狩人の徒然日常

ミルクEX

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三、狩猟

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 ――森林に着き、数時間を掛けて狩りの準備を終えた。辺りは暗くなっていた。
 今回狙うのはこの森の主――シュトラトム。
 見た目は熊に酷似している。そして二メートルは超える巨体。鬼のような角が耳の側から生えており、豚の様な鼻と蛇の様な目を持つ。牙と爪は長く、あまりにも鋭い。そのため自らの体をも傷つけてしまい、血だらけになっている事が多い。
 性格は獰猛。狂ったように目に付くもの全てを壊し、殺す。体は血だらけになってる事が多いが、それが自分のものなのか他の生き物のものなのかは分からない。
 それ故に狩人達からも恐れられている。今までに何人が命を落としたかだろうか……。
 俺が生き残れたのはただの偶然だ。奴が他のものに興味を示した瞬間に残る力を使い逃げただけだ。あいつは俺に興味すら持っていなかった。ただ、そこに居たから殺そうとしただけだ。
 奥歯を噛み締めていることに気がつき、目を瞑る。力を抜くため、深呼吸を数度。
 目を開け、弓を構える。
 奴はもうすぐここに来る。そうしたら狩りの始まりだ。
 何度もシュミレーションはしたが、思い通りに行かないのが狩りだ。だからこそ、一瞬たりとも気を抜いてはいけない。
 今回も失敗すれば命はないだろう。もし奇跡的に生きながらえても、狩人としてやって行けなくなる。今回負ければ、この恐怖は二度と消えない。
 失敗は許されない。なら簡単なことだ。勝てばいい。
 バキと木の枝を踏む音が聞こえた。
 低い唸り声が聞こえる。辺りは不気味な程静まり返り、唸る声だけが響く。
 出来る限り殺気を消し、奴の進行方向に目標を定める。奴がその狙う場所に来たら矢を放つ。
 肌が緊張のあまり、痺れてくる。呼吸が荒くならないよう、一定に保つ。
 恐怖で吐きそうになる。体からは冷や汗が流れている。
 落ち着け、落ち着け。
 舌を浅く噛み、自分を律する。
「――――ッ」
 シュトラトムがポイントに来たのを見計らい、矢を放つ。
 矢は奴のすぐ手前に刺さった。
「ギグルァッァァァッォォ――!!」
 狂ったような音が森を揺らす。怪物は自分に攻撃を仕掛けた敵に対して激昴する。口からは涎を撒き散らし、爪を振り回す。
 だが、その場から動かなかったのは奴のミスだ。
 奴の下には罠が張られている。矢はもとより怪物を狙ってなどいない。罠が作動する。
 仕掛けられた罠は大量の爆弾。それらは一気に爆ぜ、連鎖して次の罠が発動する。爆発により切れた縄は奴の上にある岩を固定するためのものだ。それが切れたということは岩が降ってくるということだ。その後も合計五つの罠が作動して、シュトラトムがいた場所は滅茶苦茶になっていた。
 しかし、奴はまだ生きていた。血だらけになり、息もかなり荒いがそれでもまだ生きている。そして、奴の潰れていない片目は俺を見ていた。
 咆哮を上げ、垂直に近い坂を駆け上がってくる。
 矢を数本放った後、俺は全力で後ろを向き走る。
 ここまで来たら後は自分の剣を信じよう。泣いても笑っても、死んでも生きてもこれで最後だ。 
 奴の突進をギリギリで避け、剣を抜く。
 シャランと金属音を響かせ、銀色の刀身が現れる。月明かりを受けて光る剣を敵に向ける。
 名もない剣と名も無い狩人。敵対するは数多の狩人を亡きものにした鬼。
 勝敗などは一目瞭然。されど、諦めることなど出来るはずもない。
 ここで勝てなければ全てが消える。
「ギギガァァルルォォガギイィ――!」
 奴が再度襲いかかって来る。それをギリギリで避ける。そして、奴の目が潰れた方から攻め、剣を首に刺し込む。
 迸る鮮血に、轟く断末魔。シュトラトムはのたうち回るが振りほどかれないよう、しっかりと剣を握る。
 そして奴の肩に両足を乗せ、思い切り剣を斬り上げる。
 怪物は最後に細く鳴き、崩れた。
 ハッハッと肩で息をしながらその場に座り込む。まだ勝ったという事実が上手く飲み込めない。喜ぶべきことだが喜びよりも生きているという安堵が大きい。
 空を見上げると月が輝いていた。
 バタリと倒れ込み、月を眺めていると体が一気に重くなった。戦っていた時間はほんとに少しだが、緊張しすぎて精神が疲れきっている。
 本来なら危険なので止めるべきだが、今回は周囲にまだ一〇数個の罠があるから大丈夫だろう。
 少しだけ休んでから帰るとしようか……。
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