刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

文字の大きさ
87 / 103

73. カロリナ、龍は天に登った。

しおりを挟む
ぱくり、焼いた魚をカロリナが頬張った。
食べているカロリナは幸せそうだ。
海から取った魚に塩をまぶしただけの素朴な料理だ。

「ラファウが取ってくれた魚はとても美味しいですわ」
「ありがとうございます」
「エルの魚捌きも見事です」
はらはたを向いて棒を刺しただけです。お嬢様」
「これはエルの愛情の味ですわ」

ラファウの『サンダー』の魔法を海に放って魚を大量にゲットした。
残った焼き魚は葉っぱに包んで非常食として魔法鞄にしまっておく。
パンやサラダも出されている。
砂浜でのんびりとした昼食であった。

お姉さんらは他の冒険者と金目の回収に精を出していた。
臨時収入だ。
それこそ身ぐるみ剥がしている。

「なんや、こいつらしけてるわ!」
「愚痴言ってないで手を動かせ」
「懐も銅貨しかない」
「ゴブリンの皮の鎧なんて、金にならへんで!」
「多少、金になるのが武器くらいですね」

人間は殺しても魔石が採取できない。
素材にならない。
あまりいい獲物ではない。
金と装備品だけだ。
襲ってきた連中の持ち物は回収して自分の物にしていい事になっている。
しかし、あまり奨励されない。
襲われたと証明するのが厄介だからだ。
報告数が多いと逆に強奪をしていると疑われる。

『カロリナ様』

アンブラと一緒にハコネ砦の偵察に行っていたヴェンが戻ってきた。

「どうかしました?」
「山側の街道から仲間らしい一団が敵に追われております。おそらく砦の兵と思われます。アンブラが支援に行きましたが、多勢に無勢で撃退に至りません。どうするか指示を仰いでくるように言われました」
「ラファウ、救援に向かいます」
「では、カロリナ様は砦村に向かって下さい」
「いいえ、私も救援に向かいます。レフ、皆を連れて砦村に!」
「はい、畏まりました」
「ニナ、ジク、レフの命令に従いなさい。アザはオルガ、ゾフィア、侍女達の警護をお願いします」
「はい、はい」
「カロリナ様、支援は私らに!」
「ルドヴィク、支援魔法は私の方が向いています。向こうにアンブラがいるのです。護衛はアンブラに任せます。ルドヴィクは暴れなさい」
「判りました」

カロリナがいる場所は砦村より少し南に下がった浜辺である。
西海岸は断崖絶壁が多く、砂浜が稀なのだ。
ここを港にするには、沖の岩場を何とかしないと船が近づけない。
小舟なら通れなくないが、外海を小舟で出るのは危険だった。

さて、西ハコネ砦までかなりの距離がある。
兵が逃げているという事はもう陥落したと言うのかしら?
連絡兵は何をしているのかしら?
とにかく、救援しましょう。
考えるのはそれからにすると決めた。

「カロリナさ~ま!」
「フロス、どうしました」
「砦村が襲われています。早く戻らないと陥落しま~す」

フロスが緊張感のない声を出す。
油断し過ぎた。
痴漢防止にアンブラ達を使った大失敗が露呈する。
と、後悔しても仕方ない。
ラファウがすばやく指示を変更した。

「ニナとジクはフロスの指揮に従って救援に!」
「はい」、「はい」
「レフ、戦闘は避けて砦村に戻れ。アザは全員の護衛を!」
「私一人で! 知らないからね」
「問題ない」
「あり過ぎですよ」

皆が散った。
街道に一度戻って馬を走らせる。

 ◇◇◇

昨日の早朝、プー王国は砦に攻撃を掛けた。
それに先行する形で小舟を使って潜入した部隊が砦と後続の連絡を遮断する。
砦の見張りの失敗だ。
発見が遅すぎた。
夜討ち、朝駆けは戦術の基本であり、山道に兵を出して足止めできず、逆に砦が取り囲まれてしまった。
第二隊は第一砦も無視して、後詰の第二砦を目指す。
そして、第三隊から第六隊の騎士団は海岸の街道を通って半島攻略を優先し、第七隊から第十二隊が到着すると、第一砦の攻略を開始した。
ハコネ西の第一砦の総兵数は300人しかいないのに対して、3万3600人の敵兵が襲い掛かった。
為す術もなく、陥落の狼煙を上げた。

