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第21話
しおりを挟む第21話 破壊者の影
――赤い砂漠の夜。
吹き荒れる風が、焼け焦げた大地をなぞる。
その中心に、ひとりの男が立っていた。
黒衣をまとい、灰色の髪を風になびかせ、金黒の瞳が闇を射抜く。
名は――カイレン。
かつて“灰蓮”と呼ばれた存在。
神々の記録から生まれ、
模倣者・天城蓮の“もうひとつの意志”として切り離された残響。
だが今、その残響は“独立した命”を得ていた。
「創造者……人間が神に代わるだと?」
カイレンの声は低く、地を震わせた。
「お前たちが築こうとしているのは、秩序ではなく“再びの傲慢”だ」
足元の砂が黒く変色し、やがて形を持つ。
人のような影、獣のような塊――“破壊の徒(ディストリア)”。
彼の負の意志から生まれた存在たち。
「創造があるなら、破壊もある。
俺はその均衡を担う者――“破壊者(デストロイヤー)”だ」
その宣言とともに、南方の空が赤く染まる。
世界は、再び対立の胎動を始めた。
⸻
同じ頃、アマギ。
早朝の広場で、蓮とエリスは再建作業の報告を受けていた。
人々の笑顔が戻り、建物が立ち並び、火が絶えず灯されている。
「やっと“国”って感じがしてきたな」
リィナが木材を担ぎながら言う。
「子どもたちも学校を作ってる。
“勉強”って言葉が、久しぶりに生きてる気がするぜ」
エリスは微笑んだ。
「人が知識を継ぐ――それも“創造”ね」
しかしその時、空気が変わった。
空の青が一瞬、黒く染まる。
風が逆流し、地平線の向こうから“赤い光”が走った。
「……今の、何?」
エリスの声が震える。
蓮の表情が硬くなった。
「この感覚……間違いない、“俺の残響”だ」
「まさか……灰蓮が――!?」
リィナが銃を構え、空を睨む。
「嘘だろ。あいつ、消えたはずじゃなかったのか!?」
「消えたんじゃない」
蓮の声が低く響く。
「“記録”から切り離された俺の負の意識――
それが自我を持って“人”として再誕したんだ」
「じゃあ、あれが……“カイレン”」
エリスの目に、決意の炎が宿る。
「放っておけないわね」
⸻
その日の夜、アマギ評議会が開かれた。
村の代表たち、職人、兵士、学者。
焚き火の周囲に並ぶ者たちの顔には、不安が浮かんでいる。
「南方から黒い嵐が迫っているとの報告があります」
報告官が声を上げた。
「植物が枯れ、空が赤く染まり……まるで“災厄”のようです」
リィナが舌打ちした。
「やっぱ来やがったな。灰蓮の仕業か」
エリスは静かに立ち上がり、皆を見渡した。
「恐れる必要はありません。
“破壊”は、“創造”の裏返し。
ならば、私たちは“創り続ける”ことで抗えるはず」
だが、その声に別の者が反論する。
「創造だけで戦えるのか!?
神でもない我々が、どうやって破壊に立ち向かう!?」
会場にざわめきが広がる。
そのとき、蓮が一歩前へ出た。
「戦うさ。
でも、武器でじゃない。
“想い”を形にする力――創造者の意志で、世界そのものを守る」
「想いで……?」
誰かが呟く。
蓮は頷き、手を掲げた。
空間が揺らぎ、彼の周囲に光の結晶が現れる。
それはまるで、祈りを形にしたような透明な粒。
「これは“創造素(クリア・コード)”。
人の願いを媒介に、現実を変える新しい原理だ。
俺たち創造者だけじゃなく、誰でも使える。
この世界の全ての人が、“想う力”を持てるように」
会場のざわめきが、次第に静まっていく。
人々の瞳に、光が宿る。
エリスが静かに告げた。
「――アマギを中心に、“創造連盟(ジェネシス・リンク)”を結成します」
蓮が頷く。
「創造の力を、破壊に負けない絆に変える。
これが、俺たちの戦い方だ」
⸻
一方その頃、南方の黒き荒野。
カイレンが、無数の“破壊の徒”を従え、赤い光の中に立っていた。
その背後では、黒い塔が天を突き、
砂漠の中心に巨大な“門”が形成されていく。
「アマギ……創造者どもが旗を掲げたか。
ならば俺は、その旗を折り、均衡を正す」
カイレンの掌から黒い稲光が走る。
周囲の影たちが一斉に咆哮し、大地を揺らした。
「創造者に神の資格などない。
――神を超えたなら、人を滅ぼせ」
その声は風に乗り、世界中に響いた。
遠く離れたアマギの空にも、微かな黒い稲妻が瞬く。
蓮はその気配を感じ、目を閉じた。
「来るな……カイレン」
エリスが隣で呟く。
「いずれ、ぶつかる運命なのね。
“創造”と“破壊”――
同じ魂を分けた、あなたたちが」
蓮は静かに答えた。
「だからこそ、終わらせる。
この世界を、“二度と神の舞台にしない”ために」
夜空に金黒の光が瞬く。
それは、かつての模倣者と破壊者、
ふたつの意志が再び交わる前触れだった。
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