そんな」と悔しそうにしていた。でも、彼女はイグナティウスを狙っているのでは……あれ、どういうことなの?
お父様と別れ、わたしは必死に店を回った。回って、回って必死に駆け巡ったけど、ポーションの製造は全て断られた。
理由は簡単だった。
この時期は、回復ポーションを求める冒険者が多かった。貴族ですら体調を整える為にポーションを買い求め、備蓄するほどだった。
有名な錬金術師が作るポーションであればあるほど飛ぶように売れ、忙しい。
「そんな……これではポーションが作れない」
ポーションの製造には、錬金術師の基本であるポーション全書、フラスコなど試験管やポーション瓶のほか、専用のハーブや鉢が必要。
それにホコリっぽくない部屋も欲しい。それなのに、アテがないだなんてタイミングが最悪すぎた。
帝国中を走り回って、お店はあと二件。
夕方になって日が沈もうとしていた。……まずい、このままだと日が暮れちゃう。急いでポーションを作らせてもらわないと、わたしは何もかもを失う。
それだけは嫌。
お店に入り、受付にいる女性に話しかけた。
「あ、あの……お忙しいところ申し訳ないのですが、ポーションを作りたいんです。設備を貸していただけませんでしょうか」
女性はくるっとこちらへ向き、笑った。
「あら、あらあら。これは誰かと思えば……憐れなフラビアではありませんか。当店へようこそ」
「コリンナ! どうして! ここは貴女のお店なのね……」
「ええ、そうよ。自慢のお店よ。それより、聞いたわよ、フラビア。お父様に認めてもらう為に、帝国中をあっちこっち走り回っているって? 必死になっちゃってダッサ~。でも、諦めた方が賢明よ。どうせ、貴女には無理。だって、くそまずのポーションしか作れないじゃない」
明らかに見下してくるコリンナ。わたしは、ここまで言われて心が折れかけた。どうして彼女はこんなに意地悪なの。
泣きそうになっていると、背後から気配がした。お客さん……?
振り向こうとすると、滲んだ涙で視界が悪くなっていた。足を滑らせてしまい、わたしは、足を痛めつつもそのお客の方へ倒れてしまった。
「大丈夫かい、キミ」
「ご、ごめんなさい。前をよく見ていなかった――え」
わたしを支えてくれたのは男性だった。それも、この周辺では見た事もないような綺麗な顔立ちをした金髪の青年。
優しい瞳でわたしを見つめ、気遣ってくれた。
「ケガはないようだね。良かった」
「は……はい。ありがとうございます」
見つめ合っていると、コリンナが不満気な顔をして割って入ってきた。
「ちょっと! ウチの大事なお客様に何してるのよ、フラビア!」
「こ、この方は?」
「言ったでしょう、お客様と。彼はロスさんよ。ウチの常連なの! それより、いいから離れなさいよ」
手を伸ばしてくるコリンナだったけれど、ロスという青年がわたしを庇った。
「コリンナさん、彼女は足を挫いてケガをしている。ここは僕が引き受けよう」
「で、ですが……その女に関わると碌な目に遭いませんよ」
「困っている人を見捨てるなんて真似、僕にはできない。ごめんね、コリンナ」
「ロ、ロスさん!」
コリンナは最後まで粘っていたけど、ロスという青年は、わたしの手を優しく引っ張ってくれた。
「えっと……」
「フラビアです。助けていただき、ありがとうございます」
「そうか、フラビアというのか。良い名前だね。僕はロス。帝国のヘリオドール聖界諸侯さ」
その言葉に、わたしは驚いた。
聖界諸侯といえば、この帝国のトップに近い存在。言うなれば大封建領主。多くの領地を任されている大貴族だ。
そんな凄い人がわたしを助けてくれたの……?
驚いていると、背後のコリンナが「うそ! うそよ! ロスさんが大貴族だなんて……そんな」と悔しそうにしていた。でも、彼女はイグナティウスを狙っているのでは……あれ、どういうことなの?
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