後詰めの第二砦にも300人の兵が駐屯していた。
第一砦と同じく、鳩を飛ばし、連絡兵を北と東の二方向に走らせたが、砦村に到達していない。
ペニンスラ半島北端の港町に向かった連絡兵はどちらも処分されたようだ。

ところで領都では大騒ぎだった。
西第一砦から敵の来襲の知らせが届いたと思うと、第二砦から第一砦の陥落と砦を放棄する旨が書かれていた。
敵の数は未定。
カロリナはそんな半島の西海岸に向かったままだ。

丸半日持たずに陥落した。
その狼煙を見た第二砦の指揮官は退却を決断する。
そして、主だった者を集めた。

「マリンドル、若い者100を連れて北に逃げろ!」
「叔父上」
「ルド副官、貴公は辛い任務を与える。精鋭100を連れて中央砦に向え、中央砦も襲われておるかもしれん。生きて帰れると思うな! 西が陥落した事を伝えよ」
「はぁ、畏まりました」
「マリンドルは副官の空けた穴を通って北に逃げるのだ。只管ひたすらに逃げよ。お前らにはまだやって貰わねば、為らぬことが沢山あるのだ」
「叔父上」
「この老骨がこの砦も守ってやる。味方を連れて戻って来い!」

持つはずがなかった。
敵の先鋒が第二砦を取り囲んでいたが手薄な所がある。
そこを抜いて、200人の兵が逃げ出した。
残存の老兵が援護射撃を行う。
精鋭100人は東に進路を取り、マリンドルは北の街道を駆けた。
小さな砦に200頭の馬がある訳もない。
マリンドルと数人の騎士は馬に乗っているがほとんど徒歩である。
走らせた。
だが、簡単に敵を振り切れる訳もない。
日は暮れて夜通し駆けた。
朝方には敵に追い付かれ、全滅を覚悟する。

「マリンドル様はこのまま前へ!」

家臣の一人が20人ほどの兵を連れて逆走する。
すまぬ!
マリンドルは心の中で謝った。

『突撃!』

味方の犠牲で少しだけ距離が稼げた。
だが、味方の足取りは重い。
日が高くなる頃に敵の騎馬隊が追いついてきた。
もう駄目であった。
マリンドルに決断の時が来た。
兵を捨てて逃げるか?
ここを死に場所として戦うか?
そこに一陣の風が通り過ぎた。

「このままお逃げ下さい。アンブラ様が時間を稼ぎます」
「味方か?」
「味方です」

ローブに身を隠した者が馬に並走しながら、そう言った。
ずわぁぁぁぁ、後方で砂塵が上がる。
よく判らないが、敵の騎馬隊が崩れたのが判った。

 ◇◇◇

「ラファウ、見えてきました」
「間に合ったようですね」
「当然です。アンブラが護衛に入ったのです」

ルドヴィクが馬の速度を落として叫んだ。

「道を開けろ!」

街道が狭すぎる。
二頭の馬が走るのが精一杯だ。
おそらく、馬車一台が走れるだけの道しか開いていないのだろう。
兵が開けてくれた道を一列になって逆走する。
マリンドルの横に金髪の美少女が通り過ぎてゆく。
なんと美しい!
マリンドルの前にヴェンが跪いた。

「ここまま足を止めずに砦町を目指して下さい。先導致します」
「忝い、救援を感謝する。しかし、救援に来た御三人方を犠牲にするのは申し訳ない。我らもここで反転し、敵と刺し違えて数を減らしたいと思う所存」
「お止め下さい。そもそも足手まといでございます」
「うら若い乙女を犠牲にして、おめおめと生き延びるのは! 騎士として恥じる行為だ。ここは潔く、散る覚悟で戦いたいと思います」

ローブで顔を隠したヴェンがふっと笑った。
マリンドルはマジで泣いている。
しかも演技っぽい!
貴族様ごっこだ。

「いい加減にしろ! 邪魔だからさっさと進めと言っている」
「娘、このお方をどなたと考える。ラーコーツィ家で名高いマリンドル伯爵様の御長男…………」
「だから、そうなのどうでもいいの。カロリナ様の命令だ。邪魔だから付いて来て!」
「カ、カロリナ様だと!」
「若、お助けせねば!」
「邪魔だから止めて!」(私が怒られる)

