異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹

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51話 断ち切る鎖5

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 洞窟をひたすら進む事で、早く出口に着いた。
 やっと外に出られる。まさか洞窟から出るのも大変だとは思いもしなかった。

「そろそろ出口じゃな」
「そうだね。久しぶりの外なんじゃない?」
「そうじゃな、2年ぶりくらいかの」
「2年……」

 長い間日に浴びていないなんて、考えられない。
 こんな湿気た洞窟の中に1人で2年も居たなんて、可哀想だ。

「外に出たら何がしたい?」
「……」
「どうしたの? 黙っちゃって」

 質問がまずかったのか、少女は喋らなくなってしまう。
 
「わちは、今まで森の中で1人で暮らしておった」
 
 突然喋り始めた少女の話を静かに聞き入る。

「わちの魔力は普通の人間に近づくだけで、死を招く。だから、わちは昔から1人で生きてきたのじゃ」

 そうだったのか。
 八雲と同じ悩み。でも八雲よりも強い魔力を持っている少女には、それよりも過酷だったのかもしれない。

「だから、わちは外に出られたからと言っても、行きたい場所も会いたい人間もいない」

「そうなのか……」

 これ以上の言葉が出てこない。
 僕は1人になる事はほとんどない人生だった。元の世界では家族がいたし、この世界では八雲という友達がいた。

 でも、少女はずっと1人で生きてきた。それがどれだけ辛い事なのか分からない。想像するだけで、自分も辛い気持ちになる。そんな人生を歩んできたんだ。理解などできるわけない。

「君はずっと1人で、生きてきたの?」
「そう、物心つく頃には1人じゃった」
「親は? 家族はどうしたの?」
「家族は皆死んでしまった。わちの魔力を受けての」

 少女は表情を変える事なく言いのけた。家族を自分の力で死なせてしまった事を平然と言える。
 そんな訳ない。少女は受け止めている。何度も懺悔したに違いない。そうあってほしい。

「僕でよかったら、君の側にいるよ。僕は魔力を全く感じない体質だから、君の側にいても死なないし、体調も悪くならない」

「……」

 少女は何も言わない。
 言葉が届いてないのか、届いてもこの反応なのか、分からない。
 僕はそれでも続けた。

「実は僕の友達でも、君みたいに魔力を人より多く持った人が居るんだけど、その友達も普段から1人で城の中で本を読んで過ごして居るんだ。君と一緒で他人を傷つけない為に」

「……」

「まぁ、君ほどじゃないけどね。そう言えば、その彼もここにきたことがあるんだ。でもね、最後まで到達出来なかったんだ。さっきの死体が倒れていた所くらいまでは来れたんだけど、ね」

「そうじゃったのか。その者も中々やるようじゃな。わちにそこまで近づく事が出来る人間は少ないぞ」

 やっと返事をしてくれた。
 返事が返ってくるだけで、嬉しくなる。

「そうなんだよ。凄いんだよ、勇者の中でも一番魔力が強くて、物知りなんだ」

「そうか、その者も勇者なのだな。わちの敵というわけか」

「違う違う、君の敵じゃないよ。僕も八雲も。特に依頼されて居るわけじゃないし、依頼が来てもそんなことしないから心配しないで」

 僕は慌てながら、手を振った。
 どっちにしろ魔力でかなわないのに、どうこうできるわけない。
 返り討ちにあってしまう。

 あれ、待てよ。
 おかしくないか。それって……
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