偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ

文字の大きさ
33 / 65

偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・32

しおりを挟む






「さ、何でも聞いてくれ。時は金なりだ」
 一番無駄口を叩いてるのはテメエだろうが。
 吸血鬼のくせにふざけた名前しやがって。
 喉までその言葉が出掛かり、何とか飲み込んだ。
 ベタベタとレオニスに触れるのも腹が立つ。目を細めて奴を舐めるような視線で見るのも張り倒したくなった。
 何よりも、すべてお見通しと言わんばかりの金眼。狡猾な狐のようだ。
「我々が聞きたいのはドン・アレッシの行動の意図だ。お前の方が奴を把握しているかと思ってな…やはり先日発表になった医薬品に関する法改定への不満だと思うか?」
 レオニスがそう質問を投げたが、クリスチャンは俺に視線を向けたまま外さない。俺もそれを見続けた。
 大きめの口が開く。
「奴らはいつだって吸血鬼には反抗的さァ。俺たちが与えた恩義の傘の下にいるのが耐えられんのよ。俺の管理する店でも数ヶ月に一度は必ずトラブルを起こす。そうして自己主張してるのさ…まー俺とアレッシの関係は商売敵だからなァ、政治的な小難しさはないがなァ」
「なら先の襲撃も、法改定とは特に関係がない?」
「関係なくはない、が、難癖程度だろうさ。マジで腹を立ててるというよりかは、ケチをつけられるときにはきっちりケチをつけんのが奴らマフィアだ。マジメといやぁマジメだな」
「つまり、いつもの牽制でしかないと?」
 レオニスが腕を組む。腑に落ちていないようだ。
 クリスチャンも腕を一度伸ばしてから大仰に腕と足を組む。尖った靴で、トントンとローテーブルの縁を叩いた。
 奴はまだ俺を見ている。
 そして言う。
「理由はソイツかもな」
 俺を指差して。
 レオニスが振り返る。その瞳は怪訝そうだった。
「どういうことだ、スラッシュが何故」
「……レオニス。お前がこの店からソイツを連れてった後、夜の界隈で噂が立ったのよ。お前が素性のよくわからん男を気に入って囲ったってなァ」
「……」
 クリスチャンに向き直ったレオニスの顔はわからなかった。だが少し肩をそびやかしたのが見えた。
 あれ以来、歓楽街に行くことはなくなっていたから、俺もその噂はよく知らなかった。
「んで、その数日後。お前は近侍になった新顔のソイツを連れ回し始めた。その噂を聞いてた奴らがどう思うかはわかるよなァ? …お前自身はマフィア界隈には調べ尽くされてる。だが新顔はどうだ? お前が信頼してはべらしてる眼帯の男は何だってなるよなァ?」
 俺はレオニスの気配が変わるのを感じた。
 室内の温度が少し下がったような感覚だった。
「あの襲撃は、マフィアがスラッシュの値踏みをしたと?」
 平坦だが、怒りを含んだ声だった。
 それが事実なら、エドはレオニスのためではなく、俺のせいで撃たれた。隣に立っているエドを見る。エドは釣られて俺を見たが、笑って「気にしない」とでもいうように小さく首を振る。
「レオニスへの牽制には変わりないさァ。お前が得た近侍のお手並みを拝見ってんで、イヤガラセしたわけだからよォ」
「……」
「実際、スラッシュはいい働きをした。エド坊は吹っ飛ばされたが、お前は無傷だったわけだし。それ以来、お前もよりスラッシュを手放さなくなった。それにもうひとつ、お前は目に見えて血色も良く元気になった。アレッシからしたら、同時期に現れた眼帯男の素性はどーしても知りたいと思ったはずさ。吸血鬼が元気になるのはただひとつ、吸血だ。レオニスが人血を絶ってたのは皆が知ってる、だからこそ弱り切っていたんだしよ。そんな奴が全盛期の力を取り戻してると知ったら…そりゃあ、お前にひ弱でいて欲しいマフィア共はオチオチしてらんねぇよなァ」