ヴェンは必至に脅して、マリンドルを砦村に先導した。
入れ替わるように木葉フォウが戻って来た。

ルドヴィクが背中のバスターソードを背中から取ると、アンブラの支援に入った。
アンブラがめずらしく無双していた。
何でも敵の100人隊長や指揮官を討っても撤退してくれないらしい。
とにかく、足止めの為に無双するしかなかった。
そこで無双が得意なルドヴィクが入ってきたので交代した。

「アンブラ、敵の数は?」
「申し訳ございません。四個大隊(480人×4)以上とか!」

アンブラにしては歯切れが悪い。
すでに大隊(480人)以上を殲滅したが底が見えない。
軍団(4,800人)が控えているのだろう。

あれ、ルドヴィクが入ったのに敵の勢いが消えない。
一人ずつ葬るアンブラより、一振りで3人くらいを始末できるルドヴィクの方が向いているはずなのに?

あっ、なるほど!
ルドヴィクとの戦闘を避けて、こちらに追撃を優先している。
避けてゆく敵にルドヴィクも戸惑う。

「ルドヴィク、前のみ倒しなさい。後ろはこちらで始末します」
「助かります」
『カロリナ様』

浜辺から逃げていった兵を追い駆けていった木葉フォウが戻ってきた。

「何か判りましたか?」
「軍団(4,800人)クラスの一団が海岸街道を北上しております」
「すぐ近くですか?」
「夕刻には砦村に到着するかと思います」

浜辺の兵士は斥候だったようだ。
山沿いの本街道と迂回の海街道からそれぞれ一個軍団を回したの?
かなり本気の侵攻ね!
これはのんびりと撃退している暇がないわ。

「アンブラ、後ろに味方はいませんか?」
「おそらく、生きていません」
「フォウは再び向こうの動向を探って下さい。ラファウ、アンブラ、支援をお願い。敵の足を止める大規模魔法を使います」

カロリナは馬から降りた。
カロリナとルドヴィクの馬を木葉フォウが預かった。
杖を敵に向けて、魔力で魔法陣を描き出す。
足元に魔力補助と魔力強化の魔法陣が浮かび上がる。
魔法詠唱をしている時は完全に無防備になる。
敵の的だ。
ラファウとアンブラでカロリナを守る。

この魔法は久しぶりだ。
火柱ファイラー・フレア(広域の炎魔法)を使うようになってから、ほとんど使う機会がなくなった。
火力が弱いのが欠点なのよ。
魔物相手では致命傷にならない。
でも、範囲だけなら村1つを焼くことができる大広域魔法であり、魔法強化の魔法陣で効果範囲をさらに広げることができる。
いけぇ!

火柱嵐ファイラー・テンペスト

杖から飛び出した八つ火球が大きく弧を描いて、かなり遠くの敵陣に着弾した。
敵も馬鹿じゃない。
火球を避けて広がって回避する。
そんな攻撃が通じるものか!
笑って兵を整える。
しかし、着弾すると大きな火の柱が立ち昇った。
ぐおぉぉぉと音を上げて八柱が立つ。
そこからいくつもの火の玉が飛び散った。
火の玉が着弾すると新たな火柱が上がり、これを繰り返して広がってゆく。
最初の火の玉を避けて笑っていた敵の司令の顔が引き攣ってゆく。
辺り一面が火の海だ。
その熱気で上昇気流が起こり、巨大な炎が天に伸びてゆく。
風に煽られて炎が木々に飛び火して大火災へ成長する。
さらに炎の龍が天に向かって登ってゆく。
敵はもう大混乱だ。

「これでしばらく持つでしょう」
「カロリナ様、まだ周囲には敵がいます。お気を付け下さい」
「アンブラ、周りを片づけながら後退します。ルドヴィク、もういいです」
「戻ります」

カロリナにも炎がゆっくりと迫ってくる。
魔法陣で魔力を強化してみたが、思っていた以上に広範囲の火事を引き起こしたようだ。
自分の魔法で焼け死んでは話にならない。
撤退だ!

このとき、カロリナは事の重要性に気が付いていなかった。
テンペストの名の如く、龍が天に昇るように巨大な火柱が天に伸びている事を!
そして、天に昇った竜の鱗が再び、地上に降り落ちる事を!

カロリナは無邪気に敵の足を止めてやったと喜んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...