異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹

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99話 八雲

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「知っているだろう…ボクの元の暮らしを」
「!?」
八雲は悲しそうにいう。
その言葉の意味は分かっていた。
八雲は決して幸せな生活を元の世界で送っていたわけではない。

八雲の父親は酷い人間だったのだ。
母親は亡くなっており、父親と2人暮らし。
父親はほとんど仕事をしないうえ酒を朝から飲み、そして、八雲に暴力を振るっていたのだ。
八雲は中学時代、顔にアザを作って登校することもしばしあった。
そんな八雲は日々死んだような顔をしていたのを、僕は覚えている。
僕が仲良くなったことで、八雲を庇うべく僕の母親の協力で、夜一緒にご飯を食べたりしていたことも多かった。
そのおかげか分からないが、八雲は少し明るさを取り戻した。
でも、根本の解決はできずにいた。まだ八雲は父親と二人暮らし。
家に居場所がない。それに比べてこの世界は八雲にとっては良かったに違いない。
他人と触れ合えない代わりに暴力をふるう父親がいないのだから。

八雲にとっては、この世界に残ったほうが幸せなのかもしれない……

そう考えてしまった。
八雲も同じ考えなのだろう……か。

「なら、わちらだけで行くとするかの結城よ」

「えっ、でも」

僕は戸惑っていた。
僕は元の世界に帰りたい。
でも、八雲がいないのも寂しい。
どうすればいいのだろうか。
僕は葛藤していた。
帰りたくない八雲。
帰りたい僕。
そして離れたくない思い。
一緒にいるなら残るのが正解。
でも、この世界は決して僕にとって優しいものではない。
苦労は絶えない。まだ、元の世界の方があっている。
いや、待てよ。八雲は本当にこの世界に残りたいのだろうか?
帰りたくない理由はあるのは分かった。
でも残りたい理由もないのではないだろうか?
それよりも僕は元の世界に帰る。そう思ってこの世界で生きてきた。
帰らないなんてありえない。
僕は決心をした。

帰るということを。

「八雲、僕は帰るよ。元の世界に」

「そうか、その方がいい。家族が心配している」

「あぁ」

僕は、そういうとゲートの出口へ向けて歩き始めた。
ブランも僕の後を付いてくる。
出口は目の前だ。
後ろにはブラン。さらにその後ろには、八雲が立って僕たちを見つめていた。
さようなら……
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