 俺は、レオニスの膝に置かれた拳を見ていた。
 白くなるほど握られている。
 俺は聞いた。
「俺の素性はバレてんのか」
 奴は俺の言葉に曖昧に首を振る。
「わかんねぇな。だが、今はそう思っといた方がいいかもなァ。お前が人狼だって知ってんのはレオニスが公布した吸血鬼達だけだが、俺らの仲間にも口は軽い奴がいるしよ」
 隣に立っていたエドが一歩前に出て言う。
「あの、しかし…それが知られて何かまずいことでもあるんですか? レオニス様が不老不死の強靭な人狼をガードに得た。それはアレッシにとってのデメリットであって、我らのデメリットではないのでは?」
 その質問に、クリスチャンは自分の赤毛をなでつけつつ「あー、んー」と生返事をする。それをレオニスが引き取った。
「エド…今言われた通り、私が力を取り戻しているのがわかるだろう」
 言いながら身体を捻り、背後のエドを見る。
「はい、お元気そうで何よりだと」
「それは何故だろうと、お前も考えただろう?」
「…はい」
「それは、敵も同じだということだ」
「……」
 レオニス、クリスチャン、エドが俺を見る。3人の吸血鬼に見つめられると流石に居心地が悪い。だからと言って自分から「俺はレオニスの餌だ」とも言いたくはない。
 小さく、レオニスが息を吐いた。
「エド。…私はスラッシュから血を飲ませてもらっている」
 奴が言ったことに、エドはやはり目を丸くしたが、どこか予測が当たったと言う顔でもあった。
「長く人血を飲めなかった私だが、…彼の血だけは……飲めたんだ。そして私は力を得ている。私の唯一の…力の源が彼、スラッシュなんだ。恐らく、敵もそのことを予想しているだろう」
 レオニスは俯く。
 俺は、レオニスにとって「最強の盾」であり「唯一の餌」、「力の源」でもある。だが同時に、レオニスの力を大きく削ぐための、立派なウィークポイントにもなり得る。そういうことだった。
 やれやれ。
 知らない間に、渦中のど真ん中に自分がなっているとは。まあまだ予想でしかないが。
「あ、あの…いいですか?」
 エドが小さく手を上げて言う。
「不躾かもしれませんが…」
 クリスチャンとレオニスと俺は言葉を待った。
「その………じ、人狼の血って…吸血鬼が飲んでも大丈夫なんですか? レオニス様、お腹を壊したりは、しないんでしょうか?!」
 何を言うのかと思ったら。
 エドは心配気な瞳でレオニスを見ているし、クリスチャンは「確かに!」と膝を打っている。
「そー言われたら俄然興味が沸いてきたなァ。…なぁスラッシュ、お前にとっちゃ減るもんじゃねえし、ちょっとだけ味見させてくれっか?」
 クリスチャンが言い出す。エドは流石に言わないが、それでも目を輝かせて興味はあると言った顔をしていた。
 流石にそんな実験に付き合う気はなく「誰が味見させるか」と言おうと、組んでいた腕を解いた時、レオニスがすくっと立ち上がると、素早くピシャリと言い放った。

「ダメだ! スラッシュは私のものだっ!」

 扉の外まで漏れるんじゃ? …というほどの声量だった。
 …あのなぁ、今何を話してたと思ってるんだ。
 俺がレオニスのウィークポイントかもしれんって話だ。
 今、明らかに宣言しちまっただろう、それを。
 解きかけた腕をさらに強く組んで、大きくため息をつく。吸血鬼は意外にも呑気な集団なのかもしれん。寿命が長いと色々鈍感になるものだ。
「ふーん?」
 クリスチャンが顎を撫でながらまた嫌な目つきをする。ニヤニヤと笑えばより軽薄に見える。
 それが不躾にジロジロ俺の身体を這い回る。
「……お前もまんざらではないんだなァ、スラッシュ」
「……」
「気づいていないのかなァ?…人狼さん、お耳が赤いですよ?」
 奴が、声のキーを上げて身体をくねらせ言う。


 ――ぶん殴っていいか?





しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...