68 / 228
第二章 魯坊丸と楽しい仲間達
一夜 俺はちっちゃくないぞ
しおりを挟む
〔天文十七年 (一五四八年)春三月一日〕
草木が茂る弥生になった日、岩室-宗順が四人の少女を連れて中根南城にやってきた。
宗順はまず養父との対面を求め、応接の間に入った。
養父と宗順の話を盗み聞きしてきた俺の侍女らが騒いでいる。
かなり良いところの姫様らしい。
「魯坊丸様の許嫁かも」
「うそぉ」
「あり得るわよ」
「千秋家が怒らないかしら?」
「すごく綺麗な子だったわ」
「従者付き」
「わたしも姫様って呼ばれたい」
ははは、侍女らの笑う声が聞こえた。
侍女らは色恋沙汰になると声のトーンが急に上がり、俺の部屋と侍女の控えの間は障子一つなので、その声がだだ漏れなのだ。
姫って、宗順が連れてきたので忍びかと思ったが違うのか?
三歳の俺に許嫁とか早いだろう。
俺は織田家の嫡子でもないし、次期中根家当主と言ってもまだ継いでもいない。
中途半端な居候だ。
織田家が没落した瞬間に俺の地位も吹っ飛ぶ。
歴史通りに織田家が躍進すれば、織田家の血筋で食ってゆけるのだろう。
そうなるといいね。
信長の下で無理ってわかっているけど…………願うくらいは自由だろう。
今の俺に娘を嫁がせたいなんて考えるのは、俺と一連託生の千秋家のみだ。
千秋家は俺を持ち上げて織田家に食い込むつもりだ。
千秋季忠に妹がいなくて幸いだった。しかし、実娘が生まれれば押し付けてくる可能性は高い。
すぐに生まれないことを祈っておこう。
きゃぁ~、侍女らのトーンがさらにヒートしたのは母上が四人の少女を連れて俺の部屋に近付いてきたからだ。
母上は部屋に入ってくると、上座の俺の隣に座った。
「魯坊丸。紹介します。貴方の新しい侍女らです」
母上がそういうと、横の侍女らが「えっ~」と驚きの声を上げる。
きりっと母上が侍女らを睨んで声を封じた。
「近江の六角家の重臣望月-出雲守のご息女、千代女である。先のことはわからぬが、魯坊丸が元服するまでは侍女として付いてもらうことになった」
「千代女ですか⁉」
「何か不満か? 魯坊丸が名指しで呼んだと、宗順殿から聞いたが間違いだったか」
「間違いではございません。本当に来ていただけるとは思っていませんでした」
「あり得ぬことを頼んだのか?」
「はい、そんな感じです」
「ほほほ、そうよのぉ。中根家は織田家の家臣でしかない。魯坊丸は大殿の御子であるが、その織田弾正忠家も尾張守護代の奉行に過ぎぬ。中根家が六角家の重臣の姫をもらうには家格が低過ぎる。故に花嫁修業の一環として、我が家で預かることになった」
「花嫁修業…………ですか?」
「魯坊丸に見込みがあると思われれば、千代女はこのまま侍女を続け、魯坊丸の元服を待つ。しかし、見込みがないと知れれば、三年を待たずに望月に帰ることになる」
「承知しました。帰さぬように精進しろというのですね」
「魯坊丸なら難しいことではない」
母上は俺を信頼しているのか、まったく疑っていない。
が、俺が目指すのは引き籠もりライフだ。
呆れられて帰る可能性は高い気がする。
母上は俺に説明を終えると、下座に座っていた四人の少女らが顔を上げた。
「望月-千代女と申します。何卒よしなにお願い申し上げます」
「魯坊丸だ。宜しく頼む」
千代女は顔立ちから見て、十三歳の中学生に成り立ての感じがする。
侍女が騒ぐだけあって可愛い。
俺をみる眼光は鋭く、千代女はもしかするともう少し年嵩が上かもしれない。
後ろの三人は千代女より幼くみえる。
特に、一人だけ小学校の低学年が混じっているような?
