魯坊人外伝~魯坊丸日記~

牛一/冬星明

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第一章 魯坊丸は日記をつける

二十九夜 魯坊丸、一歳になる

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〔天文十六年 (一五四七年)初夏四月中旬〕
ハッピー バースデートゥーユー
ハッピー バースデイ トゥ 
ユーハッピー バースデイ ディア 魯坊丸
ハッピー バースデートゥーユー

俺が四月生まれと思い出し、母上に尋ねるとすでに過ぎていた。
誰も祝ってくれないから気づかなかった。
えっ、正月に一緒に祝っているって?
そうなのか、あれはどう考えても年賀の挨拶だろ。
という訳で、自分で祝うことにした。
最近は、台所に顔を出しても誰も驚かず、挨拶だけで各々の仕事に精を出す。
しばらくすると、俺が来たことを聞いた賄い長が声を掛けてきた。

「今日は、どのような御用でしょうか」
「げぇい、ぎ、い、を、づ、ぐ、る」(ケーキを作る)
「げぇ? 何でございますか?」
「な、ん、ばぁ、ん、の、だ、べぇ、も、の、だ」(南蛮の食べ物だ)
「今日は南蛮の料理のようです」

福がそう言うと賄い長も納得して準備を手伝ってくれる。
小麦粉はあるが卵と砂糖がない。
クリームは山羊や乳牛が手に入っていないから諦める。
硝石が手に入ったのに山羊が手に入らないとは、これ如何いかに?
だから、もっとシンプルなパンケーキに挑戦だ。
卵の代わりに出来損ないの豆腐と山芋を使い、砂糖の代わり水飴を使う。
よく練って粘りがでれば、生地の完成だ。
鉄の鍋に油を塗ると、生地を落として焼いてゆく。
パンケーキというよりポットケーキだ。
完成したパンケーキに貴重な蜂蜜をかけると完成だ。
う~ん、甘くて美味しい。
母上にも作って差し上げた。
美味しそうにほおばって完食してから、貴重な蜂蜜を大量に使ったことを叱られた。
賄い長は蜂蜜を使った料理があることに驚いていた。
貴重な甘味ではあるが、独特な風味がある上に貴重過ぎて、料理に使えない。
その癖、兵糧丸に蜂蜜を使っていたりするから基準が曖昧だ。

「福殿。このような美味しい食べ物を食せて私達は幸せですね」
「はい。他の方に申し訳ありません」
「他の方に回すほどの量はありませんし、たくさん作ると奥方が叱られてしまいます」
「そうですね」

俺の侍女達がおさがりのパンケーキを食して雑談を交わしている。
俺はそんな彼女らを無視する。
床に寝転がって日向ぼっこをしながら体をゴロゴロと回して満喫していた。
俺がゴロゴロしている間は誰も近寄らない。
知らぬ間に寝ており、気がつくと布団に寝かされていた。
俺が起きるのを待っていたのか、作之助が待っていると侍女が教えてくれた。
鉄砲のレクチャーを終えて金山に戻ったのでないのか?

「魯坊丸様。お助けください」
「な、に、が、あ、つ、だ」(何があった)
「鉄作りの総責任者になれと言われてしまいました」

当然だろう。
鉄作りと人工石炭の説明書を書いたのは作之助であり、他の者を責任者にすれば、最初から教え直すので二度手間だ。
作之助曰く、やっと鉄砲のネジを作る道具作りに入ったのに、それを後回しにして責任者にされてしまう。
余程、鉄砲が作りたいらしい。
だが、総責任者になれば、一人棟梁だった作之助に弟子が五人も宛がわれる。
若手の鍛冶師であり、皆、鉄砲に興味がある者だ。
さらに、五郎丸がパトロンとなり、助手十人と賄い女三人も付き、長根村の北側に鍛冶工房を建ててもらえるという。
しかも、それは暫定であり、鉄と人工石炭を作る作業員は五十人以上を追加で揃えるという。

「俺は一人が好きなんだ」
「あ、ぎ、ら、め、ど」(諦めろ)
「魯坊丸様。そう言わずに、誰か他の鍛冶師を推薦してください」

他の者を推薦するということは、教え直すことになる。
絶対に嫌だ。
寧ろ、作之助が教師となって教える方に動く。
鉄と人工石炭を作る場所も内定した。
中根南城の北にあるさくら山の谷で、岳見谷と呼ぶ。
俺も作之助を推薦すると言うと、肩を落として諦めたようだ。
だが、一人で場所を決められないと言って、俺も一緒に山に入ることになった。

二日後。
よく晴れたハイキング日和に、五郎丸が手配した山師や長根村の手伝い衆の総勢二十人で山に入った。
まず、谷が見渡せる高い場所に移動し、水の道などを確認する。
脆い土で土砂崩れを起こしそうな場所を避け、なるべく岩石が丸出しになっている所を探すのだ。
指示を出すのは簡単だが、木々が視界を遮り、道なき山道を歩いて探すので大変だ。
決してひ弱でない福が肩で息をはじめた。

「ぶぅぐ。だ、い、じ、よ、う、が」(福、大丈夫か)
「大丈夫でございます。まだまだ元気でございます」
「そ、う、が」(そうか)

大丈夫じゃなかった。
木の根に足を取られて転けそうになり、護衛が俺を抱くことになった。
護衛は前と後で敵から守るのが仕事であり、俺を抱いていると仕事にならない。
その日は、様子見と言って引き上げた。
翌日、長根村に寄ると、福が義理の弟を紹介してくれた。

「弟の武蔵たけぞうにございます。体が大きく丈夫なので、私の代わりに魯坊丸様を抱く係にしたいと存知上げます」
「武蔵です」
「ろ、ぼ、う、ま、る、だ」

武蔵はまだ十四歳だが、四尺五寸 (170cm)もあるひょろっとした体付きをしていた。
福が抱くより目線が高くなり、見やすかった。
俺を抱きかかえていなければ、福も山に入るのはお手のものだった。
三日ほど山に入っていると、俺はもう飽きてきた。
山の土を削って検証して貰っているが、俺は結果ができるまですることもなく暇だった。
だから、村の者を使って薬草拾いをはじめた。
あぁでもない、こぅでもないと、議論しながら十日ほど山をウロウロとして場所を決めた。
最終日、椎茸を発見した。
椎茸でお吸い物だ。
城に帰ると、賄い長に言って作らせる。
美味しかった。
おすそ分けで母上らにもお出しすると喜ばれたが…………母上が前に座れと指を刺した。
デジャブを覚えた。

「魯坊丸、椎茸のお吸い物は大変に美味しゅうございました」
「よ、ろ、ご、ん、で、い、だ、だ、げ、で、う、れ、し、ぐ、お、も、い、ま、ず」(喜んでいただいて嬉しくおもいます)
「ですが、椎茸がいくらするかわかっておりますか」
「い、く、ら?」(いくら?)

値段を聞かれた瞬間に、蜂蜜のことを思い出した。
以前も物の値段を覚えろと母上に叱られたことが脳裏に浮かび、母上の口から金額が聞こえる。
もんめ(一本15g)が四石(四貫文、48万円)相当の物品と交換?
聞き間違いだ。
四問目は一本じゃなく、干し椎茸だよ???
それにしても、どうしてそんなに高いんだよ。
あり得ないだろう。
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