異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹

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12話

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「貴族の魔力を受けても倒れず、八雲の魔力を受けても倒れず、洞窟の魔力を受けても倒れなかった僕は、だれよりも魔力を有しているということではないだろうか!!!」

 と自分が考えた仮説を口に出し、八雲に伝えた。
 しかもよく聞こえるように高らかに。
 
 だが、僕の言葉を聞いた八雲の表情はいつもと変わらず、あきれ顔だった。

「いや、それはない」

「がびーん」

 速攻で否定された。
 僕が最強だという仮説が、一瞬で…

「それはどうしてだ、八雲! だって君が言ったんじゃないか!! 魔力酔いは魔力差で起きると。でも僕は魔力を受けても倒れない。ということは、僕の体内にはものすごい量の魔力があることを意味しているはずだ」

「残念ながら、君の体から魔力は感じられない」

「それは強すぎて、感じられないだけ……かもしれないだろ!」

「そんなことはありえない。魔力は制御できないんだ。体から魔力が流れ出る。これは誰にも止めることができない」

 誰も、止めることができない? 八雲でも、か??

「でも、八雲、君は制御してたんだろう?手加減したってさっき…」

「あれは、ぶつける量を調整しただけだ。体からは体内の魔力の一部が常に流れ出ている。だから、俺に魔力量の低いものが近づけば、魔力酔いを起こしてしまう。だから君に体から魔力が出ていない時点で、君の体には魔力が存在いないと確信できる」

 と八雲は言った。
 体内から魔力の一部が流れて出ている。そんなこと初めて知った。
 そして、八雲自身の体からも魔力が流れている。
 貴族の男を追い払うことができるほどの膨大な魔力を持つ、八雲の体内から一部流れ出ている…

「だから八雲、もしかして君は、図書館から出ないのか? 魔力の弱い人が自分に近づいてこないように…だから人が寄り付かない図書館にいるのか?」

 僕の問いかけに、八雲は目を背けた。
 八雲は本当ならそのことを知られるつもりはなかったのだろう。
 でも、僕のバカな発言から説明の中で話してしまったのかもしれない。

「そ、それは…」

 八雲はそれより先の言葉を言わない。
 八雲に近づく人が、リーダーのイケメンだけだったのは、それ以外の人では八雲の魔力で魔力酔いを起こしてしまうからだったのではないか。誰かを気づ付けたくない八雲は、普段から一人行動をしているのではないか。
 僕は、近くにいながらそのことに気が付けなかった。八雲は他人よりも強い力を持ってしまったことで、悩んでいたのではないのだろうか……

「ごめん、八雲。気づいてあげられなくて…」

「そ、そんなこと君が気にする必要はない。これは自分の問題だ。君が気にしても仕方がないことだ」

「そんなことない、僕たちは友達じゃないか。こんな悩みを持っていたのに、聞いてあげられなかった僕にも責任があるよ。だから…」

 そう、だから僕ができることをしてあげるんだ。
 僕にしかできないことを。

 僕は八雲の手を取る。

「僕が、君のそばにいるよ」

 そう、八雲に近づいても何ともない。 
 平気な僕が、彼の傍に。

「だから、なんでも言ってくれ。僕たちは友達だろう」

 これ以上の言葉はいらない。
 だって、僕の役目は傍にいること。
 誰も近づけないのなら、僕が傍にいればいい。

「あぁ、ありがとう結城…」

 八雲は涙を流していた。
 今までポーカーフェイスだった、八雲がこんなにも表情に出すなんてなかった。
 これから八雲と手をつなごうと思った。
 八雲に近づける人は僕がいる。
 傍にいる。
 それだけでいいと僕は思う。
 八雲には僕がいる。
 寂しい思いなんてさせない。
 今日僕は誓った。
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