元気に手を上げる生徒がいた。
『はい、はい、はい。は~い』
元気があり余っているのか、「次は私だ」との自己主張が強いのか。
ポーニーテールの女の子が声を上げて挨拶をはじめた。
「わたくしは千代女様の従者のさくらです。よろしくお願いいたします』
ずおぉ~っと声の圧が通った。
その迫力で俺は後ろに吹き飛ばされるような感覚を覚えた。
声のボリュームが凄い。
部屋中に響き、侍女らも耳に手を当てたくなるほどの大音量で侍女らが姿勢を崩していた。
母上も呆気にとられて声もでない。
「私は、いつか千代女様の右腕となる優秀な忍びです。日々の努力を毎日のように続け、刀の扱いには自信があります。この度の護衛役ですが、魯坊丸様のお役に立つことは間違いなし。このさくらがきた限り、大船に乗った気で安心してください。頑張ります」
「…………」
「…………」
さくらが忍びとか、護衛とか、本来の目的をはっきりと言ってしまった。
母上は少しうつむき額に手を当てて悩んでいるようすだ。
裏表がないというか、馬鹿か?
侍女らが「忍びですって」とか、ひそひそ話が上がり出す。
母上がごほんと咳を切って侍女らのひそひそ話を止めた。
「楓、何をしているのですか。ちっちゃな主様に挨拶しなさい。それとも私から紹介して欲しいですか。欲しいですか」
「さくら、黙れ」
「黙りますとも。楓が挨拶をすれば黙ります」
「わかったから黙れ」
楓と呼ばれている少女がちぃっと舌打ちをしてから頭を下げ直して、俺の方に向いた。
「楓でございます。よろしくお願いいたします」
「挨拶が短いですね。自分の得意とか言わなくてよいのですか。楓は足だけは速いのですから、もっとちっちゃな主様に覚えていただけるように主張しなければいけません」
「さくら。甲賀に帰りたいのか。奥方様が怖い顔で睨んでいるぞ」
「ぬお⁉」
「紅葉。さくらを無視して挨拶だけでもしておけ」
「わぁ、はい、楓さん。紅葉です。よろしくお願いいたします」
「申し訳ございません。私の教育が行き届いておりません。この三名には、あとで叱っておきます」
千代女が三人を叱ると言った瞬間、三人の顔から血の気が引いたように青い顔になる。
そんなに怖いの?
まぁいい。そこは後々考えよう。
敢えていうぞ。
俺はちっちゃくない。
三歳の体格ならこれくらいが普通だよ。
ちっちゃい、ちっちゃいって言うな。
草木が茂る弥生になった日、岩室-宗順が四人の少女を連れて中根南城にやってきた。
宗順はまず養父との対面を求め、応接の間に入った。
養父と宗順の話を盗み聞きしてきた俺の侍女らが騒いでいる。
かなり良いところの姫様らしい。
「魯坊丸様の許嫁かも」
「うそぉ」
「あり得るわよ」
「千秋家が怒らないかしら?」
「すごく綺麗な子だったわ」
「従者付き」
「わたしも姫様って呼ばれたい」
ははは、侍女らの笑う声が聞こえた。
侍女らは色恋沙汰になると声のトーンが急に上がり、俺の部屋と侍女の控えの間は障子一つなので、その声がだだ漏れなのだ。
姫って、宗順が連れてきたので忍びかと思ったが違うのか?
