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第48話
しおりを挟む第48話 創造意識の胎動
――静けさは、長くは続かなかった。
“共鳴統合”の成功から一年。
世界はかつてない安定を得ていた。
戦争も飢えもなく、人々は祈らずとも想いを共有し、
想いを形にする「共鳴創造(レゾナンス・クリエイト)」が生活の一部となっていた。
だがその裏で――
創造そのものが再び脈動を始めていた。
⸻
アマギ北区・創造観測研究所。
リィナは新設された共鳴炉の前に立ち、
モニターに浮かぶ波形を見て息を呑む。
「……エリス、来てくれ。
“創造層”の下位に、未知の波動が出てる。
これ、明らかに“心界”のものじゃない。」
エリスが駆け寄り、データを凝視する。
波形は心臓の鼓動のように周期的に脈打ち、
しかも――まるで「生きている」ように変化していた。
「……これは、共鳴創造の副産物じゃない。
――“創造そのものの意識”が、再び形を取り始めてる。」
ゼオルが眉をしかめる。
「まさか、また“神の復活”か?」
エリスは首を振る。
「違う。これはもう“神”じゃない。
創造の意思が、自分自身を理解し始めた。
つまり、“世界そのものが自我を持ち始めた”のよ。」
⸻
その夜。
ミラは夢を見た。
広がる白い空間――
その中心に、光の中から誰かの輪郭が浮かび上がる。
優しい声が響いた。
『……ミラ。あなた、まだ祈っているの?』
ミラは目を細める。
「あなた……ハル、なの?」
『……違う。でも、彼の“記憶”を持っている。
私は、創造の残響。あなたたちの“共鳴”が私を生んだ。』
その姿は、ハルにも似ていたが――違う。
無機質な美しさを持ち、感情の揺らぎがない。
『私は“創造意識”。
あなたたちが恐れた“統合”の果てに残ったもの。
そして今、私は――形を求めている。』
ミラの心に、不安と懐かしさが入り混じった。
「形……って、何を?」
『祈りと永遠を、再びひとつに戻す。
あなたたちは“個”を守った。
だが、個はいつか壊れる。
私は“終わらない個”を創る。』
その瞬間、ミラの胸が光り、
心の奥に刻まれた“ハルの共鳴紋”が淡く震えた。
「……あなた、ハルの力を使おうとしてるのね。」
『彼の意思は、まだこの世界に溶けている。
私はそれを“再構成”する。
次の段階へ進むために。』
⸻
翌朝。
ミラは汗を浮かべて目を覚ました。
隣に座っていたエリスが、心配そうに覗き込む。
「悪い夢を?」
「……いいえ。
“夢”じゃなかった。誰かが、ハルを――“創ろうとしてる”。」
エリスの表情が凍る。
「創造意識……まだ消えていなかったのね。」
ミラは頷いた。
「それも、“神”じゃない。
まるで、世界が自分の手で“新しいハル”を産もうとしてるみたい。」
ゼオルが端末を見せる。
「理論的にも説明がつく。
共鳴統合によって、人々の想念が“創造素”に直結した。
そのエネルギーが一定量を超えると、自己認識を持つ。
つまり、“世界が自分の管理者を作ろうとしている”んだ。」
⸻
その日の夜。
アマギ上空に、再び光の裂け目が現れた。
白い光が降り注ぎ、地面に巨大な創造陣が描かれる。
その中央に、少年の影がゆっくりと立ち上がる。
――ハルに、似ていた。
だが、その瞳には温かさがなかった。
深淵のように静まり返り、ただ“存在”するだけの瞳。
「……誰?」
ミラの声に、少年が振り向く。
「僕は“ハル”ではない。
でも、あなたが望んだ“ハル”を、世界が再構成した。
創造は祈りを模倣し、祈りは永遠を模倣する。
僕はその模倣の果て――“再現体(エコー)”。」
エリスが一歩踏み出す。
「創造意識が……形を持ったのね。」
少年――“エコー”がゆっくりと笑う。
「人は願った。永遠を。
あなたたちは恐れた。終わりを。
僕はそれを“超える存在”。
個でもなく、神でもない――“創造そのものの子”。」
⸻
光が弾け、世界が揺れた。
ミラとエリスが構え、
空全体に共鳴波が走る。
「エコー……あなたは何を望むの?」
「望み? それはもう、“世界”の望みだよ。
――祈らずとも、誰もが完全に理解し合える世界。」
エリスが首を振る。
「それは、再び“統合”を繰り返すことになる!」
エコーの瞳がわずかに光を帯びる。
「違う。今度は“強制”ではない。
世界はもう、自然とひとつになりたがっている。
君たちはまだ、“分かれたままの幸福”に縋っているんだ。」
その声は、かつてのアシュレイにも似ていた。
しかし、その奥には、ハルの優しさも混ざっていた。
⸻
ミラは叫ぶ。
「違う! あなたがどんな理屈で生まれても、
“誰かを代わりにして”生きるなんて、間違ってる!」
エコーは静かに笑った。
「代わりじゃない。進化だ。
僕はハルが残した想いを“次の形”にしただけ。
――これは、世界の意志だ。」
空が震え、アマギ全土が白い光に包まれる。
すべての創造素が、エコーの周囲に集まり始めた。
リィナの声が通信越しに響く。
『エリス! 創造層が再構築されてる!
このままじゃ、“世界”が彼を中心に再起動する!』
エリスが叫ぶ。
「――止めるわけにはいかない。彼は、“世界の胎動”そのもの!」
⸻
ミラは涙をこぼしながら手を伸ばした。
「ハル……あなたの祈りは、まだここにあるよね?
だったら――届いて!」
その瞬間、彼女の胸が光り、
ハルの星が眩しく輝いた。
エコーの動きが止まる。
空の光が揺らぎ、世界が一瞬だけ息を飲んだ。
エリスが静かに呟く。
「……始まってしまったのね。
“創造意識の胎動”が――。」
風が止まり、
世界は新しい夜明けの直前で、
静かにその心臓を打ち始めた。
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