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偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・38 (R)
しおりを挟むカチャッ、カチャッ、と俺のベルトのバックルが揺れるたび鳴る。汗ばんだレオニスの白い首が、窓外から注ぐ星あかりに時折光った。アイスブルーの瞳を覗き込めば、キラキラと瞬く。俺に身を託して、真っ直ぐ射抜いてくる。
美しい俺の星。
それを腕に抱いて、貫いている。
共に揺れながら、確かめ合う。
互いの中に愛があるかを。
不安を感じながら、それでも信じようと心を砕いて。
奥深くまで入り込んで探り合う。
そして俺は。
祈るように腰を揺らす。レオニスがこの快楽ごと俺から離れられなくなるようにと。
これが正しいのかわからない。だが今の俺はそれしか思いつかない。何せ馬鹿がつくほど不器用だ。己の心をどんな風に伝えればいいか、それさえあやふやだ。コイツは俺を愛してると言ってくれたが、この不完全な俺のどこを愛したのかわからない。
愛しているのに。
翻弄して、泣かせて。
古い映画に出てくる、恋人を振り回すクソ男そのものだ。色男でセックスがどれほど巧かろうが、保身にプライドばかり高い…そんな奴は最後に必ず幸せになれない。
誰よりも臆病な生き物。
俺がそうだった。
弱みを見せる方法も知らず、心を共有する術も知らない。
「何が欲しい…」
「…っ、…え?」
揺れるたび唇が触れる。しなやかな身体を抱き込み奥を突きながら、聞いた。
「もらってる…、今、欲しいものは…」
短く息を吐きながらレオニスが微笑む。
「そうじゃない」
「……」
「何を望んでる……俺が出来ることは、何でも叶えてやる」
レオニスが好む角度で、抉る。
顎をそらせて、甘い悲鳴をあげる。白い滑らかな首筋に甘く歯を立てる。
「呼ん、で…レオって…、…あっ…アッ…」
「レオ」
「もっと、…もっと…」
「……レオ…」
身体が震える。締め付けが強くなり、強張り震える。
絶頂に跳ねる腰を押さえつけたまま突く。レオニスの細い悲鳴。指が俺のニットセーターを強く掴んだ。
「キス…し、て…」
レオニスの目尻から涙が滑る。溢れた感情によるものか…我慢していた解放に涙腺が緩んだのか。それを指で拭ってやってから、口付ける。
愛しい――愛しくて、たまらない。
コイツが望むならば、俺はなんだってしてやる。
俺を愛してくれるなら。
いいや。
たとえ、愛がなくなったとしても。
レオニスのために潰えるのなら、それでいい。
コイツに求められないのなら、俺はそこまでだ。
それでいい。
だが、それは俺だけが知っていればいい。レオニスに背負わせる必要はない。
親父がかつて言った言葉にようやく合点が入った。「お前次第だ」と…あれは相手に愛されるための努力じゃなかった。
俺の「覚悟」の問題だった。
なら俺は。
その覚悟をレオニスに。
「スラッシュ…、スラッシュ…もっと…」
自分が達しても、まだ俺を求めて受け止める。小さな尻を俺のために振ってみせる。
それに合わせて腰を打ちつけた。
上がる息の中、囁く。
「呼んでくれ、名を」
「…スラッシュ……」
「違う」
「……」
「俺の、本当の名は…ニグレド…」
「…ニグレド…?」
「……家族は、ニルと呼んだ」
レオニスの頬が赤く染まる。そして嬉しげに微笑む。
「…ニル…」
俺も笑った。幼少に呼ばれた名だったから少しくすぐったかったが、純粋に懐かしくて嬉しかった。
レオニスの腕が俺の頭を抱く。
「ニグレド……ニル…、…愛してるよ、ニル…」
俺はたまらなくなり、その身体を突き上げた。
車体が低く軋む。
「アッ! …は…、…っ、ニル…ニルっ…!」
「…レオ…、…っ…ク……っ!」
タッタッタッ、と打ちつける。
淫らなんかじゃない。
愛し合ってる。
そうだろ? レオニス。
「…俺も、愛してる…、…っ…」
尖った耳を噛みながら言う。
レオニスが強く強く、俺を抱きしめた。
「ニグレドって、黒って意味だ」
車をメテオラに向けて走らせながら、うとうとしているレオニスが助手席で言う。俺のコートをブランケット代わりに丸まっている。チラリと見ると、フードのフェイクファーに顔を埋めて、今にも眠ってしまいそうだ。
「そうだ。生まれた時、俺は真っ黒の毛玉みたいだったらしい」
「狼の姿で生まれてくるのか」
「ああ。親も子育て中は狼の姿だ。変化は物心がついてから勝手に起こる」
「不思議な生態だな」
言葉が次第に虚になっている。苦笑して言った。車はすでにトンネルの中だ。あと30分も走ればステラに着く。
「眠れ。運んでやる」
「……お前ともっと話したい…」
「またいくらでも話してやる」
「でも、ニグレド…」
「時間はたっぷりある。そうだろ?」
「……あと、ひとつだけ」
「何だ」
「皆の前でも、ニグレドって呼んでもいいのか?」
「お前の好きにしたらいい」
「……、…やめておく…」
「そうなのか?」
「…私だけの、ものにしたい…」
コンソールに置いていた手にレオニスの手が重なる。俺は掌を返すとそれを握った。
満足そうに身じろぎすると、レオニスは小さな寝息を立て始めた。きっと精神的に疲弊させたんだろう。
夜明け前、1番暗い時間。
また雲が垂れ込め、雪が舞い始めていた。星を共に見られたのは奇跡だった。街の灯りに、舞う雪が反射して明るく感じる。
尖塔のステラの車両スペース入り口に車を入れる。螺旋道を回りながら地下へと潜る。ゲートが上がり車が空間に入ると勝手にライトがついた。リムジンの横に停め、エンジンを切った。
後部座席のシートを見た。汚してはいなかった。レオニスのコートはダメにしてしまい、丸めて置かれていた。
それを手にして運転席を出る。出来るだけ静かにドアを閉め、助手席を開いてレオニスの身体を引き出す。横抱きにした瞬間は覚醒したが、俺の肩口に顔を埋めてすぐにまた微睡み始める。
足でドアを閉め、エレベーターに乗ると、背後でライトが消える。
最悪な気分で出たペントハウスに戻ってきた。
何も変わっていないのに、全てが違うように見えた。
そのままレオニスを寝室に運ぶ。俺のコートを着たままで、一旦ベッドに寝かす。
バスルームで熱い湯で固く絞ったタオルを数個作る。戻ると、レオニスは俺のコートを胸前に引き込むような蓑虫姿で眠っていた。
忍びないが、少し起こす。
「レオニス。身体綺麗にしてやるから、それから寝ろ」
コートを取り、寝巻きを脱がす。汚したままの腹や股を先ずは拭いた。
「ん…、そんなの…後で…」
「気持ちよく寝たいだろ」
目につく汚れだけ手早く拭いた。最後に全身を拭ってやり、裸のままだがまずはベッドに入れてやる。後は起きてからまた風呂にすればいい。
また穏やかな寝息を立て始めたレオニスの髪を撫でてから、バスルームで脱がした服とタオルの後始末をした。
俺は服を脱ぎ、レオニスのシャワールームで湯を浴びた。
姿鏡に映る俺は今までと何一つ変わっていない。胸に手を当てれば、鼓動も感じた。
だが、確信していた。
もはやここに「命」はない。
「愛」を得て、人狼は最強となる。
たとえ「有限」となっても。
その血は、愛する者を護るためだけに生きる。
レオニスが俺を永遠に愛すなら…
「俺もまた、永遠だ」
鏡の中の隻眼の男は、笑った。
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