三歳の俺に許嫁とか早いだろう。
俺は織田家の嫡子でもないし、次期中根家当主と言ってもまだ継いでもいない。
中途半端な居候だ。
織田家が没落した瞬間に俺の地位も吹っ飛ぶ。
歴史通りに織田家が躍進すれば、織田家の血筋で食ってゆけるのだろう。
そうなるといいね。
信長の下で無理ってわかっているけど…………願うくらいは自由だろう。
今の俺に娘を嫁がせたいなんて考えるのは、俺と一連託生の千秋家のみだ。
千秋家は俺を持ち上げて織田家に食い込むつもりだ。
千秋季忠に妹がいなくて幸いだった。しかし、実娘が生まれれば押し付けてくる可能性は高い。
すぐに生まれないことを祈っておこう。
きゃぁ~、侍女らのトーンがさらにヒートしたのは母上が四人の少女を連れて俺の部屋に近付いてきたからだ。
母上は部屋に入ってくると、上座の俺の隣に座った。
「魯坊丸。紹介します。貴方の新しい侍女らです」
母上がそういうと、横の侍女らが「えっ~」と驚きの声を上げる。
きりっと母上が侍女らを睨んで声を封じた。
「近江の六角家の重臣望月-出雲守のご息女、千代女である。先のことはわからぬが、魯坊丸が元服するまでは侍女として付いてもらうことになった」
「千代女ですか⁉」
「何か不満か? 魯坊丸が名指しで呼んだと、宗順殿から聞いたが間違いだったか」
「間違いではございません。本当に来ていただけるとは思っていませんでした」
「あり得ぬことを頼んだのか?」
「はい、そんな感じです」
「ほほほ、そうよのぉ。中根家は織田家の家臣でしかない。魯坊丸は大殿の御子であるが、その織田弾正忠家も尾張守護代の奉行に過ぎぬ。中根家が六角家の重臣の姫をもらうには家格が低過ぎる。故に花嫁修業の一環として、我が家で預かることになった」
「花嫁修業…………ですか?」
「魯坊丸に見込みがあると思われれば、千代女はこのまま侍女を続け、魯坊丸の元服を待つ。しかし、見込みがないと知れれば、三年を待たずに望月に帰ることになる」
「承知しました。帰さぬように精進しろというのですね」
「魯坊丸なら難しいことではない」
母上は俺を信頼しているのか、まったく疑っていない。
が、俺が目指すのは引き籠もりライフだ。
呆れられて帰る可能性は高い気がする。
母上は俺に説明を終えると、下座に座っていた四人の少女らが顔を上げた。
「望月-千代女と申します。何卒よしなにお願い申し上げます」
「魯坊丸だ。宜しく頼む」
千代女は顔立ちから見て、十三歳の中学生に成り立ての感じがする。
侍女が騒ぐだけあって可愛い。
俺をみる眼光は鋭く、千代女はもしかするともう少し年嵩が上かもしれない。
後ろの三人は千代女より幼くみえる。
特に、一人だけ小学校の低学年が混じっているような?
元気に手を上げる生徒がいた。
『はい、はい、はい。は~い』
元気があり余っているのか、「次は私だ」との自己主張が強いのか。
ポーニーテールの女の子が声を上げて挨拶をはじめた。
「わたくしは千代女様の従者のさくらです。よろしくお願いいたします』
ずおぉ~っと声の圧が通った。
その迫力で俺は後ろに吹き飛ばされるような感覚を覚えた。
声のボリュームが凄い。
部屋中に響き、侍女らも耳に手を当てたくなるほどの大音量で侍女らが姿勢を崩していた。
母上も呆気にとられて声もでない。
「私は、いつか千代女様の右腕となる優秀な忍びです。日々の努力を毎日のように続け、刀の扱いには自信があります。この度の護衛役ですが、魯坊丸様のお役に立つことは間違いなし。このさくらがきた限り、大船に乗った気で安心してください。頑張ります」
「…………」
「…………」
さくらが忍びとか、護衛とか、本来の目的をはっきりと言ってしまった。
母上は少しうつむき額に手を当てて悩んでいるようすだ。
裏表がないというか、馬鹿か?
侍女らが「忍びですって」とか、ひそひそ話が上がり出す。
母上がごほんと咳を切って侍女らのひそひそ話を止めた。
「楓、何をしているのですか。ちっちゃな主様に挨拶しなさい。それとも私から紹介して欲しいですか。欲しいですか」
「さくら、黙れ」
「黙りますとも。楓が挨拶をすれば黙ります」
「わかったから黙れ」
楓と呼ばれている少女がちぃっと舌打ちをしてから頭を下げ直して、俺の方に向いた。
「楓でございます。よろしくお願いいたします」
「挨拶が短いですね。自分の得意とか言わなくてよいのですか。楓は足だけは速いのですから、もっとちっちゃな主様に覚えていただけるように主張しなければいけません」
「さくら。甲賀に帰りたいのか。奥方様が怖い顔で睨んでいるぞ」
「ぬお⁉」
「紅葉。さくらを無視して挨拶だけでもしておけ」
「わぁ、はい、楓さん。紅葉です。よろしくお願いいたします」
「申し訳ございません。私の教育が行き届いておりません。この三名には、あとで叱っておきます」
千代女が三人を叱ると言った瞬間、三人の顔から血の気が引いたように青い顔になる。
そんなに怖いの?
まぁいい。そこは後々考えよう。
敢えていうぞ。
俺はちっちゃくない。
三歳の体格ならこれくらいが普通だよ。
ちっちゃい、ちっちゃいって言うな。
1
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる