魔王様は俺のクラスメートでした

棚から現ナマ

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俺は転生者だ。
生まれた時から、なんとなーく前世のことを憶えている。
日本という国で生まれ、ごく平凡な男子高校生をしていた。死因は憶えていないけど大学生になった記憶がないから、高校生のうちに死んでしまったのかもしれない。
成長と共に、その記憶は鮮明になってきたけど、なんのために前世を憶えているのかは判らない。

俺が転生した世界は、前世の俺がよく読んでいたラノベのような世界だった。剣と魔法の世界というヤツだ。
科学は発達してなくて、代わりに生活の至る所に魔法が使われている。

魔法とかすごいよね。
前世持ちの俺としては、魔法を使って、勇者とか冒険者とか華々しい人生を送ってやるぜっ、とか思ったけど、しょぱなから駄目だったよ。
魔力ゼロ。
人族には魔力は無いんだって。がっくり。

俺は前世同様に人族人間として生まれてきたけど、この世界には人族の他に獣人や魔族がいる。人族と獣人には魔力が無くて、魔族だけに魔力がある。魔族だけが魔法をガンガン使っている。ジェラシー。
その上、転生者の俺にはチートは無い。

ラノベにありがちな王子様や貴族子息に転生すればよかったのに、貧乏な家の次男として生まれた。まあ奴隷じゃなかっただけ良しとしておこう。

親父は王宮の庭師。
王宮勤めというと聞こえはいいけど、実際は何十人もいる庭師の下っ端だから、待遇がいいとはいえない。
雑用や力仕事が主で、親父だけではまかないきれずに俺も庭師見習いとして親父の手伝いをしている。

今日も今日とて、朝から庭の奥まった場所で落ち葉掃除をしている。親父は他の庭師達と違う作業中だからボッチ作業。
せっせと落ち葉を集めて、袋に入れてごみの集積場へと運ぶ。朝から延々とその作業の繰り返し。
庭師らしい植木の選定や花の世話なんかは、上級庭師がするから俺は庭師手伝いになって数年経つけど、人の目が触れるような場所に行ったことは無い。庭の奥のそのまた奥が俺の仕事場定位置だ。

ふと、周りがえらく騒がしいのに気付いた。こんな場所奥の奥に誰が? 気を抜いていた俺は、何人もの人が近づいていたのに気づいたのは時すでに遅しだった。
慌てて端によけると土下座をする。
俺は王宮の庭師見習いといっても下男の身分。近づいて来ている人達は、ぱっと見ただけで身分が高いことが判る。
頭を下げ集団が通り過ぎるのを待つ。下男の俺は身分の高い人達を、見上げるなんてことをしてはいけない。

「陛下。どうかお戻りください。」
「このような庭の奥までこられて、危のうございます。どうぞお戻りを。」
「煩い。我に指図するな。」

話の内容から、王様と家臣の皆さんみたいだ。
すごい。
王宮の庭師見習いとは言っても、下男の俺は王様を見たことは無い。遠目ですら無い。
それなのに、こんなに近くに王様がいるなんて。チラリとでもいいから見てみたい。
しかし、頭を上げているのが見つかったら、下手したら不敬罪で首が飛ぶ。

俺は出来る限り端にいる。邪魔にならないどころか、存在を知られないよう頑張っている。それなのに、王様一行がずんずん近づいて来る気配が……。
もう無理。
俺はこれ以上後ろへ下がれないから。いくら俺が小柄だとはいっても限界があるから。

「一旦、お部屋の方へお戻りください。」
「どうぞ気をお静め下さい。」
「我に構うなと言っている……。 ん?」
家臣の方を向いて怒鳴っていた王様が、何かに気づいたのか自分の足元を見る。

そうです王様、俺を踏んでいます。下男を踏んづけていますよ。
両手をついて頭を下げている俺の手は、王様からガッツリ踏まれている。
めっちゃ痛い!
成人男性に掌から指にかけて踏まれているのだから、そりゃあ痛い。指とか折れそうだ。
でも、絶対に声を出してはいけない。悲鳴もうめき声もなんとか堪える。我慢だ、我慢。
このまま我慢をすれば手の骨が折れるで済む。ここで騒いだら不敬罪で首が飛ぶ。

「気づかなかったとはいえ、痛かっただろう」
王様は俺の手から足をどかしてくれると、あろうことか踏まれていた俺の手を持ち上げてくれた。

俺の指は、真っ赤になっていたけど、骨は折れていないみたいだから大丈夫。
良かった良かった。じゃないよ!
王様に手を持たれている俺はどうすればいいの? どんな対応をすれば不敬罪にならずに済むの?
パニックになった俺は、思わず頭をあげて王様を見てしまった。

「え……。高橋じゃんか。なんで高橋がいるの?」
いくら前世があるとはいっても、今の俺は15歳。まだまだ未熟なお年頃だ。
王様に向かって話しかけてしまいましたよ。それもタメ語で。

ああ、不敬罪確定。
グッバイ俺の人生。わずか15歳で死んじゃうなんて、俺は何回転生しても早死にしすぎ。

俺を見ている王様は目を大きく見開いている。
綺麗な瞳だよな。
俺は人族にありがちの、こげ茶の髪に薄茶色の瞳。王様の金が混じったような黒い瞳に見惚れてしまう。
王様は、年のころなら20代後半から30代前半。ザ・王様という威風堂々とした美丈夫だ。
王族は美形という定説どおり、彫りの深い西洋人みたいな顔立ちをしている。どこをどう見ても日本人には見えない。
それなのに、王様が俺の前世でのクラスメートだった『高橋』だと判った。
確信した。

初めて前世の知り合いに会ったよー。すっごい嬉しい。
嬉しいけど二人目に遭うことは、もう無いんだろうなぁ。なんせ不敬罪でそろそろ首が飛ぶ。
どうか親父にとがが及びませんように。俺1人だけの処刑でお願いします。
ああ、涙が出そうだ。

「ぎいやあっ」
油断していたというか、沙汰をただ待っていた俺は、いきなりの浮遊感に手足をバタバタとさせてしまう。

えっ、何がどうなった?
身体が浮き上がるという恐怖に、手に触れた物を反射的に掴む。
王様?
俺が掴んだのは王様の上着で、俺は王様に抱きあげられていた。いわゆる “お姫様抱っこ” ってやつだ。

「陛下、何をされているのですか。そのような下賤な者を抱え上げるなど」
「陛下、お放し下さい。陛下が汚れてしまいます」
家臣の人達が慌てて王様から俺を引き剥がそうと近寄ってくる。
俺は、ただただ固まっているだけ。
何がどうなったのか、もう考えることを脳みそが拒否している。

「無礼者めがっ、近よるなっ!」
王様の鋭い一言で、周りの人たちが一斉に化石のように動きを止める。
いや、本当に石化したのかも。だって王様ってば、魔王様だからね。

この国は魔族が人間を支配している国なんだよね。ほんとラノベだわ。
俺にまで流れて来た噂では、今代の魔王様は魔力が桁違いで凄いらしい。
家臣の人達が魔王様の魔力一喝で石化しちゃっているし。
俺は人間だから、魔力全然感じないけど。

王様は動けないでいる家臣を一瞥いちべつすることもなく、そのまま宮殿へと戻って行く。俺を抱えたままで。
降ろして下さい、お願いします。
俺は言葉を発することもできず、ただ心の中で祈っているだけだった。





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