刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

文字の大きさ
37 / 103

閑話.エリザベート、カロリナに脱帽する。

しおりを挟む
冬が過ぎ、新春を迎える数日前にエリザベートは1月1日付けの南方交易会、会頭の承認書を受け取った。
同時に1月1日付けで発布される事案を見せられて、宰相から言葉を父上から聞いた。

「恐れ多くも国王陛下からお達しである。南方交易会の会頭エリザベートは教会事業である大規模農園プランテーションを助け、また、周辺領主の新規開拓事業を手伝うようにするべし」
「国王陛下からのお言葉、拝命致しました」

儀礼というのは鬱陶しい。
王妃の発案で新規開拓事業に国から半額の補助金が支出されることが決まった。
これはエリザベートとっても非常にありがたいことだ。
加えて、この開拓に参加した非民はその土地を与えられ国民に昇格する。
民として認める。
騎士団や領兵の保護下に入るという凄い報償であった。

エリザベートが進める南方諸領、南領の開発の半額を国の補助金で補え、参加する民を領民にできる。
ありがたいことだが、冒険者を沢山集めるという趣旨から少し外れた。

大規模農園プランテーションは飢える民を救う政策であり、参加しても国民になれる訳ではない。

若く粋がいい者ほど参加せず、冒険学校に行く。
そして、冒険者登録することで身分を得るハズであった。
ところが、開拓に参加すれば、国民になれる。

危険な冒険者を志す者がどれだけいるだろうか?

しかもラーコーツィ侯爵の西北開発では、10年間の税金を免除、開発費のすべてを支給し、収穫が落ち着くまで、家・馬・食糧の援助も行う。
加えて、ラーコーツィ領に向かう馬車代も無料にすると言っている。

ノーリスク、ハイリターンな開拓民を募集した。

こんな巧い話を普通なら誰も信じない。
嘘だ。
俺達を騙している。
貴族なんか信じられないか。
そう言って誰も集まらない。

だが、ラーコーツィ侯爵の娘であるカロリナ令嬢が頼んだという噂が流れた。
あの『カロリナ祭』を主催した悪路(下町)の貧困民に慕われる令嬢なれば誰もが信じる。
炊き出しに集まった貧困民の何割かはラーコーツィ領に流れるだろう。
ここまで計算されていたのか?
おそらく、波及して全国で同じ事が起こる。

これで魔石集めの冒険者の確保が難しくなった。
別の方法を考えなくてはならない。
巧くいかないものだ。

「あっ、エリザベート。宰相殿から追加の願いだ。聖ミレス王国より公衆浴場テルマエの設計図を手に入れて欲しいらしい」
「どこで使われるのでしょう?」
「町のすべての区ごとに最低1つは設置する。それに必要な上下水道も整備するらしい」

エリザベートは目眩を覚えた。
一周目で計画していた。
公衆浴場テルマエは作ったが、地下水から水を汲み上げるのでは稼働に限界があった。
その為には上下水道の整備が必要と考えたが時間もなく断念した。

「お父様、これは誰が言い出したのでしょうか?」
「ご生母様だ。おそらく、カロリナ令嬢がお願いしたに違いない」

なるほど!
ご生母様を使えば、誰も反対しない。
これなら都市計画も楽に取り掛かれる。
一番の問題点を簡単に突破してきた。

一周目のエリザベートがすぐに取り掛かれないのは、国を動かす事と予算であった。
特に予算の壁は大きい。
香辛料で莫大な富が入り財政的に余裕が出た頃には貴族学校に入学して、それどころでなくなった。

「よく、予算が通りましたね!」
「ラーコーツィ侯爵は反対されたが、ご子息のレヴィン様が食い下がり、ご生母様の威光を無視できないと強行された」
「猿芝居ですか?」
「ははは、そう言うな! 王妃の手前、反対しなければ、大臣として顔を合わせるのが辛い」

エリザベートにとって大きな壁のラーコーツィ侯爵もカロリナにとって壁にならない。

まったく、この世は不公平だ。

エリザベートもこの計画を報告書から耳にしていた。
だが、都市を改造するのは並大抵のことではない。
こうも鮮やかに進むとは思っていなかった。

ふふふ、参ったわね!

エリザベートは『カロリナ祭』のザニガニ料理を知ったときから、カロリナは一周目の記憶を持っていると思い始めていた。

ザニガニ料理が発表されるのは数年後だ!

つまり、マグナ・クロコディールスの発生もあらかじめ知っていた。

そう考えると、鮮やか過ぎる救出劇も頷ける。

因みに、マグナ・クロコディールスの大発生は大雨と関係する。
あの湖の底には巨大な魔力溜まりがあり、魔物を輩出していた。
しかし、その魔物をマグナ・クロコディールスが食していたので、下流に現れない。
そのマグナ・クロコディールスも綺麗な水では繁殖も儘ならず、一定数以上は増えない。
こうして、誰にも魔力溜まりは見つからずにいたのだ。

ところが、大雨が続けて起こる年が数百年に一度起こる。
湖が濁った状態が続くと、マグナ・クロコディールスが繁殖をはじめ、一定数を超えると湖の汚染が始まる。
こうして、数百年の一度、マグナ・クロコディールスの大繁殖期を迎える。
溢れたマグナ・クロコディールスが下流まで降りてきて、大被害を出す。
しかし、湖では数が数百に達すると共食いを始め、一定数まで減ると湖の浄化がはじまり、こうして大繁殖期を終える。
これが一周目のエリザベートが知ったマグナ・クロコディールスの大繁殖期の謎であった。
今回、100頭近く討伐されたので湖は浄化されてゆく。

一周目の記憶がカロリナにあるなら、その事も知っているハズであった。

つまり、隣国が攻めてくる事も承知している。

ラーコーツィ領の開発は戦争を予想しての兵数の強化か!

そうなると大砲が出てくることも計画に入っているのだろう。

より慎重に進めないといけない。

エリザベートは完全に勘違いしていた。
だが、それを正す人もいない。
本当にカロリナは欠片にも思っていない。

カロリナ祭から都市改造を繋げることで王都民の抵抗も少なくなる。

鮮やかだ!

悪い事ばかりでもない。
王都で上下水道が完備されたとなると、エリザベートが行う南方諸領・南領の新規開拓事業で上下水道を引き易くなった。
領主を説得する手間が省ける。
王都でも採用されたと言えば、誰も文句を言わない。

エリザベートが引いたレールを見事に利用されて、ラーコーツィ家、否、カロリナにとって都合のいいシナリオに書き換えられた。

「カロリナ・ファン・ラーコーツィ、凄い人だわね!」

今回は負けだ。脱帽だ。

エリザベートの誤解もより深くなっていった。


                    第1章第1場「食いしん坊なお嬢様」(終)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...